口腔乾燥症

執筆者:Bernard J. Hennessy, DDS, Texas A&M University, College of Dentistry
レビュー/改訂 2022年 2月
意見 同じトピックページ はこちら

口腔乾燥症は唾液の流量の減少または分泌されないことにより生じる。

この状態は不快感につながり,発語および嚥下が妨げられる,義歯使用が困難になる,口臭が生じる,口腔内pHの低下および細菌増殖により口腔衛生が損なわれるなどの問題が生じる。長期間持続する口腔乾燥症では,重度の齲蝕および口腔カンジダ症が発生することがある。口腔乾燥症は高齢者によくみられる愁訴であり,20%の高齢者が罹患している。

歯科患者へのアプローチに関する序論も参照のこと。)

口腔乾燥症の病態生理

口腔粘膜の刺激により延髄の唾液核に向けてシグナルが送られ,遠心性の反応が誘発される。遠心性の神経インパルスを受けて唾液腺神経終末でアセチルコリンが放出される結果,ムスカリン受容体(M3)が活性化され,その作用により唾液の産生および流出が増加する。唾液分泌をもたらす延髄からのシグナルは,他の刺激(例,味,匂い,不安)に由来する皮質入力による調節も受けている。

口腔乾燥症の病因

口腔乾燥症は通常以下により引き起こされる:

  • 薬剤

  • 頭頸部の放射線治療(がん治療のため)

全身性疾患は原因としては比較的少ないが,口腔乾燥症はシェーグレン症候群でよくみられ,HIV/AIDS,コントロールされていない糖尿病,およびその他の特定の疾患でも起こりうる。

薬剤

薬剤は最も頻度の高い口腔乾燥症の原因(口腔乾燥症の主な原因の表を参照)である;約400の処方薬と多くのOTC医薬品が唾液分泌の減少を引き起こす。以下の薬剤が最も一般的である:

表&コラム
表&コラム

化学療法薬は,投与されている間,重度の口腔乾燥と口内炎を引き起こす;これらの問題は通常,化学療法終了後に消失する。

口腔乾燥症を引き起こす他の一般的な薬物の種類としては,降圧薬抗不安薬抗うつ薬(選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]は三環系薬剤より軽度)などがある。

メタンフェタミンの違法使用が増加しているため,メタンフェタミンによる口腔乾燥症によって生じる重度の齲蝕および歯周炎であるmeth mouthの発生率が上昇している。この損傷は,糖含有飲料の摂取量の増加および薬剤の影響を受けている間の不良な口腔衛生に加え,薬剤で引き起こされるブラキシズムおよびクレンチングによって悪化する。この組合せにより非常に急速な歯の崩壊が起こる。

タバコ使用は一般的に唾液減少の原因となる。

放射線照射

頭頸部がん放射線療法時の唾液腺に対する付随的照射が,しばしば重度の口腔乾燥症の原因となる(5200cGyで重度の永続性乾燥症を引き起こすが,それ以下の照射線量でも一過性の乾燥症をもたらすことがある)。

口腔乾燥症の評価

病歴

現病歴には,発症の急性度,時間的要素(例,持続性または断続的,覚醒時のみに発現),状況または精神的因子などの誘発因子(例,口腔乾燥症が精神的ストレスがある時のみ,もしくはある種の活動をしている時のみに発現),体液の状態の評価(例,水分補給の習慣,繰り返す嘔吐または下痢),および睡眠習慣を含めるべきである。レクリエーショナルドラッグの使用歴を聴取すべきである。

システムレビュー(review of systems)では,ドライアイ,乾燥皮膚,発疹,および関節痛などの原因となる疾患(シェーグレン症候群)の症状がないか検討すべきである。

既往歴の聴取では,シェーグレン症候群,放射線治療歴,頭頸部外傷,ならびにHIV感染の診断およびその危険因子などを含む口腔乾燥症に関連した状態について尋ねるべきである。使用薬剤の聴取では,問題となりうる薬剤について調査すべきである(口腔乾燥症の主な原因の表を参照)。

身体診察

身体診察では,口腔,特に明らかな乾燥状態(例,粘膜が乾燥しているか,粘性か,または湿潤状態であるか;唾液は泡が多いか,糸を引くか,または見かけ上正常であるか),Candida albicansによる病変の存在,および歯の状態に焦点を置くべきである。

口腔乾燥症の有無および重症度の評価には,いくつかの方法がある。例えば,舌圧子を頬粘膜に対して10秒間当てる。舌圧子を放した後すぐに脱落すれば,唾液流量は正常であると判断する。舌圧子が脱落しにくいほど,口腔乾燥症の重症度が高い。女性では,口紅が前歯に付着するlipstick signが口腔乾燥症の有用な徴候になりうる。

乾燥状態が存在するようであれば,顎下,舌下,および耳下腺を,開口部からの唾液の流れを観察しながら触診すべきである。開口部はそれぞれ顎下腺および舌下腺が舌下部前方に,耳下腺が頬内面中央に位置する。触診の前にガーゼを用いて開口部を乾燥させると観察が容易になる。目盛り付き容器が使用可能であれば,患者は一度口腔内のものを容器に吐き出し,次に全ての唾液を容器に吐き出してもよい。正常流量は0.3~0.4mL/minである。著明な口腔乾燥症では0.1mL/minである。

齲蝕を,修復物のマージンまたは齲蝕部位としてまれな部分(例,歯頸部,切端部,もしくは咬頭頂)に認めることがある。

C. albicans感染の一般的な臨床像は紅斑および萎縮部分(例,舌背部の乳頭の消失)の存在である。それより頻度は低いがよく知られているものとして,拭き取ると出血するチーズ状の凝固物がある。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見には特に注意が必要である:

  • 広範な齲蝕

  • ドライアイ,乾燥皮膚,発疹,または関節痛の併発

  • HIVの危険因子

所見の解釈

口腔乾燥症の診断は,症状,外観,および唾液腺をマッサージした際に唾液が流れない状態に基づく。

口腔乾燥症が新しい薬剤を導入した後に発症し,投薬中止後に改善した場合,または症状が頭頸部の放射線照射後の数週間以内に発現した場合はさらなる評価を行う必要はない。頭頸部外傷後に口腔乾燥症が突然発症した場合,神経損傷が原因である可能性がある。

ドライアイ,乾燥皮膚,発疹,または関節痛の併発は特に女性患者ではシェーグレン症候群の診断を示唆する。予想される所見に不釣り合いである重度の歯牙変色および齲蝕は違法な薬物,特にメタンフェタミンの使用が疑われる。夜間のみ発現する,または覚醒時のみに自覚される口腔乾燥症は,乾燥した環境下での過剰な口呼吸が考えられる。

検査

  • 唾液測定

  • 唾液腺生検

口腔乾燥症の有無が不明の患者では,収集器具を大唾液腺唾液開口部に置き,クエン酸またはパラフィン咀嚼によって唾液分泌を刺激することにより唾液測定を行うことができる。耳下腺の正常流量は0.4~1.5mL/min/腺である。唾液流量のモニタリングは治療効果の確認にも有効である。

口腔乾燥症の原因は多くの場合明確であるが,もし病因が不明で全身性疾患の可能性がある場合,小唾液腺の生検(シェーグレン症候群サルコイドーシスアミロイドーシス結核,またはがんの検出のため)およびHIV検査をさらなる評価のために行うべきである。下唇は生検を行うのに都合の良い部分である。

口腔乾燥症の処置/治療

  • 原因を処置し,原因となる薬剤を可能であれば中止する

  • コリン作動薬

  • 人工唾液

  • 齲蝕予防のための定期的口腔衛生および口腔ケア

可能であれば口腔乾燥症の原因を特定し,処置すべきである。

治療上他の薬に変更ができない薬剤性口腔乾燥症の患者では,夜間の口腔乾燥症により齲蝕の発生率が上昇する可能性が高いため,日中に最大の薬効を得るように投薬スケジュールを改変するべきである。このような患者にはフッ素ジェルを入れたカスタムメイドのアクリルナイトガードが齲蝕発生の抑制に役立つ場合がある。全ての薬剤において,服用が容易な剤形,例えば液剤などを考慮すべきであり,舌下投与は回避すべきである。カプセルや錠剤を飲み込む前,またはニトログリセリン舌下錠を服用する前に,口腔および咽喉を水で湿潤にする。口腔乾燥症の患者は鼻閉改善薬および抗ヒスタミン薬を避けるようにする。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群のために持続陽圧呼吸療法を受けている患者は,この装置の加湿機能の使用が有益となりうる。口腔内装置を使用している患者は室内加湿機も有益である場合がある。

症状管理

対症療法には以下の効果が得られる処置が含まれる:

  • 存在する唾液量の増加

  • 失った分泌を補充

  • 齲蝕管理

唾液分泌を増強する薬剤には,コリン作動薬であるセビメリンおよびピロカルピンがある。セビメリン(30mg,1日3回経口)はM2(心性)受容体活性がピロカルピンより低く,半減期が長い。主な有害作用は悪心である。ピロカルピン(5mg,1日3回経口)は,眼および心肺系の禁忌を除外してから投与する;有害作用には発汗,紅潮,多尿がある。

シュガーレス飲料を少しずつ頻繁に摂取する,キシリトール含有ガムを噛む,カルボキシメチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,またはグリセリン含有の市販人工唾液を使用する,なども有効であることがある。乾燥,ひび割れ,ひりひり感,および粘膜外傷を緩和するため,ワセリンを口唇および義歯の粘膜面に塗布することもできる。水噴霧式加湿器は特に夜間に症状が悪化する口呼吸者に有効な場合がある。

徹底した口腔衛生が必須である。患者は歯ブラシとデンタルフロスを併用した規則正しい歯磨き(就寝直前を含む)を行うとともに,フッ素洗口剤またはジェルを毎日使用すべきである;カルシウムおよびリン酸が添加された新しいタイプの歯磨剤もランパントカリエスの回避に役立つことがある。プラークの除去も含めた予防のための歯科受診の回数を増やすことが勧められる。齲蝕予防の最も効果的な手段は,1.1%フッ化ナトリウムまたは0.4%フッ化スズで満たしたカスタムメイドの容器(マウスピース状)を装着して就寝することである。さらに,5%フッ化ナトリウムバニッシュの塗布を年2~4回歯科で受けることもできる。

患者は砂糖を含むまたは酸性の飲食物,および刺激性の食品(乾燥している,スパイシー,渋い,または極端に熱いもしくは冷たいなど)の摂取を避けるべきである。特に就寝前の砂糖の摂取を避けることが重要である。

老年医学的重要事項

口腔乾燥症は高齢患者の間でより高頻度でみられるようになっているが,これはおそらく加齢によるものと言うより,高齢患者が一般的に多くの薬剤を使用していることによるものである。

要点

  • 薬剤が最も頻度の高い原因であるが,全身性疾患(最もよくみられるものはシェーグレン症候群またはHIV)および放射線療法もまた口腔乾燥症を引き起こす。

  • 対症療法としては,刺激物や薬剤で唾液流量を増加させる方法や,人工唾液の補充などがあり,キシリトール含有ガムやシュガーレスキャンディが有用となる場合がある。

  • 口腔乾燥症の患者は齲歯のリスクが高い;徹底した口腔衛生,それに加えての家庭での予防処置,および歯科医院でのフッ素塗布が必須である。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS