新生児敗血症は,新生児期に発生する侵襲性感染症であり,通常は細菌性である。徴候は非特異的なものが多数あり,具体的には自発運動の減少,哺乳力低下,無呼吸,徐脈,体温調節障害,呼吸窮迫,嘔吐,下痢,腹部膨隆,jitteriness,痙攣,黄疸などがある。診断は臨床所見と培養結果に基づいて行う。治療は,まずアンピシリンをゲンタマイシンまたはセフォタキシムと併用し,できるだけ速やかに起因菌に応じた薬剤に変更する。
(成人における See also page 敗血症および敗血症性ショックおよび新生児感染症の概要を参照のこと。)
新生児敗血症は,出生1000人当たり0.5~8.0例の頻度で発生する。発生率は以下の集団で最も高い:
新生児敗血症の病因
新生児敗血症の発症は以下の場合がある:
早発型(生後3日以内)
遅発型(生後3日以降)
早発型新生児敗血症
早発型新生児敗血症は通常,分娩時に感染した微生物によって生じる。大半の患児で出生から6時間以内に症状が出現する。
大半の症例はB群レンサ球菌(GBS)またはグラム陰性腸内細菌(主に大腸菌)が原因である。満期の妊婦の腟および直腸検体で培養を行うと,GBSの定着率は最高35%となることがある。そうした母親の児では,少なくとも35%で定着が生じる。児における定着の密度が早発型の侵襲性感染症のリスクを規定しており,大量の定着が起きればリスクは40倍高くなる。定着が起きた乳児のうちGBSによる侵襲性感染症に進展する割合は1/100に過ぎないが,そのうち50%以上は生後6時間以内に発症する。無莢膜型インフルエンザ菌(nontypeable Haemophilus influenzae)による敗血症が新生児(特に早産児)で同定されている。
その他の症例は,グラム陰性腸内桿菌(例,Klebsiella属)および特定のグラム陽性菌(Listeria monocytogenes,腸球菌[例,Enterococcus faecalis,E. faecium],D群レンサ球菌[例,Streptococcus bovis],α溶血性レンサ球菌,ブドウ球菌)によって引き起こされる傾向にある。また,肺炎球菌,インフルエンザ菌b型のほか,比較的頻度は低いが髄膜炎菌も分離されている。ときに妊娠中に無症候性の淋菌感染症が生じる結果,まれに淋菌も起因菌となりうる。
遅発型新生児敗血症
遅発型新生児敗血症は通常,環境からの感染によって発生する( see page 新生児の院内感染症)。ブドウ球菌が遅発型症例の30~60%を占め,血管内留置器具(特に中心静脈カテーテル)が原因となることが最も多い。大腸菌(E. coli)も遅発型敗血症の重大な原因菌として認識されるようになってきており,超低出生体重児では特に重要である。血液または髄液からのEnterobacter cloacaeやCronobacter sakazakii(かつてのEnterobacter sakazakii)の分離は,ミルクの汚染を示唆する。院内感染による緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)肺炎または敗血症のアウトブレイクでは,呼吸機器の汚染が疑われる。
B群レンサ球菌に対する全例スクリーニングと分娩時抗菌薬予防投与により,早発型GBS敗血症の発生率は有意に低下したが,遅発型GBS敗血症の発生率は変化しておらず,これは遅発型敗血症が通常は環境からの感染によって発生するという仮説と一致する。
遅発型敗血症における嫌気性菌(特にBacteroides fragilis)の役割は依然として不明であるが,Bacteroides属細菌の菌血症を原因とした死亡例が報告されている。
Candida属真菌は,遅発型敗血症の原因菌としての重要性が高まってきており,超低出生体重児の12~18%に発生している。
早発型および遅発型の新生児敗血症
新生児敗血症の病態生理
早発型新生児敗血症
母体側に特定の周産期および産科的因子が存在する場合,早発型新生児敗血症のリスクが高まるが,具体的には以下のものが挙げられる:
特定のウイルス(例,風疹,サイトメガロウイルス),原虫(例,Toxoplasma gondii),およびトレポネーマ(例,梅毒トレポネーマ[Treponema pallidum])の感染症では,血行性および経胎盤性の母子感染が起こる。いくつかの病原細菌(例,L. monocytogenes,結核菌[Mycobacterium tuberculosis])は経胎盤性に胎児に移行することがあるが,大部分は子宮内での上行性経路を介して,または病原体が定着した産道を胎児が通過する際に感染が生じる。
母体における定着の程度が新生児における侵襲性感染症の発生リスクと直接関連するが,定着密度の低い多くの母親が定着密度の高い(したがってリスクの高い)児を出産する。胎便または胎脂で汚染された羊水は,B群レンサ球菌および大腸菌(E. coli)の増殖を促進する。したがって,前記の逆説的な傾向には,腟円蓋に存在していた少数の微生物が前期破水後に急速に増殖することが寄与している可能性がある。細菌は通常,汚染された羊水を胎児が吸引または嚥下することによって血流中に到達し,菌血症をもたらす。
感染の上行性経路は,新生児感染症における前期破水の高い発生率,付属器炎症の重要性(羊膜炎は中枢部の胎盤炎よりも新生児敗血症によく合併する),産道により近い側の双胎児における感染リスクの増大,ならびに腟円蓋の微生物叢を反映する早発型新生児敗血症の細菌学的特徴などの現象を説明する助けとなる。
遅発型新生児敗血症
遅発型敗血症における最も重要な危険因子は以下のものである:
その他の危険因子としては以下のものがある:
血管内カテーテルの長期使用
合併疾患(ただし,これは侵襲的処置の施行に関するマーカーでしかない可能性もある)
抗菌薬への曝露(耐性株の選択につながる)
長期入院
器具や静脈内または経腸投与する溶液の汚染
グラム陽性菌(例,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,黄色ブドウ球菌[Staphylococcus aureus])は,環境または患児自身の皮膚よりもち込まれることがある。グラム陰性腸内細菌は通常,患児自身の常在微生物叢に由来するが,それは先行する抗菌薬治療により変化していたり,病院スタッフの手(主要な伝播経路)や汚染器具から伝播された耐性菌が生息していたりする。したがって,これらの細菌への曝露を増やす状況(例,混雑,看護師不足,一貫しない手洗い)は院内感染の発生率を高める。
カンジダ敗血症の危険因子としては,中心静脈カテーテルの長期(10日以上)使用,高カロリー輸液,過去に用いた抗菌薬の使用(特に第3世代セファロスポリン系薬剤),腹腔内の病態などが挙げられる。
最初の感染巣は尿路,副鼻腔,中耳,肺,または消化管である可能性があるが,後に髄膜,腎,骨,関節,腹膜,皮膚に播種することがある。
新生児敗血症の症状と徴候
新生児敗血症の初期徴候は非特異的で微妙であることが多く,微生物(ウイルスを含む)間で明らかな差はみられない。特によくみられる初期徴候としては以下のものがある:
自発運動の減少
哺乳力低下
食欲不振
無呼吸
徐脈
体温調節障害(低体温症または高体温症)
発熱は新生児の10~15%にしかみられないが,持続する場合は(例,1時間以上),一般に感染を意味する。その他の症候としては,呼吸窮迫,神経学的所見(例,痙攣,jitteriness),黄疸(特に生後24時間以内に起こり,RhまたはABO血液型不適合がなく,予想以上に直接ビリルビン濃度が上昇する),嘔吐,下痢,腹部膨隆などがある。
感染臓器に特異的な徴候から,原発巣や転移巣をピンポイントで判断できることがある。
早発型B群レンサ球菌敗血症を発症した新生児の大半(およびL. monocytogenes感染症の新生児の多く)では,呼吸窮迫症候群との鑑別が困難な呼吸窮迫がみられる。
臍周囲の紅斑,分泌物,または出血(出血性素因がない場合)は臍炎を示唆する(感染が起きると臍帯血管の閉鎖が妨げられる)。
昏睡,痙攣,後弓反張,または泉門膨隆は,髄膜炎,脳炎,および脳膿瘍を示唆する。
四肢の自発運動の低下と関節部の腫脹,熱感,紅斑,または圧痛は,骨髄炎および化膿性関節炎を示唆する。
原因不明の腹部膨隆は,腹膜炎または壊死性腸炎(特に血性下痢と便中白血球を伴う場合)を示唆している可能性がある。
皮膚の小水疱,口腔内潰瘍,および肝脾腫(特に播種性血管内凝固症候群[DIC]を伴う場合)は,全身型の単純ヘルペスと示唆している可能性がある。
早発型のB群レンサ球菌(GBS)感染症は劇症型の肺炎として現れることもある。産科合併症(特に未熟性,前期破水,絨毛膜羊膜炎)が発生している場合が多い。新生児のGBS感染症は,50%以上の患児で生後6時間以内に発症し,45%はアプガースコアが5点未満である。髄膜炎が合併することもあるが,多くはない。遅発型GBS感染症(4日目以降12週時まで)では,髄膜炎がしばしば発生する。遅発型GBS感染症は一般に,周産期の危険因子や母体子宮頸部での明らかな定着に関連せず,感染は分娩後に生じると考えられる。
新生児敗血症の診断
強く疑うこと
血液培養,髄液培養,およびときに尿培養
新生児敗血症の早期診断が重要であり,危険因子(特に低出生体重児の場合)を認識して,新生児が生後数週以内に標準から逸脱した際にはこの病態を強く疑うことが必要である。
敗血症の臨床徴候がみられる新生児には,血算,塗抹標本での白血球分画,血液培養,尿培養(早発型敗血症の評価では不必要),および(臨床的に可能であれば)腰椎穿刺を可及的速やかに行うべきである。呼吸器症状のある新生児には胸部X線が必要である。診断は培養での病原体の分離により確定される。他の検査でも異常を認めることがあるが,必ずしも診断的ではない。乳児には広域の経験的抗菌薬療法を行うべきである。
状態が良好に見える新生児は,予防の項で述べるいくつかの因子に応じて管理する。
血算,白血球分画,塗抹検査
新生児の総白血球数および桿状核球数は,早発型敗血症の予測因子としては優れていない。しかしながら,総多形核白血球数に対する未熟白血球数の比(0.16を超える上昇)は感度が高く,このカットオフ値を超えない場合の陰性適中率は高い。ただし,特異度は低く,正期産の新生児では最高50%でこの比の上昇がみられる。出生から6時間以上が経過すると測定値が異常になる可能性が高くなり,出生直後の測定値よりも臨床的に有用である。
血小板数は,臨床的な敗血症の発症から数時間ないし数日前に低下する場合もあるが,発症後1日程度が経過するまで高値のままとなる場合の方が多い。この低下にはときに,他のDIC所見(例,フィブリン分解産物の増加,フィブリノーゲンの減少,国際標準化比[INR]の延長)が伴う。これらの変化のタイミングを考慮すると,血小板数は典型的な新生児敗血症の評価にはあまり役立たない。
循環血中の細菌数が多いため,バフィーコートにグラム染色液,メチレンブルー,またはアクリジンオレンジを適用することにより,ときに多形核白血球の内部または多形核白血球に付随する微生物を観察できることがある。
血算または腰椎穿刺の結果にかかわらず,敗血症が疑われる新生児(例,重症感のある患児や発熱または低体温症のある患児)には,全例で培養検体(例,血液および髄液[可能な場合])を採取した後,直ちに抗菌薬を開始すべきである。
腰椎穿刺
血液培養
臍帯血管は,特に数時間経過した後では,臍帯断端が微生物に汚染されている場合が多いため,臍静脈ライン由来の血液培養は信頼できないことがある。したがって,培養に用いる血液検体は,望ましくは末梢部位2カ所での静脈穿刺により採取すべきである。新生児で血液培養検体を採取する前に行うべき至適な皮膚の処置は確立されていないが,採血部位にヨード含有液を塗布して乾燥させる方法がある。あるいは,臍動脈カテーテル留置後すぐに採取した血液であれば,必要に応じて培養に使用してもよい。
血液培養は,好気性菌と嫌気性菌の双方を対象に行うべきである。ただし,血液培養ボトル1本当たりに必要な最低量は1.0mLであり,採取量が2mL未満の場合は,全量を好気性菌培養ボトル1本に入れるべきである。カテーテル関連敗血症が疑われる場合は,末梢からの採血と同時に,カテーテルからも培養検体を採取すべきである。細菌陽性の血液培養検体では,90%以上で培養開始から48時間以内に発育がみられる。毛細管血液培養に関するデータは,この方法を推奨するには不十分である。
Candida属真菌は血液培養の培地中および寒天平板上で発育するが,他の真菌が疑われる場合は,真菌用培地を使用すべきである。Candida属以外については,真菌の血液培養は陽性になるまでに4~5日を要することがあり,明らかな播種性病変でさえ陰性になることがある。培養結果が出るまでは,定着(口腔,便,または皮膚)の証明が役立つことがある。カンジダ血症がみられた新生児には,カンジダ髄膜炎を同定するために腰椎穿刺を施行すべきである。また,網膜のカンジダ病変を同定するために散瞳下で倒像眼底検査を施行する。腎臓の菌腫(mycetoma)を検出するために腎超音波検査を施行する。
尿検査および培養
尿検査は遅発型敗血症の評価にのみ必要である。採尿は,採尿バッグを用いるのでなく,カテーテル導尿または恥骨上膀胱穿刺により行うべきである。培養のみで診断可能であるが,尿沈渣での強拡大視野当たり白血球数5個以上,または遠沈せずにグラム染色した新鮮検体での何らかの微生物の検出は,尿路感染症の推定的な証拠となる。膿尿を欠くことで尿路感染症を除外することはできない。
感染および炎症に対するその他の検査
敗血症では数多くの検査がしばしば異常を示すことから,潜在的な早期マーカーとして評価されている。しかしながら,一般に感度は疾患経過の後期まで低い傾向があり,特異度も十分でない。バイオマーカーは,陽性適中率が低いことから,新生児敗血症に対する抗菌薬の開始時期を決定する上で有用とは考えられていないが,早発型敗血症が疑われる状況で培養が依然として陰性である場合に抗菌薬の中止が許容可能となる時期を判断する上では,補助的な役割を果たせることがある。
急性期反応物質は,炎症が存在する際にIL-1の影響下で肝臓により産生されるタンパク質である。なかでも最も研究がなされているのは,C反応性タンパク(CRP)の定量である。1mg/dL(9.52nmol/L)以上の濃度値(ネフェロメトリーにより測定する)は,一般に異常と考えられている。敗血症の発生から6~8時間以内に上昇し,1日目にピークを迎える。C反応性タンパク(CRP)測定の感度は,生後6~8時間時点で測定された場合により高くなる。出生の8~24時間後とその24時間後に計2回正常値が得られた場合の陰性適中率は,99.7%である。
プロカルシトニンが新生児敗血症の急性期反応物質として研究されている。プロカルシトニンは,C反応性タンパク(CRP)より感度が高いようであるが,特異度は低い(1)。プロカルシトニンとC反応性タンパク(CRP)を含むバイオマーカーの併用について,抗菌薬の投与期間を決定する上での有用性が今後証明される可能性がある(2)。
診断に関する参考文献
1.Pontrelli G, De Crescenzo F, Buzzetti R, et al: Accuracy of serum procalcitonin for the diagnosis of sepsis in neonates and children with systemic inflammatory syndrome: A meta-analysis.BMC Infect Dis 17(1):302, 2017.doi: 10.1186/s12879-017-2396-7
2.Stocker M, van Herk W, El Helou S, et al: C-reactive protein, procalcitonin, and white blood count to rule out neonatal early-onset sepsis within 36 hours: A secondary analysis of the neonatal procalcitonin intervention study.Clin Infect Dis 73(2):e383–e390, 2021.doi: 10.1093/cid/ciaa876
新生児敗血症の予後
低出生体重児では,正期産児と比べて致死率が2~4倍高い。早発型敗血症全体での死亡率は3~40%(早発型GBS感染症の死亡率は2~10%)であり,遅発型敗血症全体での死亡率は2~20%(遅発型GBSの死亡率は約2%)である。遅発型敗血症の死亡率は,感染の病因によって大きく変動し,グラム陰性桿菌またはCandida属真菌による感染の死亡率は最高32~36%である。死亡率に加えて,細菌性敗血症またはカンジダ敗血症を発症した超低出生体重児では,神経発達が不良になるリスクが有意に高くなる。
新生児敗血症の治療
抗菌薬療法
支持療法
敗血症は臨床徴候が非特異的である一方,破滅的な影響を及ぼす可能性があることから,迅速かつ経験的な抗菌薬療法が推奨され( see page 抗菌薬の選択および使用),後から感受性試験の結果と感染部位に応じて使用薬剤を適宜変更する。一般に,臨床的に感染源が同定されず,乳児の状態が良好に見え,かつ培養が陰性であれば,抗菌薬は48時間後(低出生体重の早産児では最長72時間後)に中止できる。
さらに抗菌薬投与に加えて,呼吸および血行動態の管理を含めた総合的な支持療法を行う。
抗菌薬
See table 新生児に対する主な注射用抗菌薬の推奨用量。
早発型敗血症では,初期治療にアンピシリンとアミノグリコシド系薬剤の投与を含めるべきである(新生児に対する主なアミノグリコシド系抗菌薬の推奨用量の表を参照)。グラム陰性菌による髄膜炎が疑われる場合は,アミノグリコシド系薬剤にセフォタキシムを追加するか,アミノグリコシド系薬剤をセフォタキシムに変更する。抗菌薬は起因菌が同定され次第,適宜,速やかに変更する。
遅発型敗血症では,それまでは健康であり,市中感染による遅発型敗血症と推定されて入院してきた乳児にも,アンピシリン + ゲンタマイシンかアンピシリン + セフォタキシムを投与すべきである。グラム陰性菌による髄膜炎が疑われる場合は,アンピシリン,セフォタキシム,およびアミノグリコシド系薬剤を使用できる。院内感染による遅発型敗血症では,初期治療にバンコマイシン(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌[S. aureus]に有効である;新生児に対するバンコマイシンの用量の表を参照)とアミノグリコシド系薬剤を含めるべきである。新生児室で緑膿菌(P. aeruginosa)が検出される場合は,各施設での感受性に応じて,セフタジジム,セフェピム,またはピペラシリン/タゾバクタムをアミノグリコシド系薬剤に追加またはアミノグリコシド系薬剤に替えて使用してもよい。
先に7~14日間のアミノグリコシド系投与を完了し,再び治療が必要になった新生児には,前回とは別のアミノグリコシド系薬剤か第3世代セファロスポリン系薬剤を考慮すべきである。
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が疑われる場合(例,留置カテーテルが72時間以上使用されている),および血液または正常では無菌のその他の体液から同菌が分離され,かつそれが起因菌と考えられる場合は,遅発型敗血症に対する初期治療にバンコマイシンを含めるべきである。しかしながら,起因菌が ナフシリン(nafcillin)に感受性があれば,バンコマイシンの代わりにセファゾリンまたはナフシリン(nafcillin)を使用すべきである。感染症を治癒させる上では,推定される感染源(通常は血管内カテーテル)の除去が必要になる場合があるが,これは,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌がバイオフィルム(菌のカテーテルへの付着を促進する被膜)で保護されている場合があることによる。
Candida属真菌は血液培養での発育に2~3日を要することがあるため,培養で酵母感染症が確認されるのに先立ち,アムホテリシンBデオキシコール酸による経験的治療を開始し,感染したカテーテルを抜去することが救命につながる場合がある。
その他の治療法
交換輸血が重症の(特に低血圧および代謝性アシドーシスを来した)新生児に用いられている。その有用とされる点は,循環血中の免疫グロブリンの濃度を上昇させ,血液中の内毒素を減少させ,ヘモグロビン濃度を上昇させ(さらに2,3-ジホスホグリセレート濃度の高める),血流を改善することにある。しかしながら,その使用について前向きの対照研究は実施されていない。
新鮮凍結血漿は,低出生体重児に生じる耐熱性および異熱性オプソニンの欠乏を正常化するのに役立つことがあるが,その使用を検討した対照研究のデータはなく,一方で輸血関連のリスクを考慮する必要がある。
敗血症および顆粒球減少を来した新生児に対して顆粒球輸血( see page 白血球)が用いられているが,納得のいく転帰の改善は得られていない。
遺伝子組換えコロニー刺激因子(顆粒球コロニー刺激因子[G-CSF]および顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子[GM-CSF])は,敗血症と推定される新生児において好中球の数および機能を改善する効果が示されているが,重度の好中球減少を来した新生児では常に有益となるわけではないようで,さらなる研究が必要である。
新生児敗血症の予防
状態が良好に見える新生児にも,B群レンサ球菌感染症のリスクがある。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)とAmerican Academy of Pediatrics(AAP)は現在,こうした乳児を以下を含むいくつかの因子に応じて管理するよう推奨している(1, 2):
絨毛膜羊膜炎の有無
母親にB群レンサ球菌の予防の適応があるかどうか,ある場合は適切な予防が行われたかどうか
在胎期間および破水の持続時間
絨毛膜羊膜炎がなく,B群レンサ球菌の予防の適応もなければ,検査や治療の適応はない。
絨毛膜羊膜炎があるか強く疑われる場合,早期産および満期産の新生児には出生時に血液培養を行い,経験的な広域抗菌薬治療を開始するべきである。また,生後6~12時間時点での白血球数および分画ならびにC反応性タンパク(CRP)も検査項目に含めるべきである。それ以上の管理は臨床経過と検査結果に依存する。
母親にB群レンサ球菌の予防の適応があり,適切な予防が行われた場合(適切な予防はペニシリン,アンピシリン,またはセファゾリンを静注で4時間以上投与する),乳児を病院内で48時間以上観察すべきであるが,検査と治療は症状が現れた場合にのみ行う。在胎37週以上の選択された症例で,信頼できる介護者がおり,確実にフォローアップができる体制の場合は,24時間後に退院させてもよい。
B群レンサ球菌に対する十分な予防が行われなかった場合,乳児に抗菌薬を投与せず,病院内で48時間観察する。出生まで18時間以上破水していた場合,または在胎期間が37週未満の場合は,出生時および/または出生から6~12時間後に,血液培養と血算および分画に加えて,可能であればC反応性タンパク(CRP)の測定を行うことが推奨される。臨床経過と検査結果を参考にして管理する。
母親の危険因子と一連の新生児診察所見の両方に基づいて早発型敗血症のリスクで新生児を層別化する代替のアプローチが一段と広く導入されるようになっているが,CDCおよびAAPは現時点でこれを推奨していない(3)。
新生児の免疫応答の増強を目的とする静注用免疫グロブリン製剤の投与については,敗血症の予防または治療に役立つとは示されていない。
母親に対するB群レンサ球菌感染予防の適応
全ての妊婦に対し,腟および直腸検体の培養を用いてGBSの定着を検出するスクリーニングを妊娠後期に実施すべきである。
GBSのスクリーニングで陽性と判定された女性には,帝王切開を予定している場合を除き,分娩開始前かつ破水前に予防目的で抗菌薬を子宮内投与すべきである。
GBSのスクリーニングで陰性と判定された女性には,過去にGBS感染症に罹患した乳児を出産したことがある場合,抗菌薬を子宮内投与すべきである。
GBSの状態が不明の女性(例,検査していない,結果が入手できない)には,以下のいずれかに該当する場合,抗菌薬を子宮内投与すべきである:
妊娠期間37週未満
18時間以上の破水
体温38℃以上
場合によっては,以前の妊娠でGBSスクリーニングが陽性であった女性
過去1回の妊娠中のGBSスクリーニングで陽性と判定された女性で,その後の妊娠中にGBSの定着がみられる確率は50%である(4)。
一般的に使用される抗菌薬としては,ペニシリン,アンピシリン,セファゾリンなどがあり,分娩前に4時間以上にわたり静注で投与すべきである。選択には,地域におけるGBSの抗菌耐性のパターンを考慮に入れるべきである。
予防に関する参考文献
1.Brady MT, Polin RA: Prevention and management of infants with suspected or proven neonatal sepsis.Pediatrics 132:166-8, 2013.doi: 10.1542/peds.2013-1310
2.Polin RA and the Committee on Fetus and Newborn: Management of neonates with suspected or proven early-onset bacterial sepsis.Pediatrics 129:1006-1015, 2012.doi: 10.1542/peds.2012-0541
3.Escobar GJ, Puopolo KM, Wi S, et al: Stratification of risk of early-onset sepsis in newborns ≥ 34 weeks' gestation.Pediatrics 133(1):30–36, 2014.doi: 10.1542/peds.2013-1689.Clarification and additional information.Pediatrics 134(1):193, 2014.
4.Puopolo KM, Lynfield R, Cummings JJ, et al: Management of infants at risk for group B streptococcal disease.Pediatrics 144(2):e20191881, 2019.doi: 10.1542/peds.2019-1881
要点
新生児敗血症は,早発型(生後3日以内)と遅発型(4日以降)に分けられる。
早発型敗血症は通常,分娩中に感染した微生物によって引き起こされ,生後6時間以内に症状が出現する。
遅発型敗血症は通常,環境からの感染によって発生し,早期産児で比較的よくみられ,特に長期入院,静脈カテーテルの使用,またはその両方に該当する場合は可能性が高くなる。
初期徴候は非特異的で軽微である場合が多く,発熱は10~15%の患児にしかみられない。
血液および髄液培養を行い,さらに遅発型敗血症では尿培養も行う。
早発型敗血症の治療は,まずアンピシリンをゲンタマイシン(および/またはグラム陰性菌による髄膜炎が疑われる場合はセフォタキシム)と併用し,できるだけ早く起因菌に応じた薬剤に変更する。
新生児にB群レンサ球菌(GBS)を伝播させるリスクがある妊婦には,分娩中にGBSの感染予防を行う。