気道確保および人工呼吸の器具

執筆者:Vanessa Moll, MD, DESA, Emory University School of Medicine, Department of Anesthesiology, Division of Critical Care Medicine
レビュー/改訂 2023年 4月
意見 同じトピックページ はこちら

気道開通後も自発呼吸がなく,呼吸器具がない場合は,人工呼吸(口対マスクまたは口対バリアデバイス)を始める;口対口換気が推奨されることはほとんどない。呼気には酸素が16~18%と二酸化炭素が4~5%含まれており,これは血中の酸素と二酸化炭素値を正常値付近に保つのに十分な含有量である。必要以上に多量の送気は,胃膨隆を引き起こし,誤嚥のリスクを伴う可能性がある。

呼吸停止の概要気道確保および管理,および気管挿管も参照のこと。)

バッグバルブマスク

バッグバルブマスクは,非再呼吸バルブ機能付きの自己膨張式バッグ(蘇生バッグ)と,顔面の組織に適合する軟らかいマスクから構成され,酸素供給源に接続すると,60~100%の酸素を吸入させる(バッグバルブマスク換気も参照)。経験豊富な医療専門職が行えば,多くの場合,バッグバルブマスクにより一時的に十分な換気が得られ,確実な気道管理の準備を時間的に余裕をもって行える。しかしながら,5分を超えてバッグバルブマスク換気を行うと通常は胃への送気が起こるため,胃に溜まった空気を除去するために経鼻胃管を挿入する必要がある。

バッグバルブマスクは気道の開通性を維持しないため,軟部組織が弛緩した患者では,気道の開通性を保つために,追加の器具の使用に加え,体位に注意を払い用手的操作(気道開通のための頭頸部の姿勢および下顎挙上の図を参照)を行う必要がある。

気道開通のための頭頸部の姿勢

A:ストレッチャー上で頭部が平坦となっている;気道は圧迫されている。B:顔面が天井に平行になるように,耳と胸骨切痕をそろえることで気道が開通する。Adapted from Levitan RM, Kinkle WC: The Airway Cam Pocket Guide to Intubation, ed.2.Wayne (PA), Airway Cam Technologies, 2007.

下顎挙上法

バッグバルブマスク換気中には経口エアウェイまたは経鼻エアウェイを使用して,中咽頭の軟部組織による気道閉塞を予防することができる。経口エアウェイは意識のある患者では咽頭反射を引き起こし,嘔吐および誤嚥を招く可能性があるため,注意して使用すべきである。経鼻エアウェイは患者に咽頭反射を引き起こさないため,覚醒している患者または半意識の患者で,咽頭反射のために経口エアウェイの使用が適さない可能性がある場合に推奨される。

経鼻エアウェイ留置の絶対的禁忌としては,篩板(頭蓋底)骨折が疑われる顔面中央部の重大な損傷などがある。相対的禁忌としては,経鼻エアウェイの通過を困難にしうる鼻の解剖学的異常(例,重大な鼻外傷,大きなポリープ,最近の鼻の手術)などがある。

経口エアウェイの適切なサイズの最も一般的な選び方は,患者の口角から下顎角までの距離と同じ長さのものを用いることである。

気管内チューブ,ならびに声門上エアウェイおよび咽頭エアウェイといった気道確保器具とともに,蘇生バッグを用いることもある。小児用バッグには,最高気道内圧を(通常,35~45cmH2Oまでに)制限することができる圧力制限バルブがある;不注意による過換気を避けるため,使用する際はバルブの設定をモニタリングしなければならない。必要であれば,十分な圧を加えるために圧力制限バルブを閉じることもできる。

ラリンジアルマスク(LMA)

声門上エアウェイ(SGA)を咽頭に挿入することで,気管挿管の必要がない状態で換気,酸素化,および麻酔ガスの投与を可能にする。このような器具は以下を目的として用いられる:

  • 主要な気道管理

  • バッグバルブマスク換気が困難な状況における人工換気

  • 確実な気道管理が困難と予想される場合(例,解剖学的異常による)の人工換気

  • 人員が限られている場合(例,病院到着前)の換気

  • 気管挿管の誘導

手術室で最も一般的に使用されるSGAは,ラリンジアルマスク(LMA)および類似の器具であるが,それ以外のSGAは一般的には救急外来および病院到着前の気道管理で使用される(その他の器具を参照)。

LMAは中咽頭下部に挿入され,軟部組織による気道閉塞を予防し,換気の経路を効果的に確保することができる(ラリンジアルマスクの図を参照)。様々なLMAが利用可能であり,これにより気管内チューブまたは胃減圧チューブを通すこともできる。名称から示唆されるように,このような器具は(顔面をマスクで覆うのではなく)喉頭開口部を密閉することにより,顔面をマスクでうまく密閉できない問題,および顎または舌の位置を変えてしまうリスクを回避できる。合併症には,正常な咽頭反射がある患者,過剰な換気を受けている患者,またはその両方における,嘔吐および誤嚥などがある。

LMAの挿入方法には非常に多くの手技がある(ラリンジアルマスクの挿入を参照)。標準的なアプローチとしては,脱気したマスクを硬口蓋に押し付け(利き手の長い指を使用して),マスクを回し込みながら舌根を越え,マスクが下咽頭に達するまで進め先端が上部食道に届くようにする。正しい場所に入れば,マスクを膨張させる。挿入前にマスクを推奨容量の半分まで膨張させることで先端が固くなり,より挿入しやすくなる。可膨張性のカフの代わりに気道に合わせて変形するゲル状物質が用いられているタイプもある。

気管内チューブと同様,ラリンジアルマスクは気道を食道から分離しないが,バッグバルブマスク換気に比べて以下のような利点がある:

  • 胃の膨満を最小限に抑える

  • 受動的な逆流をある程度予防する

大半のLMAには,胃を減圧するための細い管を挿入できる開口部がある。

気管内チューブとは違い,LMAによって気道をどの程度効果的に密閉できるかは,マスクを膨張させる圧力とは直接相関しない。気管内チューブであれば,バルーン圧を高くするほどぴったり密閉できる;LMAの場合,膨張させすぎるとマスクの柔軟性が低下し,解剖学的構造にフィットし難くなる。密閉が不十分な場合,マスク圧をいくらか下げるべきである;効果がなければより大きいサイズのマスクを試すべきである。

緊急時には,ラリンジアルマスクは橋渡し的な器具とみなされるべきである。長期の留置,マスクの過膨張,またはその両方により,舌が圧迫され,舌浮腫を来すことがある。昏睡状態でない患者にLMA挿入前に筋弛緩薬を投与した場合(例,喉頭鏡使用のため),薬剤の効果が消えると咽頭反射を起こし,誤嚥する可能性がある。器具を抜去する(換気および咽頭反射が十分である場合)か,あるいは咽頭反射を消す薬剤を投与し別の方法で挿管を行うまでの時間稼ぎをすべきである。

LMAの使用禁忌は,顔面の広範な外傷の場合である。

ラリンジアルマスク(LMA)

LMAは膨張性のカフ付きのチューブであり,カフを中咽頭に挿入する。A:縮ませたカフを口に挿入する。B:示指でカフを喉頭上部に導く。C:留置され次第,カフを膨張させる。

一部のカフには空気を注入して膨張させる方式ではなく,気道の形状に合わせて変形するゲル状物質が採用されている。

気管内チューブ

気管内チューブは口を介して,またはより頻度は低いが鼻を介して気管に直接挿入される。気管内チューブには,空気漏れを防いで誤嚥のリスクを最小限にする,高容量で低圧のカフがついている。カフ付きチューブは従来から成人と8歳以上の小児にのみ使用されてきたが,空気漏れや誤嚥(特に搬送中)を予防するため,乳幼児にも使用されることがある。ときにカフは膨張させないこともあり,膨張させる場合でも明らかな漏れを防ぐのに必要な程度に留めることがある。

気管内チューブは,昏睡状態の患者,自分で気道を保護できない患者,および長期の機械的人工換気を必要とする患者において,気道障害時の気道の確保,誤嚥の予防,および機械的人工換気を開始するための確実なツールである。気管内チューブにより,下気道の吸引もできる。心停止時には気管内チューブを介して薬剤を投与することがあるが,この方法は推奨されない。

通常は熟練者が喉頭鏡を用いて挿入することが求められるが,様々な新しい挿入器具が利用できるようになり,選択肢の幅が広がっている(気管挿管を参照)。

その他の器具

他の声門上エアウェイとして,ラリンジアルチューブとダブルルーメンのエアウェイ(例,Combitube,ラリンジアルチューブ)がある。これらの器具は,2つのバルーンカフで喉頭の上下を密閉して,喉頭口(2つのバルーンカフの間に位置する)に換気口が来るようになっている。ラリンジアルマスクと同様,長期の留置およびカフの過膨張により,舌浮腫を来しうる。これらは,気管内チューブの挿管を試みて失敗した後の代替の気道として使用できる。

食道・気管用ダブルルーメンチューブ(Combitube)またはラリンジアルチューブの挿入を参照のこと。)

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS