食道・気管用ダブルルーメンチューブ(Combitube®)またはラリンジアルチューブの挿入

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レビュー/改訂 2020年 1月
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食道・気管用ダブルルーメンチューブ(Combitube®)およびラリンジアルチューブは,声門上エアウェイ(retroglottic airway deviceとも呼ばれる)の一種である。

気道の確保および管理ならびに気道確保および人工呼吸の器具も参照のこと。)

食道・気管用ダブルルーメンチューブ(Combitube®)とラリンジアルチューブは,以下のような基本的な類似点がある:

  • 近位側の大きなカフで下咽頭を閉鎖する

  • 近位のチューブ内腔は,喉頭の入り口を囲む側面の換気用小孔につながっている

  • 遠位のチューブ内腔とそこについている小さめのカフが上部食道に終わり,上部食道を閉鎖する(90%を越えて食道に入る)

声門上エアウェイは,意識のない患者または咽頭反射のない患者に人工換気を行うのに有用であり,一部の待機的手技でも使用される。

食道・気管用ダブルルーメンチューブとラリンジアルチューブは,他の換気法に比べて以下のような利点がある:

  • 気管内チューブと異なり,経験の浅い術者がブラインドで挿入しても成功する。

  • バッグバルブマスク(BVM)換気と異なり,フェイスマスクをしっかり密着させ,その状態を維持しなければならない困難を回避できる。

  • BVMまたはラリンジアルマスク(LMA)による換気と比べて,胃への送気または誤嚥が少ないが,これはBVMまたはLMAによる換気と比べて,食道を気管からうまく分離することができ,また遠位のチューブ内に胃管を挿入できるためである。

その他の声門上エアウェイと同様,Combitube®およびラリンジアルチューブは一時的な気道であり,いずれ抜去するか,気管内チューブまたは外科的気道確保(輪状甲状間膜切開または気管切開)などの確実な気道管理方法に切り替える必要がある。

Combitube®またはラリンジアルチューブ挿入の適応

  • 無呼吸,重度の呼吸不全,または呼吸停止が切迫しており,気管挿管を達成できない

  • 特定の待機的麻酔

  • BVM換気が困難または不可能な状況(例,重度の顔面変形[外傷性または生来],濃いひげ,またはフェイスマスクの密着を妨げるその他の因子がある患者,軟部組織による上気道の閉塞がある患者)

Combitube®またはラリンジアルチューブ挿入の禁忌

絶対的禁忌

  • 患者の換気を補助することに対する医学的な禁忌はない;ただし,法的な禁忌(蘇生処置拒否指示または特定の事前指示書)が効力をもっている場合がある。

  • チューブの挿入を妨げる開口制限(この場合,経鼻気管挿管または外科的気道確保が適応となる)

  • 通過不可能な上気道閉塞(この場合,外科的気道確保が適応となる)

相対的禁忌

  • 意識がある,または咽頭反射がある

  • 下咽頭もしくは食道の異常または外傷(声門上エアウェイを使用するとさらなる局所損傷のリスクが高まる)

  • 身長122cm未満の患者にはCombitube®は推奨されない。

Combitube®またはラリンジアルチューブ挿入の合併症

合併症としては以下のものがある:

  • 咽頭反射を回復した患者における,チューブ挿入時または留置後の嘔吐および誤嚥

  • チューブ挿入時の歯または中咽頭軟部組織の外傷

  • 長時間の留置またはカフの過膨張による舌浮腫

Combitube®またはラリンジアルチューブ挿入に使用する器具

  • 手袋,マスク,ガウン,および眼の保護具(すなわち,普遍的予防策[ユニバーサルプリコーション])

  • カフを膨らませるためのシリンジ

  • 無菌の水溶性潤滑剤または麻酔ゼリー

  • 患者に適したサイズのCombitube®またはラリンジアルチューブ

  • 酸素供給源(100%酸素,15L/分)

  • 必要に応じて咽頭から異物を除去する吸引装置

  • パルスオキシメーター,カプノメーター(呼気終末二酸化炭素モニター),および適切なセンサー

  • 挿管を補助する薬剤

  • 挿入が失敗した場合に備え,代替の気道管理に必要な器具(例,ラリンジアルマスクバッグバルブマスク換気気管挿管輪状甲状間膜切開・穿刺

Combitube®またはラリンジアルチューブ挿入に関するその他の留意事項

  • Combitube®のカフはそれぞれ個別に膨らませる。ラリンジアルチューブのカフは1本のパイロットチューブを共有しており,同時に膨らむ。

  • Combitube®を挿入した場合,1~5%が気管に入ると推定されており,この場合,誤挿入が認識されれば,カフの付いた遠位のチューブ内腔を気管内チューブとして用いることができる。新型のラリンジアルチューブを用いた場合,少なくとも10%は気管に入ると考えられており,この場合,遠位のチューブ内腔を介した換気が可能なことがある。旧型のラリンジアルチューブは,実質的に全ての場合,食道に入るような形状をしている。

  • ラリンジアルチューブの換気用のチューブ内腔はスタイレット挿入に適しており,ラリンジアルチューブから気管内チューブへの切替えに便利である。しかしながら,このチューブ内腔を介して声門を観察することは多くの場合,不可能である。

Combitube®またはラリンジアルチューブ挿入における関連する解剖

  • 耳が胸骨切痕と同一平面上になるようにすることで,上気道が開通し,また気管挿管が必要になった場合にも気道の可視化に最適な位置を確保できる。

  • 耳が胸骨切痕と同一平面上になるようにするために必要な頭部の挙上の程度は,患者の年齢および体格によって異なる。

Combitube®またはラリンジアルチューブ挿入での体位

  • チューブ挿入の至適な体位はスニッフィングポジションであるが,Combitube®またはラリンジアルチューブの挿入は患者の頸部を中間位にしても可能である。

  • 術者はストレッチャーの頭部に立つ。

  • 助手がその側に立つこともある。

スニッフィングポジションは頸椎損傷がない場合にのみ使用する:

  • ストレッチャーの上で患者を仰臥位にする。

  • タオルなどを折りたたんで頭,頸部,および肩の下に置き,頭が挙上するように頸部を屈曲させ,外耳道が胸骨切痕と同一平面上になるようにする。続いて頭部を傾けて顔面が水平線と平行になるようにする(この平面は前述の平面より上である)。肥満患者では肩および頸部を十分に挙上するために,たくさんの折りたたんだタオルまたは市販の傾斜装置が必要になる場合がある(気道開通のための頭頸部の姿勢の図を参照)。

気道開通のための頭頸部の姿勢

A:ストレッチャーに頭部が接している;気道は圧迫されている。B:顔面が天井と平行になり,耳と胸骨切痕が同一平面上に並び,気道が開通するスニッフィングポジションをとらせる。Adapted from Levitan RM, Kinkle WC: The Airway Cam Pocket Guide to Intubation, ed.2.Wayne (PA), Airway Cam Technologies, 2007.

頸椎損傷の可能性がある場合:

  • 患者をストレッチャー上で仰臥位またはわずかに傾斜をつけた仰臥位にする。頸部の動きを防止するために,下顎挙上法のみを用いるか,または頭部後屈を避けてあご先挙上のみで,上気道を用手的に開通させる。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

  • 必要に応じて,中咽頭から分泌物,吐瀉物,または異物を取り除く。

  • 可能であれば,バッグバルブマスク換気によりあらかじめ酸素化を行う。

  • 適切なサイズのCombitube®またはラリンジアルチューブを選択し,ラリンジアルチューブのカフを膨らませるのに適切な空気の量を確認する。この情報はチューブの包装およびチューブ本体のカフに記載されている。

  • エアリークがないことを確認するため,カフを膨らませた後脱気する。

  • 脱気したカフに滅菌の水溶性潤滑剤を少量塗布する。

  • 利き手ではない方の手で顎と舌を持ち上げる。口の中に入れた母指と顎の下面に置いた指とで舌と顎をつかみ,持ち上げる。

  • Combitube®チューブまたはラリンジアルチューブを口腔内に挿入する。Combitube®は正中線の向きに挿入する。ラリンジアルチューブは中心から45~90°ずらして口角から挿入し,チューブの先端が舌を越えたところで回転させて正中線の位置にもってくる。軟部組織を損傷する可能性があるため,いずれのチューブも無理に挿入しないこと。抵抗がある場合は,チューブをやや引き戻し,咽頭後壁に沿って再度進めるようにする。チューブを抜去し,カーブの角度を変えて再挿入しなければならないことがある。適切な長さが挿入されたら(チューブ上の印で確認する),近位のチューブ内腔が喉頭の開口部に開口し,遠位のチューブ内腔が食道に入っているはずである(ほとんどの場合)。

  • カフを膨らませる前にチューブから手を離す。

  • カフを膨らませる。ラリンジアルチューブを使用する場合は,メーカーの推奨容量を用いる。Combitube®を使用する場合は,まず遠位カフを10~15mLの空気で膨らませた後,近位(咽頭用の青色の)カフを50~85mLの空気で膨らませる。

  • 換気できるチューブ(Combitube®では,咽頭用の青色のチューブ)のコネクターにバッグバルブを接続する。

  • 換気を開始する(8~10回/分,1回約1秒間かけて約500mLずつ送気する)。

  • 聴診により,および胸部の挙上により肺換気を評価する。呼気終末二酸化炭素によりチューブの留置部位を確認する。Combitube®留置時の聴診はしばしば困難で信頼性も低いため,カプノメトリーに頼るべきである。しかしながら,心停止している間は,カプノメトリーでもチューブが正しく留置されていることが確実にわからない可能性がある。

  • 評価によりCombitube®が誤って気管に留置されていることが示唆される場合は,遠位のチューブを介した換気を試みる。

Combitube®またはラリンジアルチューブ挿入のアフターケア

  • 必要に応じてテープまたは紐でチューブを固定する。

  • Combitube®またはラリンジアルチューブは,最長で数時間後に抜去するか,気管内チューブまたは外科的気道確保(輪状甲状間膜切開または気管切開)などの確実な気道管理方法に切り替える必要がある。

注意点とよくあるエラー

  • Combitube®挿入の約5%で,遠位のチューブが気管に入ってしまうが,この場合,遠位のチューブを介して換気を行うことができる。新型のラリンジアルチューブの挿入手技で最大10%において,遠位のチューブが気管に入ってしまうが,この場合,遠位のチューブを介して十分な換気ができることがある。

  • 誤嚥のリスクがあるため,声門上エアウェイは一般に反応のない患者にのみ挿入すべきである。声門上エアウェイの挿入またはそれによる換気中は,患者を覚醒させないようにする。必要であれば,患者の覚醒または咽頭反射を防ぐか(筋弛緩薬,十分な鎮痛,および鎮静を用いる),もしくは臨床的適応に応じて抜管する。

  • ダブルルーメンのチューブをあまりに深く留置すると,カフが気管開口部を閉塞し,換気を妨げる可能性がある。閉塞は,気道を数cm引き抜くことで解除できる。

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