ダウン症候群(21トリソミー)

(ダウン症候群;Gトリソミー)

執筆者:Nina N. Powell-Hamilton, MD, Sidney Kimmel Medical College at Thomas Jefferson University
レビュー/改訂 2021年 12月
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ダウン症候群は21番染色体の異常であり,知的障害,小頭症,低身長,および特徴的顔貌を引き起こす。診断は形成異常と発達異常から示唆され,細胞遺伝学的検査によって確定される。管理方針は具体的な臨床像および形成異常に応じて異なる。

染色体異常症の概要も参照のこと。)

出生児における全体の発生率は約1/700であり,母体年齢が上がるにつれてリスクが徐々に増大する。母体年齢別の出生児におけるリスクは,20歳で1/2000,35歳で1/365,40歳で1/100である。しかしながら,大半の出生は比較的若年の女性によるものであるため,ダウン症候群児の大多数は35歳未満の女性から出生しており,35歳以上の女性から出生するダウン症候群児は約20%に過ぎない。

ダウン症候群の病因

約95%の症例で21番染色体が1つ余分にみられ(21トリソミー),余分な染色体は一般に母親に由来する。そのような症例では染色体数が正常の46本ではなく47本になっている。

ダウン症候群の核型
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ダウン症候群は,1つ余分な21番染色体(矢印)を特徴とする。
L.WILLATT, EAST ANGLIAN REGIONAL GENETICS SERVICE/SCIENCE PHOTO LIBRARY

ダウン症候群の約3%は,46本の正常な数の染色体を有するが,21番染色体の過剰部分が他の染色体上に転座している(これによる異常染色体は1本として数える)。

最も頻度の高い転座はt(14;21)であり,この場合,21番染色体の過剰部分は14番染色体に付着している。t(14;21)転座例の約半数は両親とも正常核型であるが,このことは,その転座がde novoであったことを意味している。残る半数においては,一方の親(ほぼ全例で母親)が表現型は正常であるが染色体を45本しか有しておらず,そのうちの1つがt(14;21)となっている。理論的には,保因者である母親の児がダウン症候群を有する確率は1/3であるが,実際のリスクはこれよりも低い(約1/10)。一方,父親が保因者である場合のリスクは1/20に過ぎない。

次に頻度が高い転座はt(21;22)である。このケースでは,保因者である母親の児がダウン症候群を有する確率は約1/10であり,父親が保因者であるときのリスクはこれより低い。

過剰な21番染色体が別の21番染色体に付着した場合に発生する21q21q転座は,上記よりはるかにまれである。親が21q21q転座の保因者またはモザイク(正常な細胞と21q21q転座を伴う染色体数45本の細胞が混在する)であるかどうかを特定することが特に重要となる。このケースでは,転座保因者の児はダウン症候群または21モノソミーのいずれかとなる(後者は典型的には生存不可能である)。親がモザイクの場合も,リスクは同様であるが,染色体が正常な児が産まれる可能性もある。

ダウン症候群のモザイクは,胚内での細胞分裂中の不分離(染色体が分離細胞へ移行できない場合)によって生じるものと推測される。モザイク型ダウン症候群の個人には2つの細胞系列があり,1つは正常な染色体数46本の細胞系列,もう1つは過剰な21番染色体を含む47本の細胞系列である。知能予後および医学的合併症のリスクは脳などそれぞれ異なる組織中の21トリソミー細胞の比率に依存すると考えられる。しかし臨床では,体内の1つ1つの細胞の核型を確認することは不可能なため,リスクを予測できない。モザイク型ダウン症候群の一部では,非常に軽微な臨床徴候しかみられず知能も正常であるが,たとえ検出可能なモザイクがない症例でも,非常に多様な所見を示す可能性がある。片方の親に21トリソミーの生殖細胞系列モザイクがある場合は,2人目の罹患児が産まれるリスクが母体年齢に基づくリスク以上に高くなる。

ダウン症候群の病態生理

染色体不均衡により生じる大半の病態と同様に,ダウン症候群では複数の器官系が侵され,構造的異常と機能的異常の両方が引き起こされる()。全ての個人に全ての異常がみられるわけではない。

表&コラム
表&コラム

大半の症例でいくらかの認知障害がみられ,重度(IQ20~35)から軽度(IQ50~75)までに及ぶ。粗大運動および言語発達の遅滞も生後早期から明らかとなる。しばしば身長が低く,肥満のリスクが高い。

罹患した新生児の約50%に先天性心疾患がみられ,心室中隔欠損症と共通房室弁口(心内膜床欠損症)が最も多くみられる。

約5%の症例で先天性消化管異常,特に十二指腸閉鎖(ときに輪状膵を合併する)がよくみられる。ヒルシュスプルング病セリアック病も比較的頻度が高い。多くの症例で甲状腺疾患(甲状腺機能低下症が最も多い)や糖尿病などの内分泌障害が発生する。後頭環椎および環軸椎の過可動性や頸椎形成異常によって後頭環椎および頸部不安定性が発生する可能性があり,それにより筋力低下や麻痺が生じることがある。約60%で先天性白内障,緑内障,斜視屈折異常などの眼障害がみられる。大半の症例で難聴がみられ,耳感染症が非常によくみられる。

老化が加速すると考えられている。ここ数十年で,平均寿命の中央値が約60歳まで伸びており,中には80代まで生存する患者もいる。平均寿命を短縮させている併存症として心疾患,易感染性,急性骨髄性白血病などがある。比較的若年時からアルツハイマー病のリスク増大がみられ,ダウン症候群の成人の剖検では,脳に典型的な顕微鏡所見が認められる。最近の研究結果から,ダウン症候群の黒人は白人と比べて寿命がかなり短いことが示されている。この知見は,医療,教育,その他の支援サービスへのアクセス不良によるものと考えられる。

ダウン症候群の女性がダウン症候群の胎児をもつ可能性は50%であるが,妊娠の多くが自然流産となる。ダウン症候群の男性は,モザイク型のものを除くと,全例が不妊である。

ダウン症候群の症状と徴候

全般的な外観

罹患した新生児は,おとなしく,めったに泣かず,筋緊張低下を示すという傾向がある。大半の症例で扁平な側貌(特に鼻根部扁平)がみられるが,出生時には通常とは異なる身体的特徴が目立たず,乳児期になってから特徴的顔貌が顕著になる場合もある。また後頭部扁平,小頭症,および頸部背面周囲の余剰皮膚がよくみられる。目がつり上がり,通常は目頭に内眼角贅皮がみられる。Brushfield斑(虹彩辺縁の周辺にできる塩粒に似た灰色ないし白色の斑点)を視認できることがある。口はしばしば開いたままで,大きな溝状舌(中央の亀裂はみられないことがある)を突き出している。耳介は小さく円形であることが多い。

手は短く幅広いことが多く,しばしば単一手掌屈曲線がみられる。手指はしばしば短く,第5指には斜指症(内弯)がみられ,しばしば指節骨が2本のみである。足では第1趾・第2趾間が離開し(サンダルギャップ[sandal-gap toes]),足底の溝がしばしば足の後方に及んでいる。

ダウン症候群の身体的特徴
ダウン症候群(特徴的顔貌)
ダウン症候群(特徴的顔貌)

平坦な鼻梁,上がり目,目頭に内眼角贅皮が認められるダウン症候群患者の画像。

© Springer Science+Business Media

ダウン症候群(項部皮膚のたるみ皺)
ダウン症候群(項部皮膚のたるみ皺)

ダウン症候群患児の項部のたるみ皺の画像。

© Springer Science+Business Media

ダウン症候群(Brushfield斑)
ダウン症候群(Brushfield斑)

ダウン症候群患者の虹彩にみられる白斑の画像。

© Springer Science+Business Media

単一手掌屈曲線
単一手掌屈曲線

RALPH C.EAGLE, JR./SCIENCE PHOTO LIBRARY

ダウン症候群
ダウン症候群

この写真は,低身長,前頭部脱毛,細い毛髪,内眼角贅皮,頸部肥厚,軽度の中心性肥満など,ダウン症候群の典型的な身体的特徴が多数みられる若年男性を撮影したものである。

By permission of the publisher. From Bird T, Sumi S: Atlas of Clinical Neurology.Edited by RN Rosenberg.Philadelphia, Current Medicine, 2002.

成長および発達

成長につれて,身体および精神の発達遅延が顕著になってくる。身長は低いことが多い。平均IQは約50であるが,これには大きな幅がある。小児期には注意欠如多動症を示唆する行動がしばしばみられ,自閉的行動の発生率が高い(特に著明な知的障害がある小児の場合)。小児および成人でうつ病のリスクが高い。

心症状

心疾患の症状は,心形成異常の種類および程度によって決定される。

先天性心疾患(特に多いのは心室中隔欠損症および共通房室弁口)のある乳児は,無症状の場合もあれば,心不全の徴候(例,努力性呼吸,呼吸数増加,哺乳困難,発汗,体重増加不良)がみられる場合もある。

雑音は認識されないこともあるが,いくつかの雑音が聴取されることもある。

消化管の症状

ヒルシュスプルング病のある乳児では通常,胎便の排出が遅延する。重症例では腸閉塞の徴候(例,胆汁性嘔吐,排便障害,腹部膨隆)がみられることがある。

十二指腸閉鎖または狭窄は,狭窄の程度に応じて,胆汁性嘔吐を呈するか,無症状で経過する。これらの異常は出生前超音波検査で検出されることがある(double-bubble sign)。

Double-bubble sign
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このX線写真には,十二指腸完全閉塞でみられる典型的なdouble-bubble signが認められる。小さい方のバブルは口側部が拡張した十二指腸であり(白矢印),大きい方のバブルは胃である(黒矢印)。この所見は十二指腸閉鎖,十二指腸ウェブ,輪状膵,および十二指腸前門脈でみられる。まれに,回転異常症の患児におけるLadd靱帯による十二指腸完全閉塞でもみられることがある。
By permission of the publisher. From Langer J: Gastroenterology and Hepatology: Pediatric Gastrointestinal Problems.Edited by M Feldman (series editor) and PE Hyman.Philadelphia, Current Medicine, 1997.

ダウン症候群の診断

  • 出生前の絨毛採取および/または羊水穿刺による核型分析

  • 出生後の核型分析(出生前核型分析が行われていない場合)

次世代シークエンシング技術も参照のこと。)

ダウン症候群の診断は,以下により検出される身体的異常に基づき出生前から疑われることがある:

  • 胎児超音波検査

  • 母体血清スクリーニング

  • 非侵襲的出生前スクリーニング

胎児超音波検査の異常としては,nuchal translucencyの増大(NT肥厚),共通房室弁口,十二指腸閉鎖などがある。母体血清スクリーニングでは,第1トリメスターの後期に血漿プロテインAが,第2トリメスターの早期(妊娠15~16週)にα-フェトプロテイン,β-hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン),非抱合型エストリオール,およびインヒビンが異常値を呈することがある。母体循環から得られた胎児DNAを検査する非侵襲的出生前スクリーニング(NIPS)も,感度および特異度が高いことから最近では21トリソミースクリーニングの1つの選択肢となっている。

母体血清スクリーニングや超音波検査によりダウン症候群が疑われる場合,胎児期または出生後の確定診断検査が推奨される。胎児の確定診断の方法には,絨毛採取および/または羊水穿刺による核型分析などがある。核型分析は転座の合併を除外するための第1選択の検査であり,これにより親は再発リスクに関する適切な遺伝カウンセリングを受けられる。出生前の確定診断検査は,非侵襲的出生前スクリーニングの結果が異常,不確定,または不明な全ての患者に選択肢として提供される。妊娠中絶などの管理に関する決定は,非侵襲的出生前スクリーニングの結果のみに基づいて行うべきではない。

母体年齢を問わず妊娠20週前に出生前ケアのために受診した女性全例に対して,ダウン症候群に対する母体血清スクリーニングおよび診断検査が選択肢としてある。

American College of Obstetricians and Gynecologists Committee on Practice Bulletins–Obstetrics,Committee of Genetics,およびSociety for Maternal–Fetal Medicineの2020年版Practice Bulletinでは,妊婦の年齢やその他の危険因子の有無にかかわらず,全ての妊婦に対してセルフリー(血清中遊離)胎児DNA検査を勧めることが推奨されている。

出生前に診断されなかった場合,新生児における診断は形成異常に基づき,細胞遺伝学的検査によって確定する。

併発症

ダウン症候群の合併症を同定するには,罹患した乳幼児に対してそれぞれの年齢に応じた特定のルーチンスクリーニング検査を行うことが助けになる(American Academy of Pediatricsによる2011年版Health Supervision for Children with Down Syndromeを参照):

  • 心エコー検査:妊婦健診時または出生時

  • 甲状腺スクリーニング(甲状腺刺激ホルモン[TSH]値):出生時,生後6カ月,12カ月,その後は1年毎

  • 聴力検査:出生時,その後は正常な聴力が確立されるまで(4歳頃)6カ月毎,それ以降は1年毎(適応があればより頻回)

  • 眼科検査:生後6カ月までに,その後は5歳まで1年毎;13歳までは2年毎,21歳までは3年毎(適応があればより頻回)

  • 成長:毎回の健診時に身長,体重,および頭囲をダウン症候群用の成長曲線にプロットする

  • 閉塞性睡眠時無呼吸症候群の睡眠検査:4歳までに完了する

環軸椎不安定性およびセリアック病のルーチンなスクリーニングは,もはや推奨されておらず,臨床的な疑いに基づいて検査を行う。頸部痛,根性痛,筋力低下,脊髄症を示唆する他の神経症状の既往がある患者には中立位の頸椎X線検査が推奨され,疑わしい異常がみられない場合は,屈曲位および伸展位でX線検査を施行すべきである。

ダウン症候群の治療

  • 具体的な症状や徴候を治療する。

  • 遺伝カウンセリング

原疾患を完治させることはできない。管理方針は個々の合併症や重症度によるが,経過観察の方法は全ての患児で概ね同様である。一部の先天性心形成異常は外科的に修復する。甲状腺機能低下症は甲状腺ホルモンの補充により治療する。

ケアの一環として,家族向けの遺伝カウンセリング,社会的支援,および知的機能の水準に合わせた教育プログラムの策定を行うべきである( see heading on page 知的能力障害)。

要点

  • ダウン症候群では,21番染色体の過剰(分離した1本の染色体または別の染色体への転座のいずれか)がみられる。

  • 本症の診断は,胎児超音波検査で検出された形成異常(例,nuchal translucencyの増大[NT肥厚],心臓の異常,十二指腸閉鎖)に基づいて,あるいは母体血液検体のセルフリー胎児DNAの分析または第1トリメスター後期の血漿プロテインAならびに第2トリメスター早期のα-フェトプロテイン,β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-hCG),非抱合型エストリオール,およびインヒビンで構成される母体マーカーによるスクリーニングに基づき,出生前に疑うことができる。

  • 核型分析は,選択すべき確定診断検査であり,第1トリメスターでの絨毛採取または第2トリメスターでの羊水穿刺によって出生前に行うことや,出生後に血液検体を使って行うことができる。

  • 期待余命の短縮につながっている第1の要因は心疾患であるが,感染症,急性骨髄性白血病,および早期発症型アルツハイマー病に対する易罹患性も比較的程度は小さいものの一因となっている;ただし,期待余命はここ数十年で著しく延長し,中には80代まで生存する患者もいる。

  • 合併症(例,心形成異常,甲状腺機能低下症)を検出するために年齢に応じたルーチンスクリーニングを行う。

  • 個々の臨床像に応じた治療を行うとともに,社会的支援,教育支援,および遺伝カウンセリングを提供する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American College of Obstetricians and Gynecologists Committee on Practice Bulletins–Obstetrics, Committee of Genetics, and the Society for Maternal–Fetal Medicine: Screening for fetal chromosomal abnormalities: ACOG practice bulletin, number 226 (2020)

  2. American Academy of Pediatrics: Guidelines on health supervision for children with Down syndrome (2011)

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