動悸

執筆者:Andrea D. Thompson, MD, PhD, University of Michigan;
Michael J. Shea, MD, Michigan Medicine at the University of Michigan
レビュー/改訂 2022年 7月
意見 同じトピックページ はこちら

動悸とは,患者自身が心臓の活動を知覚することである。動悸はしばしば,ドキドキする,鼓動が激しい,脈が飛ぶ感じなどと表現される。動悸はよくみられる症状であり,不快に感じて警戒する患者もいる。動悸は心疾患がなくとも発生する一方,生命を脅かす心疾患に起因することもある。診断および治療の鍵は,心電図でリズムを「捉え」,動悸の発生中に注意深く観察することである。

動悸の病態生理

動悸の感覚が生じる機序は不明である。一般に,正常な速さの洞調律は知覚されないことから,動悸は通常,心拍数またはリズムの変化を反映している。いずれの症例でも,感じられるのは胸郭内での心臓の異常運動である。孤発性の期外収縮では,患者は実際には期外収縮そのものではなく,期外収縮後の増強された拍動を「抜けた」心拍として感じている可能性があり,これはおそらく,期外収縮が次の洞結節由来の拍動をブロックして心室充満時間を延長させる結果,一回拍出量が増大するためと考えられる。

心臓の現象の臨床的な感じ方には大きな個人差がある。患者によっては,ほぼ全ての心室性期外収縮を認識している場合もあれば,より複雑な心房性または心室性頻拍性不整脈すら認識してない場合もある。認識は座位時間の長い患者や不安または抑うつのある患者で強調され,活発で幸福な患者では低下する。心活動に何の異常も認められない状態で動悸が知覚される症例もある。

動悸の病因

患者によっては心臓の正常な拍動に対する意識が鋭敏になっているだけの場合もあり,特に運動,発熱性疾患,不安などで心拍数が上昇している場合に多い。ただし,動悸の原因として不整脈の可能性を念入りに評価することが必要である。不整脈は良性のものから生命を脅かすものまで様々である。

最もよくみられる不整脈としては以下のものがある:

これらの不整脈はともに通常は無害である。

そのほかによくみられる不整脈としては以下のものがある:

徐脈性不整脈が動悸として訴えられることはまれであるが,心拍数の低下を認識している患者もいる。

不整脈の原因

一部の不整脈(例,PAC,PVC,PSVT)は,しばしば重篤な基礎疾患がない状態で自然に発生するが,他の不整脈は重篤な心疾患によって引き起こされることが多い。

重篤な心臓性の原因には,心筋虚血やその他の心筋疾患,先天性心疾患(例,ブルガダ症候群,不整脈源性右室心筋症,先天性QT延長症候群),心臓弁膜症,伝導系障害(例,徐脈または心ブロックを引き起こす障害)などがある。起立性低血圧がみられる患者は,起立時に洞頻拍による動悸を知覚することが多い。

心臓以外の疾患のうち,心筋収縮性を増大させるもの(例,甲状腺中毒症,褐色細胞腫,不安)によって動悸が生じることもある。

一部の薬物,具体的にはジギタリス配糖体,カフェイン,アルコール,ニコチン,交感神経刺激薬(例,サルブタモール,アンフェタミン,コカイン,ドブタミン,アドレナリン,エフェドリン,イソプレナリン,ノルアドレナリン,テオフィリン)などは,しばしば動悸を発生または増悪させる。

代謝障害,具体的には貧血,低酸素症,循環血液量減少,電解質異常(例,利尿薬による低カリウム血症)などは,動悸の誘発または増悪因子となりうる。

結果

動悸を引き起こす多くの不整脈は,それ自体では有害な生理学的結果をもたらさない(すなわち,基礎疾患とは独立している)。しかしながら,徐脈性不整脈,頻拍性不整脈,および心ブロックは予測できない場合があり,心拍出量に悪影響を及ぼして低血圧や死亡につながることもある。心室頻拍は,ときに心室細動へと変質する。

動悸の評価

徹底的な病歴聴取と身体診察が必須である。他の医療従事者または信頼できる観察者による観察を依頼すべきである。

病歴

現病歴の聴取では,動悸の発生頻度および持続時間と誘発または増悪因子(例,精神的ストレス,活動,体位変換,カフェインなどの薬物の摂取)を対象に含めるべきである。重要な随伴症状としては,失神,ふらつき,視野狭窄(tunnel vision),呼吸困難,胸痛などがある。患者に動悸の速さとリズムをタップさせる方が言葉での説明より正確であり,心房性または心室性期外収縮での「飛んだ脈」や心房細動での急速かつ完全な不規則性など,しばしば特定の診断が示唆される。

システムレビュー(review of systems)では,耐暑性低下(heat intolerance),体重減少,および振戦(甲状腺機能亢進症);労作時の胸痛および呼吸困難(心筋虚血);疲労,筋力低下,重度の性器出血,黒色のタール便(貧血)など,原因疾患の症状を対象に含めるべきである。

既往歴の聴取では,既存の不整脈,心疾患,甲状腺疾患など,既知の潜在的な原因を同定すべきである。家族歴の聴取では,失神(ときに痙攣発作と不正確に説明されることもある)や若年での突然死に注意すべきである。

使用薬剤の聴取では,問題となる処方薬(例,抗不整脈薬,ジゴキシン,β作動薬,テオフィリン,心拍数低下薬),代替医療を含むOTC医薬品(例,感冒薬,刺激成分を含有する栄養補助食品),および違法薬物(例,コカイン,メタンフェタミン)について調査すべきである。カフェイン(例,コーヒー,紅茶,数多くの清涼飲料およびエナジードリンク),アルコール,およびタバコの使用も確認すべきである。

身体診察

全身状態の観察では,不安そうな挙動や精神運動興奮の有無に注目すべきである。バイタルサインを評価して,発熱,高血圧,低血圧,頻脈,徐脈,頻呼吸,酸素飽和度の低下がないか確認する。血圧および心拍数の起立性変化を測定すべきである。

頭頸部の診察では,頸動脈拍動または聴診での心拍リズムと比較したときの頸静脈波の異常または非同期性,ならびに甲状腺の腫大または圧痛や眼球突出などの甲状腺機能亢進症の所見に注意すべきである。結膜,手掌線,および頬粘膜を視診して,蒼白がないか確認すべきである。

心臓の聴診では,心拍リズムの速さと規則性のほか,基礎疾患としての心臓弁膜症や構造的心疾患を示唆する雑音または過剰心音に注意すべきである。

神経学的診察では,安静時振戦および反射亢進(過剰な交感神経刺激を示唆する)の有無に注意すべきである。神経学的に異常所見がみられ,失神が症状の1つである場合には,心疾患ではなく痙攣発作が原因である可能性が示唆される。

警戒すべき事項(Red Flag)

特定の所見はより重篤な病因を示唆する:

  • ふらつきまたは失神(特に失神のために負傷した場合)

  • 胸痛

  • 呼吸困難

  • 絶対的不整(irregularly irregular)の不整脈の新たな発生

  • 安静時の心拍数が120/分を超えるか,45/分を下回る

  • 基礎疾患としての有意な心疾患

  • 繰り返す失神または突然死の家族歴

  • 運動により誘発される動悸または(特に)失神

所見の解釈

病歴聴取(動悸を訴える患者における示唆的な病歴所見の表を参照)と(比較的まれであるが)身体診察で診断の手がかりが得られる。

動脈拍動の触診および心臓の聴診によりリズム障害が判明することがある。しかしながら,頻拍性心房細動の一部の症例でみられる独特かつ不規則な不整脈(irregular irregularity),連結性の心房性または心室性期外収縮の規則性のある不整脈(regular irregularity),発作性上室頻拍の150/分の規則的な頻拍,完全房室ブロックの35/分未満の規則的な徐脈が同定された場合を除き,診察で必ずしも具体的なリズムの診断に至るわけではない。

心臓の聴診および頸動脈の触診と同時に頸静脈波を慎重に診察することで,頸静脈波から心房リズムを評価できるが,これは聴診上の心音や頸動脈拍動は心室収縮によって生じるためである。

眼球突出を伴う甲状腺の腫大または圧痛は甲状腺中毒症を示唆する。著明な高血圧と規則的な頻拍は褐色細胞腫と一致する。

表&コラム
表&コラム

検査

一般的に施行される検査は以下の通りである:

  • 心電図検査,ときに自由行動下モニタリングを併用

  • 臨床検査

  • ときに画像検査,負荷試験,またはその両方

心電図検査を施行しても,症状が発生している間に記録しない限り,診断には至らない可能性がある。多くの不整脈は間欠性に生じ,心電図上で常に特定の異常を示すわけではないが,以下は例外である:

診断が明らかでなく,症状の発生頻度が高い場合は,24~48時間のホルター心電図検査が有用であり,症状が間欠的な場合には,より長期にわたり装着して,患者が症状を感じた際に自身で起動するイベントレコーダーがより有効である。これらの検査法は主に,症状から脈の飛びが示唆される場合ではなく,持続性の不整脈が疑われる場合に用いられる。症状の発生頻度が非常に低く,重篤な不整脈が疑われる患者には,上胸部の皮下に機器を植え込むこともある。この機器(しばしばループレコーダーと呼ばれる)により,心拍リズムを継続的に記録して,印刷機能のある体外の装置で詳細に検討することができる。また,患者が使用している様々な市販の製品から有用な情報が得られる可能性がある。例えば,心拍数をモニタリングする活動量計(フィットネストラッカー)や,携帯電話や腕時計に内蔵された心電図モニターなどがある。

全例で臨床検査が必要である。血算とマグネシウムやカルシウムを含めた血清電解質測定を全例に施行すべきである。疑われる原因に対してさらなる検査を行うべきである。不整脈,胸部不快感,または活動性もしくは最近の冠動脈虚血,心筋炎,心膜炎を示唆する他の症状が持続する患者では,心筋マーカーのトロポニンを測定すべきである。

心房細動と新たに診断された場合,または甲状腺機能亢進症の症状がみられる場合は,甲状腺機能検査の適応となる。血圧上昇発作がみられる患者には,褐色細胞腫に対する評価を行うべきである。

起立性失神のある患者では,ときにティルト試験を行う。

ときに画像検査が必要になる。新たに診断された不整脈,心機能障害を示唆する所見または構造的心疾患を示唆する所見を認めた患者では,心エコー検査およびときに心臓MRIが必要となる。労作時に症状がみられる患者には負荷試験が必要であり,ときに負荷心エコー検査核医学検査,またはPETも施行される。

動悸の治療

失神の原因となりうる薬剤および物質の使用を中止する。必要な治療薬により危険ないし消耗性の不整脈が引き起こされる場合は,別の薬剤を試すべきである。

構造的心疾患がない患者における孤発性のPACおよびPVCでは,患者を安心させるのみとするのが適切である。他の点では健康であるが,これらの現象により身体障害が生じている患者では,不安に駆られた患者が重篤な疾患にかかっているという認識を強化させないように努めたうえで,β遮断薬を投与することができる。

同定された不整脈と基礎疾患に対して検査および治療を行う(不整脈に対する治療法の表を参照)。ただし,血行動態に障害がある患者の急速な頻拍性不整脈に対しては,さらなる診断評価の前に電気的除細動を行うべきである。

表&コラム
表&コラム

老年医学的重要事項:動悸

高齢患者では,抗不整脈薬による有害作用のリスクが特に高いが,その理由としては糸球体濾過量の低下や他の薬剤の併用などがある。薬物治療が必要な場合は,低用量で開始すべきである。無症状の伝導異常が存在する可能性があり(心電図検査またはその他の検査で認識される),抗不整脈薬の使用により増悪する恐れがあることから,このような患者では抗不整脈薬を使用するためにペースメーカーが必要になることがある。

要点

  • 動悸は頻度は高いが,やや非特異的な症状である。

  • 動悸は有意な不整脈に対する信頼性のある指標ではないが,構造的心疾患または心電図異常のある患者の動悸は,重篤な病態の徴候である可能性があり,検査が必要である。

  • 心電図とその他の記録を症状の発生中にとることが極めて重要であり,症状発生中以外の正常な心電図では有意な疾患は除外できない。

  • 大半の抗不整脈薬は,それ自体で不整脈を引き起こす可能性がある。

  • 血行動態に障害がある患者で急速な頻拍性不整脈が疑われる場合は,まず除細動を行ってから,その後で問診を行う。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS