羊水過多とは,羊水が過剰にある状態のことであり,母体および胎児合併症と関連する。診断は超音波検査による羊水量の計測である。管理は羊水過多に寄与している母体疾患の治療による。症状が重度であったり痛みを伴う早期子宮収縮を認める場合は,治療として羊水量の用手的な減量を行うことがある。
羊水過多の原因としては以下のものがある:
合併症
羊水過多の症状と徴候
羊水過多はしばしば無症状である。ときに子宮は妊娠週数に比して大きい。一部の女性(特に羊水過多が重度で子宮の増大を引き起こしている場合)では,呼吸困難,および/または痛みを伴う早期子宮収縮を認める。
羊水過多の診断
超音波検査による羊水インデックス(amniotic fluid index:AFI)の計測
胎児形成異常についての評価を含む包括的な超音波検査
病歴に基づいて疑われる原因に対する母体の検査
羊水過多は超音波検査所見または妊娠週数に比して大きい子宮のサイズに基づき,通常疑われる。しかしながら,羊水量の定性的評価は主観的になりやすい。そのため羊水過多が疑われる場合は,超音波所見に基づく以下のいずれかの基準を用いて羊水量を評価すべきである。
AFI ≥ 24cm:AFIは子宮を上下左右で分けた4つの領域それぞれで羊水の垂直深度を計測した値の合計であり,AFIの正常範囲は5~24cmである。
SDP ≥ 8cm:SDPは最も深い羊水ポケットの深度を計測した値であり,SDPの正常範囲は2~8cmである。
周産期の望ましくない転帰を予防するという点では,AFIとSDPの間に優越はないようである。それぞれに限界がある:AFIはしばしば羊水過少の過剰診断につながり,SDPは羊水過多の過剰診断につながる(1, 2)。
羊水の過剰は超音波所見に基づく基準,典型的にはAFIを用いて間接的に定義されている。AFIは,子宮の各4分の1について羊水深度を垂直に計測した値の合計である。AFIの正常範囲は5~24cmであり,24cm以上は羊水過多を意味する。
原因の同定
羊水過多が存在する場合,原因を同定するためにさらなる検査が推奨される。行う検査は臨床的に疑われる原因(通常病歴またはその他の超音波所見に基づく)により異なることがある。検査項目としては以下のものがある:
胎児形成異常についての包括的な超音波検査(常に推奨される)
母体ブドウ糖負荷試験
母体の血清学的検査(例,梅毒,パルボウイルス,サイトメガロウイルス,トキソプラズマ症,および風疹)
羊水穿刺および胎児核型分析
臨床的に疑われる遺伝的疾患(貧血など)に関する検査
診断に関する参考文献
1.Kehl S, Schelkle A, Thomas A, et al: Single deepest vertical pocket or amniotic fluid index as evaluation test for predicting adverse pregnancy outcome (SAFE trial): A multicenter, open-label, randomized controlled trial.Ultrasound Obstet Gynecol 47 (6):674–679, 2016.doi: 10.1002/uog.14924
2.Nabhan AF, Abdelmoula YA: Amniotic fluid index versus single deepest vertical pocket as a screening test for preventing adverse pregnancy outcome.Cochrane Database Syst Rev 2008 (3):CD006593, 2008.
羊水過多の治療
約39週での分娩
場合により人工的な羊水除去(羊水減量)
AFIに基づく羊水過多の重症度による出生前モニタリングの推奨:
AFI ≥ 30cm(胎児死亡のリスクが上昇):出生前モニタリングを早ければ32週,またはそれ以降であれば診断時に開始する;少なくとも週に1回のノンストレステストを含めるべきである。しかしながら,このようなモニタリングが胎児死亡率を低下させることは証明されていない。
AFI ≥ 24 ~ < 30cm:出生前モニタリングとノンストレステストは推奨されない(1)。
重症度を問わない羊水過多:巨大児になっていないか確認し,胎児解剖を評価するために,4週間毎に超音波検査を行うべきである。
39週頃での分娩を計画すべきである。分娩の様式は通常の産科的適応(例,先進部位)に基づくべきである。
羊水の減量(例,羊水除去による)または産生の抑制は,切迫早産となった場合または羊水過多により母体に重度の症状が生じている場合にのみ考慮すべきであるが,このアプローチで予後が改善するというエビデンスはない。また,除去すべき羊水の量や除去の速度についてのコンセンサスはないが,約1Lを20分かけて除去することが勧められている。
羊水過多に寄与している可能性のある疾患(例,母体糖尿病)をコントロールすべきである。
治療に関する参考文献
1.Society for Maternal-Fetal Medicine (SMFM); Dashe JS, Pressman, EK, Hibbard JU: SMFM Consult Series #46: Evaluation and management of polyhydramnios.Am J Obstet Gynecol 219 (4):B2–B8, 2018.doi: 10.1016/j.ajog.2018.07.016 Epub 2018 Jul 23.
要点
羊水過多とは,羊水が過剰にある状態のことであり,胎児形成異常,多胎妊娠,母体糖尿病,および様々な胎児疾患によって引き起こされる可能性がある。
羊水過多は早期子宮収縮,前期破水,母体の呼吸障害,胎位異常または胎児死亡,ならびに陣痛および分娩時の様々な問題のリスクの上昇と関連する。
羊水過多が疑われる場合は,羊水インデックスまたは最大羊水深度を測定するために超音波検査を行い,可能性のある原因に対する検査を行う(超音波検査による包括的評価を含む)。
切迫早産の徴候がみられる場合と羊水過多により重度の症状が生じている場合に限り,羊水の減量を考慮する。
羊水インデックスが30cm以上の患者では,出生前モニタリングと毎週のノンストレステストを早ければ32週から始める。