マリファナは多幸感をもたらすが，一部の使用者では鎮静や不快気分を引き起こすことがある。長期使用により精神依存が生じうるが，身体依存はほとんどないことが臨床的に明らかである。離脱症状は不快であるが，必要なのは支持療法だけである。
マリファナは最も多く使用される違法薬物であり，一時的に用いられることが多いが，社会的または精神的な機能不全を示すというエビデンスはない。マリファナの活性成分はカンナビノイドと呼ばれる；精神活性作用のある主要な植物性カンナビノイドはΔ-9-テトラヒドロカンナビノール（THC）である。数多くの合成カンナビノイドも娯楽的使用のために違法に開発されている。内因性カンナビノイドは，体内で産生されてカンナビノイド受容体を活性化する物質であり，食欲，痛覚，および記憶の調節に一定の役割を果たしていると考えられる。
米国ではマリファナは一般に，乾燥させた植物の花と葉から作られたタバコとして，またはその植物をプレスした樹脂であるハシッシュとして用いられる。2010年に米国の特定の州で娯楽用マリファナが合法化されたことにより，経口摂取，吸引，蒸気吸入，およびチンキ，ローション，スプレーの形態で外用塗布されるマリファナ製品の大規模な市場が作り出された。
活性成分Δ-9-テトラヒドロカンナビノール（THC）の経口摂取用の合成型であるドロナビノールは，がん化学療法に伴う悪心や嘔吐の治療に，およびAIDS患者における食欲増進に用いられている。
カンナビジオール（一般的にCBDオイルと呼ばれる）は，マリファナの主要な天然カンナビノイドの1つである。カンナビジオールは精神活性作用がほとんどなく，その娯楽的使用が乱用につながる可能性は高くない。カンナビジオールは，特定のまれな病型の小児痙攣性疾患の治療薬として承認されており，その他の様々な病態での使用が試験段階にある。
病態生理
Delta-9-THCは，脳全体に存在するカンナビノイド受容体に結合する。
慢性効果
多幸感をもたらし不安を低下させるあらゆる薬物は依存を生じることがあり，マリファナもその例外ではない。大量喫煙者では肺の症状（急性気管支炎，喘鳴，咳嗽，および粘液分泌過多のエピソード）が発現する可能性があり，さらに肺機能が障害されることがある（太い気道の変化として現れるが，その意義は不明である）。しかし，毎日喫煙しても，閉塞性気道疾患を生じることはない。
最近のデータからは，マリファナの大量使用は有意な認知障害および海馬の解剖学的変化と関連することが示唆されている（特にマリファナの使用が青年期に開始した場合）。
タバコでみられるような，頭頸部がんまたは気道癌のリスクが高まるというエビデンスはない。気力や活力が低下する感じがあるとしばしば述べられる。
出生前のマリファナ使用が新生児に及ぼす影響は明らかではない。胎児の低体重が報告されてはいるが，全ての要因（例，母親の飲酒および喫煙）を考慮に入れると，胎児体重への影響は小さいと考えられる。しかし，安全性は明確には証明されていないため，妊婦および妊娠を試みている女性はマリファナを回避すべきである。THCは母乳中に分泌される。母乳栄養児に対する害は示されていないが，授乳婦は妊婦と同様，マリファナの使用を避けるべきである。
マリファナ中毒の症状と徴候
マリファナ中毒と離脱は生命を脅かすほどではない。
急性効果
マリファナを吸うと数分以内に意識が夢幻状態になり，観念がばらばらで，予想がつかず，自由に流動するように思える。時間や色，空間の知覚が変容する場合がある。一般に，中毒は多幸感とリラックス感（ハイな感じ）から成る。これらの影響は吸入後4～6時間持続する。
そのほかに報告された心理的影響の多くは，薬物使用の状況に関係しているようである。不安，パニック反応，およびパラノイアも発生しており，特に初めての使用者で多くみられている。統合失調症患者では，抗精神病薬による治療を受けている場合でも，マリファナが精神病症状を増悪させる可能性があり，誘発することもある。
大半の患者では身体的影響は軽度である。頻脈，結膜充血，および口腔乾燥が一様に生じる。集中力，時間感覚，細やかな協調，奥行き感覚，追跡，および反応時間が最長で24時間にわたり障害されることがあり，これらはいずれもある種の状況（例，車の運転，重機類の操作）では危険である。食欲はしばしば亢進する。
慢性効果
カンナビノイド悪阻症候群（cannabinoid hyperemesis syndrome）は，大麻の頻回使用者における悪心・嘔吐の周期性エピソードとして最近記載された症候群であり，その症状は通常48時間以内に自然に消失する。これらの症状は温浴によって改善し，それが診断につながる臨床上の手がかりになる。
マリファナの頻繁な喫煙は精子数を減少させることがあり，その結果，妊孕性が低下する可能性がある(1)。一部の研究では，マリファナを喫煙する女性で妊孕性が低下することが示されている(2)。
マリファナの長期大量使用と，統合失調症，うつ病，不安および他の物質の乱用などの精神疾患のリスク増大との間に関連性がある可能性がいくつかの研究で報告されているが，因果関係は依然として不明である。
離脱
マリファナを頻繁に大量使用する人が中止すると，軽度の離脱症候群を引き起こすことがあり，離脱症状の発症時期は様々であるが，最終使用から約12時間後に始まることが多い。症状は，不眠症，易怒性，抑うつ，悪心，および食欲不振から成り，2～3日後にピークに達し，最長で7日後まで持続する。
症状と徴候に関する参考文献
1.Ilnitshky S, Van Uum S: Marijuana fertility.CMAJ/ JMAC 191(23):E638, 2019.
2.Mumford SL, Flannagan KS, Radoc JG: Cannabis use while trying to conceive: A prospective cohort study evaluating associations with fecundability, live birth and pregnancy loss.Human Reproduction 36(5):1405–1415, 2021.https://doi.org/10.1093/humrep/deaa355
マリファナ中毒の診断
通常は臨床診断
マリファナ中毒の診断は通常臨床的に行う。薬物濃度は一般的には測定しない。大半のルーチン尿薬物スクリーニングにはマリファナが含まれているが，偽陽性または偽陰性の結果が生じることがある。
マリファナ中毒の治療
支持療法
マリファナ中毒の治療は通常必要ないが，顕著な不快感が生じた患者には支持療法を行う。カンナビノイド悪阻症候群の患者には，輸液および制吐薬が必要になることがある（ハロペリドールと外用カプサイシンが効果的であることが症例報告で示唆されている）。カンナビノイド悪阻症候群の根治的治療はマリファナ使用の中止である。
乱用の管理は通常，外来薬物治療プログラムでの行動療法により行う。
より詳細な情報
有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし，本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。
Narcotics Anonymous World Services: Helps people combat addiction, regardless of the substance that caused it, through a 12-step program similar to that used by Alcoholics Anonymous.
Substance Abuse and Mental Health Services Administration (SAMHSA): US Department of Health agency that leads public health efforts to improve behavioral health and provides resources, including treatment locators, toll-free helplines, practitioner training tools, statistics, and publications on a variety of substance-related topics.
