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小児と青年におけるトゥレット症候群とその他のチック症

(Tourette症候群)

執筆者:M. Cristina Victorio, MD, Akron Children's Hospital
レビュー/改訂 2023年 3月
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やさしくわかる病気事典

チックとは、目的のない同じような不随意運動が素早く不規則に繰り返される現象(運動チック)や、意図しない音や言葉が突然(しばしば)繰り返し発せられる現象(音声チック)です。チックは意識的に努力することで短時間だけ抑えることができます。トゥレット症候群は、1年以上にわたって運動チックと音声チックの両方がみられるときに診断されます。

本ページのリソース

  • まばたきする、顔をしかめる、急に頭をふるなど、何らかの動きをすることや音を発することに対して抗いがたい衝動が生じ、その行為は意図せずに(不随意に)起こります。

  • 診断は症状に基づいて下されます。

  • 多くのチックは自然になくなりますが、煩わしい場合や程度が重い場合には、CBIT(チックに対する包括的な行動介入)や、ときに薬剤が役立つことがあります。

チックは、重症度に大きなばらつきがあり、小児によくみられます。

チックの多くは軽度で、多くの場合、親も医師も病気と認識しません。

チックは女児に比べて男児に3倍多くみられます。

トゥレット症候群は、最も重症度の高い病型のチック症で、小児1000人当たり3~8人に発生します。

チックは18歳まで(典型的には4歳から6歳まで)に始まり、およそ10~12歳の間に症状が最も激しくなり、青年期に入って減少します。大半のチックはやがてなくなります。しかし、約1%の小児では、成人期までチックが残ります。

チックがみられる小児は、以下のような別の病気を合併している場合があります。

これらの病気は、しばしばチック以上に小児の発達や健康を妨げます。ときに、ADHDの小児をメチルフェニデートなどの中枢刺激薬で治療した際に初めてチックが現れる場合もあります。そのような小児はおそらく、チックを発症する素因をもっていると考えられます。

チックがみられる青年(および成人)は、以下の病気を合併している場合があります。

チック症の分類

チック症には主に以下の3種類があります。

  • 暫定的チック症:運動チックまたは音声チックがみられるが、持続期間が1年以内の場合

  • 持続性チック症(慢性チック症):運動チックまたは音声チックの一方だけが1年以上みられる場合

  • トゥレット症候群:運動チックと音声チックの両方が1年以上みられる場合

典型的には暫定的チック症から始まり、ときに持続性チック症やトゥレット症候群に進行します。

チック症の原因

チック症の原因は分かっていませんが、家族内でよくみられる傾向があるため、遺伝的な要因が関与していると考えられています。

ときに、ハンチントン病や脳の感染症(脳炎)などの別の病気がある人で、チックがみられることがあります。チックはまた、コカインやアンフェタミン類など特定の薬物の使用によって生じることもあります。ただし、別の病気や薬剤によって引き起こされたチックは、チック症とはみなされません。

レンサ球菌感染症にかかっている小児や過去にかかったことがある小児では、ときにチックや強迫症の症状が突然現れたり、1日で劇的に悪化したりすることがあります。このようなケースは、小児自己免疫性溶連菌感染関連性精神神経障害(PANDAS)と呼ばれています。レンサ球菌を排除するために体内で作られた抗体がチック(または強迫症)の発生やチックの悪化の原因になっていると考えている研究者もいます。しかし、大半の研究者は、この関係を証明する証拠はないと考えています。

チック症の症状

チックが起こる前には、その動作をしたいという強い衝動が生じます。この衝動は、くしゃみをするときや、かゆいところをかきたくなるときの衝動に似ています。その際、チックが起きる体の部分で緊張が高まります。そこでチックを起こすと、一時的に落ち着きます。

チックは、数秒から数分であれば我慢できることもありますが、意識的な努力が必要で、容易なことではありません。通常、チックの動作をしたいという衝動は最終的に抑えられなくなります。チックをコントロールしようとすることは困難で、精神的ストレスがあるときは特に難しくなります。ストレスや疲労はチックを悪化させます。しかし、テレビを見ているときなどのように、体がリラックスしているときにチックが悪化することもよくあります。チックを指摘すると、特に小児では、チックが悪化することがあります。典型的な例では、チックが睡眠中に起こることはなく、協調運動を妨げることもほとんどありません。勉強や仕事に集中しているとき、あるいは不慣れな場所にいるときは、チックが減少することがあります。

重度のチックがある人、特にトゥレット症候群の人の多くは、日常生活に困難を感じており、社会的な場で大きな不安を覚えます。過去には、このような人々が周囲から敬遠され、隔離されていたことや、悪魔に取り憑かれていると信じられていたことさえありました。患者は衝動的、攻撃的、自己破壊的な振る舞いをすることもあります。

重度のチック症またはトゥレット症候群のある小児では、強迫症、ADHD、学習症などの別の病気も存在する可能性が高くなります。これらの病気は、チックやトゥレット症候群を引き起こす脳の異常から生じると考えられています。しかし、重度のチック症を抱える生活からくる極度のストレスによって、これらの障害が悪化している可能性もあります。

チックは特定の一時点では似たものになる傾向がありますが、時間とともに種類、程度、頻度に変化がみられます。ときには、チックが突然、劇的に始まることもあります。1時間に数回起きたかと思えば、数カ月ほとんど現れないこともあります。

チックの種類

チックは以下のように分類できます。

  • 単純性チックと複雑性チック

  • 運動チックと音声チック

単純性チックは、極めて短時間のチックです。最初はただの神経質な癖にすぎない場合もあります。

複雑性チックは、より長い時間続くもので、複数の単純性チックの組合せである場合もあります。複雑性チックの中には、卑猥な言葉や便に関連した言葉(汚言と呼ばれます)など、社会的に不適切な言葉を叫ぶこともあります。トゥレット症候群というと汚言を連想する人がよくいますが、トゥレット症候群の人の少なくとも85%には汚言がみられません。汚言を吐いたり他の人の動きや言葉を繰り返したりする複雑性チックは、わざとやっているように見えることもありますが、意図してやっているわけではありません。

知っていますか?

  • トゥレット症候群の人の大半は、卑猥な言葉をやみくもに叫んだりすることはありません。

チック症の診断

  • 医師による評価

チック症が早期に診断されれば、チックが本人の意図的な行為ではないこと、また罰を与えてもチックが止まるわけではなく、むしろ悪化させる可能性があることを、両親が理解する助けになります。

診断は症状とその持続時間に基づいて下されます。

トゥレット症候群をその他のチック症から区別するため、定期的に医師の評価を受けなければならない場合もあります。

医師はチックとともに発生することの多い病気(ADHDや強迫症など)の有無も確認します。

チック症の治療

  • 安心させる言葉と支援

  • CBIT(チックに対する包括的な行動介入)

  • 薬剤

症状が軽度であれば、心配する必要はないと安心させることが最善の治療になる場合が多く、チックが自然になくなるまで、できるだけ気に留めないようにします。家族が病気に理解を示しており、学校の先生や友達にも病気について説明し理解が得られているのであれば、治療は行われないことがほとんどです。

CBIT(チックに対する包括的な行動介入)

CBITは行動療法の一種です。一部の年長児でチックを管理するのに役立ちます。

CBITには以下のようなものがあります。

  • 認知行動療法(習慣逆転法など)

  • チックに関する教育

  • リラクゼーション法

習慣逆転法では、小児にチックの代わりになる新しい行動を教えます。例えば、チックが肩をすくめる行為である場合には、肩をすくめたいという衝動がなくなるまで両腕を伸ばして外に広げるように指導します。

教育では、チックが起きたり悪化したりする状況を特定するように小児(とその親)を指導します。

薬剤

チックが続いて、活動の妨げや自己像(セルフイメージ)の低下につながっている場合に限り、チックを止める薬剤の使用が推奨されます。チックを許容できる程度に抑えるために必要な最低限の用量を使用し、チックが減るのに合わせて用量も減らします。

軽度のチックには、クロニジンとグアンファシンが役立ちます。チック症に伴うことがある不安やADHDのコントロールにも役立つ可能性があります。ただし、クロニジンは眠気を引き起こす可能性があり、日中の活動に支障をきたすことがあります。クロニジンは高血圧の治療にも用いられますが、これを使用したからといって小児が低血圧になることはめったにありません。しかし、クロニジンの服用をしばらく続けてからクロニジンの服用を突然中止すると、一時的に血圧が上昇することがあります。

重度またはコントロール困難なチックには、たとえチックの原因が精神症でないとしても、抗精神病薬が効果的となることがあります。効果的な薬剤としては、リスペリドン、ハロペリドール、ピモジド、オランザピンなどがあります。副作用としては、落ち着きがなくなる、筋肉のこわばり、パーキンソン病に似た症状(パーキンソニズム)、遅発性ジスキネジア(ゆっくり繰り返される不随意運動)などがあります。しかし、チックの治療に使用されるのは低用量なので、こうした副作用がみられることはまれです。

その他の問題に対する治療

チックがあり、学校生活に困難を感じている小児は、学習症がないか評価を受け、必要に応じて支援を受ける必要があります。

強迫的または衝動的な気質に困っている場合は、抗うつ薬の一種である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの薬剤が有用になる場合があります。

ADHDの治療に一般的に使用される中枢刺激薬は、チックを悪化させることがあるため、ADHDの治療は難しくなる可能性があります。ときに、それらの中枢刺激薬を少ない用量で使用することで、チックを悪化させることなく、ADHDを効果的に治療できることがあります。あるいは、中枢刺激薬以外の薬剤をADHDの治療に使用することもできます。

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