甲状腺機能亢進症

(甲状腺中毒症)

執筆者:Glenn D. Braunstein, MD, Cedars-Sinai Medical Center
レビュー/改訂 2022年 8月
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甲状腺機能亢進症は,代謝の亢進と血清遊離甲状腺ホルモン値の上昇を特徴とする。症状としては動悸,疲労,体重減少,耐暑性低下,不安,振戦などがある。診断は臨床的に行い,甲状腺機能検査を用いる。治療は原因により異なる。

甲状腺機能の概要も参照のこと。)

甲状腺機能亢進症は,甲状腺の放射性ヨウ素摂取率と血中の甲状腺刺激物質の有無に基づいて分類することができる(様々な病態における甲状腺機能検査の結果の表を参照)。

甲状腺機能亢進症の病因

甲状腺機能亢進症は,血中の甲状腺刺激物質または自律的な甲状腺機能亢進が原因で,甲状腺での甲状腺ホルモンの合成と分泌(サイロキシン[T4]およびトリヨードサイロニン[T3])が亢進した結果生じる。また,合成の亢進がない状態での甲状腺からの甲状腺ホルモン過剰放出によっても引き起こされる。このような放出は一般に様々な甲状腺炎の破壊的変化によってもたらされる。

全体として,最も頻度の高い原因としては以下のものがある:

  • バセドウ病

  • 多結節性甲状腺腫

  • 甲状腺炎

  • 単一の自律的かつ機能が亢進した「ホット」結節

バセドウ病(中毒性びまん性甲状腺腫)は甲状腺機能亢進症の最も一般的な原因であり,甲状腺機能亢進症および以下の1つ以上を伴うことを特徴とする:

  • 甲状腺腫

  • 眼球突出

  • 浸潤性皮膚症(infiltrative dermopathy)

バセドウ病(Graves病とも呼ばれる)は,甲状腺の甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体により引き起こされる疾患であり,抑制的に作用する大半の自己抗体とは異なり,この自己抗体は刺激抗体であるため,T4およびT3が絶えず過剰に合成・分泌される。バセドウ病は(橋本病と同様に)ときに1型糖尿病白斑,若年性白髪,悪性貧血,結合組織疾患,多腺性機能不全症候群など,他の自己免疫疾患を合併することがある。遺伝はバセドウ病のリスクを高めるが,関与する遺伝子は依然として不明である。

浸潤性眼症(infiltrative ophthalmopathy)(バセドウ病の眼球突出の原因)の発生機序は解明が進んでいないが,眼窩の線維芽細胞および脂肪のTSH受容体に対する免疫グロブリンが,炎症性サイトカインの放出,炎症,およびグリコサミノグリカンの蓄積をもたらすことに起因する可能性がある。眼症は甲状腺機能亢進症の発症前に起こることもあれば20年後に起こることもあり,甲状腺機能亢進症の臨床経過とは独立して悪化また改善することが多い。甲状腺機能が正常な状態で典型的な眼症がみられる場合は,甲状腺機能正常(euthyroid)バセドウ病と呼ばれる。

単結節性または多結節性の中毒性甲状腺腫(プラマー病)はときに,TSH受容体遺伝子の突然変異が甲状腺の持続的な活性化を引き起こすことにより生じる。中毒性結節性甲状腺腫の患者には,バセドウ病患者にみられる自己免疫症状や血中抗体はみられない。また,バセドウ病とは対照的に,単結節性および多結節性の中毒性甲状腺腫は通常寛解しない。

炎症性甲状腺疾患(甲状腺炎)としては,亜急性肉芽腫性甲状腺炎,橋本病,橋本病の亜型である無痛性リンパ球性甲状腺炎などがある。亜急性肉芽腫性甲状腺炎では甲状腺機能亢進症の頻度がより高いが,これは合成亢進ではなく,甲状腺の破壊的な変化および貯蔵ホルモンの放出に起因する。引き続いて甲状腺機能低下症が起こることもある。

TSH分泌異常が原因となることはまれである。甲状腺機能亢進症患者のTSHは基本的に検出不能であるが,TSHを分泌する下垂体前葉腺腫を有する患者や下垂体が甲状腺ホルモンに抵抗性を示す患者は例外である。TSHは高値であり,両疾患で産生されるTSHは正常TSHに比べて生物学的活性が高い。TSH分泌性下垂体腺腫の患者では,血中TSHのα-サブユニットが増加する(鑑別診断に役立つ)。

薬剤性の甲状腺機能亢進症は,アミオダロン,がん治療に使用される免疫チェックポイント阻害薬,多発性硬化症の治療に使用されるアレムツズマブ,またはインターフェロンαにより生じることがあり,これらはいずれも甲状腺機能亢進症を伴う甲状腺炎や他の甲状腺疾患を誘発することがある。リチウムは,甲状腺機能低下症を引き起こすことの方が多く,甲状腺機能亢進症を引き起こすことはまれである。これらの薬剤を投与する場合,患者を注意深くモニタリングすべきである。

作為的甲状腺中毒症は,意識的または偶発的な甲状腺ホルモンの過剰摂取によってもたらされる甲状腺機能亢進症である。

ヨウ素の過剰摂取は,甲状腺の放射性ヨウ素摂取率低下を伴う甲状腺機能亢進症を引き起こす。これは,ヨウ素を含有する薬剤(例,アミオダロン)の投与を受けているか,またはヨウ素を多量に含む造影剤を用いた放射線学的検査を受けている,基礎に非中毒性結節性甲状腺腫のある患者(特に高齢患者)でしばしば発生する。病因は,過剰なヨウ素が機能的に自律した(すなわちTSHの調節下にない)甲状腺領域に,ホルモン産生のための基質を供給することによると考えられる。通常,循環血液中に過剰なヨウ素が残存する限り,甲状腺機能亢進症は持続する。

胞状奇胎(奇胎妊娠)および絨毛癌では,弱い甲状腺刺激物質であるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の血清中濃度が上昇する。hCGは妊娠中の第1トリメスターに最大値に達し血清TSHを低下させ,また同時に血清遊離T4の軽度上昇がときに観察される。甲状腺刺激の亢進は,部分的に脱シアル酸化されたhCGの濃度上昇によって引き起こされている可能性があり,この変異型hCGはシアル酸化されたhCGよりも強い甲状腺刺激物質であると考えられる。胞状奇胎妊娠,絨毛癌,および妊娠悪阻に伴う甲状腺機能亢進症は一過性であり,胞状奇胎の娩出,絨毛癌の適切な治療,または妊娠悪阻の緩和により正常な甲状腺機能が回復する。

常染色体顕性遺伝(優性遺伝)の非自己免疫性甲状腺機能亢進症は乳児期に発現する。これは持続的な甲状腺刺激をもたらすTSH受容体遺伝子の突然変異が原因である。

転移性甲状腺癌も考えられる原因である。機能性の転移性濾胞癌,特に肺転移が甲状腺ホルモンを過剰に産生することがまれにある。

卵巣甲状腺腫は,卵巣奇形腫が真の甲状腺機能亢進症を引き起こせるだけの十分な甲状腺組織を含んでいる場合に生じる。放射性ヨウ素の取り込みが骨盤でみられ,甲状腺による取り込みは通常は抑制される。

甲状腺機能亢進症の病態生理

甲状腺機能亢進症では血清T3の上昇がT4の上昇を通常上回るが,これはおそらくT3の分泌の亢進,および末梢組織でのT4からT3への変換によるものである。一部の患者では,T3のみが上昇する(T3中毒症)。

T3中毒症は,バセドウ病や多結節性甲状腺腫,自律性の機能性単発性甲状腺結節など,甲状腺機能亢進症を引き起こす一般的疾患のいずれでも発現する可能性がある。T3中毒症を治療しない場合,通常は甲状腺機能亢進症に典型的な臨床検査値異常(すなわち,T4値およびヨウ素123摂取率の上昇)も呈するようになる。様々な甲状腺炎では一般的に,甲状腺機能亢進の段階がまず認められ,続いて甲状腺機能低下の段階に至る。

甲状腺機能亢進症の症状と徴候

大半の症状および徴候は原因に関係なく同じである。例外として,浸潤性眼症(infiltrative ophthalmopathy)や浸潤性皮膚症(infiltrative dermopathy)などがあり,これらはバセドウ病でのみ生じる。

パール&ピットフォール

  • 甲状腺機能亢進症のある高齢者は,うつ病や認知症に似た症状を呈することがある。

臨床像は劇的なこともあれば,軽微なこともある。甲状腺腫または結節が認められる場合がある。

甲状腺機能亢進症の一般的な症状の多くはアドレナリン系のホルモンに対する感受性亢進に起因するものであり,具体的には神経質,動悸,多動,多汗,暑さに対する過敏性,疲労,食欲亢進,体重減少,不眠症,筋力低下,頻回の排便(ときに下痢)などがみられる。過少月経を呈することもある。

徴候としては,温かく湿った皮膚,振戦,頻脈,脈圧増大,心房細動などがある。

高齢患者,特に中毒性結節性甲状腺腫がある患者は,抑うつ認知症により近い非定型的な症状を呈することがある(無欲性または潜在性の甲状腺機能亢進症)。大半には眼球突出や振戦はみられない。心房細動,失神,意識変容,心不全,および筋力低下などの症状がみられる可能性がより高い。症状および徴候は単一の器官系にのみ関与していることがある。

眼徴候としては凝視,眼瞼遅滞(eyelid lag),眼瞼後退,結膜の軽度充血などがあり,主にアドレナリン刺激過剰によるものである。これらの徴候は治療の成功とともに通常は寛解する。浸潤性眼症(infiltrative ophthalmopathy)はより重篤な状態であり,バセドウ病に特異的で,甲状腺機能亢進症の何年も前または後に生じる可能性がある。特徴としては,眼窩痛,流涙,刺激感,羞明,後眼窩組織の増殖,眼球突出,外眼筋へのリンパ球浸潤があり,このリンパ球浸潤はしばしば複視に至る眼筋の筋力低下をもたらす。

バセドウ病の眼症状
バセドウ病の眼症状—眼球突出
バセドウ病の眼症状—眼球突出

© Springer Science+Business Media

眼球突出の拡大写真
眼球突出の拡大写真

© Springer Science+Business Media

バセドウ病の眼症状―閉眼不能
バセドウ病の眼症状―閉眼不能

© Springer Science+Business Media

バセドウ病の眼症状―眼窩下縁の膨らみ
バセドウ病の眼症状―眼窩下縁の膨らみ

© Springer Science+Business Media

浸潤性眼症(infiltrative ophthalmopathy)
浸潤性眼症(infiltrative ophthalmopathy)

バセドウ病の患者で眼瞼裂の開大,眼瞼後退,斜視,眼球突出などの眼徴候がみられる。

By permission of the publisher. From Mulligan M, Cousins M. In Atlas of Anesthesia: Preoperative Preparation and Intraoperative Monitoring.Edited by R Miller (series editor) and JL Lichtor. Philadelphia, Current Medicine, 1998.

浸潤性皮膚症(infiltrative dermopathy)は脛骨前粘液水腫(粘液水腫は甲状腺機能低下症を示唆するため紛らわしい用語である)とも呼ばれ,特徴としてタンパク質性基質による圧痕の生じない浸潤を通常は前脛骨部に認める。バセドウ眼症がない状態で発現することはまれである。病変は初期にしばしばそう痒および紅斑を伴い,徐々に硬く腫れ上がる。浸潤性皮膚症(infiltrative dermopathy)は甲状腺機能亢進症の何年も前または後に発現することがある。

甲状腺クリーゼ

甲状腺クリーゼは,甲状腺機能亢進症の急性型であり,未治療または治療が不十分な重度甲状腺機能亢進症に起因する。甲状腺クリーゼはまれであり,バセドウ病患者または多結節性の中毒性甲状腺腫患者に生じる(単発性の中毒性結節は比較的まれな原因であり,通常はそれほど重度の症状を引き起こさない)。感染,外傷,外科手術,塞栓症,糖尿病性ケトアシドーシス,または妊娠高血圧腎症によって突然生じる可能性がある。

甲状腺クリーゼでは,突然激しい甲状腺機能亢進症状が生じ,発熱,著明な筋力低下および筋萎縮,大きな感情の揺れを伴う極度の不穏,錯乱,精神症症状,昏睡,悪心,嘔吐,下痢,軽度の黄疸を伴う肝腫大の内のいずれかもしくは複数の症状を伴う。心血管虚脱およびショックを来すこともある。甲状腺クリーゼは生命を脅かす緊急事態であり,迅速な治療を必要とする。

甲状腺機能亢進症の診断

  • TSH

  • 遊離T4に加え,遊離T3または総T3のいずれか

  • ときに放射性ヨウ素摂取率

甲状腺機能亢進症の診断は病歴,身体診察,および甲状腺機能検査に基づく。病因がTSH分泌型の下垂体腺腫または甲状腺ホルモンによる正常な抑制に対する下垂体の抵抗性である場合などのまれな例を除けば,甲状腺機能亢進症のある患者ではTSHが抑制されているため,血清TSH測定が最良の検査となる。

甲状腺機能亢進症では遊離T4が上昇する。しかしながら,重度の全身疾患がある場合とT3中毒症においては,真の甲状腺機能亢進症でありながらT4値が見かけ上正常範囲内になることがある(前者の場合は甲状腺機能正常症候群でみられる偽低値に類似する)。甲状腺機能亢進症の軽微な症候が認められる患者で遊離T4値が正常範囲内かつTSHが低値の場合は,血清T3を測定してT3中毒症を検出すべきであり,高値であれば診断が確定する。

原因はしばしば臨床的に診断できる(例,バセドウ病に特異的な徴候の存在)。そうでなければ,ヨウ素123を使用し甲状腺の放射性ヨウ素摂取率を測定する方法もある。甲状腺機能亢進症がホルモン過剰産生による場合は,甲状腺の放射性ヨウ素摂取率は通常上昇する。甲状腺機能亢進症が甲状腺炎,ヨウ素摂取,または甲状腺ホルモンを用いた過剰治療による場合は,放射性ヨウ素摂取率は低下する。

バセドウ病の評価のためにTSH受容体抗体を測定することができる。バセドウ病の既往がある妊婦では,新生児バセドウ病のリスク評価のために妊娠第3トリメスターで測定を行う;TSH受容体抗体は容易に胎盤を通過し胎児の甲状腺を刺激する。バセドウ病患者の大半に血中抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体がみられ,より少数に抗サイログロブリン抗体が認められる。

不適切なTSH分泌はまれである。血中遊離T4およびT3の上昇,ならびに血清TSH値正常または上昇が甲状腺機能亢進症とともに認められる場合に診断が確定する。

作為的甲状腺中毒症が疑われる場合には,血清サイログロブリンを測定してもよい;血清サイログロブリンは通常,甲状腺機能亢進症の他の全ての原因における場合とは異なり,低値または正常低値を示す。

無症候性甲状腺機能亢進症

無症候性甲状腺機能亢進症とは,血清遊離T4およびT3が正常範囲内にあり,かつ甲状腺機能亢進の症状が全くないか,わずかにみられる患者において血清TSHが低値となる状態である。

無症候性甲状腺機能亢進症は,無症候性甲状腺機能低下症と比べると,はるかにまれである。

無症候性甲状腺機能亢進症の患者の多くはレボチロキシンを服用している。無症候性甲状腺機能亢進症のその他の原因は,臨床的に明らかな甲状腺機能亢進症の原因と同じである。

血清TSH値が0.1μU/mL(0.1mU/L)未満の患者では,心房細動の発生率上昇(特に高齢患者),骨密度の低下,骨折の増加,および死亡率の上昇がみられる。正常範囲をわずかに下回る程度の血清TSH値を示す患者で,これらの特徴がみられる可能性はより低い。

甲状腺機能亢進症の治療

甲状腺機能亢進症の治療は原因により異なるが(1),以下のものがある:

  • 放射性ヨウ素

  • チアマゾールまたはプロピルチオウラシル

  • β遮断薬

  • ヨウ素

  • 手術

放射性ヨウ化ナトリウム(ヨウ素131,放射性ヨウ素)

米国では,ヨウ素131が甲状腺機能亢進症の最も一般的な治療である。放射性ヨウ素は,小児を含む全てのバセドウ病患者および中毒性結節性甲状腺腫患者に対する第1選択の治療としてしばしば推奨される。ヨウ素131は,甲状腺の反応が予測できないため用量調節が困難である;一部の医師は標準量として8~15mCiを投与する。甲状腺の推定サイズおよび24時間の摂取率に基づいて用量を調節し,甲状腺組織1g当たり80~120μCi/gの用量を投与する医師もいる。

甲状腺機能の正常化に十分なヨウ素131が投与されると,約25~50%の患者で1年後に甲状腺機能が低下し,その割合は年々上昇を続ける。したがって,大半の患者では最終的に甲状腺機能が低下する。しかし,低用量の場合は再発率が上昇する。10~20mCiなどのより高用量を投与すると,6カ月以内にしばしば甲状腺機能低下症が発生するため,アブレーション治療(例,ヨウ素131)が好まれるアプローチになっている。

放射性ヨウ素は,母乳中に移行して乳児に甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があるため,授乳中は使用されない。放射性ヨウ素は胎盤を通過し,胎児に重度の甲状腺機能低下症を引き起こす可能性があるため,妊娠中は使用されない。腫瘍,白血病,甲状腺癌,過去に甲状腺機能亢進症であった女性がその後妊娠し生まれた小児の先天異常などの発生頻度を,放射性ヨウ素が増加させるという証拠はない。

チアマゾールおよびプロピルチオウラシル

これらの抗甲状腺薬は甲状腺ペルオキシダーゼを阻害し,ヨウ素の有機化を抑制し,カップリング反応を減少させる。高用量のプロピルチオウラシルは末梢でのT4からT3への変換も阻害する。

チアマゾールが望ましい薬剤である。チアマゾールの通常の開始量は5~20mg,1日2~3回の経口投与である。TSH値の正常化はT4およびT3値の正常化よりも1週間以上遅れる。したがって,T4およびT3値が正常化したら,甲状腺機能低下症の発生を回避するために最小有効量(通常はチアマゾール2.5~10mg,1日1回)まで減量する。一般に2~3カ月でコントロールが得られる。チアマゾールの維持量を臨床状況に応じて1年間以上継続してもよい。欧州で広く用いられているが米国では入手できないカルビマゾールは,速やかにチアマゾールに変換される。通常の開始量はチアマゾールの開始量と同様であり,維持量は2.5~10mg,1日1回,または2.5~5mg,1日2回の経口投与である。

プロピルチオウラシルは,40歳未満の患者の一部,特に小児で重度の肝不全がみられることから,現在では特別な状況(例,妊娠第1トリメスター,甲状腺クリーゼ)でのみ推奨されている。プロピルチオウラシルの通常の開始量は100~150mg,8時間毎の経口投与である。プロピルチオウラシルを150~200mg,8時間毎まで増量することで,迅速なコントロールを達成することができる。このような用量やさらなる高用量(最大400mg,8時間毎)は一般に,甲状腺クリーゼがみられる患者などの重症例において,T4からT3への変換を阻害するための使用に限定されている。プロピルチオウラシルの維持量は50mg,1日2回または1日3回である。

バセドウ病患者の約20~50%では,いずれかの薬剤を1~2年間使用した後に寛解状態が維持される。甲状腺の大きさが正常まで回復するか著明に縮小する,血清TSH値が正常範囲内に戻る,治療前の甲状腺機能亢進症がさほど重度ではない,などは長期寛解の良好な予後を示唆する徴候である。抗甲状腺薬療法とレボチロキシンの併用では,バセドウ病患者の寛解率は改善しない。中毒性結節性甲状腺腫が寛解に至ることはまれであるため,抗甲状腺薬療法は外科治療またはヨウ素131療法の前処置でのみ投与される。

有害作用としては発疹,アレルギー反応,肝機能異常(プロピルチオウラシルによる肝不全を含む)や,約0.1%の患者にみられる可逆性の無顆粒球症などがある。患者が1つの薬剤にアレルギーを示したときには別の薬剤に変更してもよいが,交差感受性が生じる可能性がある。無顆粒球症が生じた場合,他の薬剤への変更を行うことはできない;別の治療法(例,放射性ヨウ素,外科手術)を施行すべきである。

パール&ピットフォール

  • 甲状腺ペルオキシダーゼ阻害薬(チアマゾールまたはプロピルチオウラシル)の使用に伴い無顆粒球症がみられた場合は,同クラスの別の薬剤を使用するのは避け,代わりに別の治療法(例,放射性ヨウ素,手術)を選択すること。

生じうる有害作用やその他の特徴は2つの薬剤間で異なり,それぞれの適応の指針となっている。チアマゾールは1日1回の投与でよく,アドヒアランスを向上させる。さらに,チアマゾールを20mg/日未満で投与する場合は,無顆粒球症の発症は比較的まれである;プロピルチオウラシルではいかなる用量でも無顆粒球症が起こりうる。

チアマゾールは,胎児や乳児に合併症を引き起こすことなく妊娠中および授乳中の女性に支障なく投与されているが,まれに,新生児の頭皮欠損および消化管異常や,まれな胎児障害との関連が報告されている。こうした合併症のため,妊娠第1トリメスターにはプロピルチオウラシルが使用される。

プロピルチオウラシルは甲状腺クリーゼ治療に選択されるが,これは,選択される高用量(800mg/日以上)では甲状腺での産生減少に加えて末梢でのT4からT3への変換が部分的に阻害されるからである。

高用量プロピルチオウラシルと,同じくT4からT3への変換を強力に阻害するデキサメタゾンとの併用は,甲状腺クリーゼの患者でみられるような重度の甲状腺機能亢進症状を1週間以内に緩和し,血清T3値を正常範囲内に戻すことが可能である。

β遮断薬

アドレナリン刺激による甲状腺機能亢進症の症候はβ遮断薬に反応することがあり,プロプラノロールが最も汎用されているが,アテノロールまたはメトプロロールが望ましい場合もある。

その他の症状は典型的には反応しない。

  • β遮断薬に一般的に反応する症状:頻脈,振戦,精神症状,眼瞼遅滞(eyelid lag);まれに,耐暑性低下(heat intolerance)と発汗,下痢,近位筋ミオパチー

  • β遮断薬に一般的に反応しない症状:甲状腺腫,眼球突出,体重減少,血管雑音,酸素消費量の亢進,および循環血液中のサイロキシン濃度上昇

プロプラノロールは甲状腺クリーゼに適応となる(甲状腺クリーゼの治療の表を参照)。経口投与では通常2~3時間以内に,静注では数分以内に急速に心拍数を減少させる。エスモロールは,慎重な用量調節およびモニタリングを要するため,集中治療室でのみ使用すべきである。また,β遮断薬は甲状腺機能亢進症に伴う頻脈,特に高齢患者での頻脈に適応となるが,これは抗甲状腺薬が十分な効果を発揮するまでに通常数週間を要するからである。β遮断薬が禁忌の患者では,カルシウム拮抗薬により頻拍性不整脈を調節することがある。

ヨウ素

薬理学的用量のヨウ素は,T3およびT4の放出を数時間以内に抑制してヨウ素の有機化を阻害するが,数日から1週間持続する一過性の効果であり,その後これらの効果は通常消失する。ヨウ素剤は,甲状腺クリーゼの緊急治療や,甲状腺以外の緊急手術を受ける甲状腺機能亢進症患者甲状腺切除術を行う甲状腺機能亢進症患者に対する術前処置(甲状腺の血管分布を減少させるため)に用いられる。ヨウ素剤は一般的に甲状腺機能亢進症の治療ではルーチンには使用しない。通常量は,飽和ヨウ化カリウム溶液2~3滴(100~150mg)を,1日3回または1日4回経口投与するか,生理食塩水1Lに溶解したヨウ化ナトリウム0.5~1gを1日1回緩徐に静注する。

ヨウ素療法の合併症としては,唾液腺の炎症,結膜炎,発疹などがある。

手術

外科手術は,抗甲状腺薬治療後に甲状腺機能亢進症が再発したがヨウ素131による治療を拒否するバセドウ病の患者,抗甲状腺薬に耐えられない患者,非常に大きな甲状腺腫を有する患者,中毒性甲状腺腫および多結節性甲状腺腫を有する一部の若年患者に適応となる。外科手術は巨大結節性甲状腺腫を有する高齢患者で行われることもある。

通常,手術によって正常な機能が回復する。術後の再発率は2~16%と幅がある;甲状腺機能低下症のリスクは,手術の範囲と直接関連している。声帯麻痺および副甲状腺機能低下症はまれな合併症である。甲状腺の血管分布を減少させるため,術前にヨウ化カリウム飽和溶液3滴(約100~150mg),1日3回を10日間経口投与すべきである。ヨウ素剤の投与前に患者の甲状腺機能を正常化しておくべきであるため,まずチアマゾールを投与する必要がある。デキサメタゾンを追加して迅速に甲状腺機能を正常化させることもできる。過去に甲状腺切除術または放射性ヨウ素療法を受けた患者では,前頸部に対する外科処置がより困難になる。

甲状腺クリーゼの治療

甲状腺クリーゼに対する治療レジメンを甲状腺クリーゼの治療の表に示す:誘因にも対処すべきである。

表&コラム
表&コラム

浸潤性皮膚症(infiltrative dermopathy)および浸潤性眼症(infiltrative ophthalmopathy)の治療

浸潤性皮膚症(infiltrative dermopathy)(バセドウ病における)では,病変への局所コルチコステロイドまたはコルチコステロイド注射により皮膚症が緩和される場合がある。dermopathyは何カ月か後または何年か後に自然寛解することがある。

眼症は内分泌医と眼科医が共同で治療に当たるべきであり,セレン,コルチコステロイド,眼窩照射,および外科手術が必要になることがある。眼症の治癒または進行の予防に,外科的甲状腺切除術が役立つ可能性がある。テプロツムマブは,インスリン様成長因子1(IGF-1)受容体阻害薬であり,中等度の眼症に対して非常に効果的な治療薬である(2)。活動性の眼症がある場合,放射性ヨウ素療法を行うと眼症の進行が加速する可能性があるため,活動期には禁忌である。

無症候性甲状腺機能亢進症の管理

レボチロキシンを服用している無症候性甲状腺機能亢進症の患者では,甲状腺癌があってTSH抑制の維持を目的としているのでない限り,用量の減量が最も適切な管理方針である。

内因性の無症候性甲状腺機能亢進症がある患者(血清TSHが0.1mU/L未満),特に心房細動または骨密度低下がみられる患者が治療適応となる。通常の治療法はヨウ素131であるが,低用量のチアマゾールも効果的である。

治療に関する参考文献

  1. 1.Ross DS, Burch HB, Cooper DS, et al: 2016 American Thyroid Association Guidelines for Diagnosis and Management of Hyperthyroidism and Other Causes of Thyrotoxicosis.Thyroid 26(10):1343–1421, 2016. doi: 10.1089/thy.2016.0229

  2. 2.Douglas RS, Kahaly GJ, Patel A, et al: Teprotumumab for the treatment of active thyroid eye disease.N Engl J Med 382(4):341–352.2020.doi: 10.1056/NEJMoa1910434

要点

  • 甲状腺機能亢進症には多くの原因があるが,最も頻度が高いのはバセドウ病であり,これは異常を来した甲状腺での過剰なホルモン合成により引き起こされる。

  • 甲状腺機能亢進症のその他の原因としては,正常な甲状腺の過度の刺激(例,甲状腺刺激ホルモン[TSH],ヒト絨毛性ゴナドトロピン[hCG],ヨウ素剤またはヨウ素含有薬剤の摂取による),甲状腺の異常による過剰なホルモン合成(例,中毒性結節性甲状腺腫),甲状腺ホルモンの過剰放出(例,甲状腺炎によるもの),甲状腺ホルモンの過剰摂取などがある。

  • 様々な症状・徴候があり,頻脈,疲労,体重減少,神経過敏,振戦などがあるほか,バセドウ病患者では眼球突出と浸潤性皮膚症(infiltrative dermopathy)を来す場合もある。

  • 遊離T4(サイロキシン)や遊離または総T3(トリヨードサイロニン)が高値となり,TSHは抑制される(甲状腺機能亢進症の原因が下垂体にあるまれな例は例外である)。

  • ホルモン合成はチアマゾール(または特定の症例ではプロピルチオウラシル)で抑制することができ,アドレナリン性の症状はβ遮断薬で緩和でき,長期治療には放射性ヨウ素による甲状腺アブレーションか手術が必要になることがある。

  • 甲状腺クリーゼ(未治療または治療が不十分な重度の甲状腺機能亢進症により生じる)は,生命を脅かす緊急事態であり,重度の甲状腺機能亢進症状を呈し,心血管虚脱やショックに至ることがあり,抗甲状腺薬,ヨウ素剤,および循環補助を併用して治療する。

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