睡眠障害または覚醒障害を有する患者へのアプローチ

執筆者:Richard J. Schwab, MD, University of Pennsylvania, Division of Sleep Medicine
レビュー/改訂 2022年 5月
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米国では半数近い人々が睡眠に関連する問題を有している。睡眠の障害は,情動障害,記憶困難,運動技能の低下,作業効率の低下,および交通事故のリスク増加につながる可能性がある。また,心血管疾患および死亡の一因になることさえある。

睡眠時無呼吸症候群および小児における睡眠障害も参照のこと。)

最も多く報告されている睡眠関連症状は,不眠症と日中の過度の眠気(excessive daytime sleepiness:EDS)である。

  • 不眠症とは,入眠もしくは睡眠維持困難,早朝覚醒,または睡眠後の休息感の欠如がみられる状態である。

  • EDSとは,通常起きている時間帯に眠りに落ちる傾向のことである。

EDSそのものは疾患ではなく,様々な睡眠関連疾患の1つの症状である。不眠症は,たとえ他の疾患とともに存在する場合でも,それ自体が疾患であることもあれば,他の疾患の一症状であることもある。

睡眠時随伴症とは,睡眠に関連する異常な事象である(例,夜驚症,睡眠時遊行症)。

病態生理

睡眠には2つの段階があり,それぞれ特徴的な生理学的変化がみられる:

  • ノンレム(非急速眼球運動)睡眠:ノンレム睡眠は成人の総睡眠時間の約75~80%を占める。心拍数と体温は低下する傾向がある。ノンレム睡眠は3つのステージ(N1~N3)に分けられ,順に睡眠の程度が深くなる。安静覚醒時および睡眠ステージN1早期の特徴である眼球の緩徐な回転運動は,睡眠ステージが深くなると消失する。筋活動も減少する。ステージN2の睡眠は,脳波上のK複合および睡眠紡錘波を特徴とする(ノンレム睡眠時の脳波の図を参照)。ステージN3は覚醒閾値が高いため,深睡眠期と呼ばれ,この段階が質の高い眠りと感じられる場合が多い。

  • レム(急速眼球運動)睡眠:レム睡眠はノンレム睡眠の各サイクルに続いてみられる。レム睡眠時の特徴は,脳波上の低振幅速波と姿勢筋の緊張低下である。呼吸の回数および深さが劇的に変動する。夢を見るのは,大半がレム睡眠中である。正常では,睡眠の20~25%がレム睡眠である。

ノンレム睡眠が3つのステージを経て進行した後,典型的には短いレム睡眠が続き,このサイクルが一晩に5~6回繰り返される(若年成人の典型的な睡眠パターンの図を参照)。短時間の覚醒(ステージW)が周期的に起こる。

ノンレム睡眠時の脳波

レム睡眠時の脳波

1日に必要な睡眠時間は6~10時間で,大きな個人差がある。乳児は一日の大半を寝て過ごすが,加齢とともに総睡眠時間と深い眠り(ステージN3)は減少していく傾向があり,睡眠が頻繁に分断されるようになる。高齢者ではステージN3が消失することもある。加齢に伴うEDSおよび疲労の増加は,こうした変化が原因のこともあるが,その臨床的な意義は不明確である。

若年成人の典型的な睡眠パターン

レム(急速眼球運動)睡眠は夜の間90~120分毎に周期的に出現する。短時間の覚醒(ステージW)が周期的に起こる。睡眠時間は以下のように経過する:

  • ステージN1:2~5%

  • ステージN2:45~55%

  • ステージN3:13~23%

  • レム睡眠:20~25%

病因

不眠症とEDSのうち,片方あるいはときに両方を引き起こす疾患もあれば,いずれか一方しか引き起こさない疾患もある(不眠症および日中の過度の眠気の主な原因の表を参照)。

表&コラム
表&コラム

不眠症の原因として最も頻度が高いのは以下のものである:

  • 不眠症(例,適応障害性不眠症,精神生理性不眠症)

  • 不十分な睡眠衛生

  • 精神疾患,特に気分症,不安症,および物質使用症

  • その他の様々な内科的疾患,例えば心肺疾患,筋骨格系の異常,慢性疼痛など

EDSの原因として最も頻度が高いのは以下のものである:

不十分な睡眠衛生とは,入眠の促進につながらない行動のことである。具体的には以下のものがある:

  • カフェインや交感神経刺激薬またはその他の刺激薬の摂取(典型的には就寝前の摂取であるが,特に感受性の高い個人では午後の摂取でも影響が生じうる)

