中毒の一般原則

執筆者:Gerald F. O’Malley, DO, Grand Strand Regional Medical Center;
Rika O’Malley, MD, Grand Strand Medical Center
レビュー/改訂 2022年 6月
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中毒とは,毒性を示す物質と接触することである。症状は様々であるが,特定の共通する症候群によって特定の毒物のクラスが示唆されることがある。診断は主に臨床的に行うが,一部の中毒に対しては血液検査および尿検査が役立つことがある。治療は大部分の中毒では支持療法による;特異的な解毒剤が必要となる中毒は限られる。予防策としては,薬剤の容器に明確にラベルを貼ることや,毒物は小児の手の届かない場所に保管することなどがある。

大半の中毒は用量に依存する。用量は経時的な濃度から判定する。本来は無毒の物質であっても,過剰に曝露した結果,毒性が生じることもある。いかなる用量でも毒性を示す物質に曝露することで引き起こされる中毒もある。中毒は,予測不可能で用量に依存しない過敏反応および特異体質反応,ならびに通常は毒性を示さない用量の物質に対する毒性反応である不耐性とは区別される。

中毒の原因は一般に経口摂取であるが,注射,吸入,または体表面の曝露(例,皮膚,眼,粘膜)によって生じることがある。食物以外でよく経口摂取されるものの多くは一般に無毒であるが(以下のを参照),大量に摂取すれば,ほぼ全ての物質が毒性を示す。

表&コラム
表&コラム

幼児は好奇心が強く,不快な味や臭いにもかかわらず物を見境なく摂取し,不慮の事故の頻度が高い;通常,1種類の物質のみが関与する。中毒はまた,自殺を図ろうとする比較的年長の小児,青年,および成人でも頻度が高い;アルコールアセトアミノフェン,その他のOTC医薬品など,複数の薬物が関与する可能性がある。不慮の中毒は高齢者でも起こることがあるが,これは錯乱,視力低下,精神疾患などが原因となる場合もあれば,複数の医師が重複して処方した同一薬剤が原因となる場合もある(高齢者における薬物関連の問題も参照)。

ときに,殺傷または無力化する意図(例,レイプや強盗)をもった他者による中毒の例もある。鎮静作用,健忘作用,またはその両方を有する薬剤(例,スコポラミンベンゾジアゼピン系薬剤γ-ヒドロキシ酪酸)が無力化に用いられる傾向にある。まれに,多少の医学的知識を有する親が,子供に中毒を起こさせる場合があるが,これは不確かな精神医学的理由,または子供を発病させて治療を受けさせたいという願望が原因である(他者に負わせる作為症[以前は代理ミュンヒハウゼン症候群]と呼ばれる障害)。

曝露または摂取されて吸収された後に,大半の毒物は,代謝されるか,消化管を通過するか,または排泄される。ときに,錠剤(例,アスピリン,鉄剤,腸溶性の薬剤)が消化管内に大きな凝固物(胃石)を形成することがあり,これは消化管内に停滞する傾向があり,吸収され続けて毒性を生じる。

中毒の症状と徴候

中毒の症状と徴候は物質により様々である(特定の毒物の症状と治療法の表を参照)。また,同一物質による中毒を来した別々の患者が,非常に異なった症状を呈することもある。しかし,6群の症状(中毒症候群,またはトキシドローム)が一般に生じやすく,それが特定の物質群を示唆することがある(一般的な中毒症候群の表を参照)。複数の物質を摂取した患者は,単一の物質に特徴的な症状を呈する可能性が低い。

表&コラム
表&コラム

症状は一般的には接触直後に始まるが,ある種の毒物では遅延する。遅延が起こりうるのは,親物質ではなく代謝物のみが毒性を示すためである(例,メタノール,エチレングリコール,肝毒性物質)。肝毒性物質(例,アセトアミノフェン鉄剤タマゴテングタケ)を摂取すると,1日~数日後に急性肝不全が生じる。金属または炭化水素溶剤では,一般的に慢性的に毒性物質に曝露したときのみ症状が出現する。

経口摂取して吸収された毒性物質は,一般的に全身症状を引き起こす。腐食剤および腐食性液体は主に消化管の粘膜を損傷し,口内炎,腸炎,または穿孔を引き起こす。一部の毒性物質(例,アルコール,炭化水素)は,特徴的な口臭の原因となる。毒性物質への皮膚接触は,様々な急性皮膚症状(例,発疹,疼痛,水疱形成)を引き起こす可能性がある;慢性的な曝露により皮膚炎が生じることがある。

吸入された毒性物質は,水溶性の場合(例,塩素,アンモニア)には上気道損傷の症状を,水溶性が低い場合(例,ホスゲン)には下気道損傷および非心原性肺水腫の症状を引き起こす可能性が高い。一酸化炭素,シアン化物,または硫化水素ガスを吸入すると,臓器虚血または心停止もしくは呼吸停止を来す可能性がある。眼が毒性物質(固体,液体,または蒸気)に接触すると,角膜,強膜,および水晶体が損傷することがあり,眼痛,充血,および視力障害を引き起こす。

一部の物質(例,コカイン,フェンシクリジン,アンフェタミン)は重度の興奮を引き起こすことがあり,これにより高体温,アシドーシス,および横紋筋融解症を来すことがある。

中毒の診断

  • 意識変容または原因不明の症状のみられる患者では中毒を考慮

  • あらゆる利用可能な情報源からの病歴

  • 選択的な,目的を定めた検査

中毒の診断における最初のステップは,患者の全般状態の評価である。重度の中毒には,気道障害または心肺虚脱の治療のために迅速な介入が必要になることがある。

受診時に中毒とわかっている場合がある。患者に原因不明の症状,特に意識変容(興奮から傾眠,昏睡まで幅がある)がみられる場合には,中毒を疑うべきである。成人で意図的な服毒が起こった場合は,複数の物質を疑うべきである。

しばしば病歴聴取が最も有益なツールとなる。患者の多く(例,まだ話せない小児,自殺を望むまたは精神症性の成人,意識変容のある患者)からは信頼できる情報が得られないため,友人,近親者,および救急隊員に質問すべきである。一見信頼できる患者であっても,摂取した量および時間を誤って報告することがある。可能な場合には,患者の住居で手がかり(例,半ば空になった錠剤容器,遺書,レクリエーショナルドラッグ使用の証拠)がないか調べるべきである。薬局および医療記録から有用な情報が得られる場合がある。職場における中毒の可能性がある場合には,同僚や上司に質問すべきである。全ての工業用化学物質に関して,化学物質安全性データシート(MSDS)が職場で容易に入手できなくてはならず,MSDSには毒性,および特異的治療法があればそれに関する詳細な情報が記載されている。

世界中の多くの地域では,家庭用および工業用化学物質に関する情報を,中毒情報センターで入手できる。製品の容器に印刷された成分,応急処置法,解毒剤の表示はときに不正確であったり古い情報であったりするため,中毒情報センターへの相談が推奨される。また,別の容器に詰め替えたり包装に手が加えられている場合もある。中毒情報センターは,不明な錠剤をその外見に基づいて特定する助けとなりうる。中毒情報センターは,毒物学者にすぐに連絡が取れる体制になっている。最寄りのセンターの電話番号は,他の緊急電話番号とともにしばしば地域の電話帳の巻頭に記載されている;また,番号案内から,または米国では1-800-222-1222にダイアルすることでも最寄りのセンターの番号を知ることができる。American Association of Poison Control Centerのウェブサイトから詳しい情報が入手できる。【訳注:日本では日本中毒情報センター[https:www.j-poison-ic.jp/]が情報を提供している。医療機関向けの緊急相談電話サービスは,大阪中毒110番072-726-9923[365日24時間対応],つくば中毒110番029-851-9999[365日9時~21時対応],いずれも1件2000円。】

ときに身体診察で,特定の種類の物質を示唆する徴候(例,中毒症候群[一般的な中毒症候群の表を参照],口臭,外用薬の存在,注射薬物使用を示唆する針痕,慢性飲酒の徴候)が発見される。

たとえ患者が中毒であることがわかっている場合でも,意識変容は他の原因による場合があり(例,中枢神経系感染症,頭部外傷,低血糖,脳卒中,肝性脳症,ウェルニッケ脳症),その原因に関して考慮すべきである。薬物を摂取した比較的年長の小児,青年,および成人では,常に自殺企図を考慮する必要がある(自殺行動および小児および青年における自殺行動を参照)。また,小児は発見した錠剤や物質を分け合うことが多いことから,遊び友達や同胞にも隠れた中毒患者がいないか注意深く質問すべきである。

検査

大抵の場合,臨床検査で役立つことは限られている。一般的に乱用される薬物を同定するための,標準的で直ちに利用可能な検査(しばしば乱用薬物スクリーニングと呼ばれる)は,定性的であり定量的ではない。そのような検査は偽陽性または偽陰性の結果を示す場合があり,限られた物質のみが検査される。また,乱用薬物が検出された場合でも,必ずしも薬物が患者の症状や徴候を引き起こしたとは言えない(例,最近オピオイドを摂取した患者が実際には薬剤ではなく脳炎によって意識が障害されている可能性がある)。尿薬物スクリーニングが最もよく用いられるが,有用性は限られたものであり,通常は具体的な薬物ではなく薬物または代謝物のクラスを検出する。例えば,尿検体によるオピオイドの免疫測定検査では,フェンタニルやメサドンは検出されないが,ごく少量のモルヒネまたはコデイン類縁体とは反応する。コカインの同定に使用される検査は,コカインそのものではなく代謝物を検出する。

パール&ピットフォール

  • スクリーニング検査で乱用薬物が発見されても,必ずしも薬物が患者の症状や徴候を引き起こしたとは言えない(例,最近オピオイドを摂取した患者が実際には薬剤ではなく脳炎によって意識が障害されている可能性がある)。

大部分の物質において,血中濃度は容易に測定できないか,または治療指針として役に立たない。少数の物質(例,アセトアミノフェンアスピリン,一酸化炭素,ジゴキシン,エチレングリコール,リチウムメタノールフェノバルビタールフェニトインテオフィリン)においては,血中濃度が治療の指針として役立つことがある。混合物を摂取した全ての患者に対して,多くの専門家がアセトアミノフェン濃度の測定を推奨するが,これはアセトアミノフェン摂取の頻度が高く,初期にはしばしば症状がみられず,解毒剤で予防可能な重篤な遅発性の毒性が生じる可能性があるためである。一部の物質に関しては,他の血液検査(例,ワルファリン過剰摂取に関してPT(プロトロンビン時間),特定の物質に関してメトヘモグロビン濃度)が治療の指針として役立つ。

意識変容もしくはバイタルサインの異常がみられる患者,または特定の物質を摂取した患者においては,血清電解質,血中尿素窒素(BUN),クレアチニン,血清浸透圧,グルコース,凝固検査,動脈血ガスを検査に含めるべきである。特定の毒物が疑われる場合や特定の臨床状況では,その他の検査(例,メトヘモグロビン濃度,一酸化炭素濃度,脳CT)が適応となることがある。

特定の中毒(例,鉄,鉛,ヒ素,その他の金属による中毒,またはいわゆるボディパッカーが体内に取り込んだコカインもしくはその他の違法薬物の包みによる中毒)に関しては,腹部単純X線で摂取物質の存在および位置が示されることがある。

心臓血管作用を有する薬物または不明物質による中毒に対しては,心電図検査および心臓のモニタリングが適応となる。

物質の血中濃度または毒性の症状が,初期に低下した後に上昇する場合,または異常に長時間持続する場合は,胃石,徐放性製剤,または再曝露(すなわち,娯楽的に使用した薬物に対する密かな反復曝露)を疑うべきである。

中毒の治療

  • 支持療法

  • 経口摂取による重篤な中毒に対する活性炭

  • 場合により特異的な解毒剤または透析の使用

  • まれにのみ胃内容物排出

重篤な中毒患者には,補助換気または心血管虚脱の治療が必要になる場合がある。意識障害のある患者には,連続的なモニタリングまたは拘束が必要になる場合がある。以下の記載ならびに一般的な特異的解毒剤キレート療法に関する指針,および特定の毒物の症状と治療法の各表に示す,特定の中毒の治療に関する考察は一般的なものであり,特異的な複雑な事項や詳細は含まない。極めて軽度で日常的な場合を除き,いかなる中毒に関しても中毒情報センターへの相談が推奨される。

初期安定化

  • 気道,呼吸,および循環を確保

  • ナロキソン静注

  • ブドウ糖液およびチアミン静注

  • 輸液,ときに昇圧薬

作用が全身に及ぶと思われる中毒では,気道,呼吸,および循環を確保する必要がある。脈拍および血圧がない患者には,緊急の心肺蘇生が必要である。

患者が無呼吸または気道障害(例,中咽頭の異物,咽頭反射の減弱)を呈する場合,気管内チューブを挿管すべきである(気管挿管を参照)。患者が呼吸抑制または低酸素症を呈する場合,必要に応じて酸素投与または機械的人工換気を行うべきである。

