タンパク尿とは,尿中にタンパク質(通常はアルブミン)が認められることである。タンパク質濃度が高くなると,尿は泡沫状を呈する。多くの腎疾患では,タンパク尿は他の尿異常(例,血尿)を伴って発生する。無症候性タンパク尿(isolated proteinuria)とは,ほかに症状および尿異常を伴わないタンパク尿である。
タンパク尿の病態生理
糸球体基底膜は,比較的大きな分子(例,大半の血漿タンパク質,主にアルブミン)に対して非常に効果的な障壁として機能するが,少量のタンパク質は毛細血管基底膜を通過して糸球体濾液に移行する。こうして濾過されたタンパク質は,一部は分解されて近位尿細管で再吸収されるが,一部は尿中に排泄される。尿タンパク排泄量の正常上限は150mg/日とされており,これは24時間蓄尿で測定するか,随時尿の尿タンパク/クレアチニン比(0.3未満を異常とする)から推定することが可能であり,アルブミン値の正常上限は約30mg/日である。アルブミン排泄量30~300mg/日(20~200μg/分)は中等度アルブミン尿(微量アルブミン尿)とされ,これより高値の場合は,新しい用語体系に基づくと高度アルブミン尿とされる。
タンパク尿の機序は以下のように分類できる:
糸球体性
尿細管性
腎前性
機能性
糸球体性タンパク尿は,糸球体疾患に起因するもので,典型的には糸球体透過性の亢進が関与し,この透過性により濾液中に移行する血漿タンパク質の量が増加する(ときに極めて大量となる)。
尿細管性タンパク尿は,近位尿細管でのタンパク質の再吸収を障害する尿細管間質性疾患に起因するもので,再吸収障害によりタンパク尿(大半がアルブミンではなく免疫グロブリン軽鎖などの低分子タンパク質に由来する)が生じる。原因疾患には,しばしば他の尿細管機能の異常(例,重炭酸塩喪失,糖尿,アミノ酸尿)が随伴し,ときに糸球体の病態(これもタンパク尿に寄与する)も伴う。
腎前性タンパク尿は,小さな血漿タンパク質(例,多発性骨髄腫で産生される免疫グロブリン軽鎖)の量が近位尿細管の再吸収能を上回ることで発生する。
機能性タンパク尿は,腎血流量の増加(例,運動,発熱,高拍出性心不全に起因)によりネフロンに送達されるタンパク質量が増加する結果,尿中のタンパク質が増加することで発生する(通常は1g/日未満)。機能性タンパク尿は腎血流量が正常に戻れば消失する。
起立性タンパク尿は,主に立位時にタンパク尿が発生する良性の病態である(小児および青年で最もよくみられる)。このため,典型的には睡眠時よりも(立位でいる時間が長い)覚醒時の尿タンパク量が多くなる。予後は非常に良好であり,特別な介入は必要ない。
結果
腎疾患に起因するタンパク尿は通常,長期間持続する(すなわち複数回の検査で持続して認められる)ため,ネフローゼレベルにある場合には,有意なタンパク質喪失につながる可能性がある。尿中におけるタンパク質の存在は腎臓にとって有害であり,腎障害をもたらす。
タンパク尿の病因
原因は機序により分類することができる。タンパク尿の最も頻度の高い原因は糸球体疾患であり,典型的にはネフローゼ症候群として現れる(タンパク尿の原因の表を参照)。
成人のタンパク尿(およびネフローゼ症候群)で最も一般的な原因は以下のものである:
小児で最も一般的な原因は以下のものである:
微小変化群(幼児)
巣状分節性糸球体硬化症(児童)
タンパク尿の評価
病歴聴取と身体診察
現病歴の聴取により,起床時の眼のむくみや下肢または腹部の腫脹など,体液過剰または低アルブミン血症の症状が明らかになる場合がある。タンパク尿自体によって,尿に強い泡立ちが生じることがある。一方,タンパク尿を呈するが,明らかな体液過剰のない患者では,何の症状も報告しないことがある。
システムレビュー(review of systems)では,赤色または褐色の尿(糸球体腎炎)や骨痛(骨髄腫)など,原因を示唆する症状がないか確認する。最近罹患した重篤疾患(特に発熱を伴うもの),激しい身体活動,既知の腎疾患,糖尿病,妊娠,鎌状赤血球症,全身性エリテマトーデス(SLE),悪性腫瘍(特に骨髄腫および関連疾患)など,タンパク尿を惹起する可能性がある既存の病態について患者に質問する。
身体診察の有用性は限られているが,バイタルサインを測定して,糸球体腎炎を示唆する血圧上昇がないか確認すべきである。診察では,体液過剰または血清アルブミン濃度の低下を反映する末梢浮腫および腹水の徴候がないか確認すべきである。
検査
尿試験紙では主にアルブミンが検出される。加熱およびスルホサリチル酸法などの沈殿法では,全てのタンパク質を検出できる。このため,偶然検出される無症候性タンパク尿は通常はアルブミン尿である。尿試験紙検査は微量アルブミン尿の検出感度が比較的低く,そのため尿試験紙検査での陽性所見は通常,顕性タンパク尿を示唆する。また尿試験紙検査では,尿細管性および腎前性タンパク尿の特徴である低分子タンパク質の排泄を検出できる可能性も低い。
尿試験紙検査陽性の患者(タンパク質または他の成分に対して)には,鏡検によるルーチンの尿検査を施行すべきである。尿検査での異常(例,円柱と変形赤血球の存在は糸球体腎炎を示唆し,グルコース,ケトン,またはその両方の存在は糖尿病を示唆する)と病歴および身体所見から示唆された疾患(例,糸球体疾患を示唆する末梢浮腫)には,さらなる精査が必要である。
尿検査がその他の点では正常の場合,さらなる検査は,尿タンパクに関する再検査の結果が出るまで延期することができる。タンパク尿がすでに消失している場合,特に激しい運動,発熱,または心不全の増悪が最近みられた患者では,機能性タンパク尿である可能性が高い。持続性タンパク尿は糸球体疾患の徴候であり,さらなる検査と腎臓専門医への紹介が必要である。追加の検査としては,血算,血清電解質,血中尿素窒素,クレアチニン,およびグルコースの測定,糸球体濾過量の算出(腎機能の評価を参照),尿タンパクの定量(24時間測定または随時尿の尿タンパク/クレアチニン比),腎臓の大きさの評価(超音波検査またはCTによる)などがある。糸球体症患者の大半では,タンパク尿はネフローゼレベル(3.5g/日を上回るか,尿タンパク/クレアチニン比が3.5を超え,通常は24時間尿タンパクと相関する)にある。
通常は糸球体疾患の原因を特定するために他の検査も施行され,具体的には脂質プロファイル,補体値,クリオグロブリン,C型およびB型肝炎の血清学的検査,抗核抗体検査,尿および血清タンパク質電気泳動,HIV検査,梅毒に対する迅速血漿レアギン試験などがある。これらの非侵襲的検査で診断がつかない場合(しばしばある)は,腎生検が必要である。原因不明のタンパク尿および腎不全は,特に高齢患者の場合,骨髄異形成疾患(例,多発性骨髄腫)またはアミロイドーシスが原因である可能性がある。
30歳未満の患者では,起立性タンパク尿を考慮すべきである。診断には2回の採尿が必要であり,1回目は午前7時から午後11時までの間(日中検体)に,2回目は午後11時から午前7時までの間(夜間検体)に採取する。尿タンパク量が日中検体で正常上限を超え(または尿タンパク/クレアチニン比が0.3を上回る),かつ夜間検体で超えなければ,診断確定となる。
タンパク尿の治療
治療は原因に対して行う。