男性型多毛症および多毛症

執筆者:Wendy S. Levinbook, MD, Hartford Dermatology Associates
レビュー/改訂 2022年 6月
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男性型多毛症(hirsutism)は,女性において男性に典型的な発毛パターン(例,口髭,顎髭,胸毛,肩,下腹部,背部,大腿内側)で太い毛や濃い毛が過剰に成長する状態である。過剰とみなされる発毛量は,民族的背景や文化的な解釈によって異なってくる。

男性型多毛症
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この写真には,ある女性の過剰な顔毛が写っている。
JOHN RADCLIFFE HOSPITAL/SCIENCE PHOTO LIBRARY

多毛症(hypertrichosis)は,独立した別の病態である。これは単に,体のあらゆる部分で毛髪の成長量が増加する状態である。多毛症は,全身性の場合と限局性の場合がある。

男性では,体毛量にかなり大きな個人差があり,非常に毛深い者もいるが,それを理由に医療機関を受診することはまれである。

男性型多毛症および多毛症の病態生理

毛髪の成長はアンドロゲン(例,テストステロン,デヒドロエピアンドロステロン硫酸[DHEAS],ジヒドロテストステロン[DHT])とエストロゲンのバランスに依存する。アンドロゲンは太く色の濃い毛の成長を促進する。テストステロンは陰部および腋窩の毛髪の成長を刺激する。ジヒドロテストステロンは顎髭の成長と頭髪の脱落を促進する。

男性型多毛症は以下によって生じる:

  • 血中アンドロゲン濃度の上昇

  • アンドロゲンに対する標的臓器の反応性亢進

男性型多毛症は,典型的にはアンドロゲン産生の増加(例,卵巣または副腎疾患によるもの)または末梢での5α還元酵素によるテストステロンからDHTへの転換の増加によってアンドロゲン濃度が異常に高くなる結果として生じる。高インスリン血症や高プロラクチン血症などの様々な疾患あるいはアンドロゲン過剰それ自体により性ホルモン結合グロブリンの産生が低下する結果として,遊離アンドロゲン濃度が上昇する場合もある。しかしながら,毛包のアンドロゲン感受性には個人差があることから,男性型多毛症の重症度はアンドロゲンの血中濃度と相関しない。

男性型多毛症は,正常な血漿中濃度のアンドロゲンに対する標的臓器の反応性亢進の結果として発生する場合もあり,また地中海,南アジア,または中東に祖先をもつ人々では家族性の現象として生じる場合がある。妊娠中および閉経期の男性型多毛症は,アンドロゲン濃度の一時的かつ生理的な変動に起因する。

男性型多毛症がアンドロゲン濃度の上昇により引き起こされる場合は,男性化を合併することが多いが,これは無月経,筋肉量の増加,声の低音化,ざ瘡,アンドロゲン性脱毛症,および陰核肥大として現れることがある。

多毛症では,アンドロゲンによらず毛髪が成長する。

男性型多毛症および多毛症の病因

男性型多毛症には,いくつかの原因がある(男性型多毛症の主な原因の表を参照)。

全体で最も頻度の高い原因は以下のものである:

表&コラム
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多毛症は,通常は薬剤,全身性疾患(多毛症の原因の表を参照),または腫瘍随伴症候群によって引き起こされる。また,先天性多毛症と呼ばれる,まれな家族性疾患として発生することもある。

表&コラム
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男性型多毛症および多毛症の評価

病歴

現病歴の聴取では,過剰な毛髪の成長の範囲,部位,および急性度と発症時年齢を対象に含めるべきである。

システムレビュー(review of systems)では,男性化の症状がないか調べ,月経歴と妊孕性に関係する病歴を検討すべきである。多尿(糖尿病),むちゃ食いと自己誘発性嘔吐(摂食症),ならびに体重減少および発熱(がん)など,原因疾患の症状を検索すべきである。

既往歴の聴取では,内分泌疾患,副腎または卵巣の病態,各種のがんなど,既知の原因疾患について特に評価すべきである。

家族歴の聴取では,家族内での過剰な毛髪の成長について尋ねるべきである。

薬歴の聴取では,あらゆる処方薬について検討するとともに,タンパク質同化ステロイドを隠れて使用していないか具体的に質問すべきである。

身体診察

太い毛や濃い毛の過剰な成長の有無について,顔面,胸部,下腹部,背部,殿部,大腿内側など複数の部位で評価すべきである。以下に示す男性化の徴候がないか調べるべきである:

全般的な身体診察では潜在的な原因疾患の徴候に注意すべきである。

  • 全身の体型を評価して,脂肪の分布を検討すべきである(特に丸い顔と後頸部の付け根の脂肪の蓄積)。

  • 皮膚を診察して,腋窩,頸部,および乳房下部のビロード状の黒い色素沈着(黒色表皮腫),ならびに皮膚線条がないか調べるべきである。

  • 眼を診察して外眼筋運動を調べ,視野の評価を行うべきである。

  • 乳房を診察して,乳汁漏出症がないか調べるべきである。

  • 腹部を診察して(内診を含む),腫瘤がないか調べるべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見には特に注意が必要である:

  • 男性化

  • 過剰な毛髪の突然の出現と急速な成長

  • 骨盤内または腹部の腫瘤

所見の解釈

他の点では健康な女性でタンパク質同化ステロイドやその他の原因薬剤(多毛症の原因の表を参照)の使用後に過剰な毛髪の成長が始まった場合は,その薬剤が原因である可能性が高い。

ときに症状と徴候から他の基礎疾患が示唆されることもある(男性型多毛症の所見の解釈の表を参照)。

表&コラム
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男性型多毛症または多毛症の突然の発症は,がんの前兆である場合がある。男性型多毛症の突然の発症は,副腎,卵巣,または下垂体腫瘍が原因である場合や,これら以外の腫瘍からの異所性ホルモン産生に起因している場合がある。毳毛性多毛症(malignant down)は,短期間のうちに全身に細い毛髪の成長がみられる病態であるが,顔面に限局することもある。リンパ腫,肺癌,乳癌,子宮体がん,大腸癌,膀胱癌など,いくつかの種類の悪性腫瘍患者でみられることがある。頻度は低いが,甲状腺機能亢進症やAIDS,低栄養などの全身性疾患の患者や特定の薬物を使用している患者にもみられる可能性がある。

検査

他の疾患の徴候を認めない男性では,診断のための検査は不要である。

女性では,以下を含むホルモンの血清中濃度を測定する臨床検査を行うべきである:

  • 遊離および総テストステロン

  • DHEAS

  • 卵胞刺激ホルモン(FSH)および黄体形成ホルモン(LH)

臨床所見によっては,アンドロステンジオン値,プロラクチン値,またはその両方の測定を行ってもよい。

テストステロンが高値でDHEASは正常値の場合は,副腎ではなく,卵巣で過剰なアンドロゲンが産生されていることが示唆される。テストステロンが高値でDHEASは中等度の高値となる場合は,男性型多毛症が副腎由来であることが示唆される。

多嚢胞性卵巣症候群の女性では,しばしばLH値の上昇とFSH値の低下がみられ,したがってLH/FSH比が上昇する(多嚢胞性卵巣症候群では3を超えるのが一般的である)。

画像検査

骨盤内悪性腫瘍と副腎癌を除外するために骨盤内および腹部の超音波検査やCTまたはMRIを施行すべきであり,とりわけ骨盤内腫瘤が疑われる場合,総テストステロン値が150ng/dL(5.2nmol/L)(閉経後女性では100ng/dL[3.5nmol/L])を超える場合,ならびにDHEAS値が700μg/dL(19μmol/L)(閉経後女性では400μg/dL[10.8μmol/L])を超える場合は,これらの検査が特に重要となる。しかしながら,DHEAS値が上昇している患者の大部分では,副腎癌ではなく,副腎過形成が生じている。

画像検査でクッシング症候群または副腎腫瘤の徴候を認めた患者については,24時間尿中コルチゾール値を測定するべきである。

男性型多毛症および多毛症の治療

  • 基礎疾患の治療

  • 外用療法

  • ホルモン療法

原因薬剤の中止または変更を含め,基礎疾患の治療を行うべきである。

男性型多毛症自体に対する治療は,患者が過剰な毛髪を美容上好ましくないと考える場合にのみ必要となる。アンドロゲン依存性の男性型多毛症がみられる患者には,脱毛と抗アンドロゲン療法の併用が必要である。

多毛症などのアンドロゲン依存性ではない過剰な毛髪の成長は,主に物理的な脱毛法によって治療する。

外用療法

いくつかの手法がある。

除毛(depilation)は,皮膚表面から毛髪を除去するもので,剃毛やOTC医薬品の除毛クリーム(硫酸バリウムおよびチオグリコール酸カルシウムを含有するものなど)がある。

脱毛(epilation)は,完全な毛髪を毛根ごと除去するもので,機械的手段(例,ピンセット,毛抜き,ワックス)または家庭用脱毛機器により行うことができる。電気分解,熱分解,レーザー脱毛などの永久脱毛法では,より長期的な毛髪除去が得られるが,しばしば複数回の治療が必要となる。

男性型多毛症が過度ではない場合は,毛髪除去の代替法として,毛髪の脱色が安価でかつ効果が高い。脱色により毛髪の色が薄くなり,目立たなくなる。市販の毛髪脱色剤にはいくつかの種類があるが,大半は有効成分として過酸化水素が使用されている。

エフロルニチン(eflornithine)外用薬の1日2回塗布により,毛髪の成長速度が遅くなり,長期使用すれば毛髪除去治療の施行間隔を延長できる可能性がある。

ホルモン療法

アンドロゲン過剰により生じる男性型多毛症は,過剰なアンドロゲンの原因を永続的に除去できることがまれであるため,通常は長期の治療が必要になる。ホルモン療法としては以下のものがある:

  • 経口避妊薬

  • 抗アンドロゲン薬

  • ときにその他の薬剤

卵巣アンドロゲン過剰により引き起こされる男性型多毛症に対しては,しばしば標準用量の経口避妊薬が最初の治療となる。経口避妊薬は卵巣からのアンドロゲン分泌を減少させ,性ホルモン結合グロブリンを増加させることによって,遊離テストステロン値を低下させる。

抗アンドロゲン療法も用いられ,フィナステリド(1~5mg,経口,1日1回)やスピロノラクトン(25~100mg,経口,1日2回)などが使用できる。これらの薬剤は男子胎児に女性化を引き起こすことがあるため,避妊を行わない限り,妊娠可能年齢の女性では禁忌である。

副腎でのアンドロゲン産生を抑制するために必要な場合は,コルチコステロイドが使用される。重症型の卵巣アンドロゲン過剰には,ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト(例,酢酸リュープロレリン,ナファレリン,トリプトレリン[triptorelin])を婦人科医または内分泌医の指示の下で使用することができる。

要点

  • 男性型多毛症は家族性の場合があり,毛髪の成長の程度には民族差がある。

  • 男性型多毛症の原因として最も頻度が高いものは,多嚢胞性卵巣症候群である。

  • 男性化は,さらなる評価を要するアンドロゲン性の疾患を示唆する。

  • 男性型または無性毛型多毛症の突然の発症は,がんを示唆している場合がある。

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