発作性夜間血色素尿症(PNH)はまれな後天性の疾患で,血管内溶血およびヘモグロビン尿を特徴とする。白血球減少症,血小板減少症,動静脈血栓症,および発作性のクリーゼがよくみられる。診断にはフローサイトメトリーを要する。治療はエクリズマブなどの終末補体阻害薬による。
(溶血性貧血の概要も参照のこと。)
発作性夜間血色素尿症は,20代男性に最も多くみられるが,性別および年齢にかかわらず発生する。溶血は夜間だけではなく1日中起こる。
PNHの病因
発作性夜間血色素尿症は,造血幹細胞のPIGA遺伝子における後天性の突然変異によるクローン性の疾患である。 PIGAはX染色体上に存在し,膜タンパク質のグリコシルホスファジルイノシトール(GPI)アンカーの形成に不可欠なタンパク質をコードする。PIGAの突然変異によって,血球表面上の全てのGPIアンカー型タンパク質(重要な補体調節タンパク質であるCD59など)が失われる。結果として,血球が補体の活性化に脆弱となり,赤血球の持続的な血管内溶血につながる。
PNHの病態生理
PNHの症状
通常は感染症,輸血,ワクチン接種,または月経などの「トリガー」によりクリーゼが誘発される。腹痛,胸痛,腰痛,および重度の貧血の症状が生じることがあり,肉眼的ヘモグロビン尿と脾腫がよくみられる。血栓症の臨床像は,血栓が生じた血管の部位に依存し,下肢または上肢の腫脹に加えて腹痛や頭痛などの症状が生じる可能性がある。
PNHの診断
フローサイトメトリー
典型的な貧血症状(例,蒼白,疲労,めまい,場合によって低血圧)がみられる患者と血管内溶血を伴う原因不明の正球性貧血の患者では,発作性夜間血色素尿症が疑われ,特に白血球減少症もしくは血小板減少症および/または血栓イベントが認められる場合,その疑いが強くなる。
従来,PNHが疑われる場合は酸溶血(ハム試験)または砂糖水試験が通常最初に行われる検査であった。これらの検査は血清または高濃度のショ糖溶液の酸性化による補体の活性化を利用するものであった。
現在は,PNHの診断はフローサイトメトリーによって行われ,この検査では赤血球または白血球上の特異的な細胞表面タンパク質(CD59およびCD55)が存在しないことを特定する。 この検査は感度および特異度が非常に高い。
骨髄検査は不要であるが,他の疾患を除外するために実施すると,通常は赤芽球過形成を示す。
クリーゼでは肉眼的ヘモグロビン尿が多くみられ,尿には常にヘモジデリンが含まれる。
PNHの治療
補体阻害薬(例,エクリズマブ)
支持療法
クローンサイズが小さく(すなわち,フローサイトメトリーで10%未満),概ね無症状の患者は,一般的に治療を必要としない。以下が治療の適応となる:
症状を伴い輸血を要する溶血
血栓症
他の血球減少
C5に結合して終末補体阻害薬として作用するモノクローナル抗体(例,エクリズマブ)により,本疾患の経過は変化した。治療を必要とする全ての患者に投与される。補体阻害薬は輸血の必要性,血栓塞栓症のリスク,および症状を低減し,生活の質を改善させる。しかしながら,この治療法は髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)の感染リスクを高めるため,治療を開始する14日以上前に髄膜炎菌ワクチンを接種するか,抗菌薬の予防投与を開始するべきである。
支持療法としては,鉄および葉酸の経口補充に加え,ときに輸血が行われる。コルチコステロイド(例,プレドニゾン20~40mgの1日1回経口投与)により,50%を超える患者において症状のコントロールおよび赤血球の数値の安定化が可能であり,コルチコステロイドは補体阻害薬が利用できない場合に使用できる。ただし,長期使用時の有害作用のため,長期治療としてのコルチコステロイドの使用は避けるべきである。
一般に,輸血はクリーゼに対してのみ使用される。輸血前の食塩水による赤血球洗浄はもはや必要ない。急性血栓症に対してはヘパリンとその後にワルファリンまたは他の抗凝固薬が投与されるが,補体阻害薬による治療を開始すれば,その後は通常,ヘパリンの長期使用は必要にならない。
要点
発作性夜間血色素尿症(PNH)は,夜間だけでなく一日のどの時間帯にも溶血を引き起こす可能性がある。
一般的な臨床的特徴としては,ヘモグロビン尿症,汎血球減少症,動脈および静脈血栓症などがある。
静脈血栓症は,例えば肝静脈など,まれな部位に発生する。
症状のある患者は補体阻害薬で治療する。