マルファン症候群

執筆者:Frank Pessler, MD, PhD, Helmholtz Centre for Infection Research
レビュー/改訂 2022年 12月
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マルファン症候群は結合組織の異常から成り,結果として眼,骨格,および心血管系の異常を来す(例,大動脈解離につながる上行大動脈の拡張)。診断は臨床的に行う。治療には,上行大動脈の拡張を遅らせるための予防的β遮断薬投与,および予防的大動脈手術などがある。

マルファン症候群の遺伝形式は常染色体顕性(優性)である。基礎的な分子生物学的異常は,ミクロフィブリルの主要成分であり細胞の細胞外基質への固定を助ける糖タンパク質フィブリリン-1(FBN1)をコードする遺伝子の変異に起因する。主要な構造的欠陥は,心血管系,筋骨格系,および眼系を侵す。呼吸器系および中枢神経系も影響を受ける。

マルファン症候群を引き起こす遺伝子変異には多様な臨床像があるが,典型的には長い四肢,大動脈基部拡張,および水晶体偏位という一連の所見によって認識される。

マルファン症候群の症状と徴候

心血管系

主要所見としては以下のものがある:

重度の合併症の大半は,大動脈基部および上行大動脈の病的変化に起因する。大動脈中膜が,最も強い血行力学的ストレスがかかる部位で選択的に侵される。大動脈の進行性拡張,または冠静脈洞から始まる急性解離を来すが,これはときに10歳未満で発症する。大動脈基部が小児の50%および成人の60~80%で拡張し,大動脈弁逆流を引き起こす可能性があり,その場合は拡張期雑音が大動脈弁の部位で聴取されることがある。

余剰な弁尖および腱索が僧帽弁逸脱または逆流につながることがある;僧帽弁逸脱は収縮期クリックおよび収縮後期雑音,または重症例では全収縮期雑音を起こすことがある。

罹患した弁に細菌性心内膜炎が発生することがある。

筋骨格系

重症度は非常に多様である。患児の身長は,年齢の割に,また家族に比べて高く,また両手を横に広げたときの幅が身長を超える。くも指(不釣り合いに長く細い手指)が,しばしばthumb sign(握った拳の縁を超えて母指の末節骨が突出する)によって,容易に目につく。胸骨の変形(鳩胸[外方偏位]または漏斗胸[内方偏位])がよくみられ,同様に関節過伸展(ただし通常は肘関節の軽度屈曲拘縮),反張膝(膝部における下肢の後弯),扁平足,後側弯,ならびに横隔膜ヘルニアおよび鼠径ヘルニアもよくみられる。通常は皮下脂肪が薄い。しばしば高口蓋がみられる。

マルファン症候群における筋骨格の臨床像
マルファン症候群
マルファン症候群

この画像では,後側弯,漏斗胸,および反張膝を含むマルファン症候群の青年における典型的な体型が示されている。

By permission of the publisher. From Macro R: Atlas of Heart Diseases: Congenital Heart Disease.Edited by E Braunwald (series editor) and RM Freedom. Philadelphia, Current Medicine, 1997.

マルファン症候群(筋骨格系の異常)
マルファン症候群(筋骨格系の異常)

このマルファン症候群患者は,家族より身長が高く,両手を横に広げたときの幅が身長を超える。

© Springer Science+Business Media

マルファン症候群(thumb sign)
マルファン症候群(thumb sign)

このマルファン症候群患者の写真では,母指が握った拳の縁を越えて突出している。

MEDICAL PHOTO NHS LOTHIAN/SCIENCE PHOTO LIBRARY

マルファン症候群(長い指)
マルファン症候群(長い指)

マルファン症候群は異常に長い指を特徴とする。この写真では,女性が手首をつかんだ際に母指が示指に重なっている。

Photo courtesy of David D. Sherry, MD.

眼系

所見には,水晶体偏位(水晶体の亜脱臼または上方向への偏位)および虹彩振盪(虹彩の振動)などがある。偏位した水晶体の辺縁が,散大していない瞳孔越しに観察されることが多い。高度の近視がみられることがあり,特発性の網膜剥離が起こることもある。

呼吸器系

嚢胞性肺疾患および再発性自然気胸が起こることがある。これらの疾患が疼痛および息切れを引き起こすことがある。

中枢神経系

硬膜拡張(脊髄周囲の硬膜嚢の拡張)がよくみられる所見であり,腰仙椎部で最も頻繁に起こる。このため頭痛,腰痛,または便失禁もしくは尿失禁として現れる神経脱落症状を起こす。

マルファン症候群の診断

  • 臨床基準

  • 遺伝子検査

  • 心エコー検査/MRI(大動脈基部の計測,弁逸脱の検出)

  • 細隙灯顕微鏡検査(水晶体の異常)

  • 骨格系のX線(特徴的異常がないか,手,脊柱,骨盤,胸部,足,および頭蓋骨を検査)

  • 腰仙椎のMRI(硬膜拡張)

患児の多くでは典型的な症状と徴候がわずかな数しかみられず,特異的な組織学的または生化学的変化がみられないため,マルファン症候群の診断が困難なことがある。この多様性を考慮して,診断基準は一連の臨床所見ならびに家族歴および遺伝歴に基づく。(診断の詳細については,改訂Ghent基準[2010]を参照のこと;この基準では,大動脈基部の拡張または解離および水晶体脱臼の有無に重点が置かれている。)それにもかかわらず,マルファン症候群の不完全症例の多くで,診断は不確かである。

ホモシスチン尿症は部分的にマルファン症候群と類似するが,尿中のホモシスチンを検出することによって鑑別できる。FBN1変異に対する遺伝子検査は,臨床基準を全ては満たさない患者の診断を確定するために役立つことがあるが,FBN1変異陰性例が存在する。FBN1遺伝子の解析による出生前診断は,遺伝子型/表現型の相関が弱いために困難である(異なる変異が1700以上報告されている)。

骨格系,心血管系,および眼系の標準的な画像検査を行い(例,大動脈基部の拡張を同定する心エコー検査),臨床的に重要な構造的異常の検出および診断基準に寄与する情報を得る。

臓器別の診断基準に加えて,家族歴(マルファン症候群を有する第1度近親者の存在)および遺伝歴(マルファン症候群の責任遺伝子であるFBN1変異の存在)が主要な基準と考えられている。

マルファン症候群の予後

治療の進歩および定期的なモニタリングによって,生活の質が改善され死亡率が低下している。余命の中央値は,1972年の48年から,今日では適切な治療を受ける人においては正常近くまで増加している。しかし,主に心臓および血管系の合併症のために,平均的な患者の期待余命はなおも短い。この期待余命の短さが,青年およびその家族に精神的苦痛を与えることがある。

マルファン症候群の治療

  • 身長の高い女児において早発思春期の誘発

  • β遮断薬

  • 待機的大動脈修復術および弁修復術

  • 側弯に対して装具および手術

マルファン症候群の治療は,合併症の予防および治療に焦点を合わせる。

非常に背の高い女児に対し,10歳までにエストロゲンとプロゲステロンにより早発思春期を誘発することで,成人で見込まれる身長が低下することがある。

全ての患者に,心血管系の合併症予防に役立つβ遮断薬(例,アテノロール,プロプラノロール)をルーチンに投与すべきである。これらの薬剤は心筋収縮性の低下と脈圧の減少をもたらし,大動脈基部拡張の進行を抑え,解離のリスクを低減する。アンジオテンシンII受容体拮抗薬が投与されることもある。

大動脈の直径が5cmを超える場合(小児ではこれより細い),予防的手術を勧める。妊婦は大動脈の合併症のリスクが特に高く,受胎前の待機的大動脈修復について話し合うべきである。重度の弁逆流もまた外科的に修復する。侵襲的な手技に先立つ細菌性心内膜炎の予防は,人工弁患者または感染性心内膜炎既往患者を除いて適応とならない( see table 米国の高リスク患者において抗菌薬による心内膜炎予防を必要とする処置および see table 口腔外科・歯科処置または気道に対する処置の施行時に推奨される心内膜炎予防*)。

側弯は可能な限り装具で管理するが,40~50°に曲がった側弯がみられる患者には外科的介入を奨励する。

心血管系,骨格,および眼の所見について(心エコー検査を含め)毎年再評価を行うべきである。

適切な遺伝カウンセリングが適応となる。

要点

  • マルファン症候群は,ミクロフィブリルの主要成分である糖タンパク質フィブリリン-1をコードする遺伝子の常染色体顕性(優性)の変異に起因し,結果として多数の変形および障害を来す可能性がある。

  • 発現型は非常に多様であるが,主要な構造的欠陥は心血管系,筋骨格系,および眼系を侵し,典型的な一連の長い四肢,大動脈基部拡張,および水晶体偏位を引き起こす。

  • 大動脈解離が最も危険な合併症である。

  • 臨床基準を用いて診断する;遺伝子検査を行うことが多い。

  • 骨格系,心血管系,および眼系の画像検査を行い,構造的異常を検出する。

  • 全ての患者に大動脈合併症の予防に役立つβ遮断薬を投与する;他の合併症が発生すればこれを治療する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Revised Ghent Nosology for Marfan syndrome (2010)

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