経皮的輪状甲状間膜(靱帯)切開・穿刺

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レビュー/改訂 2020年 1月
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輪状甲状間膜(靱帯)切開・穿刺は,従来の外科的輪状甲状間膜切開であっても,ガイドワイヤーを用いた経皮的輪状甲状間膜穿刺であっても,皮膚および輪状甲状間膜に切り込みを入れ,そこから人工エアウェイを気管に挿入する方法である。輪状甲状間膜切開・穿刺は,気管挿管が禁忌であるか,他のチューブ挿入法では気道に到達できず,暫定的な気道管理および換気方法(すなわち,ラリンジアルマスクなどの声門上器具)で十分な換気および酸素化が得られない場合に,緊急に施行されるのが一般的である。

気道確保および管理も参照のこと。)

ガイドワイヤーを用いた輪状甲状間膜穿刺は,Seldinger法(ガイドワイヤー上にカテーテルを通す方法)による中心静脈カテーテルの挿入に類似しており,手術経験の限られた術者に,より適している可能性がある。

輪状甲状間膜穿刺は,ジェットベンチレーターに接続した12~14Gの血管カテーテルを用いる一時的な方法であり,10歳未満の小児に対して好まれる方法である。このような器具は次のようにして容易にセットできる;まずプランジャーを外した3mLシリンジに血管カテーテルを取り付ける。そして,そのシリンジに6.5mmの気管内チューブのアダプターを取り付け,その気管内チューブのアダプターにバッグバルブマスクを取り付けて患者の換気を行う。

経皮的輪状甲状間膜切開・穿刺の適応

気管挿管を要する無呼吸,重度の呼吸不全,または呼吸停止が切迫しており,かつ

  • 経口気管挿管または経鼻気管挿管の試みが失敗し,他の方法(例,バッグバルブマスク,ラリンジアルマスク)で酸素化または換気ができない

  • 大量の口腔内出血,重度の顔面外傷,腫瘍による腫瘤効果(mass effect)などにより,経口気管挿管または経鼻気管挿管が禁忌である

経皮的輪状甲状間膜切開・穿刺の禁忌

絶対的禁忌

  • 8歳未満

相対的禁忌

  • 喉頭,甲状軟骨,または輪状軟骨の重大な損傷により重要なランドマークを同定できない

  • 気管遠位部の部分的または完全離断

  • 8~12歳(年齢をどこで区切るかについては専門家間で明確なコンセンサスが得られていない)

経皮的輪状甲状間膜切開・穿刺の合併症

輪状甲状間膜切開の直後または数時間以内に認められる早期の合併症には以下のものがある:

  • 出血(ときにコントロール不能)

  • 気管ではなく頸部組織へのチューブの挿入(肺の聴診で呼吸音を認めないことにより直ちに認識され,気管へチューブを入れ直すことで是正できる)

  • 気管後面の損傷または穿孔

  • 喉頭,声帯,または甲状腺の損傷

輪状甲状間膜切開から数週間または数カ月後に認められる後期の合併症には以下のものがある:

  • 声門下狭窄および切開部の肉芽組織による進行性の気道閉塞

  • 声の変化(長期にわたり継続するが時とともに回復する場合がある)

  • 創傷感染症

経皮的輪状甲状間膜穿刺に使用する器具

  • 消毒液(例,クロルヘキシジン,ポビドンヨード)および滅菌ガーゼ

  • 滅菌ドレープ

  • 滅菌手袋およびガウンならびに眼と顔の保護具(普遍的予防策)

  • 局所麻酔薬(例,1%または2%リドカインとアドレナリンの併用,25G針,3mLシリンジ)

  • 生理食塩水を半分満たした3~6mLシリンジに取り付けた,ガイドワイヤーを通すことができるカテーテルが針を覆う形状のデバイス(catheter-over-the-needle)付きの注射針

  • プラスチックで覆われた柔軟なガイドワイヤー

  • 気道用のカテーテル(気管チューブ)(空気で膨らむプラスチック製のカフと,気管内に挿入しチューブの挿入を補助する取り外し可能な先の鈍い弯曲したダイレーターを備えたもの)

  • 15番のメス刃

  • 吸引装置および吸引カテーテル

  • バッグバルブマスクおよび酸素源

  • 心電図モニター,パルスオキシメーター,血圧計などの患者モニタリング装置(非侵襲的なもの)

  • できればカプノメーター(呼気終末二酸化炭素モニター)

カテーテル,ガイドワイヤー,シリンジ,およびガイドワイヤーを通すことができるcatheter-over-needle device(カテーテルの中を針が通るデバイス)を全て,またはこれらのうちいくつかを含む市販のキットもある。

経皮的輪状甲状間膜穿刺に関するその他の留意事項

  • ガイドワイヤー法では最初に皮膚切開を行わないことが多いため,輪状甲状間膜は容易に同定できるはずである。解剖学的な歪みがあると輪状甲状間膜の同定が困難になる。

  • 処置中に処置部位が微生物で汚染されるのを防止するため,無菌操作が必要である。

経皮的輪状甲状間膜穿刺における関連する解剖

  • 輪状甲状間膜は甲状軟骨と輪状軟骨の間にある。これは縦に約1cm,横に2~3cmの膜である。気管軟骨は輪状軟骨から胸骨切痕まで尾側に伸びている。

  • 輪状甲状間膜の周囲には血管が豊富に存在する(上甲状腺動脈および最下甲状腺動脈)。

緊急輪状甲状間膜切開

患者を仰臥位にして首を伸展させる。消毒処置の後,喉頭を片手で把持し,メスで皮膚,皮下組織,および輪状甲状間膜を正確に正中線で切開し,気管に到達する。中空のチューブを用いて気道の開通性を維持する。

経皮的輪状甲状間膜切開での体位

  • 患者を仰臥位にし,頸椎損傷の懸念がなければ頸部を過伸展させる。輪状甲状間膜切開では,スニッフィングポジションは不要である。

処置のステップ-バイ-ステップの手順

  • バッグバルブマスクまたはラリンジアルマスクにより酸素を投与することで,可能な限り本手技を通して十分な酸素化および換気を確保する。

  • シリンジを用いて空気を送りカテーテルのカフを膨らませ,エアリークがないか確認する。確認できたらカフを脱気する。

  • 手袋をはめた指で,ダイレーター/カテーテルのセット(カフを含む)に少量の水溶性潤滑剤を塗布する。

  • 生理食塩水を半分満たしたシリンジを穿刺針に取り付ける。

  • 輪状甲状間膜を同定する。喉頭隆起(甲状軟骨前方の最も突出した部分)から尾側に向けて,輪状甲状間膜(甲状軟骨の尾側端と輪状軟骨の間のくぼみ)を触知するまで指を動かす。

  • 前頸部にクロルヘキシジンまたはポビドンヨードなどの消毒剤を塗布し,頸部に滅菌ドレープをかける。

  • 患者に痛みを感じる能力があれば,皮膚切開が予想される部位(次の項目を参照)に沿って局所麻酔薬を注射する。

  • 輪状甲状間膜上の皮膚および皮下組織に2~3cm,正中線に沿って縦に切開を入れる術者もいる。

  • 利き手ではない方の手の母指と中指で甲状軟骨の両側を把持し,喉頭を固定する。カテーテルを留置するまで固定し続ける。

  • 液体を入れた注射器を取り付けた状態で,輪状甲状間膜を通して約45°の角度で尾側に向けて針(一般的にはカテーテルの中にある針)を挿入する。シリンジのプランジャーに圧をかけながら針を進める。

  • 針が気管に入ったときにはじけるような感触があること,およびシリンジに空気が入ってくる(生理食塩水中に気泡が見える)のを確認することにより,針が気道に入っていることを確認する。空気が戻り次第,直ちに針を進めるのを止める。

  • シリンジを針から取り外す。針がカテーテルに覆われている場合は,その針を抜去してカテーテルを進める。

  • 次に,ガイドワイヤーを針またはカテーテルに通して気管に挿入する。

  • ガイドワイヤーをしっかり把持しながら,ガイドワイヤーを元の位置に残したまま,針またはカテーテルを愛護的に抜去する。

  • ガイドワイヤーの挿入部位の直下に皮膚切開を入れる(まだ行っていない場合)ことで,先の鈍いダイレーターとカテーテル(この2つは1つのユニットとして気管内に進める)を通しやすくする。ダイレーターをガイドワイヤー上に慎重に誘導する。ガイドワイヤーがダイレーターを完全に貫通していることを確認し,さらに処置を進める前にワイヤーの近位端を把持しておく。

  • デバイスが組織を通過して気管に入るのを容易にするため,必要に応じて挿入部位をさらに切開する。通過に対する抵抗が著しい場合は,愛護的にではあるがしっかり力を入れて,デバイスを回転させながら前に進めるようにし,必要であればさらに切開する。カテーテルが完全に挿入されるとカテーテルのハブとフランジが皮膚と水平になるはずである。

  • ガイドワイヤーとダイレーターを引き抜く。

  • カフを効果的な換気に必要な最小容量まで膨らませる。

  • カテーテルを用いて換気を再開する。

  • カテーテルのフランジにテープを通してデバイスを固定する。

  • 気道が確保されたら,聴診および呼気終末二酸化炭素濃度の測定により気道が適切に確保されていることを確認する。

経皮的輪状甲状間膜穿刺のアフターケア

  • 胸部X線により留置位置を確認できる。

  • 輪状甲状間膜穿刺は一般に,より恒久的な気管切開へのブリッジとみなされており,従来,最初の緊急輪状甲状間膜切開から72時間以内に気管切開が施行されている。気管切開に切り替えることで声門下狭窄のリスクが低下すると考えられているが,この切替えの必要性を支持する強力な文献はない。

経皮的輪状甲状間膜穿刺のアドバイスとこつ

  • 皮膚の垂直切開による有意な出血を制御するため,電池式の電気焼灼器がしばしば用いられる。

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