新生児胆汁うっ滞

執筆者:William J. Cochran, MD, Geisinger Clinic
レビュー/改訂 2021年 8月
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胆汁うっ滞はビリルビンの排泄不全であり,抱合型高ビリルビン血症および黄疸を引き起こす。原因は多数あり,臨床検査,肝胆道シンチグラフィー,ときに肝生検および手術によって同定される。治療は原因により異なる。

胆汁うっ滞は正期産児の2500人に1人で発症する。直接ビリルビン値が1mg/dL(17.1μmol)を超える場合と定義されている。胆汁うっ滞は決して正常ではなく,評価が必要である。

新生児胆汁うっ滞の病因

胆汁うっ滞( see also page 黄疸)は,一部重複する場合もあるが肝外または肝内の疾患に起因しうる。

胆汁うっ滞の肝外にある原因

最も一般的な肝外疾患としては以下のものがある:

  • 胆道閉鎖症(米国での発生頻度は出生約8000~18,000人当たり1例)(1)

胆道閉鎖症は,肝外胆管の進行性硬化による胆道系の閉塞である。ほとんどの場合,胆道閉鎖症は生後数週間が経過した後,おそらく肝外(および,ときに肝内)胆管の炎症および瘢痕化に引き続いて発症する。早産児または出生時の新生児にはほとんどみられない。炎症反応の原因は不明であるが,レオウイルス3型やサイトメガロウイルスなど,いくつかの感染性微生物の関与が示唆されている。

胆管嚢胞が新生児胆汁うっ滞として現れることはまれであり,この種の嚢胞は常染色体潜性(劣性)多発性嚢胞腎の患者でより多くみられる(2)。

濃縮胆汁症候群も新生児の肝外胆汁うっ滞の原因の1つであるが,これは乳児の嚢胞性繊維症でより多くみられる。

胆汁うっ滞の肝内にある原因

肝内疾患の原因は,感染,同種免疫,代謝/遺伝,または毒性である。

感染症は胆汁うっ滞を引き起こす可能性がある。感染症は,ウイルス性(例,単純ヘルペスウイルスサイトメガロウイルス風疹),細菌性(例,グラム陽性菌およびグラム陰性菌の菌血症,大腸菌[Escherichia coli]によるUTI),または寄生虫性(例,トキソプラズマ症)である。静脈栄養を受けている新生児の敗血症でも,胆汁うっ滞が生じうる。

母子同種免疫による肝疾患(gestational alloimmune liver disease)には,補体介在性の膜侵襲複合体を誘発する母体IgGの経胎盤通過が関与し,この複合体により胎児の肝臓が損傷する。

代謝性の原因としては,ガラクトース血症チロシン血症α1-アンチトリプシン欠乏症,脂質代謝異常,胆汁酸の異常,ミトコンドリア病脂肪酸酸化障害など数多くの先天性代謝異常症がある。その他の遺伝的異常として,アラジール症候群,嚢胞性線維症,関節拘縮-腎機能障害-胆汁うっ滞(arthrogryposis-renal dysfunction-cholestasis:ARC)症候群などもある。正常な胆汁産生および排泄を妨げ胆汁うっ滞を起こす遺伝子変異も複数存在し,これによる疾患は進行性家族性肝内胆汁うっ滞と呼ばれる。

中毒性の原因は,主に,超早産児または短腸症候群の乳児における長期間の静脈栄養によるものである。

特発性新生児肝炎症候群(巨細胞性肝炎)は,新生児の肝臓の炎症性疾患である。発生率は低下しており,胆汁うっ滞の特異的原因の同定が診断的検査の改善により可能となるにつれ,特発性新生児肝炎症候群はまれになりつつある。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Harpavat S, Garcia-Prats JA, Anaya C, et al: Diagnostic yield of newborn screening for biliary atresia using direct or conjugated bilirubin measurements.JAMA 323(12):1141–1150, 2020.doi: 10.1001/jama.2020.0837

  2. 2.Fabris L, Fiorotto R, Spirli C, et al: Pathobiology of inherited biliary diseases: A roadmap to understand acquired liver diseases.Nat Rev Gastroenterol Hepatol 16(8):497–511, 2019.doi: 10.1038/s41575-019-0156-4

新生児胆汁うっ滞の病態生理

胆汁うっ滞では,一次的な欠陥はビリルビンの排泄にあり,結果,血流中の抱合型ビリルビンが過剰となり,消化管内の胆汁酸塩減少が生じる。消化管内の胆汁の不足により,脂肪および脂溶性ビタミン(A,D,E,K)の吸収不良が生じ,ビタミン欠乏,栄養不足,および発育不全を引き起こす。

新生児胆汁うっ滞の症状と徴候

胆汁うっ滞は典型的には生後2週間以内に認められる。患児は黄疸を呈し,しばしば濃色尿(抱合型ビリルビンを含有する),灰白色便,および肝腫大がみられる。胆汁うっ滞が持続する場合は,慢性的なそう痒が一般的であり,同様に脂溶性ビタミン欠乏症の症候もよくみられる;また成長曲線上での伸びが鈍ることがある。

この基礎疾患により肝線維化および肝硬変を来した場合,門脈圧亢進症およびそれに続く腹水による腹部膨隆,腹壁静脈怒張,および食道静脈瘤に起因する上部消化管出血が発生することがある。

新生児胆汁うっ滞の診断

  • 総ビリルビンおよび直接ビリルビン

  • 肝機能検査

  • 代謝性,感染性,および遺伝的原因に対する検査

  • 肝超音波検査

  • 肝胆道シンチグラフィー

  • ときに肝生検,術中胆道造影,または遺伝学的検査

(North American Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and NutritionおよびEuropean Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutritionが2017年に公表した乳児における胆汁うっ滞性黄疸の評価に関するガイドラインも参照のこと。)

生後2週以降も黄疸がみられる全乳児に対し,総ビリルビン値および直接ビリルビン値を含む胆汁うっ滞の評価を行うべきである。黄疸が出ている母乳栄養児については,生後3週までは評価の必要はないと主張する専門家もいる。初期のアプローチは,治療可能な疾患(例,肝外胆道閉鎖症[早期の外科的介入により短期の転帰が改善する])の診断に照準を合わせるべきである。

胆汁うっ滞は,総ビリルビン値と直接ビリルビン値の両方の上昇によって同定される。肝臓のさらなる評価に必要な検査としては,アルブミン値,血清ビリルビン分画,肝酵素値,プロトロンビン時間/部分トロンボプラスチン時間(PT/PTT),アンモニア値などがある(胆汁うっ滞の検査を参照)。胆汁うっ滞が確認された場合は,病因( see table 新生児胆汁うっ滞の診断評価)と吸収不良の所見(例,脂溶性ビタミンE,D,K,およびAの低値,またはビタミンKの低値を示唆するPTの延長)を特定するための検査が必要である。

表&コラム
表&コラム

腹部超音波がしばしば最初に行われる検査であり,肝臓の大きさと胆嚢および総胆管の特定の異常を非侵襲的に評価することができる。しかし,非特異的である。ヒドロキシイミノ二酢酸を用いる肝胆道シンチグラフィー(HIDA scan)も行うべきであり,腸管内への造影剤排泄があれば胆道閉鎖は除外されるが,排泄がない場合は胆道閉鎖症,重度の新生児肝炎,ならびに胆汁うっ滞のその他の原因が考えられる。胆汁うっ滞のある乳児は,排泄を促すためにHIDA scanを行う前の5日間,フェノバルビタールを頻回に投与する。

診断がなされない場合には,肝生検を比較的早期に施行するのが一般的であり,ときに術中胆道造影検査を併用する。胆道閉鎖症の典型例では,門脈三管の拡張,胆管増生,および線維化の進行が認められる。新生児肝炎は,多核巨細胞を伴う小葉構造の乱れを特徴とする。同種免疫による肝疾患は肝貯蔵鉄の増加が特徴である。

新生児胆汁うっ滞の予後

胆道閉鎖症は進行性であり,無治療では生後数カ月までに肝不全,門脈圧亢進症を伴う肝硬変を起こし,1歳までに死に至る。

特定の疾患(例,代謝性疾患)による胆汁うっ滞の予後は,完全に良好な経過から肝硬変に至る進行性疾患まで多岐にわたる。

特発性新生児肝炎症候群は通常徐々に軽快するが,永続的な肝傷害を引き起こすことがあり,肝不全および死亡に至ることもある。

母子同種免疫による肝疾患は,早期介入がない場合,予後不良である。

新生児胆汁うっ滞の治療

  • 具体的な原因の治療

  • ビタミンA,D,E,およびKの補充

  • 中鎖脂肪酸トリグリセリド

  • ときにウルソデオキシコール酸

(North American Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and NutritionおよびEuropean Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutritionが2019年に公表した慢性肝疾患の小児に対する栄養サポートに関する合同ポジションペーパーも参照のこと。)

原因に対する特異的な治療を行う。特異的な治療が存在しない場合,治療はビタミンA,D,E,およびKの補充など,主に栄養療法で構成される支持療法により行う。人工栄養の場合には,胆汁酸塩欠乏の場合によりよく吸収される中鎖脂肪酸トリグリセリドを多く含む人工乳を用いるべきである。十分なカロリーが必要であり,乳児の必要量は130カロリー/kg/日以上である。胆汁に多少の流れがある場合には,ウルソデオキシコール酸10~15mg/kgの1日1回または1日2回の投与でそう痒が軽減されることがある。

胆道閉鎖症が推定される児には,術中胆道造影による外科的検索が必要である。胆道閉鎖症が確定した場合は,肝門部腸吻合術(葛西手術)を施行すべきである。葛西手術は理想的には生後1~2カ月で施行すべきである。この時期を過ぎた場合,短期的予後は顕著に悪化する。術後には,多くの患児で胆汁うっ滞の持続,再発性の上行性胆管炎,発育不良などの重大な慢性の問題がみられる。上行性胆管炎の予防として術後1年間は抗菌薬の予防投与(例,トリメトプリム/スルファメトキサゾール)が処方されることが多い。至適治療がなされていても,大半の患児は肝硬変を発症し肝移植を必要とする。

母子同種免疫による肝疾患には確定的なマーカーや検査が存在しないことから,進行中の肝障害をくい止めて回復に向かわせるため,確定診断に至っていない場合でも,早期から免疫グロブリン静注療法または交換輸血による治療を考慮する必要がある(1)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Fischer HS, Staufner C, Sallmon H, et al: Early exchange transfusion to treat neonates with gestational alloimmune liver disease: An 11-year cohort study. J Pediatr Gastroenterol Nutr 70(4):444–449, 2020.doi: 10.1097/MPG.0000000000002593

要点

  • 新生児胆汁うっ滞には,多数の先天性および後天性の原因があり,結果としてビリルビン排泄障害が起こり抱合型ビリルビンが過剰となる。

  • 新生児胆汁うっ滞は典型的には生後2週の内に認められ,黄疸を呈し,しばしば濃色尿,灰白色便,および肝腫大がみられる。

  • まず肝臓の臨床検査,超音波検査,および肝胆道シンチグラフィーから始め,ときに肝生検など原因検索検査を行う。

  • 特定の原因を治療し,脂溶性ビタミンの補充ならびに多くの中鎖脂肪酸トリグリセリドおよび十分なカロリーを含む人工乳などを用いた支持療法を行う。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. North American Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition and the European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition: 2017 Guideline for the evaluation of cholestatic jaundice in infants

  2. North American Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition and the European Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition: 2019 Joint position paper on nutritional support of children with chronic liver diseases

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