一般に生えている植物のうち少数は非常に高い毒性を有し，多くの植物は中程度の毒性を有する（中程度の毒性の植物の表を参照）。特異的な解毒剤のある植物中毒はほとんどない。植物の摂取では，上述の表に記載されている植物も含めて，葉やその他の部分を濃縮してペースト状にしたり煎じて茶にしたりしない限り，その結果生じる症状はほとんどの場合軽微である。
毒性が高く致死的となりうる植物には以下のものがある：
トウゴマおよびトウアズキの実
キョウチクトウおよびキツネノテブクロ
ドクニンジン
（中毒の一般原則も参照のこと。）
トウゴマおよびトウアズキの実
トウゴマの実は，極めて濃縮された細胞毒であるリシンを含有する。トウアズキの実は，関連する毒素でさらに毒性の高いアブリンを含有する。いずれも，実には比較的不浸透性の殻があるので，毒素の放出には実を噛む必要がある。しかし，トウアズキの実の種皮はしばしば完全ではなく，単に細菌による消化でもアブリン毒素が放出されることがある。
いずれかの中毒の症状として，ときに重度で出血性である遅発性の胃腸炎があり，続いてせん妄，痙攣発作，昏睡，および死に至る。全腸管洗浄は摂取した全ての実の除去を目的とするため，これを考慮すべきである。
キョウチクトウおよびキツネノテブクロ
ドクニンジン
ドクニンジン中毒（ドクニンジンおよびドクゼリの中毒）は15分以内に症状を生じる可能性がある。
ドクニンジンはニコチン性アセチルコリン受容体に作用し，口腔乾燥から始まり，頻脈，振戦，発汗，散瞳，痙攣発作，筋不全麻痺へと進行する。横紋筋融解症および徐脈が生じることがある。
ドクゼリはγ-アミノ酪酸（GABA）活性を増強するようである。症状としては，胃腸炎，せん妄，難治性痙攣，昏睡などがある。
中程度の毒性の植物
植物 | 症状 | 治療 |
|---|---|---|
アコニチン（例，トリカブト由来） | 徐脈，不整脈，錯感覚，筋力低下 | 支持療法 炭酸水素ナトリウム |
アロエ属 | 胃腸炎，腎炎，皮膚刺激 | 支持療法，石鹸と水による皮膚洗浄 |
ウマノスズクサ属（birthworts，pipevines） | 支持療法 | |
ツツジ | コリン作動性症状 | 支持療法，アトロピン |
カラジウム属（elephant ear，angel's wings） | 葉に含まれるシュウ酸カルシウム結晶による口腔粘膜損傷 | 支持療法，解乳化（例，牛乳またはアイスクリームによる） |
トウガラシ属（トウガラシ） | 粘膜の刺激および腫脹 | 支持療法，洗浄 |
コルヒチン（イヌサフラン，キツネユリ） | 遅発性の胃腸炎，多臓器不全 骨髄抑制 | 支持療法，場合によっては最後の手段として実験的なコルヒチン特異的Fabフラグメント* |
青酸配糖体（例，Prunus属［例，モモ，アンズ，セイヨウミザクラの核］，リンゴ属［例，リンゴの種］，およびその他の種子に含まれるもの） | シアン化物中毒の症状 | ヒドロキソコバラミン シアン化物解毒剤キット（硝酸アミル，亜硝酸ナトリウム，およびチオ硫酸ナトリウムを含む） |
ベラドンナ | 抗コリン症状，高体温，痙攣発作，幻覚 | 支持療法 重度の高体温または痙攣発作には，場合によりフィゾスチグミン |
ディフェンバキア（ダムケイン） | 葉に含まれるシュウ酸カルシウム結晶による口腔粘膜損傷 | 支持療法，解乳化（例，牛乳またはアイスクリームによる） |
ソラマメ | 支持療法 重度の貧血および中毒には，交換輸血を考慮 | |
緑色のジャガイモおよびジャガイモの芽 | 胃腸炎，幻覚，せん妄 | 支持療法 |
セイヨウヒイラギの実 | 支持療法 | |
シロバナヨウシュチョウセンアサガオ | 抗コリン症状，高体温，痙攣発作，幻覚 | 支持療法 重度の高体温または痙攣発作には，場合によりフィゾスチグミン |
甘草（人工的に味付けしたリコリスキャンディではない） | 低カリウム血症，高血圧，水分およびナトリウムの貯留（偽性アルドステロン症） | 支持療法 |
スズラン | 「ジギタリス製剤」を参照 | |
セイヨウヤドリギ | 支持療法 | |
イラクサ | 局所的なチクチク感および灼熱感 | 支持療法 |
ナス科植物，アメリカイヌホオズキまたはズルカマラ | 胃腸炎，幻覚，せん妄 | 支持療法 |
ペニーロイヤル | 肝毒性 | N-アセチルシステイン |
フィロデンドロン属 | 葉に含まれるシュウ酸カルシウム結晶による口腔粘膜損傷 | 支持療法，解乳化（例，牛乳またはアイスクリームによる） |
ポインセチア | 軽微な粘膜刺激 | 不要 |
ツタウルシ | 皮膚炎 | 「皮膚炎」を参照 |
ヨウシュヤマゴボウ | 粘膜刺激，胃腸炎 | 支持療法 |
ポトス | 葉に含まれるシュウ酸カルシウム結晶による口腔粘膜損傷 | 支持療法，解乳化（例，牛乳またはアイスクリームによる） |
イチイ | まれに，痙攣発作，不整脈，昏睡 | 支持療法 |
*フランスでのみ使用可能。 | ||
Fab = 抗原結合フラグメント。 | ||
