歯周炎は口腔の慢性炎症性疾患であり,歯周組織を進行性に破壊する。通常,歯肉炎の悪化した状態として発現し,無処置の場合,歯の動揺と喪失を引き起こす。その他の症状は,HIVに感染している患者か膿瘍がある患者を除いてまれであり,疼痛や腫脹が一般的である。診断は,視診,歯周探査,X線写真に基づく。処置は,歯肉縁下に及ぶ清掃と家庭での徹底した口腔衛生プログラムである。進行例では,抗菌薬や手術が必要になる場合がある。
歯周炎の病態生理
歯周炎は通常,歯肉炎(通常は歯肉縁下に大量のプラークおよび歯石[カルシウムおよびリン酸塩による細菌,食物残渣,唾液,および粘液の結石]を伴う)が十分に処置されていない場合に発生する。歯周炎においては,歯周組織に深いポケットが形成され,単純な歯肉炎において通常みられるものよりも,より侵襲度が高い嫌気性菌がそこに寄生する。定着細菌には,Aggregatibacter actinomycetemcomitans,Porphyromonas gingivalis,Eikenella corrodens,および多くのグラム陰性桿菌などがある。
嫌気性菌により,炎症メディエーター(サイトカイン,プロスタグランジン,ならびに好中球および単球由来の酵素など)の慢性的な放出が誘発される。その結果炎症が生じ,歯周靱帯,歯肉,セメント質,歯槽骨に波及する。歯肉は徐々に歯に対する付着を失い,骨欠損が始まり,歯周ポケットが深くなる。骨欠損が進行するに従って歯は動揺し,歯肉が退縮する。後期になると多くの場合,歯の移動がみられ,歯の喪失が起こりうる。
歯周炎の危険因子
歯周炎の分類
アメリカ歯周病学会(American Academy of Periodontology:AAP,2017年)の歯周病の分類では,歯周炎を3つの型に区別している:
壊死性歯周炎
全身性疾患の直接的な症状としての歯周炎
歯周炎
AAPによるその他の歯周病の名称として,歯周膿瘍,歯内病変を伴う歯周炎,発育性または後天性の変形および疾患,インプラント周囲疾患がある。
歯周膿瘍は,通常,既存のポケットに発生する膿が貯留した状態であり,ときに詰まった異物に関係する。組織が急速に破壊されることがあり,歯の喪失のリスクがある。
歯内病変を伴う歯周炎では,歯髄と歯周組織との間に交通が生じる。
発育性または後天性の変形および疾患のうち,不正咬合は,歯に過剰な機能的負荷をもたらし,必要条件としてプラークおよび歯肉炎が加わった場合,垂直的骨欠損を特徴とする特定の型の歯周炎の進行の一因となる。
壊死性歯周炎
壊死性歯周炎は特に強烈で,急速に進行する疾患であり,以下を特徴とする:
歯間乳頭の壊死または潰瘍形成
歯肉出血
疼痛
壊死性歯周炎は,典型的には免疫系の機能障害がある患者に起こること,またHIVが一般的な原因であることから,しばしばHIV関連歯周炎と呼ばれる。臨床的には広汎型侵襲性歯周炎に併発した急性壊死性潰瘍性歯肉炎に類似する。患者は早ければ6カ月で9~12mmの付着歯肉を失うことがある。
全身性疾患の直接的な症状としての歯周炎
プラークまたは他の局所因子と不釣り合いな炎症がみられる患者,または全身性疾患も有する患者で,全身性疾患の直接的な症状としての歯周炎を考慮する。しかし,疾患が歯周炎を引き起こしているのか,プラークによって引き起される歯周炎の一因になっているのかを区別するのはしばしば困難である。
血液疾患に関連する全身性疾患で歯周炎を呈しうるものとしては以下のものがある:
後天性の好中球減少症
なまけもの白血球症候群(lazy leukocyte syndrome)
遺伝性疾患に関連する全身性疾患で歯周炎を呈しうるものとしては以下のものがある:
家族性周期性好中球減少症
白血球接着不全症候群
Papillon-Lefèvre症候群
組織球症症候群
小児遺伝性無顆粒球症
エーラス-ダンロス症候群(IV型およびVIII型)
Cohen症候群
歯周炎
以前の分類(AAP,1999年)では,慢性歯周炎と侵襲性歯周炎を区別していた。しかしながら,歯周炎の発症年齢,発症速度および重症度には大きなばらつきがあるものの,現在では,基礎にある病態生理が同様であると認識されており,このような区別を裏付けるエビデンスは今のところない。現在,重症度はI期からIV期,進行速度はグレードAからCに分類される。
歯周炎は,幼児期から高齢期までのいずれの時期でも発生する可能性がある。この集団の85%が軽症の歯周炎に罹患しているが,最も進行した症例がみられるのはこの集団の5%未満である。
重症度の重要因子としては以下のものがある:
付着の喪失量(軟組織と歯の間)
ポケットの深さ
X線上の骨減少量
歯周炎の症状と徴候
急性感染が1つまたはそれ以上の歯周ポケットで生じない限り,またはHIV関連歯周炎が存在しない限り,通常疼痛は生じない。ポケットへの食片圧入により食事中に疼痛が生じることがある。発赤,腫脹および滲出液を伴う大量の歯垢が特徴的である。歯肉は傷つきやすく,容易に出血し,また息は悪臭がする場合がある。歯が動揺するに従い,特にわずか3分の1の歯根が骨中にある場合,咀嚼は疼痛を伴うものとなる。
この写真には,歯周病による組織の喪失の拡大像が写っている。歯周病により歯の周囲の歯肉と骨の喪失が生じている。
Dr. W.GREEN/CNRI/SCIENCE PHOTO LIBRARY
この写真には,歯周炎患者の退縮している歯肉および歯周膿瘍(矢印)が写っている。
CNRI/SCIENCE PHOTO LIBRARY
この写真には,プラークによって引き起こされた軟組織の慢性の炎症により歯肉および支持骨の喪失,歯の移動,ならびに歯の喪失が生じた様子が写っている。
Image provided by Jonathan A. Ship, DMD.
歯周炎の診断
臨床的評価
ときに歯科X線検査
ポケット内の探査およびその深さの測定と歯および歯肉の視診を組み合わせて行えば,通常診断には十分である。4mm以上の深いポケットは歯周炎を示唆する。
歯科用X線写真では歯周ポケットに隣接する歯槽骨欠損が示される。
歯周炎の治療
危険因子の処置
スケーリングおよびルートプレーニング
ときに抗菌薬経口投与,抗菌薬注入,またはその両方
外科手術または抜歯
口腔衛生不良,糖尿病,喫煙などの是正可能な危険因子の処置を行うことで,転帰が改善する。
歯周炎の全ての形態に対する処置の第1フェーズは,プラークや歯石付着を除去するためのスケーリング(手または超音波器具を用いた専門家による口腔清掃)およびルートプレーニング(病変または毒素に侵されたセメント質および象牙質の除去に続いて根を平滑化する処置)である。家庭での徹底的な口腔衛生が必要であり,清掃を助けるための注意深いブラッシングおよびデンタルフロスの使用が含まれる。クロルヘキシジン綿棒または含嗽剤が含まれることがある。医療従事者は,患者にそれらの処置を行う方法を教えるのを助けるべきである。患者は3週間後に再評価を受ける。もしこの段階でポケットが4mm以下であれば,定期的な清掃のみが必要な処置である。スケーリングおよびプレーニングのため,歯根の深い部分にアクセスできるよう歯肉弁を開くことがある。
深いポケットが持続する場合は抗菌薬の全身投与を行う。一般的なレジメンはアモキシシリン500mg,1日3回経口投与,10日間である。それに加え,ドキシサイクリンまたはミノサイクリンのマイクロスフェアを含むジェルを孤立した難治性歯周ポケットに注入することもある。これらの薬剤は2週間で吸収される。
もう1つのアプローチはポケットを外科的に除去し,骨を再形成(歯周ポケット減少/除去手術)することにより,患者が通常の深さの歯肉溝内を清掃できるようにすることである。患者によっては,再生手術と骨移植術を行い歯槽骨の成長を促す。外傷性咬合に対処するため,動揺歯の固定と歯表面の選択的削合が必要な場合もある。多くの場合,進行した疾患では抜歯が必要である。歯周治療の開始前に,原因となる全身因子は管理すべきである。
HIVに起因する壊死性潰瘍性歯周炎(HIV関連歯周炎)の90%の患者が,スケーリングとルートプレーニングに,ポビドンヨードによる歯肉溝内の洗浄(歯科医師が洗浄用のシリンジで行う),クロルヘキシジン口腔含嗽剤の定期的使用,および抗菌薬の全身投与(通常メトロニダゾール250mg,1日3回経口投与,14日間)を組み合わせた治療法に反応する。
限局型侵襲性歯周炎では,歯周外科処置に加え抗菌薬の経口投与(例,アモキシシリン500mg,1日4回,またはメトロニダゾール250mg,1日3回を14日間)が必要である。
要点
歯周炎はプラーク中の細菌によって引き起こされる炎症反応である。
歯槽骨の喪失,深い歯周ポケットの形成,そして最終的には歯の動揺が起こる。
スケーリングおよびルートプレーニング,ときに抗菌薬および/または外科手術により処置を行う。