  • 夜遅くの運動または興奮(例,スリリングなテレビ番組)

  • 不規則な睡眠-覚醒スケジュール

睡眠不足を補うために遅くまで寝ていたり,昼寝をしたりすることで,夜間の睡眠がさらに分断化されることがある。

適応障害性不眠症は,睡眠を妨害するような急性の精神的ストレス因子(例,失業,入院)によって生じる。

精神生理性不眠症は,原因にかかわらず誘発因子が消失した後も長く続く不眠症であり,通常は,また夜眠れないと次の日に疲労が残ってしまうのではないかという予期不安を感じることが原因である。典型的には,患者は不眠のことばかりを考え悩みながら何時間も寝床の中で過ごし,自宅以外の場所では眠くなるのに比べて自宅の寝室では入眠困難が強くなる。

疼痛または不快感を伴う身体疾患(例,関節炎悪性腫瘍椎間板ヘルニア),特に体動で増悪する疾患は中途覚醒を引き起こし,睡眠の質を悪化させる。夜間の痙攣発作も睡眠の妨げとなりうる。

主要な精神疾患の大半はEDSおよび不眠症を伴う。うつ病患者の約80%はEDSと不眠症を訴え,反対に,慢性不眠症患者の40%は何らかの主要な精神疾患を有しており,なかでも最も多いのが気分症である。

睡眠不足症候群とは,環境が整っているにもかかわらず夜十分な睡眠がとれない状態であり,典型的には様々な社会的因子や雇用状況に起因する。

薬剤に関連した睡眠障害は,様々な薬剤の慢性使用または離脱に起因する(睡眠を妨害する薬物の例の表を参照)。

表&コラム
表&コラム

概日リズム睡眠障害では,生体内の睡眠-覚醒リズムと外部の明暗サイクルとの間にずれが生じる。原因は外因性(例,時差障害,交代勤務障害)のこともあれば,内因性(例,睡眠相後退障害または睡眠相前進障害)のこともある。

中枢性睡眠時無呼吸症候群では,睡眠中に呼吸努力の低下により10秒以上の呼吸停止または浅呼吸のエピソードが繰り返しみられる。この疾患の典型的な臨床像は,休息感が得られない質の悪い睡眠である。

閉塞性睡眠時無呼吸症候群は,10秒以上の呼吸停止につながる睡眠中の部分的または完全な上気道閉塞の反復によって構成される。大半の患者はいびきをかき,ときに喘ぎながら覚醒することもある。これらのエピソードが睡眠を妨げ,その結果,休息感が得られない眠りおよびEDSを招く。

ナルコレプシーは慢性のEDSを特徴とし,しばしば情動脱力発作,睡眠麻痺,および入眠時または出眠時幻覚を伴う:

  • 情動脱力発作(cataplexy)は,突然の感情反応(例,笑い,怒り,恐怖,喜び,驚き)によって惹起される一時的な筋力低下または麻痺であり,意識消失を伴わない。筋力低下は四肢に限局することがある(例,釣り餌に魚が食いつき当たりがあったときに釣り竿を落とす)ほか,思い切り笑ったり(「笑いすぎて力が抜ける」ように)突然怒ったりしたときに,筋力低下が原因で崩れるように転倒することがある。情動脱力発作は,霧視または言語不明瞭として現れることもある。

  • 睡眠麻痺は,寝入りばなまたは目覚めてすぐに現れる一時的な運動不能である。

  • 入眠時および出眠時幻覚は,寝入りばな(入眠時),またはより頻度は低いが目覚めた直後(出眠)に起きる,とりわけ鮮明な聴覚的または視覚的な錯覚または幻覚である。

周期性四肢運動障害は,睡眠中に繰り返し(通常は20~40秒毎)みられる下肢の筋収縮ないし蹴るような運動を特徴とする。通常,患者は夜間の睡眠分断またはEDSを訴える。典型的には,異常運動とそれに続く短時間の微小覚醒は自覚しておらず,四肢の異常感覚はみられない。

レストレスレッグス症候群は,横になると,下肢およびより頻度は低いが腕を動かしたくなる抗いがたい衝動を特徴とし,通常は四肢の錯感覚(例,皮膚の上を虫が這うまたは伝うような感覚)を伴う。患者は症状を緩和しようとして,患肢を伸ばす,蹴る,歩き回るなどして動かす。その結果,入眠困難,頻回の夜間覚醒,またはその両方を来す。

睡眠障害または覚醒障害の評価

病歴

現病歴には,症状の持続期間および発症年齢,ならびに発症と同時期に起こったあらゆる出来事(例,生活上または仕事上の変化,新しい薬剤,新しい疾患)を含めるべきである。睡眠時および覚醒時の症状に注意すべきである。

睡眠の質および量は以下の項目から同定される:

  • 就寝時刻

  • 睡眠潜時(就寝時刻から入眠までの時間)

  • 覚醒回数および覚醒時刻

  • 最終的な朝の覚醒時刻および起床時刻

  • 昼寝の頻度および持続時間

  • 睡眠の質(休息感が得られるかどうか)

睡眠日誌を数週間患者本人につけてもらう方が問診よりも正確である。就寝時の出来事(例,食事または飲酒,身体的または精神的活動)を評価すべきである。薬物,アルコール,カフェイン,およびニコチンの摂取および離脱,ならびに身体活動の強度およびタイミングについても評価すべきである。

もし日中の過度の眠気が問題であるならば,様々な場面(例,快適な安静時vs運転時)での入眠傾向を基に重症度を定量化すべきである。エプワース眠気スケール(Epworth Sleepiness Scale)が利用でき,10点以上の累積スコアは日中の過度の眠気を反映する。

システムレビュー(review of systems)では,以下のような特定の睡眠障害の症状を確認すべきである:

これらのうち一部の症状は,ベッドパートナーまたはその他の家族構成員が最もよく同定することができる。

既往歴の聴取では,睡眠の妨げとなりうる疾患の既往を確認すべきであり,例として慢性閉塞性肺疾患(COPD),喘息心不全甲状腺機能亢進症胃食道逆流,神経疾患(特に運動疾患および変性疾患),尿失禁,その他の泌尿器疾患,疼痛を伴う疾患(例,関節リウマチ)などがある。閉塞性睡眠時無呼吸症候群の危険因子には,肥満,心疾患,高血圧,脳卒中,喫煙,いびき,鼻外傷などがある。薬歴の聴取には,睡眠障害と関連しうるあらゆる薬剤の使用に関する質問を含めるべきである(睡眠を妨害する薬物の例の表を参照)。

医学計算ツール(学習用)

身体診察

身体診察は主に,閉塞性睡眠時無呼吸症候群に伴う徴候を同定するのに有用である:

  • 頸部または上腹部周囲への脂肪の分布を伴う肥満

  • 頸部周囲径が大きい(男性で43.2cm以上,女性で40.6cm以上)

  • 下顎低形成および下顎後退症

  • 鼻閉

  • 扁桃(口蓋または舌扁桃),アデノイド,舌,口蓋垂,咽頭側壁,または軟口蓋の腫大(改変Mallampati分類3または4度―改変Mallampati分類の図を参照)

  • 咽頭狭窄

  • 咽頭側壁の過剰な粘膜

改変Mallampati分類

改変Mallampati分類は以下の通りである:

  • 1度:扁桃,口蓋垂,および軟口蓋が完全に見える。

  • 2度:硬口蓋および軟口蓋,扁桃の上部,ならびに口蓋垂が見える。

  • 3度:軟口蓋および硬口蓋,ならびに口蓋垂の基部が見える。

  • 4度:硬口蓋のみが見える。

胸部を診察して,呼気時の喘鳴および脊柱後側弯症がないか確認する。右室不全の徴候(下肢の浮腫を含む)に注意すべきである。詳細な神経学的診察を行うべきである。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見には特に注意が必要である:

  • 運転中など危険となりうる状況で眠りに落ちる

  • 反復する睡眠発作(前兆なく眠りに落ちる)

  • 呼吸の中断または喘ぎを伴った覚醒をベッドパートナーが報告する

  • 心臓または肺の不安定な状態

  • 最近の脳卒中

  • 脱力重積状態(status cataplecticus―長時間持続する情動脱力発作)

  • 睡眠中の自身または他者への暴力行動または傷害の既往

  • 頻回の睡眠時遊行症またはその他の寝床外での行動

所見の解釈

通常は睡眠衛生の不良と状況ストレス因子の存在が病歴から明らかになる。睡眠時間が増加すると(例,週末または休暇中)消失するEDSは,睡眠不足症候群を示唆する。情動脱力発作,入眠時/出眠時幻覚,または睡眠麻痺を伴うEDSは,ナルコレプシーを示唆する。