無呼吸または重度の呼吸抑制の患者では,気道確保を維持しつつ,ナロキソン静注(成人では2mg;小児では0.1mg/kg;一部の症例では10mgもの高用量が必要な場合もある)を試みるべきである。オピオイド依存者では,ナロキソンは離脱症状を誘発しうるが,離脱症状は重度の呼吸抑制よりは好ましい。ナロキソン投与にもかかわらず呼吸抑制が持続する場合には,気管挿管および持続的な機械的人工換気が必要である。ナロキソンにより呼吸抑制が軽減した場合は患者をモニタリングする;呼吸抑制が再発した場合には,再度のナロキソン急速静注または気管挿管および機械的人工換気で治療すべきである。離脱症状を引き起こさずに呼吸ドライブを維持することを目的に,低用量ナロキソンの持続静注が提唱されているが,実際にはその達成は非常に困難な場合がある。

意識変容または中枢神経系の抑制がある患者には,ベッドサイドでの血糖値の迅速測定によって低血糖が除外されていない限り,ブドウ糖液(成人では50%溶液を50mL;小児では25%溶液を2~4mL/kg)を静注すべきである。

チアミン欠乏が疑われる成人(例,アルコール依存症患者,低栄養患者)に対しては,チアミン(100mg,静注)を,ブドウ糖とともに,またはブドウ糖の前に投与する。

低血圧に対して輸液を行う。輸液が無効の場合は,輸液および昇圧薬療法の指針として侵襲的な血行動態モニタリングが必要になることがある。大部分の毒物誘発性低血圧に対する第1選択の昇圧薬はノルアドレナリン0.5~1mg/分の静注であるが,他の昇圧薬がより速やかに入手可能な場合には,治療を遅らせてはならない。

局所除染

毒性物質に曝露した体表面全体(眼を含む)を,大量の水または生理食塩水で洗い流す。汚染した衣服は,靴,靴下,装身具も含め,脱がせるべきである。外用のパッチ剤および経皮薬物送達システム(TDDS:Transdermal Drug Delivery System)を除去する。

活性炭

活性炭が通常は投与され,特に複数のまたは不明な物質を摂取した場合に投与される。活性炭の投与は,(嘔吐および誤嚥のリスクが高い患者でない限り)追加のリスクはほとんどないが,それで全般的な罹患率または死亡率が低減することは証明されていない。活性炭を用いる場合は,可能な限り早く投与する。活性炭は,その分子構造と広い表面積により大半の毒性物質を吸着する。活性炭の反復投与は,腸肝再循環する物質(例,フェノバルビタールテオフィリン)および徐放性製剤に対して効果的となることがある。活性炭はそのような物質による重篤な中毒に対して,腸音が減弱しない限り4~6時間間隔で投与できる。活性炭は,腐食性物質,アルコール,および単純イオン(例,シアン化物,鉄,その他の金属,リチウム)に対しては無効である。

推奨用量は,疑われる毒性物質の摂取量の5~10倍である。しかしながら,毒性物質の摂取量は通常不明であるため,通常の用量は1~2g/kgであり,これは5歳未満の小児で約10~25g,より年長の小児および成人で50~100gである。活性炭は,水または清涼飲料中のスラリー状態で投与する。口に合わない場合があり,結果として30%の患者が嘔吐する。胃管による投与を考慮してもよいが,チューブ挿入による外傷や活性炭の誤嚥を防ぐよう注意すべきである;潜在的なベネフィットがリスクを上回っている必要がある。ソルビトールや他の下剤は,明確な便益がなく脱水および電解質異常を引き起こす可能性があるため,おそらく活性炭はそれらと併用せずに用いるべきである。

胃内容物の除去

かつては広く認められていた,直感的には有益と思われる胃内容物の除去は,ルーチンに行うべきではない。全般的な罹患率や死亡率を明らかに低減することはなく,リスクを伴う。生命を脅かす摂取から1時間以内に実施可能であれば,胃内容物の除去を考慮する。しかしながら,多くの中毒は顕在化するのが遅すぎ,また,中毒が生命を脅かすか否か必ずしも明らかでない。したがって,胃内容物の除去が適応となることはほとんどなく,腐食性物質を摂取した場合には禁忌である(腐食性物質の摂取を参照)。

胃内容物の除去を行う場合には,胃洗浄が好ましい方法である。胃洗浄は,鼻出血,誤嚥,またはまれに中咽頭もしくは食道の損傷などの合併症を引き起こす場合がある。トコンシロップは予測不可能な作用をもち,しばしば嘔吐を遅延させ,また胃から十分量の毒性物質が除去されないことがある。摂取物の毒性が高く,救急外来への搬送時間が異常に長い場合,トコンシロップが必要になる場合があるが,米国ではまれである。

胃洗浄では,胃管で水道水を注入して胃から回収する。錠剤の破片を回収できるように,可能な最大径の胃管(通常,成人で36Fr超,小児で24Fr)を使用する。患者に意識変容または咽頭反射の減弱がみられる場合には,誤嚥を防ぐため,胃洗浄の前に気管挿管を行うべきである。誤嚥を防ぐため患者は左側臥位とし,胃管を経口的に挿入する。胃洗浄によりときに物質が消化管に押し出されるため,胃管挿入直後にチューブを介して胃内容物を吸引し用量25gの活性炭を注入すべきである。その後,水道水を一定量(約3mL/kg)注入し,胃内容物を重力またはシリンジで取り除く。胃洗浄は回収した洗浄液に毒性物質が含まれないように見えるまで続ける;通常500~3000mLの洗浄液を注入する必要がある。洗浄後,用量25gの活性炭を再度注入する。

全腸管洗浄

この処置では,消化管を洗浄し,理論的には丸剤および錠剤の消化管通過時間を短縮する。洗浄が罹患率や死亡率を低減することは証明されていない。洗浄は以下のいずれかの場合に適応となる:

  • 徐放性製剤または活性炭で吸着されない物質(例,重金属)が原因の一部の重篤な中毒

  • 薬物の包み(例,ボディパッカーが体内に取り込んだ,ヘロインまたはコカインのラテックス包)

  • 胃石の疑い

ポリエチレングリコール(非吸収性)および電解質を含む市販の溶液を,ときに大腸内視鏡検査のための腸管洗浄に用いられるのと同様に,成人で1~2L/時,小児で25~40mL/kg/時の速度で直腸排出液が透明になるまで投与する;この過程は何時間もかかる場合や,さらには数日を要する場合もある。これだけ大量の溶液を積極的に自ら飲む患者もいるが,溶液は通常は胃管を通して注入する。

アルカリ化利尿

アルカリ化利尿は,弱酸(例,サリチル酸化合物フェノバルビタール)の排泄を促進する。5%ブドウ糖溶液1Lと50mEq(50mmol/L)の炭酸水素ナトリウムアンプル3本およびカリウム20~40mEq(20~40mmol/L)を混合して調製した溶液を,成人で250mL/時,小児で2~3mL/kg/時の速度で投与してよい。尿pHが8を超えるように保ち,カリウムが十分ある必要がある。高ナトリウム血症,アルカレミア,および体液過剰が起こることがあるが,通常重篤ではない。しかしながら,腎機能不全患者ではアルカリ化利尿は禁忌である。

透析

透析または血液吸着法が必要となる一般的な毒性物質には以下のものがある:

  • エチレングリコール

  • リチウム

  • メタノール

  • サリチル酸化合物

  • テオフィリン

毒性物質が巨大分子もしくは荷電(極性)分子の場合,分布容積が大きい場合(すなわち,脂肪組織に貯蔵される場合),または広く組織タンパク質に結合する場合(例,ジゴキシンフェンシクリジンフェノチアジン系薬剤,三環系抗うつ薬)には,こうした治療法は有用性が低い。透析の必要性は通常,臨床検査値および臨床状態の両方から決定する。透析の方法としては,血液透析,腹膜透析,脂質透析(血液から脂溶性物質を除去する),血液吸着法(特定の毒をより速やかに効率的に除去する―腎代替療法を参照)などがある。

特異的解毒剤

最も一般的に用いられる解毒剤に関しては,一般的な特異的解毒剤の表を参照のこと。重金属,およびときにその他の薬剤による中毒に対しては,キレート剤が用いられる(キレート療法に関する指針の表を参照)。濃度10%および20%の脂肪乳剤の静注ならびに高用量インスリン療法が,いくつかの異なる心臓毒(例,ブピバカインベラパミル)に対して使用され治療に成功している。

表&コラム
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継続的な支持療法

大部分の症状(例,興奮,鎮静,昏睡,脳浮腫,高血圧,不整脈,腎不全,低血糖)は,通常の支持療法(本マニュアルの別の箇所を参照)で治療する。

薬剤性の低血圧および不整脈は,通常の薬物治療に反応しない場合がある。難治性低血圧には,ドパミン,アドレナリン,その他の昇圧薬,大動脈内バルーンポンピング,さらには体外循環補助も考慮してよい。

難治性不整脈には,心臓ペーシングが必要になることがある。しばしば,トルサードドポアントは硫酸マグネシウム2~4gの静注,オーバードライブペーシング,または用量調節したイソプレナリンの点滴で治療可能である。

痙攣発作は最初にベンゾジアゼピン系薬剤で治療する。ベンゾジアゼピン系薬剤が無効の場合は,フェノバルビタールおよびプロポフォールが使用されている。重度の興奮は管理する必要があり,大量のベンゾジアゼピン系薬剤,その他の強力な鎮静薬(例,プロポフォール),または極端な場合には,麻痺の誘発および機械的人工換気が必要になることがある。

高体温は,解熱薬よりもむしろ積極的な鎮静および物理的な冷却方法で治療する。臓器不全により,最終的に腎移植または肝移植が必要になる場合がある。

入院

一般的な入院の適応としては,意識変容,持続的なバイタルサイン異常,遅発性の毒性が予測される状況などがある。例えば,患者が徐放性製剤を摂取した場合,特に,重篤な作用を有する可能性のある薬剤(例,心血管薬)の場合には,入院を考慮する。入院とする理由がほかにない場合,適応となる臨床検査の結果が正常の場合,および4~6時間の経過観察後に症状が消失した場合は,大部分の患者が退院可能である。しかし,意図的な摂取の場合には,精神医学的評価が必要である。

中毒の予防

米国では,小児が開けられない安全キャップ付き容器が普及し,5歳未満の小児の中毒死例が大幅に減少した。OTC医薬品の鎮痛薬の容器1つ当たりの量を制限すること,および紛らわしく過剰な製剤を排除することで,中毒(特にアセトアミノフェンアスピリン,またはイブプロフェン中毒)の重症度が低下する。

他の予防策としては以下のものがある:

  • 家庭用品および処方薬にはっきりとラベルを貼る

  • 薬剤および毒性物質を小児の手の届かない施錠した棚に保管する

  • 期限切れの薬剤をネコ用砂などの興味を引かない物質と混ぜて子供が開けられないゴミ箱に入れてすぐに廃棄する

  • 一酸化炭素検出器を使用する

  • 可能な限り,オピオイドの処方を避けオピオイド以外による治療を採用する

薬物を本来の容器に保管する(例,殺虫剤を飲み物の容器に入れない)ように促す公教育が重要である。固体の薬剤に識別コードをつけることは,患者,薬剤師,医療従事者による混同およびエラーの予防に役立つ。

要点

  • 中毒は,予測不可能で用量に依存しない過敏反応および特異体質反応,ならびに通常は毒性を示さない用量の物質に対する毒性反応である不耐性とは区別される。

  • 中毒症候群の認識(例,抗コリン性,ムスカリン性,ニコチン性,オピオイド,交感神経刺激作用,離脱)が鑑別診断を狭める助けになる可能性がある。

  • 毒性は直ちに現れる場合もあれば,遅延型のもの(例,遅発性の肝毒性を引き起こすアセトアミノフェン,鉄,タマゴテングタケ)や,繰り返し曝露した後にのみ起こるものもある。

  • 原因不明の意識変容がみられる場合は全例で中毒の可能性を考慮するとともに,病歴から徹底的に手がかりを洗い出すことにより,中毒を検出して具体的な毒物を特定できる可能性を最大限高める。

  • 中毒が疑われる場合でも,意識状態が変化している場合は,他の原因(例,中枢神経系感染症頭部外傷低血糖脳卒中肝性脳症ウェルニッケ脳症)を考慮する。

  • 不完全なまたは誤った情報を提供する可能性があるため,毒物検査(例,薬物免疫測定)は選択的に使用する。

  • 全ての中毒を支持療法で治療し,経口摂取による重篤な中毒に対する活性炭やその他の方法を選択的に用いる。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Hazardous Materials Tools: A searchable database of known toxic substances curated by the U.S. Library of Medicine's Wireless Information System for Emergency Responders (WISER)

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