巨赤芽球性貧血

執筆者:Gloria F. Gerber, MD, Johns Hopkins School of Medicine, Division of Hematology
レビュー/改訂 2023年 6月
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巨赤芽球性貧血は,その大半がビタミンB12および葉酸の欠乏により生じる。無効造血は全ての血球系統に影響を及ぼすが,特に赤血球に強く影響する。診断は通常,血算および末梢血塗抹標本に基づき,通常はこれにより赤血球大小不同および変形赤血球増多を伴う大球性貧血,卵円形の大きな赤血球(大楕円赤血球),ハウエル-ジョリー小体(核の残留断片),過分葉好中球,ならびに網状赤血球減少が明らかになる。治療は基礎疾患に対して行う。

赤血球産生低下の概要も参照のこと。)

巨赤芽球は,DNA合成障害のためにクロマチンが濃縮されていない,大型かつ有核の赤血球前駆細胞である。大赤血球は大型化した赤血球(すなわち,平均赤血球容積[MCV]が100fLを超える)である。大球性赤血球は様々な臨床状況で生じ,その多くは巨赤芽球の成熟とは無関係である。

非巨赤芽球性大赤血球症

ビタミンB12欠乏症または葉酸欠乏症による大球性(すなわち,MCVが100fLを超える)貧血は,巨赤芽球性である。非巨赤芽球性大赤血球症(nonmegaloblastic macrocytosis)は,様々な臨床状態で発生するが,その全てが解明されているわけではない。大赤血球症の患者では,大赤血球症とは無関係の機序によって貧血が発生することがある。

赤血球膜の過剰に起因する大赤血球症は,慢性肝疾患でコレステロールのエステル化に障害がある患者に生じる。平均赤血球容積が約100~105fLの大赤血球症は,葉酸の欠乏がない状況での慢性飲酒により発生することがある。再生不良性貧血では,特に回復時に,軽度の大赤血球症がみられることがある。骨髄異形成でも大赤血球症がしばしばみられる。赤血球は骨髄から放出後に脾臓で膜の変形が起こるため,脾臓摘出後の赤血球はわずかに大球性となることがあるが,これらの変化は貧血と無関係である。網状赤血球増多(例,溶血性貧血における)によって大赤血球症が引き起こされることがある。

非巨赤芽球性大赤血球症は,大球性貧血の患者で,検査によりビタミンB12欠乏症または葉酸欠乏症が除外された場合に疑われる。古典的な巨赤芽球性貧血に典型的な末梢血塗抹標本上の卵円形の大きな赤血球(大楕円赤血球)および赤血球分布幅増加は認められないことがある。非巨赤芽球性大赤血球症の原因を(例えば,慢性肝疾患や飲酒があるせいで)臨床的に説明できない場合や,骨髄異形成が疑われる場合は,骨髄検査と細胞遺伝学的検査を行ってもよい。非巨赤芽球性大赤血球症では,骨髄が巨赤芽球性ではなく,一方,骨髄異形成および進行した肝疾患では,巨赤芽球性貧血に通常みられる微細な小線維性パターンとは異なる高密度の核染色質を伴う巨赤芽球性赤血球前駆細胞がみられる。

巨赤芽球性貧血の病因

巨赤芽球性状態の最も一般的な原因は以下のものである:

ビタミンB12欠乏症の最も一般的な原因は,内因子分泌障害による悪性貧血である(通常は自己抗体の発現に続発する―自己免疫性萎縮性胃炎を参照)。悪性貧血は高齢でなくとも発生する可能性がある。その他の一般的な原因は,胃炎胃バイパス術クローン病,および条虫感染による吸収不良である。食事による欠乏症はまれであるが,完全菜食主義者で起こる可能性がある。

穀物や穀類に葉酸が添加されている国では,葉酸欠乏症は極めてまれである。しかしながら,食事制限,慢性飲酒,または食欲不振のある患者では葉酸欠乏症が起こりうる。ほかに可能性の高い原因として,セリアック病熱帯性スプルー短腸症候群などの吸収不良がある。妊娠中の患者や慢性溶血(すなわち,異常ヘモグロビン症)患者などで葉酸の必要量が増加すると,葉酸欠乏症が起こることがある。

巨赤芽球症のその他の原因としては,DNA合成を阻害する薬剤(一般にヒドロキシカルバミドなどの抗腫瘍薬,または免疫抑制薬)や,まれな代謝性疾患(例,遺伝性オロト酸尿症)などがある。 銅欠乏症は一部の症例で巨赤芽球性変化を引き起こすことがあり,大球性または正球性貧血として,さらには小球性貧血としても現れることがある。

巨赤芽球性貧血の病態生理

巨赤芽球性状態は,DNA合成障害によりもたらされる。RNA合成が継続することにより,核が大きな大型の細胞が生じる。全ての血球系統が成熟障害を起こし,細胞質の成熟が核の成熟を上回る;この成熟障害により骨髄で巨赤芽球が産生され,その後末梢血中に現れる。成熟障害のために骨髄内で細胞死が起こり,それにより無効造血となる。成熟障害は全ての血球系統に影響を及ぼすため,まず網状赤血球減少症が生じ,その後の段階で白血球減少症血小板減少症が発生する。 大楕円赤血球が循環血中に移行する。好中球の過分葉化が一般的にみられる。通常はハウエル-ジョリー小体(核の断片が残留したもの)がみられる。鉄欠乏症または鉄利用障害を併発している場合には,大赤血球症にならないことがある。

巨赤芽球性貧血の症状と徴候

巨赤芽球性貧血は潜行性に発生し,貧血が重度になるまで症状が出現しないことがある。下痢,舌炎,食欲不振など,消化管症状が一般的である。末梢神経障害や歩行不安定などの神経症状は,ビタミンB12欠乏症に固有のものであり,長期化すれば永続的なものになることがある。 錯感覚がビタミンB12欠乏症の初発症状となることがあり,貧血に先立って(または貧血がない場合に)みられることがある。

巨赤芽球性貧血の診断

  • 血算,赤血球指数,網状赤血球数,および末梢血塗抹検査

  • ビタミンB12および葉酸値

巨赤芽球性貧血は,赤血球指数が大球性の基準を満たす貧血患者で疑われる。危険因子があり,原因不明の錯感覚および/または赤血球分布幅(RDW)高値がみられる患者でも考慮すべきである。診断は通常,末梢血塗抹検査に基づく。貧血が完全に進行した場合は,鉄欠乏症,サラセミア形質,腎疾患がなければ,平均赤血球容積が100fLを超える大球性となる。塗抹標本では,大楕円赤血球症,赤血球大小不同(赤血球の大きさのばらつき),および変形赤血球増多(赤血球の形状のばらつき)がみられる。

RDWが高値となる。ハウエル-ジョリー小体がよくみられる。網状赤血球減少症が現れる。顆粒球の過分葉化が早期に出現する;その後に好中球減少症が発生する。重症例では血小板減少症が多くみられ,血小板の大きさおよび形状が異常な場合がある。鉄欠乏症によって大赤血球症が覆い隠されることがあるが,それでもハウエル-ジョリー小体と顆粒球の過分葉は認められるはずである。

ビタミンB12および葉酸の血清中濃度を測定すべきである。血中ビタミンB12濃度が200pg/mL(147.6pmol/L)未満,血中葉酸濃度が2ng/mL(4.53nmol/L)未満,または赤血球中葉酸濃度が150ng/mL(340nmol/L)未満になると,一般に欠乏症と診断できる。ビタミンB12値が200~300pg/mL(147.6~221.3pmol/L)の場合は診断には至らない。

ビタミンB12値で診断に至らない場合は,メチルマロン酸(MMA)とホモシステイン(HCY)の両方の測定値を確認すべきである。ビタミンB12欠乏症ではメチルマロン酸とホモシステインの両方の血清中濃度が上昇するが,葉酸欠乏症ではホモシステインのみが上昇する。腎機能不全があるとメチルマロン酸値が上昇する。

ビタミンB12欠乏症と確認された場合は,内因子に対する自己抗体の存在を調べる検査を行うべきである。

ビタミン欠乏症の原因を特定するための評価を行うべきである。

巨赤芽球性貧血の治療

  • 適切なビタミンの補充

適切なビタミンの補充が必要である。葉酸の補充の前には,必ずビタミンB12欠乏症を除外する。そうしないと,貧血が改善することで合併しているビタミンB12欠乏症がマスクされ,神経学的合併症の進行につながる可能性がある。

葉酸欠乏症およびビタミンB12欠乏症の治療については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。巨赤芽球性状態を引き起こす薬剤は中止するか,減量して投与する必要がある。

ビタミン欠乏症の病因も治療すべきである。

要点

  • 巨赤芽球は,クロマチンの濃縮がみられない大型で有核の赤血球前駆細胞である。

  • 巨赤芽球性の大球性貧血の最も一般的な原因は,ビタミンB12または葉酸の欠乏または利用障害である。

  • 血算,赤血球指数,網状赤血球数,および末梢血塗抹検査を行う。

  • ビタミンB12および葉酸の濃度を測定し,メチルマロン酸およびホモシステインの検査を考慮する。

  • ビタミンB12または葉酸欠乏症の原因を治療する。

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