条虫感染症の概要

執筆者:Chelsea Marie, PhD, University of Virginia;
William A. Petri, Jr, MD, PhD, University of Virginia School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 12月
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条虫(条虫類)は扁平な寄生虫である。ヒトの腸管内に寄生して病原性を示す主な条虫類として以下の4種類がある:

ヒトに感染する条虫はこのほかにも存在し,孤虫症共尾虫症エキノコックス症などの疾患を引き起こす。条虫の感染は典型的には食物を介して起こるか,宿主の無脊椎動物を偶然摂取することで生じる。

条虫類は全て,虫卵,幼虫,および成虫の3段階を経る。成虫は終宿主の腸管に生息するが,終宿主はヒトを含む肉食性哺乳類である。ヒトに感染するいくつかの条虫の成虫には,主な中間宿主に基づく別名(fish tapeworm[広節裂頭条虫],beef tapeworm[無鉤条虫],pork tapeworm[有鉤条虫])がある。アジア条虫(Asian tapeworm)Taenia asiatica)という種は例外で,これは多くの点でT. saginataに似ているが,アジアで豚肉を摂取することにより感染する。

条虫類の感染は,終宿主の腸管内で成虫が産んだ虫卵が糞便とともに環境中に排出され,それらが中間宿主(典型的には別の種)に摂取されることで拡大する。虫卵は孵化して幼虫となり,幼虫が成育して中間宿主の循環血中に入り,筋組織や他の臓器の中でシストとなる。中間宿主が生または加熱調理不十分な状態で終宿主に摂食されると,摂取されたシストから条虫が腸管内で放出され,それらが成虫に発育し,生活環を再開する。一部の条虫(例,有鉤条虫[T. solium])は,終宿主が中間宿主にもなりうる;すなわち,組織シストではなく虫卵が摂取され,その虫卵が幼虫に発育して循環系に入り,各種の組織内でシストとなる。

成虫は複数の体節で構成される扁平な蠕虫であり,消化管を欠き,宿主の小腸から栄養分を直接吸収する。成虫は宿主の消化管内で大きくなることがあり,世界一長い種であるクジラ複殖門条虫(Tetragonoporus calyptocephalus)の体長は40mに及ぶ。

条虫の虫体では以下の3つの部分を識別できる:

  • 頭節(頭部)は,腸管粘膜に付着するためのアンカーとして機能する。

  • 頸部は高い再生能を有する部位であり,分節化されていない。治療時に頸部および頭節を除去しないと,虫体全体が再生することがある。

  • 残りの部位は多数の片節(体節)から構成される。頸部に最も近い片節は未分化である。片節は尾に向かうにつれて次第に,それぞれの片節が雌雄同体の生殖器を発達させる。末端部の片節は受胎片節であり,子宮に卵が入っている。成熟した片節には1つの卵巣が含まれており,卵は顕微鏡で観察可能である。

有鉤条虫(Taenia solium)を例にとった条虫の代表的な構造

大きさと形態は種および成熟度によって異なる。

条虫感染症の症状と徴候

成虫は宿主の消化管によく適応しているため,通常は最小限の症状しか引き起こさない。ただし例外もある。小形条虫(Hymenolepis nana)の多数寄生では,腹部不快感,下痢,および体重減少が生じることがあり,裂頭条虫科(Diphyllobothriidae)に属する複数種の条虫はビタミンB12欠乏症巨赤芽球性貧血を引き起こすことがある。

成虫とは対照的に,幼虫が腸管外で発育した場合には重症疾患を引き起こして致死的となることさえあり,脳の症例が最も重要であるが,肝臓,肺,眼,筋肉および皮下組織の症例もある。ヒトにおいて,有鉤条虫(T. solium)は嚢虫症を,単包条虫(Echinococcus granulosus)および多包条虫(Echinococcus multilocularis)はそれぞれ単包虫症および多包虫症を引き起こす。無鉤条虫(T. saginata)はヒトにおいて嚢虫症を引き起こさない。アジア条虫(T. asiatica)がヒトにおいて嚢虫症を引き起こすかどうかは不明である。まれに,Spirometra属,芽殖孤虫(Sparganum proliferum),多頭条虫(Taenia multiceps),連節条虫(Taenia serialis),Taenia brauni,およびTaenia glomeratusの幼虫もヒトに感染することがあり,皮下組織または筋のほか,頻度は下がるが感染種によっては脳または眼にも腫瘤性病変を形成する。

条虫感染症の診断

  • 成虫による感染症には,便の鏡検

  • 幼虫による感染症には,画像検査

成虫による感染症は,便中の虫卵または受胎片節の同定により診断する。幼虫による疾患は,画像検査(例,脳のCTおよび/またはMRI)による同定が最も優れている。血清学的検査も役立つ場合がある。

条虫感染症の治療

  • 駆虫薬

駆虫薬のプラジカンテルは,腸管内条虫感染症に効果的である。ニクロサミド(niclosamide)は米国では入手できない代替薬である。小形条虫(H. nana)感染症にはニタゾキサニド(nitazoxanide)を使用できる。

腸管外感染症の中には,アルベンダゾールおよび/またはプラジカンテルによる駆虫薬治療に反応するものもある;外科的介入を必要とするものもある。

条虫感染症の予防

予防および管理には以下が必要である:

  • 豚肉,牛肉,子羊の肉,猟獣肉,および魚の完全加熱調理(推奨温度および時間は様々である)

  • 一部の条虫(例,広節裂頭条虫)には,長時間の冷凍

  • イヌおよびネコの定期的な駆虫

  • 宿主間での再循環(例,イヌが死んだ猟獣または家畜を食べる)の防止

  • 齧歯類,ノミ,ヒタラムシ(grain beetle)などの中間宿主の駆除および回避

  • 食肉検査

  • ヒトの排泄物の衛生的処理

感染予防に肉の燻製および乾燥は無効である。

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