入眠困難(入眠障害)は,睡眠維持困難や早朝覚醒(睡眠維持障害)とは区別して考えるべきである。

入眠障害は,睡眠相後退症候群,慢性の精神生理性不眠症,レストレスレッグス症候群,または小児期の恐怖症を示唆する。

睡眠維持障害は,うつ病中枢性睡眠時無呼吸症候群もしくは閉塞性睡眠時無呼吸症候群周期性四肢運動障害,または加齢を示唆する。

入眠時刻が早く,起床時刻も早い場合は,睡眠相前進症候群が示唆される。

著明ないびき,頻回の覚醒,およびその他の危険因子がある患者では,閉塞性睡眠時無呼吸症候群を疑うべきである。STOP-BANGスコアは,閉塞性睡眠時無呼吸症候群のリスク予測に役立つ可能性がある(閉塞性睡眠時無呼吸症候群に関するSTOP-BANGリスクスコアの表を参照)。

表&コラム
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検査

検査が行われるのは通常,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,夜間痙攣発作,ナルコレプシー,周期性四肢運動障害,または睡眠ポリグラフ検査の特徴的な所見の同定によって診断されるその他の疾患を示唆する特定の症状または徴候がある場合である。また,臨床診断に疑いがある場合,または当初の推定治療(presumptive treatment)に対する反応が不十分な場合にも検査が行われる。症状または徴候から特定の原因(例,レストレスレッグス症候群,よくない睡眠習慣,一過性のストレス,交代勤務障害)が強く示唆されれば,検査は必要ない。

睡眠ポリグラフ検査は,閉塞性睡眠時無呼吸症候群,ナルコレプシー,夜間痙攣発作,周期性四肢運動障害,または睡眠時随伴症が疑われる場合に特に有用である。睡眠ポリグラフ検査は,暴力的で負傷につながる可能性がある睡眠関連行動の評価にも役立つ。睡眠ポリグラフ検査では,睡眠中の(脳波を介した)脳活動,眼球運動,心拍数,呼吸,酸素飽和度,ならびに筋緊張および筋活動をモニタリングする。睡眠時の異常運動を特定するために動画撮影を行うこともある。睡眠ポリグラフ検査は典型的には睡眠検査室で行われ,現在では自宅での睡眠検査が閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断目的で広く行われているが,その他の睡眠障害の診断目的では用いられない(1)

睡眠潜時反復検査では,患者の典型的な覚醒時間中に2時間毎に昼寝を4~5回行わせ,入眠の速さを評価する。患者は暗い部屋で横になり,眠るよう指示される。入眠および睡眠の各ステージ(レム睡眠を含む)が睡眠ポリグラフ検査でモニタリングされ,眠気の程度が決定される。この検査の主要な使用目的はナルコレプシーの診断である。

覚醒維持検査では,静かな部屋でベッドまたはリクライニングチェアに座り,2時間毎に4回起きたままでいるよう指示される。

EDSを有する患者では,腎,肝,および甲状腺機能の臨床検査が必要になることがある。

評価に関する参考文献

  1. 1.Rosen IM, Kirsch DB, Chervin RD, et al: Clinical Use of a Home Sleep Apnea Test: An American Academy of Sleep Medicine Position Statement.J Clin Sleep Med 13 (10):1205–1207, 2017.doi: 10.5664/jcsm.6774

睡眠障害または覚醒障害の治療

それぞれの病態を治療する。不眠症の主な治療は認知行動療法であり,これは理想的には睡眠薬を処方する前に行うべきである。病因にかかわらず,良好な睡眠衛生が認知行動療法の重要な要素であり,軽症の患者では必要な唯一の治療法であることが多い。

認知行動療法

不眠症の認知行動療法では,睡眠を妨げる一般的な考え,懸念,行動の管理に重点が置かれる。典型的には4~8回の個別またはグループセッションとして行われるが,オンラインまたは電話により遠隔で行うことも可能である;ただし,遠隔治療の有効性を示すエビデンスは比較的弱い。

不眠症の認知行動療法は以下で構成される:

  • 患者の睡眠衛生の改善を助け,特にベッドで過ごす時間を制限し,規則的な睡眠スケジュールを確立し,刺激をコントロールする

  • 不眠症の影響を説明し,確保すべき睡眠時間について患者がもつ誤った考えを特定するのを助ける

  • リラクゼーション法を教える

  • 必要に応じてその他の認知療法を用いる

ベッドで過ごす時間の制限は,ベッドで横になりながら眠れないでいる時間を制限することを目的とする。最初は,ベッドで過ごす時間を一晩の合計睡眠時間の平均値に設定するが,5.5時間を下回らないようにする。患者に朝の定刻にベッドから出るようにさせ,それから合計睡眠時間に基づいてベッドで過ごす時間を計算させる。このアプローチを1週間続ければ,一般的に睡眠の質が改善される。その後,夜間の覚醒が最小限に維持されている限り,就寝時刻を徐々に早くすることで,ベッドで過ごす時間を増やすことができる。

表&コラム
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睡眠薬

睡眠薬使用に関する一般的なガイドライン(睡眠薬使用ガイドラインの表を参照)の目的は,乱用,誤用,および依存を最小限にすることにある。

表&コラム
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一般的に用いられる睡眠薬については,一般的に使用される経口睡眠薬の表を参照のこと。睡眠薬はほぼ全て(ラメルテオン,低用量ドキセピン,およびスボレキサントを除き),γ-アミノ酪酸(GABA)受容体のベンゾジアゼピン認識部位に作用し,GABAの抑制効果を増強する。

個々の睡眠薬の違いは,主に消失半減期と作用発現時間にある。半減期が短い睡眠薬は入眠障害に用いられる。半減期が長い睡眠薬は入眠障害および睡眠維持障害の両方に有用であるが,低用量ドキセピンの場合は,睡眠維持障害にのみ有用である。一部の睡眠薬(例,古いベンゾジアゼピン系薬剤)は日中にもち越し効果が生じる可能性が高く,特に長期使用時と高齢者への投与時は注意が必要である。新しい薬剤で作用持続時間が非常に短いもの(例,ゾルピデムの低用量舌下錠)は,服用後の床上時間が4時間以上あるのであれば,深夜の夜間覚醒時に服用させてもよい。

日中の鎮静,協調運動障害,またはその他日中に薬物の影響を受ける患者は,注意を必要とする活動(例,運転)は控え,使用中の薬剤の用量を減らすか,使用を中止し,また必要であれば別の薬剤を使用すべきである。その他の有害作用には,健忘,幻覚,協調運動障害,転倒などがある。転倒は全ての睡眠薬に伴う重大なリスクである。

ベンゾジアゼピン系薬剤を中止する際は,漸減してから中止すべきであり,突然中止してはならない。

表&コラム
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3つのデュアルオレキシン受容体拮抗薬(ダリドレキサント,レンボレキサント,スボレキサント)は,入眠障害および睡眠維持障害の治療に使用できる。これらは脳内のオレキシン受容体を遮断することで,オレキシンにより誘発される覚醒シグナルを遮断して,入眠を可能にする。デュアルオレキシン受容体拮抗薬はオレキシン受容体1および2を遮断する。オレキシン受容体1はレム(急速眼球運動)睡眠の開始の抑制に関与しており,オレキシン受容体2はノンレム睡眠の開始の抑制のほか,レム睡眠の制御にもいくらか関与している。しかしながら,デュアルオレキシン受容体拮抗薬の作用機序は十分に解明されていない。この種の薬剤は入眠障害および/または睡眠維持障害の治療に用いられるが,不眠症に対して過度に効果的ということはなく,臨床医はこれらの薬剤の半減期を考慮すべきである。

スボレキサントの推奨用量は10mgであり,服用回数は一晩に1回までとし,就寝前30分以内,かつ予定起床時刻の少なくとも7時間前に服用する。増量が可能であるが,1日1回,20mgを超えてはならない。最も頻度の高い有害作用は傾眠である。

レンボレキサントは5mgを1日1回就寝前30分以内に服用する;用量は患者の反応および忍容性に基づいて10mg(最大用量)まで増量できる。

ダリドレキサントは25~50mgを1日1回就寝前30分以内に服用する。ダリドレキサントは,デュアルオレキシン受容体拮抗薬の中で最も半減期が短い(8時間)。

肺機能不全がある患者では,睡眠薬は慎重に使用すべきである。高齢者の場合,睡眠薬はいかなるものでも,また低用量でも,不穏,興奮,転倒の発生またはせん妄および認知症の増悪につながりうる。まれに,睡眠薬が原因で睡眠時遊行症や,さらには夢遊運転(sleep driving)など,複雑な睡眠関連行動がみられることがあり,推奨量より高用量での服用やアルコール飲料との同時摂取は,このような行動のリスクを高める可能性がある。まれに,重度のアレルギー反応が発生する。

睡眠薬の長期使用は,耐性の発現を招くため,また突然服用を中断すると反跳性不眠,さらには不安,振戦,痙攣発作が生じる可能性があるため,一般的には控えさせる。こうした有害作用は,ベンゾジアゼピン系(特にトリアゾラム)で比較的多く,非ベンゾジアゼピン系では比較的少ない。最小有効量を短期間使用し,中止するまで用量を漸減することで,問題を最小限に抑えることができる(離脱と解毒も参照)。

不眠症の治療に使用されるその他の薬剤

不眠症に特異的適応がある薬物以外にも,多くの薬物が睡眠の導入および維持に用いられている。

飲酒は,睡眠を促す方法として多くの患者が採用しているが,頻回の夜間覚醒により休息感が得られない質の悪い睡眠につながり,しばしば日中の眠気を増大させるため,誤った選択肢である。アルコールはまた,閉塞性睡眠時無呼吸症候群およびその他の肺疾患(慢性閉塞性肺疾患[COPD]など)患者の睡眠中の呼吸をさらに障害しうる。

OTC医薬品の抗ヒスタミン薬(例,ドキシラミン[doxylamine],ジフェンヒドラミン)は睡眠導入を促進する。しかしながら,こうした薬物は効力が予測できない上,半減期が長く,日中の鎮静,錯乱,尿閉,その他の全身性抗コリン作用などの有害作用がみられ,これらの作用は高齢者で特に注意が必要である。OTCの抗ヒスタミン薬は不眠症の治療に使用すべきではない。

抗うつ薬を就寝時に低用量(例,ドキセピン25~50mg,パロキセチン5~20mg,トラゾドン50mg,トリミプラミン75~200mg)服用することで睡眠を改善しうる。しかしながら,抗うつ薬を使用する際は,主に標準的な睡眠薬に耐えられない場合(まれ)は上述の低用量で,抑うつが認められる場合にはより高用量(抗うつ薬としての用量)で用いるべきである。睡眠維持障害には超低用量ドキセピン(3mgまたは6mg)が適応となる。

メラトニンは,松果体より分泌されるホルモンである(また,一部の食品に元来含まれている)。暗闇により分泌が促進され,光によって阻害される。メラトニンは視交叉上核のメラトニン受容体と結合することで概日リズムを調節し,特に生理的な睡眠開始時に作用が増大する。

経口メラトニン(典型的には0.5~5mg,就寝時)は,睡眠相後退症候群による睡眠障害に効果的である可能性がある。この疾患の治療に用いる場合は,適切なタイミングで(夜になって内因性メラトニン分泌が増大し始める数時間前―大抵の人では夕暮れ頃,典型的には就寝予定時刻の3~5時間前),0.5~1mgの低用量を投与すべきである;投与のタイミングを誤ると睡眠障害を悪化させうる。

その他の型の不眠症に対しては,メラトニンの効力はほぼ証明されていない。

メラトニンは頭痛,めまい,悪心,および眠気を引き起こす可能性がある。しかしながら,幅広く使用されるようになった後も,警戒すべき有害作用は報告されていない。入手可能なメラトニン製剤には規制がないため,含有物および純度は保証されておらず,長期使用の影響は不明である。

カンナビノイドとしては以下のものがある:

  • CBDオイル(カンナビジオール):鎮静および睡眠潜時の短縮を引き起こすが,多幸感は生じない

  • CBN(カンナビノール):鎮静を引き起こし,疼痛を軽減し,食欲を増進させる

  • THC(テトラヒドロカンナビノール):多幸感をもたらし,疼痛および悪心を軽減し,睡眠段階に様々な影響を及ぼす

  • ドロナビノール:合成アナログである

大麻が不眠症に効果的かどうかは不明であるが,慢性疼痛には有用である。

耐性が生じることがあり,長期使用後に大麻を中止すると不眠症になる。

要点

  • 睡眠衛生不良と状況ストレス因子(例,交代勤務,精神的ストレス因子)は,不眠症の一般的な原因である。

  • 可能性のある原因として医学的障害(例,睡眠時無呼吸症候群,疼痛を伴う疾患)および精神疾患(例,気分症)を考慮する。

  • 睡眠時無呼吸症候群,周期性四肢運動障害,またはその他の睡眠障害が疑われる場合,臨床診断に疑問が残る場合,当初の推定治療(presumptive treatment)への反応が不十分である場合は,通常,睡眠検査(例,睡眠ポリグラフ検査)を考慮する。

  • 良好な睡眠衛生は,ときに認知行動療法に組み込まれ,第1選択の治療法である。

  • 睡眠薬および鎮静薬の使用は,高齢者では特に慎重に行う。

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