腎アテローム塞栓症は,アテローム性塞栓による腎細動脈の閉塞であり,進行性慢性腎臓病を引き起こす。同疾患は,アテローム性プラークの破綻に起因する。症状は腎不全によるものであり,広範囲にわたる動脈塞栓症の症状と徴候が存在することがある。診断は腎生検による。長期予後は通常不良である。治療の目標はさらなる塞栓形成の予防である。
アテローム性プラークの破綻は,通常は血管手術,血管形成,動脈造影中の大動脈またはその他の大径動脈の処置に起因する。プラークの自然破綻はまれであるが,びまん性びらん性動脈硬化を有する患者または抗凝固薬もしくは血栓溶解薬を投与中の患者で最もしばしばみられる。
アテローム性塞栓は不完全な閉塞を起こす傾向があり,腎梗塞ではなく続発性の虚血性萎縮を伴う。塞栓にはしばしば異物に対する免疫反応が続発し,腎機能が3~8週間にわたって継続的に悪化する。塞栓の大量形成または再発エピソードによって,急性腎障害ももたらされる場合がある。
腎アテローム塞栓症の症状と徴候
症状は通常,尿毒症を伴う急性または慢性腎機能障害の症状である(急性腎障害の治療を参照)。腹部臓器(例,膵臓,消化管)に併発した動脈の微小循環悪化により,腹痛,悪心および嘔吐が生じる可能性がある。突然の失明と鮮黄色の網膜斑(Hollenhorst斑)が,網膜細動脈の塞栓により起こりうる。
広範囲にわたる末梢の塞栓症(例,網状皮斑,有痛性の筋肉小結節,顕性壊疽[しばしばtrash syndromeと呼ばれる])の徴候が,ときに存在する。
腎アテローム塞栓症の診断
臨床的な疑い
ときに腎生検
塞栓の発生源の場所
大動脈に対する処置を最近受けた患者で腎機能の悪化がみられた場合,特にアテローム性塞栓の徴候が認められる場合に,本症が示唆される。鑑別診断としては,造影剤腎症や薬剤性腎症などがある。
アテローム塞栓症の疑いが依然として高い場合は,経皮的腎生検(検査の感度は約75%)を施行する。血管閉塞がなく,塞栓の原因を治療できる場合があることから,診断は重要である。塞栓内のコレステロール結晶は組織固定の段階で溶解するため,閉塞した血管内に特徴的な両凹の針状の間隙を残す。ときには,皮膚,筋肉または消化管の生検で同じ情報が得られる可能性があり,診断の確立に間接的に役立つ。
Image provided by Agnes Fogo, MD, and the American Journal of Kidney Diseases' Atlas of Renal Pathology (see www.ajkd.org).
血液検査と尿検査は,急性腎障害または慢性腎臓病の診断を確定しうるが,原因は確立されない。尿検査では,典型的には顕微鏡的血尿とごく軽微なタンパク尿を認めるが,ときにネフローゼレベルのタンパク尿が認められる(3g/日超)。好酸球増多,好酸球尿,および一過性の低補体血症が存在する場合がある。
Image provided by Agnes Fogo, MD, and the American Journal of Kidney Diseases' Atlas of Renal Pathology (see www.ajkd.org).
腎または全身性塞栓が再発し,それらの発生源が不明の場合は,上行大動脈および胸部大動脈のアテローム性病変ならびに心臓での塞栓の発生源を検出するため,経食道心エコー検査を施行する;二重ヘリカルCTは,上行大動脈および大動脈弓を調べる上で役立つ場合がある。
腎アテローム塞栓症の治療
可能な場合は塞栓の発生源を治療する
支持療法
危険因子の是正
ときに塞栓の発生源を治療することが可能である(例,心臓由来および心房細動の塞栓を呈する患者および血栓が新たな塞栓の発生源である患者に対する抗凝固療法)。しかしながら,既存の腎塞栓に対して効果的な直接的治療法はない。コルチコステロイド,抗血小板薬,血管拡張薬,および血漿交換は助けにならない。抗凝固療法の有益性は示されておらず,大半の専門家によれば,実際にはアテローム塞栓症を増大させる可能性がある。
腎機能障害の治療としては,高血圧のコントロールや水・電解質バランスの管理などを行うほか,ときに透析が必要となる。動脈硬化の危険因子の是正により,進行を減速させ,寛解がもたらされる場合がある。治療計画は,高血圧,高脂血症,糖尿病の管理,禁煙,定期的な有酸素運動と良好な栄養の奨励である(アテローム性動脈硬化の治療を参照)。
腎アテローム塞栓症の予後
腎アテローム塞栓症患者は,全体として予後不良である。
要点
腎アテローム塞栓症は血管手術,血管形成術,または動脈造影における大動脈の処置により生じるのが通常であり,自然発生の動脈硬化性塞栓により生じることはまれである。
大動脈または他の大径動脈の処置後に腎機能が増悪する場合は,診断を疑う。
診断は臨床所見およびときに経皮的腎生検によって確定する。
支持療法と修正可能な危険因子の是正に加え,可能な場合は塞栓の発生源に対する治療を行うが,全体的な予後は依然として不良である。