自殺行動

執筆者:Christine Moutier, MD, American Foundation For Suicide Prevention
レビュー/改訂 2023年 7月
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自殺(suicide)とは,死に至ることを意図した自らに害を加える行為によって引き起こされる死のことである。自殺行動(suicidal behavior)には,自殺企図や自殺準備行動から自殺既遂までの一連の行動が包括される。希死念慮(suicidal ideation)とは,自殺について考える,検討する,または計画する過程を指す。

科学,権利擁護,およびスティグマ低減の進歩により,自殺に関連する用語の多くに進歩がみられている(上述の概念もこれに含まれる):

  • 自殺意図(suicidal intent):自殺行動により自らの人生を終わらせようとする意図

  • 自殺企図(suicide attempt):死に至らなかったが,傷害を引き起こす可能性がある行動で,結果として死に至る意図をもって自己に向けられたもの

  • Suicide attempt survivor:自殺念慮または自殺企図を自ら経験した個人;自殺予防の啓発活動でしばしば重要な役割を果たし,ときに他の擁護者と協力する

  • Suicide loss survivor:自殺により死亡した個人の家族,友人,または同僚

自殺に関する専門用語には,ほかにも3つの重要な変更が加えられている:

  • 自殺により死亡した(died by suicide):「自殺した(committed suicide)」よりもこの表現の方が望ましい。他の平易な表現(例,「killed yourself」,「ended her life」,「taken his life」)も許容される。

  • 非自殺性自傷(nonsuicidal self-injury:NSSI)および自傷行動:これらの行動は,自殺意図を伴わずに故意に自らを傷つける行為と定義される;自己切傷(self-cutting)が最も一般的な形態であるが,熱傷,掻破,殴打のほか,創傷治癒を故意に妨げる行為も別の形態の自傷行動である。その行動自体に自殺意図はない一方,NSSIのパターンがみられる個人は長期的な自殺リスクが高いことが明らかにされている。

  • 自殺傾向(suicidality):この用語は自殺体験であった可能性がある一連の行動を指して臨床現場の専門職の間でしばしば用いられている;希死念慮(suicidal ideation)や自殺企図があったのか,希死念慮または自殺企図の性質が慢性/反復性であったのか,単一の事象であったのか複数の事象であったのかは指定されない。多くの場合,目の前にある実際の問題(例,希死念慮や自殺企図)を明確にし,関連する詳細情報を考慮に入れれば,コミュニケーションをより効果的かつ明確なものにすることができる。

National Action Alliance for Suicide Prevention: Transforming Health Systems Initiative Work Group. Recommended standard care for people with suicide risk: Making health care suicide safe. Washington, DC: Education Development Center, Inc, 2018も参照のこと。)

自殺行動の疫学

自殺行動に関する統計は,主として死亡診断書と検死時に記録された報告に基づいており,実際の発生率を過小評価している。米国では,より信頼性の高い情報を収集するため,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease control and prevention:CDC)によってNational Violent Death Reporting System(NVDRS)と呼ばれる州単位の制度が構築され,暴力死(殺人および自殺)の原因をより詳細に解明するべく,個々の暴力事件について様々な情報源から情報収集が行われている。NVDRSは現在,米国の全50州,コロンビア特別区,およびプエルトリコで施行されている。

米国では,2020年に第3位の死因となったCOVID-19によって自殺が死因のトップ10から押し出されるまでの数十年間にわたり,自殺が死因の第10位であった(1, 2)。米国の自殺率は1999年から2018年にかけて全体で36%(年間10万人当たり10.2人から14.2人へ)上昇した後,2019年と2020年に2年連続で低下した。米国の2021年の自殺データでは,残念なことに,2020年から2021年にかけて4%の増加が認められた(2, 3)。自殺は複数の因子が関係する複雑な健康アウトカムであることが知られているため,人口レベルでみられる発生率の変化について理由を特定するのは困難であるが,そうした変化には,精神医療や人に助けを求めることに対する文化的態度,精神医療へのアクセス,致死的な手段へのアクセス,その他多くの影響などの因子が関連していると考えられている。外的な社会的傾向や個人的な体験が,心的外傷の体験や自殺リスクを増大させうる遺伝的素因の存在などの個人の内的な危険因子と相互作用すると考えられている(3)。

2021年の米国では,自殺率が比較的高かった年齢層は25~34歳と75~84歳の成人であったが,最も高かったのは85歳以上の成人であった。人種および民族集団別かつ年齢別で自殺率が最も高い集団は,アメリカンインディアンの若者である(2)。しかしながら,自殺による全体的負担の点で見ると,米国人口の約3分の1を構成する白人男性が米国で発生する自殺の10例中7例を占めている。新たに得られたデータからは,黒人,ヒスパニック系,およびアジア系アメリカ人でも自殺率が上昇していることが示されている(4)。自殺に関する最新の統計については,American Foundation for Suicide Preventionが提供しているデータを参照のこと。

若年者の自殺率は,10年以上にわたる着実な上昇の後に1990年代に一旦低下したが,銃を用いた自殺の驚くべき増加により2000年代前半から再び上昇に転じている。小児および青年における自殺率の上昇傾向には,以下のような数多くの影響が関連している可能性が高い(5):

ソーシャルメディアの役割に関する研究が進展しており,これまでに,ソーシャルメディアの使用が気分,睡眠,および希死念慮に及ぼす悪影響から,一部の人々では実際には防御的となりうる対人関係の良好なつながりに至るまで,ソーシャルメディアの使用による複雑かつ多様な影響が明らかにされている(6)。(病因も参照のこと。)新たなデータから,抗うつ薬の使用に関連した小児および青年における自殺傾向のリスク増大について米国規制当局が発出した黒枠警告(boxed warning)が及ぼした潜在的影響も示唆されており,この警告がうつ病治療の減少につながった可能性がある(7, 8)。

男女別の自殺による死亡数は男性が女性を上回っており,男女比は世界全体で約2.5:1~4:1,米国ではおよそ4:1となっている。その理由は不明であるが,可能性のある説明として以下のものがある:

  • 男性は悩んでいるときに人に助けを求めることが少ない。

  • 男性はアルコール使用症および物質使用症の有病率が高く,これらはともに衝動的な行動を誘発する。

  • 男性は女性より攻撃性が高く,自殺を試みる際により致死的な手段を選択する傾向がある。

  • 男性の自殺件数には,女性より男性の占める割合が高い軍人および退役軍人の自殺が含まれている。

自殺に関連する一連の経験としてみると,推定1400万人の米国人が希死念慮を経験し,140万人の米国人成人が自殺企図を起こし,毎年50,000人弱が自殺により死亡している。希死念慮は,一般集団でもかなり頻度の高い経験であり,臨床の標本ではより高い頻度でみられる。自殺を考える人のうち,実際に自殺念慮や自殺衝動に基づいて行動を起こす人はごく少数である。医学的に重篤な自殺企図でも,生存した人の90%以上がその後に自殺で死亡していない。年代別では青年および若年成人で希死念慮の発生率が最も高い;女性は男性より自殺企図が多いが,男性は自殺による死亡率が女性の3~4倍である。高齢者では,希死念慮は比較的まれであるが,自殺企図の4例に1例が死に至る。

遺書を残すのは自殺既遂者の約6人に1人である。その内容から,自殺につながった要因(例,精神疾患,絶望感,対処法の選択肢に関する認知の狭まり,他者の重荷になっているという感覚,孤立感)について手がかりが得られることがある。それらが他の生活上のストレス因子や喪失と相互作用を起こすことで,自殺が促進されることがある。

群発自殺(suicide contagion)とは,ある地域,学校,または職場において1人の自殺が他の人の自殺を生み出しているように見える現象のことである。大々的に報道された自殺が非常に広範な影響を及ぼすことがある。影響を受けるのは通常,すでに脆弱な状態にある人々である。ヒトは互いを模倣する傾向のある社会的な生物であり,青年期は心理的および神経学的発達が進む段階であるため,青年は成人より模倣をする可能性が高い。青年の自殺全体のうち1~5%で群発自殺が一因になっていると推定されている。

群発自殺は,友人の自殺企図や自殺死への曝露,有名人の自殺の大々的なメディア報道,または人気の高いメディアでの自殺の生々しい,あるいはセンセーショナルな描写によって起こる可能性がある。逆に,自殺に関連してポジティブなメッセージを伝えるメディア報道によって,脆弱な状態にある若者における群発自殺のリスクや影響を軽減することができる。ポジティブなテーマを設定した自殺予防のメッセージでは,助けや治療を求めることに関して偏見を生み出さない形で,精神衛生上の問題を人生や人の健康体験の一部として描写するのが一般的である。自殺の発生後に学校または職場で出すポジティブなメッセージでは,コミュニティの一員の悲劇的な喪失について明確に伝えるとともに,悲嘆に暮れるコミュニティへの支援を表明し,支援のための資源を提供するものでなければならない。その喪失に関するデブリーフィングのために自殺について話し合うときにリーダーが用いる言葉が(書面上であれ対面であれ)重要である。コミュニケーションに関するより詳細な情報と文書でのコミュニケーションのためのテンプレートについては,American Foundation for Suicide Prevention( afsp.org )から無料で入手できるAfter A Suicide Toolkitsを参照のこと。

群発自殺は学校や職場でも拡大する可能性があり,これらの環境では,将来の自殺発生を防止するためのポストベンションガイドラインを導入して遵守することが重要である。

その他のカテゴリーの自殺はまれである。具体的には以下のものがある:

  • 集団自殺(group suicides)

  • 拡大自殺(murder/suicides)

  • 「警官による自殺(suicide by cop)」(例えば武器を振り回すなどの行為をすることで,警察官などの法執行官に致死的な力を伴う行為を誘発させる状況)

疫学に関する参考文献

  1. 1.Ahmad FB, Anderson RN: The leading causes of death in the US for 2020.JAMA 325(18):1829-1830, 2021.10.1001/jama.2021.5469

  2. 2.Stone DM, Mack KA, Qualters J: Notes from the field: Recent changes in suicide rates, by race and ethnicity and age group — United States, 2021.MMWR Morb Mortal Wkly Rep 72:160–162, 2023.doi: 10.15585/mmwr.mm7206a4

  3. 3.Moutier C, Pisani A, Stahl S: Stahl’s Handbooks: Suicide Prevention.Cambridge University Press, 2021.

  4. 4.Sheftall AH, Vakil F, Ruch DA, et al: Black youth suicide: Investigation of current trends and precipitating circumstances.J Am Acad Child & Adolesc Psychiatry 61(5):662-675, 2022.doi: https://doi.org/10.1016/j.jaac.2021.10.012

  5. 5.Ruch DA, Heck KM, Sheftall AH, et al: Characteristics and precipitating circumstances of suicide among children aged 5 to 11 years in the United States, 2013-2017.JAMA Netw Open4(7):e2115683, 2021.doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.15683

  6. 6.Czyz EK, Liu Z, King CA: Social connectedness and one-year trajectories among suicidal adolescents following psychiatric hospitalization.J Clin Child Adolesc Psychol 41(2):214-226, 2012.doi: 10.1080/15374416.2012.651998

  7. 7.Libby AM, Brent DA, Morrato EH, et al: Decline in treatment of pediatric depression after FDA advisory on risk of suicidality with SSRIs.Am J Psychiatry 164(6):884-891, 2007.doi: 10.1176/ajp.2007.164.6.884

  8. 8.Friedman R: Antidepressants’ black-box warning – 10 years later.N Engl J Med 371:1666-1668, 2014.doi: 10.1056/NEJMp1408480

自殺行動の病因

自殺は,一連の遺伝的,環境的,心理的,および行動的因子が関係する複雑な健康関連事象である。心理学的剖検研究では,個々の自殺事例において,死亡者が自殺の危険因子を複数経験していたことが明確に示されている。精神疾患のある患者では,年齢および性別でマッチングした対照と比較して,自殺死がはるかに高い頻度でみられる(1)。一部の研究では,自殺により死亡した人々の90%近くが死亡時点で診断可能な精神医学的病態を有していた(2)。(自殺における精神疾患の頻度の表を参照のこと。)

表&コラム
表&コラム

自殺の危険因子のうち最も頻度が高く,影響が強く,治療可能であるものの1つが,うつ病である。

うつ病患者では,うつ病の重症度が高まっている時期と他の複数の危険因子が重複する時期に,自殺リスクが高まる可能性がある。また,重度の不安,衝動性,物質使用,および睡眠障害がうつ病または双極症の抑うつの一部である場合には,自殺の頻度がより高まるようである。若年者では,抗うつ薬の服用開始後に自殺念慮(およびまれに自殺企図)のリスクが高まる可能性がある(うつ病の治療と自殺のリスクおよび自殺リスクと抗うつ薬を参照)。薬物療法や何らかの精神療法でうつ病を効果的に治療することが,全体的な自殺リスクを低減する効果的な方法であると考えられている。

自殺のその他の危険因子としては以下のものがある:

  • 他の大半の重篤な精神疾患

  • 過去の自殺企図

  • パーソナリティ症(例,ボーダーラインパーソナリティ症

  • 衝動性および攻撃性

  • 小児期の心的外傷体験

  • 自殺および/または精神疾患の家族歴

  • 飲酒,違法薬物および処方鎮痛薬の使用

  • 重篤または慢性の身体的病態(例,慢性疼痛,外傷性脳損傷

  • 喪失の時期(例,家族または友人の死)

  • 人間関係の衝突(例,離婚)

  • 職業面の問題(例,失業)

  • キャリア移行の期間(例,兵役上の地位が現役から退役軍人または軍人退職者に変更される期間)

  • 経済的ストレス(例,景気の悪化,不完全雇用)

  • いじめまたはその他の屈辱的体験(例,ネットいじめ,社会的拒絶,差別,職業的または法的な問題)

自殺の危険因子および警告徴候の表を参照のこと。)

表&コラム
表&コラム

統合失調症患者の自殺による死亡率は一般集団と比較してはるかに高く,統合失調症患者の10%もが自殺により死亡している。統合失調症患者における自殺リスクの促進因子としては,疾患経過の初期であること,抑うつエピソード,幻覚,効果的な治療へのアクセスの欠如またはアドヒアランス不良,身体障害,絶望,アカシジアなどがある。ほかによく知られている自殺の心理社会的危険因子として,人間関係の破綻,失業,喪失などがある。

アルコールおよび違法薬物は,脱抑制および衝動性を増強すると同時に,気分を悪化させることがある。自殺により死亡する人の30~40%は企図前に飲酒しており,そのうち約半数は自殺企図時に酩酊状態であった。一般に衝動的行動をとりやすい傾向がある若年者は,特にアルコールの影響を受けやすい;中等度の酩酊状態はより致死的な自殺方法の選択につながる可能性がある(3)。しかしながら,アルコール使用症の患者は,酔っていない状態でも自殺のリスクが高い。

高齢者では,約20%の自殺に重篤な身体的病態(特に痛みを伴う慢性疾患)が寄与している。最近診断されたまたは新たに発症した身体的病態も自殺リスクを上昇させる可能性がある(例,糖尿病,痙攣性疾患,疼痛,多発性硬化症,がん,感染症,HIV/AIDS)。これらの病態は生理的な脳機能に直接影響を及ぼし,ひいては自殺リスクを高める可能性がある。身体障害,疼痛,または新たに診断された重篤な病態による心理的影響も,自殺リスクを上昇させる可能性がある。

パーソナリティ症の患者,特にストレス耐性や対人反応パターンに問題(自傷行動や攻撃性を含む)がある可能性が高いボーダーラインパーソナリティ症または反社会性パーソナリティ症の患者は,自殺をしやすい傾向がある。

小児期の心的外傷体験(特に性的もしくは身体的虐待または親との離別によるストレス)は,自殺企図のほか,おそらくは自殺既遂と関連する。

自殺リスクの遺伝学は重要な研究分野の1つであり,遺伝的因子は自殺リスクに影響を及ぼすようである。自殺リスクは家系内で共有される可能性があるが,遺伝子だけではそのリスクの一部しか説明できないようである(4)。自殺,自殺企図,または精神疾患の家族歴は自殺リスクの増加と関連している。

また,遺伝的因子と環境的因子の相互作用が自殺リスクに寄与することを示唆するエビデンスもある(5)。遺伝子発現に影響を及ぼすエピジェネティック変化(例,DNAメチル化)が神経生理,認知,またはストレス調節に影響を及ぼすことで,自殺リスクを増減させる可能性がある。このことは,心的外傷などのネガティブな体験と,逆に精神療法の社会的支援などのポジティブな体験が,実際に遺伝子発現を変化させ,個人のレジリエンスや自殺リスクに有意な影響を与える可能性があることを意味している。

衝動性や認知的硬直(cognitive rigidity),対人拒絶感受性(interpersonal rejection sensitivity),重度の神経症傾向などの心理学的特性もリスクを増大させる可能性がある。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Chesney E, Goodwin GM, Fazel S: Risks of all-cause and suicide mortality in mental disorders: a meta-review.World Psychiatry  3(2):153-160, 2014. doi: 10.1002/wps.20128

  2. 2.Arsenault-Lapierre G, Kim C, Turecki G: Psychiatric diagnoses in 3275 suicides: a meta-analysis.BMC Psychiatry 4:37, 2004. doi: 10.1186/1471-244X-4-37

  3. 3.Park CHK, Yoo SH, Lee J, et al: Impact of acute alcohol consumption on lethality of suicide methods.Compr Psychiatry 75:27-34, 2017.doi: 10.1016/j.comppsych.2017.02.012

  4. 4.Galfalvy H, Haghighi F, Hodgkinson C, et al: A genome-wide association study of suicidal behavior.Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet 168(7):557-563, 2015.doi:10.1002/ajmg.b.32330

  5. 5.Cheung S, Woo J, Maes MS, et al: Suicide epigenetics, a review of recent progress.J Affect Disord 265:423-438, 2020. doi: 10.1016/j.jad.2020.01.040

自殺の方法

自殺方法の選択は,文化的因子や自殺手段の利用可能性,意図の真剣さなど,数多くの要因によって決定される。例えば,アジアおよび西太平洋諸国の農村地域では,殺虫剤での服毒が比較的多くみられる(1)。生存がほぼ不可能な方法(例,高所からの飛び降り)もあれば,救命の可能性がある方法(例,違法薬物または薬剤の摂取)もある。しかしながら,結果として致死的でないと判明した方法を用いたことは,自殺の意図があまり真剣なものでないということを必ずしも意味しない。

自殺企図に関しては,違法薬物,薬剤,または毒物の摂取が最もよく用いられる方法である。銃撃や縊死などの暴力的な方法は,自殺企図ではあまり一般的でない。

米国における自殺既遂の約50%は銃器によるものであるが,この方法は女性より男性で選択されやすい。性別,人種,および民族に応じた自殺率の傾向を調査した新たなデータが,米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)によって公開されている(2)。

方法に関する参考文献

  1. 1.Mew EJ, Padmanathan P, Konradsen F, et al: The global burden of fatal self-poisoning with pesticides 2006-15: Systematic review.J Affect Disord 219:93-104, 2017. doi: 10.1016/j.jad.2017.05.002

  2. 2.QuickStats: Age-adjusted suicide rates, by sex and three most common methods — United States, 2000–2018.MMWR Morb Mortal Wkly Rep 69:249, 2020.doi: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm6909a7

自殺行動の管理

  • 自殺リスク評価

  • 安全計画

  • 綿密なフォローアップおよびモニタリング

National Action Alliance for Suicide Prevention(Action Alliance)は,自殺リスクのある患者に対して推奨されるケアの標準に関するガイドラインを公表している。具体的には,スクリーニング,自殺リスク評価,ならびにプライマリケア,行動医療(behavioral health),および救急部門での診療に関する推奨事項が提示されている(1)。

自殺リスクは動的であることを認識しておくべきである。急性のリスクは一般に短期間(数時間から数日)しか持続しない。自殺の大半では,急性リスクのある期間中に患者は様々な医療現場を受診していたが,そこでは自殺リスクは検出されなかった。医療従事者(行動医療の分野に属さない従事者も含む)が利用できる自殺関連リスクを低減する戦略として,以下のものがある:

  • 思いやりのある非判断的な対応をとる

  • 簡易介入(brief intervention)を行う(例,安全計画および致死的手段に関するカウンセリング[lethal means counseling])

  • 患者の家族および親しい友人とコミュニケーションをとる

  • 米国では988やSuicide & Crisis Lifelineなどの危機対応およびその他の精神保健の資源を提供する【訳注:日本では「いのちの電話」https://www.inochinodenwa.org/lifeline.php】

  • 適切なケアを行える機関に患者を紹介する

  • 来院間に患者をフォローアップする(場合により電話も用いる)

特定の期間に自殺リスクの上昇との関連が認められる。特に,希死念慮または自殺企図で入院した患者が救急部門や精神科病院から退院して数日ないし数週間の間はリスクが高くなっており,したがって,介入の第一のポイントとなる(2)。

大半の司法管轄区域では,患者に差し迫った自殺の可能性があることを予見した医療従事者に対して,介入の権限をもつ機関に報告することが求められている。これを怠ると,刑事および民事訴訟につながる可能性もある。リスクのある患者は,安全な環境下(しばしば精神科医療施設)に置かれるまで1人にしてはならない。必要であれば,そのような患者は訓練を受けた専門職(例,救急救命士,警察官)の手で安全な場所に搬送するべきである。米国,英国,ニュージーランド,オーストラリア,その他の国々で展開されているアドボカシー活動では,救急部門や法執行機関への依存から脱却して,機動的な危機対応ユニットや包括的な危機対応ケアなど,より強固で多層的な一連の精神医療資源への依拠に移行するために危機対応システムを改革することが目的とされている。

自殺の素振りであろうと自殺企図であろうと,いかなる自殺行為も真剣に受けとめなければならない。重篤な自傷行為がみられる患者には,必ず身体的損傷に対する評価および治療を行うべきである。

死に至る可能性がある薬物の過量服薬が確認された場合は,解毒剤を投与し,支持的治療を行うための処置を直ちに講じるべきである(中毒を参照)。

最初の評価は,自殺行動の評価および管理について訓練を受けた者であれば,あらゆる医療従事者が行うことができる。しかしながら,全例で徹底的な自殺リスク評価(通常は精神科医,心理士,または訓練を受けたその他の精神医療専門職が行う)を可及的速やかに行うべきである。治療のために任意または強制の治療が必要か否か,さらには拘束が必要か否かについて,判断を下す必要がある(行動面の問題に基づく緊急事態も参照)。精神症の患者,および重度の抑うつに加えて未解決の危機的状況が併存する一部の患者は,精神科病棟に入院させるべきである。判断に影響を与える身体疾患の臨床症状(例,せん妄,痙攣発作,発熱)がみられる患者では,適切な自殺予防策が講じられた身体科病棟への入院が必要になりうる。

自殺企図の後に,自殺行為を引き起こした重度の抑うつの後に一時的な気分の高揚が生じることがあるため,患者が一切の問題を否定することがある。それでも,患者が継続的に治療および心理的支援を受けない限り,その後に自殺既遂に至るリスクが高い。

自殺リスク評価では,患者の現時点での自殺リスクに寄与する重要な促進因子を同定し,医療従事者が適切な治療を計画するための一助とする。評価は以下で構成される:

  • 信頼関係(ラポール)の確立と患者の話への傾聴

  • 自殺企図,その背景,先行した出来事,および自殺企図を起こした状況の理解

  • 精神症状と患者が精神疾患の治療または症状の緩和のために用いている可能性がある薬剤または代替治療についての問診

  • うつ病,不安,焦燥,パニック発作,重度の不眠症,その他の精神疾患,アルコールまたは薬物使用症(これらの問題の多くは危機介入に加えて特別な治療を要する)の把握に特に重点を置いた,患者の精神状態の詳細な評価

  • 個人間の関係および家族関係と社会的ネットワーク(しばしば自殺企図やフォローアップ治療に関係してくる)の精密な評価

  • 親密な家族および友人との面接

  • 自宅に銃器などの致死的手段がないかどうかの問診と致死的手段に関するカウンセリング(lethal means counseling;自宅以外での致死的手段の安全な保管または廃棄を促進することが含まれる場合もある)の実施

医療従事者は,スクリーニングおよび自殺リスク評価のガイダンスとして,Columbia Suicide Severity Rating Scale(C-SSRS)やNational Institute of Mental Health(NIMH)が開発した"Ask Suicide-Screening Questions"(ASQ)ツールなど,妥当性が確認されたツールを用いることで,スクリーニングおよび自殺リスク評価を行うことができる。

評価後の最初のステップである安全計画は,患者が自殺の計画につながる誘因を自ら特定して,それらが発生した際に自殺念慮に対処するための計画を立てることを手助けするために実施される不可欠な介入である(3, 4)。

臨床医が講じるべきその他の措置としては,危機対応のための資源の提供や,致死的手段の除去または保管に関するカウンセリング(5, 6),適切なリスク低減ケア(例,認知行動療法,弁証法的行動療法,collaborative assessment and management of suicidality[CAMS],家族療法)への紹介などがある(4, 7–10)。臨床医が外来診療や様々な形態のコミュニケーションを通じて患者とより頻回に接触することも可能であり,その一部は医療チームの他のメンバーが提供することもできる(11)。

管理に関する参考文献

  1. 1.National Action Alliance for Suicide Prevention: Transforming Health Systems Initiative Work Group: Recommended standard care for people with suicide risk: Making health care suicide safe.Washington, DC: Education Development Center, Inc.2018.

  2. 2.Chung DT, Ryan CJ, Hadzi-Pavlovic D, et al: Suicide rates after discharge from psychiatric facilities: A systematic review and meta-analysis.JAMA Psychiatry 4(7):694-702, 2017.doi:10.1001/jamapsychiatry.2017.1044

  3. 3.Michel K, Valach L, Gysin-Maillart A: A novel therapy for people who attempt suicide and why we need new models of suicide.Int J Environ Res Public Health 14(3): 243, 2017.doi: doi: 10.3390/ijerph14030243

  4. 4.Stanley B, Brown GK: Safety planning intervention: A brief intervention to mitigate suicide risk.Cogn Behav Pract 19:256-264, 2011.

  5. 5.Barber CW, Miller MJ: Reducing a suicidal person’s access to lethal means of suicide: A research agenda.Am J Prev Med 47(3 Suppl 2):S264-S272.doi: 10.1016/j.amepre.2014.05.028

  6. 6.Harvard TH Chan School of Public Health: Lethal Means Counseling.Accessed June 5, 2023.

  7. 7.Linehan MM, Comtois KA, Murray AM, et al: Two-year randomized controlled trial and follow-up of dialectical behavior therapy vs therapy by experts for suicidal behaviors and borderline personality disorder.Arch Gen Psych 63(7):757-766, 2006.doi: 10.1001/archpsyc.63.7.757

  8. 8.Brown GK, Ten Have T, Henriques GR, et al: Cognitive therapy for the prevention of suicide attempts: A randomized controlled trial.JAMA 294(5):563-570, 2005.doi: 10.1001/jama.294.5.563

  9. 9. Jobes DA: The CAMS approach to suicide risk: Philosophy and clinical procedures.Suicidologi 14(1):1-5, 2019.doi:10.5617/suicidologi.1978

  10. 10.Diamond GS, Wintersteen MB, Brown GK, et al: Attachment-based family therapy for adolescents with suicidal ideation: A randomized controlled trial.J Amer Acad Child Adol Psychiatry 49(2):122-131, 2010.doi: 10.1097/00004583-201002000-00006

  11. 11.Luxton DD, June JD, Comtois KA: Can postdischarge follow-up contacts prevent suicide and suicidal behavior?A review of the evidence.Crisis 34(1):32-41, 2013.doi: 10.1027/0227-5910/a000158

自殺行動の予防

自殺を予防するには,リスクの高い人を同定して(自殺の危険因子および警告徴候の表を参照),適切な介入を開始することが求められる。

最もリスクの高い患者の自殺を減らすために医療システムが採用できる戦略がある。そのような枠組みの1つはZero Suicideと呼ばれるもので,そこでは医療システムの全スタッフを対象とする自殺スクリーニングの普遍的な訓練,より良い患者ケアの促進に役立つ電子医療記録の利用,ならびに介入(安全計画,致死的手段に関するカウンセリング[lethal means counseling],可能であれば患者および家族との綿密なコミュニケーション,ならびに適切な紹介およびフォローアップ)の利用を提唱している。

自殺予防の努力は地域および国家レベルでも極めて重要な事項である。それらの努力は,自殺リスクを低下させる効果的な医療によって補完される。コミュニティレベルでの介入にも自殺リスクの低減について有望な結果が示されている(1)。さらに,ソーシャルメディアプラットフォーム上で稼働する人工知能の開発が,リスクのある個人を同定し,時宜を得た支援を提供するのに役立っている(2)。

学校ベースの介入や公衆衛生的介入もある。その一例として,高校で青年のピアリーダーによって提供される自殺予防プログラムであるSources of Strengthがある(3)。自殺相談ホットラインに配置されるボランティアを適切に訓練することが救命に役立つことも複数の研究で示されている(4)。

普遍的かつ選択的な自殺予防プログラムの有効性を示すもう1つの強力な例は,Garrett Lee Smith(GLS)記念法の助成金に関連したアウトカムによって証明されている。それらの助成金は2004年以来,米国の多くの州において,大学キャンパスに加えて地域社会や先住民部族における若者の自殺予防活動の資金に活用されている。15年間にわたり,米国ではかなりの割合の郡が,以下のような若者の自殺予防イニシアチブに取り組むための資金提供を受けてきた(5):

  • アウトリーチプログラム,意識向上プログラムおよびスクリーニングプログラムの確立

  • 「ゲートキーパー」訓練の提供(すなわち,第一線で重要な役割を担う人々が自殺リスクを認識して適切に介入できるように教育する)

  • 連携の構築(典型的には,いくつかの地域団体[例,地域政府の精神衛生局または自殺予防局,自殺予防に重点を置く非営利組織,教育者,親団体,信仰に基づく団体,法執行機関]が含まれる)

  • 方針および/またはプロトコルの導入

  • ホットラインの設置および資金提供

GLSの助成金の40%は米国の農村地域に支給されているが,農村地域では他の地域と比べて自殺率が高く,プログラムや臨床的治療のために利用できる資源がはるかに少ない傾向がある。GLSの活動が実施されていた郡を傾向スコアでマッチングした対照の郡と比較した研究では,自殺行動および自殺死に対する短期的影響と長期的影響の両方について統計学的に有意な減少が認められた(6)。その好影響は米国の農村地域で最も大きかった。

American Foundation for Suicide Preventionが米国で主導している別の革新的な全国規模の構想(Project 2025)は,2025年までに米国の自殺率を20%低下させることを目標としている。

臨床では,自殺企図後に入院した患者は退院後最初の数日から数週間にかけて自殺による死亡リスクが最も高くなり,退院後最初の6~12カ月間はリスクの高い状態が持続する(7)。したがって,患者を退院させる前に患者に(家族や親しい友人とともに)自殺による切迫した死亡リスクについてのカウンセリングを行うべきであり,また退院後最初の週のフォローアップケアの予約を決定するべきである。退院後に1~2回電話をするだけで,自殺企図の再発が有意に減少することが示されている(8)。さらに,患者が使用する薬剤の名称,用量,および投与頻度を患者と家族または友人に伝えておくべきである。

退院後最初の数週間は,家族や友人によって以下の状態が確保されるべきである:

  • 患者を1人にしない。

  • 処方薬のレジメンに対する患者のアドヒアランスがモニタリングされている。

  • 全般的な精神状態,気分,睡眠パターン,および活力(例,起床,更衣,他者との交流に向かう活力)について毎日,患者に確認する。

患者の家族または友人が患者のフォローアップの予約を取り,患者の改善の有無について医療従事者に情報提供をするべきである。このような介入を退院後数カ月は続けるべきである。

自殺企図または自殺既遂の一部は,親密な近親者や関係者に対しても驚きやショックをもたらす場合があるが,家族,友人,または医療従事者に明らかな警告が発せられていた場合もある。患者が実際に計画について話をしたり,突然遺書を書いたり,作成し直したりするなど,警告徴候はしばしば明白なものである。しかしながら,何のために生きているのか分からない,死んでしまった方がましだといったようなことを話すなど,より微妙な警告徴候である場合もある。ある研究では,自殺者の約83%が死亡前の数カ月から1年の間に医師を受診しており,約24%が死亡前の1カ月間に精神疾患の診断を受けていた(9)。

痛みを伴う重度の身体疾患,物質使用症,および精神疾患(特にうつ病)は自殺のリスクを高めるため,これらの考慮すべき因子を認識して適切な治療を開始することは,医師が自殺予防のためにできる重要な貢献である。

うつ病患者には必ず自殺念慮について質問するべきである。そのような質問をすると,患者に自己破壊の考えが植えつけられるのではないかという恐れには,根拠がない。質問することで,医師はうつ病の重篤さをより明確に把握でき,建設的な話し合いを促し,医師が患者の深い絶望感や無力感を認識していることを伝えるのに役立つ。

今にも自殺すると脅してくる当事者(例,電話してこれから致死量の薬を飲むところだと告げる患者,高所から飛び降りると脅す患者)でも,生きたいという願望がいくらか残っていると考えられる。医師や助けを求められた人は,その生きたいという願望を支える手助けをしなくてはならない。

自殺傾向のある人々を対象とする緊急の精神医学的援助としては,以下のものがある:

  • 当事者との関係を構築し,率直なコミュニケーションを取る

  • 現在および過去の精神科治療ならびに現在服用している薬剤について質問する

  • 危機を引き起こしている問題の解決を手助けする

  • 患者とともに策定する書面での安全計画を含めて,問題に対する建設的な支援を提案する

  • 基礎にある精神疾患の治療を開始する

  • 可及的速やかに適切なフォローアップケアの場に紹介する

  • 低リスクの患者を退院させる際は,親密な家族か献身的で理解のある友人にケアをしてもらう。

  • このような患者には,988番の電話サービスLifeline Chat & Textまたは助けになるウェブサイトへのリンク(988 Suicide and Crisis LifelineAmerican Foundation for Suicide Prevention)を紹介する。【訳注:日本では「いのちの電話」https://www.inochinodenwa.org/lifeline.php】

  • 自殺予防に関する情報へのアクセスを提供する

予防に関する参考文献

  1.  1.National Action Alliance for Suicide Prevention: Transforming communities: Key elements for the implementation of comprehensive community-based suicide prevention.Washington, DC: Education Development Center, Inc.Accessed 5/3/

  2. 2.McCarthy J F. Cooper SA, Dent KR, et al: Evaluation of the Recovery Engagement and Coordination for Health-Veterans Enhanced Treatment Suicide Risk Modeling Clinical Program in the Veterans Health Administration.JAMA Netw Open 4(10):e2129900, 2021.doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2021.29900

  3. 3.Wyman PA, Brown CH, LoMurray M, et al: An outcome evaluation of the Sources of Strength suicide prevention program delivered by adolescent peer leaders in high schools.Am J Public Health 100:1653-1661, 2010.doi: 10.2105/AJPH.2009.190025

  4. 4.Gould MS, Cross W, Pisani AR, et al: Impact of applied suicide intervention skills training (ASIST) on national suicide prevention lifeline counselor.Suicide Life Threat Behav 43:676-691, 2013.doi: 10.1111/sltb.12049

  5. 5.Goldston DB, Walrath CM,  McKeon R, et al: The Garrett Lee Smith memorial suicide prevention program.Suicide Life Threat Behav  40(3):245-256, 2010. doi: 10.1521/suli.2010.40.3.245

  6. 6.Garraza LG, Kuiper N, Goldston D, et al: Long-term impact of the Garrett Lee Smith Youth Suicide Prevention Program on youth suicide mortality, 2006–2015.J Child Psychol Psychiatr 60(10):1142-1147, 2019.doi:10.1111/jcpp.13058

  7. 7.Chung DT, Ryan CJ, Hadzi-Pavlovic D, et al: Suicide rates after discharge from psychiatric facilities: A systematic review and meta-analysis.JAMA Psychiatry 74(7):694–702, 2017.doi:10.1001/jamapsychiatry.2017.1044

  8. 8.Luxton DD, June JD, Comtois KA: Can postdischarge follow-up contacts prevent suicide and suicidal behavior?A review of the evidence.Crisis 34(1): 32-41, 2013.doi: 10.1027/0227-5910/a000158

  9. 9.Ahmedani BK, Simon GE, Stewart C, et al: Health Care contacts in the year before suicide death.J Gen Intern Med 29(6): 870-877, 2014.doi 10.1007/s11606-014-2767-3

自殺のリスクに対する治療

  • 簡易介入(brief intervention)

簡易介入(brief intervention)は自殺リスクの低減に効果的であり,ベストプラクティスと考えられている。この種の介入は,プライマリケア,外来での行動医療,および入院診療で実施することができる。具体的な介入としては以下のものがある:

  • 自殺リスクスクリーニングを行う

  • 自殺リスク評価を行う

  • 安全計画介入を行う

  • 致死的手段の安全に関するカウンセリング(lethal means safety counseling)を行う

  • フォローアップのための電話,テキストメール,またはメッセージによる支援(リスクのある患者において自殺リスクを低下させることが示されている)を提供する

  • 可能であれば患者および家族に教育を提供する

  • 危機対応のための資源を提供する

自殺リスクを低下させる治療法として,いくつかの種類の精神療法がある:

  • 自殺予防のための認知行動療法

  • 弁証法的行動療法

  • 特定の種類の家族療法

  • Collaborative assessment and management of suicidality

自殺予防のための認知行動療法では,自殺行動を疾患の症状としてではなく,問題のある対処行動として,また治療における第一の問題および目標として捉える。治療の焦点は将来の自殺危機の予防に置かれる。対象者が自分の自動的思考に対する反応を修正するのを手助けすることにより,また思考・行動・気分のネガティブなパターンを切り離すことによって,個人的な変化を起こさせることが意図されている。

弁証法的行動療法では,苦痛に対する耐容性を高めること,ネガティブな思考パターンを特定して変容を試みること,およびポジティブな変化を促進することに焦点が置かれる。患者がストレスにより適切に反応する方法(例,自己破壊的に行動する衝動に抵抗する)を見つけるのを手助けすることを目的とする。

自殺行動を減らすとともに,家族が愛する人を支えるのを手助けするべく,いくつかの家族療法が考案されている。例えば,SAFETY Programは,安全性を高め,自殺行動を減らすことを目的として設計された認知行動療法に基づく家族介入である(1)。愛着に基づく家族療法(attachment-based family therapy)も,自殺傾向のある青年とその親に対する介入として有望であることが示されている(2)。

Collaborative assessment and management of suicidality(CAMS)では,自殺衝動の促進因子,人間関係の問題,および問題解決についての理解を深めることによって,対象者が自殺念慮に基づいて行動するリスクを低下させる。希死念慮および/または自殺行動がみられる個人が医師と協力して,生存を維持し,生きる意欲を高めるための計画を共同で作成して追跡する。

(予防的介入および治療選択肢に関する詳細な考察については,American Foundation for Suicide Preventionのウェブサイトを参照のこと。)

自殺リスクに対処するための臨床的アプローチへの移行は,患者の主要な精神疾患に焦点を置くだけでなく,自殺リスク自体にも臨床的な焦点を置くことも目的とする推奨である(3)。うつ病やその他の精神疾患を有する人々は,自殺リスクが高く,自殺行動および希死念慮について注意深くモニタリングされるべきである。うつ病治療の初期には自殺リスクが高まることがあり,このとき,精神運動制止および決断困難は改善しているが,抑うつ気分は部分的にしか改善していない。抗うつ薬の開始時または増量時には,一部の患者で激越や不安,悪化する抑うつがみられるが,それらによって自殺念慮,さらには(まれではあるが)自殺行動の可能性が高まることがある。

小児,青年,および若年成人において,抗うつ薬の使用と自殺念慮および自殺企図との関連を示唆した公衆衛生上の警告を受けて,これらの集団に対する抗うつ薬の処方は大幅に(30%超)減少した。しかしながら,同じ期間中に若年者の自殺率は14%増加した。このため,これらの警告は,自殺による死亡の減少にはつながらず,うつ病の薬物治療を控えさせることで,むしろ一時的な増加につながった可能性がある。これらの知見を総合すると,治療を促しながら,以下のような適切な予防策を講じることが最善の方法であることが示唆される:

  • 配付する抗うつ薬が致死量を超えないようにする

  • 過量服薬しても死に至らない抗うつ薬を優先して使用する

  • 治療の早期にはモニタリングおよび受診の頻度を増やす

  • 患者,家族,その他の重要な関係者に対して,激越,不眠症,希死念慮などの症状に注意するよう明確な警告を与える

  • 患者,家族,その他の重要な関係者に対して,症状の悪化または希死念慮がみられた場合は直ちに処方医に連絡するか,他の場所でのケアを求めるよう指示する

リチウムを単剤投与するか,抗うつ薬または第2世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬としても知られる)に対する補助的治療として使用することで,うつ病または双極症患者における自殺による死亡数が減少することが,ランダム化試験のエビデンスから示されている(4)。単極性のうつ病で急性の希死念慮または自殺行動がみられる成人には,経口抗うつ薬との併用でエスケタミンの鼻腔内投与を行ってもよい。クロザピンは統合失調症患者における自殺リスクを低下させる。

自殺傾向がある抑うつ状態の患者に対しては,心理的介入やブプレノルフィン(アルコールおよびオピオイド離脱症状の治療に使用される薬剤)による薬理学的介入など,複数の治療法が研究段階にある。

電気痙攣療法(ECT)は,重度のうつ病や自殺の危険があるうつ病の治療に依然として効果的である。ECTおよび経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)は,治療抵抗性のうつ病に対して承認されており,治療中の重度かつ難治性のうつ病,精神症性の抑うつ,または双極症を有する患者に対して考慮することができる。これらの治療法はどちらも自殺リスクの低減に役立つことがある(5, 6)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Asarnow JR, Berk M, Hughes JL, et al: The SAFETY Program: A treatment-development trial of a cognitive-behavioral family treatment for adolescent suicide attempters.J Clin Child Adolesc Psychol44(1):194-203, 2015.doi: 10.1080/15374416.2014.94062

  2. 2.Krauthamer Ewing ES, Diamond G, Levy S: Attachment-based family therapy for depressed and suicidal adolescents: Theory, clinical model and empirical support.Attach Hum Dev 17(2):136-156, 2015.doi: 10.1080/14616734.2015.1006384

  3. 3.Moutier C, Pisani A, Stahl S: Stahl’s Handbooks: Suicide Prevention.Cambridge University Press, 2021.

  4. 4.Cipriani A , Hawton K, Stockton A, et al: Lithium in the prevention of suicide in mood disorders: Updated systematic review and meta-analysis.BMJ 346:f3646, 2013. doi: 10.1136/bmj.f3646

  5. 5.Kellner CH, Fink M, Knapp R, et al: Relief of expressed suicidal intent by ECT: A consortium for research in ECT study.Am J Psychiatry 162(5):977-982, 2005.doi: 10.1176/appi.ajp.162.5.977 doi:10.1176/appi.ajp.162.5.977

  6. 6.George MS, Raman R, Benedek DM, et al: A two-site pilot randomized 3 day trial of high dose left prefrontal repetitive transcranial magnetic stimulation (rTMS) for suicidal inpatients.Brain Stimul 7(3):421-431, 2014.doi: 10.1016/j.brs.2014.03.006

自殺の影響

自殺行為はいかなるものでも,全ての関係者の感情面に著しい影響を及ぼす。誰かを自殺で失うことは,特に大きな痛みを伴う複雑な種類の喪失である。自殺関連悲嘆は,自殺の動機に関する疑問が解決されず,また多くの人がもっている自殺に関する知識が限られているという理由から,他の種類の喪失とは性質が異なる。不可解で衝撃的な出来事を理解しようと,人々はしばしば徹底的な情報探索を開始し,その自殺が起きた理由について一連の仮説を立てる。このことは,自殺を防げなかったことに伴う自身および他者に対する罪悪感,非難,および怒りにつながり,さらには亡くなった愛する人に対する怒りにつながる可能性もある。自殺悲嘆のこの自然な部分は,一般に最初の数カ月間は極めて激しいものとなり,2年目以降は落ち着いてくることが多い。

家族,友人,同僚,その他の人々を含め,多くの人が自殺による影響を受ける(1)。自殺喪失に関する集団ベース研究を対象とした国際的なメタアナリシスでは,地域社会の構成員の4.3%が過去1年間に他者の自殺を経験しており,21.8%が生涯に経験していたことが明らかにされた。米国では,さらに高い曝露率が認められた(2)。1432人の成人で構成される全国規模の標本では,51%が自殺に曝露した経験があり,35%が人生のいずれかの時点で自殺死別(自殺による喪失に関連した中等度から重度の精神的苦痛を経験することと定義された)の基準を満たしていた(3)。

医師は,自殺による死別を経験した患者に対して価値ある支援を提供することができる。

自殺で患者を失った医師にとっては,その経験は他の臨床的に関係のある死よりも,はるかに大きな苦痛となる可能性がある。それはしばしば,患者の喪失というよりも,むしろ医師の家族の死という著明な苦痛を伴う心的外傷体験に似たものとなる。ある研究では,自殺による患者の喪失を経験した精神科医の半数においてImpact of an Event Scaleのスコアが親の死を経験した臨床集団のスコアと同等となった(4)。医療専門職の喪失体験は,しばしば個人的な影響と専門職としての影響の両方をもたらし,具体的には苦悩,罪悪感,自己懐疑,複雑な悲嘆のほか,引退を考えることさえある。いくつかの組織(American Foundation for Suicide Prevention,American Association of Suicidology,Jed Foundation; Suicide Prevention Resource Center[5])を通じて医療従事者向けの資源を利用することができるほか,研修医を指導して自殺による患者の喪失の体験に備えさせるためのカリキュラムも用意されている(6)。

自殺の影響に関する参考文献

  1. 1.Berman AL: Estimating the population of survivors of suicide: Seeking an evidence base.Suicide Life Threat Behav 41(1):110-116, 2011.doi:10.1111/j.1943-278X.2010.00009.x

  2. 2.Andriessen K, Rahman B, Draper B, et al: Prevalence of exposure to suicide: A meta-analysis of population-based studies.J Psychiatr Res 88:113-120, 2017.doi: 10.1016/j.jpsychires.2017.01.017

  3. 3.Feigelman W, Cerel J, McIntosh JL, et al : Suicide exposures and bereavement among American adults: Evidence from the 2016 General Social Survey.J Affect Disord 227:1-6, 2018.doi: 10.1016/j.jad.2017.09.056

  4. 4.Hendin H, Lipschitz A, Maltsberger JT, et al: Therapists' reactions to patients' suicides.Am J Psychiatry 157(12):2022-2027, 2000.doi: 10.1176/appi.ajp.157.12.2022

  5. 5.Sung JC: Sample agency practices for responding to client suicide.Forefront: Innovations in Suicide Prevention.2016.Accessed June 5, 2023.

  6. 6.Lerner U, Brooks K, McNeil DE, et al: Coping with a patient’s suicide: A curriculum for psychiatry residency training programs.Acad Psychiatry, 36(1):29-33.2012.doi: 10.1176/appi.ap.10010006

医師による死の幇助

医師による死の幇助(かつての自殺幇助)とは,自らの人生を終わらせることを望む人に対して医師が行う補助を指す。これについては議論があるが,米国の10以上の州で合法とされており,他の州でも検討されている。医師による死の幇助が合法とされる全ての州では,適格性判定や報告の要件(例,患者に精神的な判断能力があり,末期の疾患を有しており,期待余命が6カ月未満でなければならない)など,当事者となる患者および医師に向けたガイドラインが整備されている。オランダ,ベルギー,コロンビア,ルクセンブルク,スペイン,ニュージーランド,オーストラリア,スイス,ドイツ,およびカナダでは,自発的安楽死および/または自殺幇助が合法とされている。

医師による自殺幇助(physician-assisted suicide)(または死の幇助[aid in dying])では,患者が自ら選択した時点で患者自身が致死的な手段を利用できるようにする。自発的積極的安楽死(voluntary active euthanasia)では,患者の依頼を実行に移す上で医師が積極的な役割を果たし,通常は致死的な物質の静脈内投与が行われる。

医師による死の幇助については,その利用に制約が設けられているが,疼痛を伴う消耗性かつ根治不能の疾患を有する患者は,医師との間で死の幇助に関する話し合いを始めることがある。

医師による死の幇助は,医師にとって困難な倫理的問題を引き起こすことがある。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Association of Suicidology: A developer and provider of professional training programs to mental and physical health providers who may encounter suicidal individuals, the American Association of Suicidology offers accreditation and training opportunities for organizations and individuals.This organization also provides support to clinicians whose patients have died by suicide.

    American Foundation for Suicide Prevention: Empowers those affected by suicide by funding research, educating the public about mental health issues and suicide prevention, supporting suicide survivors and those who have lost a loved one to suicide, and advocating for relevant public health policies.

  2. International Association for Suicide Prevention : Publications, activities, and resources for academics, mental health professionals, crisis workers, volunteers, and suicide survivors.

  3. Jed Foundation: The Jed Foundation partners with high schools and colleges to strengthen the mental health of adolescents and young adults and thus prevent suicide.This organization also provides support to clinicians whose patients have died by suicide.

  4. 988 the Suicide & Crisis Lifeline: Provides 24/7 support for people in distress.Content available in various formats via text, phone, and chat for special populations (eg, for veterans, the deaf and hard of hearing, LGBTQ populations) and in Spanish.

  5. Preventing Suicide: A technical package of policy, programs, and practices: Issued by the National Center for Injury Prevention and Control, this resource is a compilation of best practices to help communities and states hone their suicide-prevention activities by focusing on interventions at several levels: the level of the individual, their relationships, the community, and society as a whole.

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