不妊症とは通常、避妊をせずに定期的に性交をしていても1年以上妊娠できずにいる状態と定義されます。
避妊をせず頻回に性交を行えば、通常は以下の割合で妊娠します。
3カ月以内にカップルの50%
6カ月以内にカップルの75%
1年以内にカップルの90%
妊娠の可能性を最大限に高めるためには、排卵前の6日間(特に3日間)に頻繁に性交すべきです。排卵は通常、月経周期の半ば、つまり次の月経初日のおよそ14日前に起こります。
女性が排卵時期を予測するのには、以下に示す2つの一般的な方法を用いることができます。
排卵検査薬を使用する(おそらく最良の方法)
安静時の体温(基礎体温)を測定する
排卵検査薬は自宅で使用できる最も正確な方法です。排卵検査薬は、尿中の黄体形成ホルモンの増加を検出するものです。(黄体形成ホルモンは卵巣を刺激し排卵を誘発します。)通常、排卵の24~36時間前にこの上昇が起こります。通常、検査は数日間連続で繰り返す必要があるため、排卵検査薬には一般的に5~7本のスティックが含まれています。排尿中にスティックに尿をかけるか、清潔でできれば滅菌した容器に入れた尿にスティックを浸します。
別の選択肢として基礎体温の測定があります。月経が規則的な女性では、起床前に毎日体温を測定することにより、排卵時期を推定できます。体温が下がったことは、排卵が近いことを示唆しています。0.5℃以上の上昇は排卵がちょうど起こったことを示唆します。しかし、この方法は時間がかかり、信頼性も低く、正確ではありません。せいぜい排卵が起こって2日ほど経ってから排卵日を予測できる程度です。
定期的に性交を行っているカップルが排卵が起こる時期を予測することで、妊娠の可能性が高まるかどうかは不明です。しかし、排卵が起こる時期の予測は、定期的に性交を行っていないカップルがいつ性交を行うのがよいかを推測する助けになる可能性は高いでしょう。
米国のカップルの最大5組に1組は1年以上妊娠に至らず、そのため不妊症であると判断されます。しかし、1年間妊娠を試みてうまくいかなかったカップルのうち60%以上は、治療を受けて、あるいは特に治療を受けなくても、最終的には妊娠に至ります。
不妊症の原因
不妊症の原因は、男性、女性、または男女両方にあります。
精子の問題(カップルの35%以上)
卵管の問題と骨盤内の異常(約30%)
排卵の問題(約20%)
頸管粘液の異常(5%以下)
原因不明(約10%)
多量のカフェイン摂取または過度の喫煙は女性の妊よう性を低下させる可能性があるため、避けるべきです。コーヒーを大量に摂取することで妊よう性が損なわれることを示すはっきりとした科学的根拠はありません。しかしながら、1日にコーヒーを5~6杯以上飲む女性では、妊娠するまでの時間がより長い可能性があることを示唆するデータもあります。
一部の研究では、45歳以上の男性は若年男性よりも妊よう性が低いことが報告されています。
不妊症の診断
医師による評価
疑われる原因に応じた様々な検査
不妊症の診断には、パートナー双方の十分な評価が必要です。通常、評価は最低1年間妊娠を試みてから行われます。ただし、以下の場合はそれより早く行われます。
女性が35歳以上である(通常6カ月間妊娠を試みた後で評価)。
女性の月経回数が少ない(1年に9回未満)。
女性に子宮、卵管、または卵巣のすでに特定された異常がある。
医師が男性の精子の問題を特定している、または問題の疑いがある。
年齢は要因の1つであり、女性では特に重要になります。女性は加齢とともに妊娠しにくくなり、妊娠中の合併症のリスクも高くなります。妊よう性は35歳頃から低下し始める可能性があり、40歳を過ぎると、妊娠はさらに困難になります。
疑われる原因に応じて、検査を行います。以下の検査を行う場合があります。
卵子の問題:卵巣からの卵子の放出(排卵)に関与する卵胞刺激ホルモンなどのホルモンを測定するための血液検査
排卵の問題:排卵の有無や時期を判断するための超音波検査
精子異常:精液検査
不妊症の治療
原因の治療
ときに薬剤
ときに生殖補助医療
カウンセリング、サポートなどストレスを減らす対策
治療の目標は以下のものです。
可能であれば、不妊症の原因を治療する
妊娠の可能性を高める
妊娠するのに必要な時間を短縮する
不妊症の原因が特定できなくても、治療を試みることは可能です。このような場合、女性には複数の卵子を刺激して成熟させ、排卵を引き起こす薬剤である排卵誘発薬が投与されることがあります。例えばクロミフェン、レトロゾール、ヒトゴナドトロピンなどの薬剤があります。これらの薬剤は排卵の問題がある女性に最も役立ちます。ただし、排卵誘発薬は多胎妊娠の可能性を高めます。
あるいは、以下のような生殖補助医療を用いることもあります。
子宮内精子注入では最も運動性の良好な精子のみを選んで子宮内に直接注入します。
体外受精は卵巣を刺激し、成熟した卵子を採取し、培養皿(体外)で精子と受精させ、培養により胚を発育させ、1個または複数個の胚を女性の子宮に着床させます。
生殖補助医療により双子以上の多胎となる可能性があります。
不妊治療を受けている間は、カップルの一方または双方が欲求不満、精神的ストレス、無力感、罪悪感などを感じることがあります。希望を抱いては失望することを繰り返す可能性もあります。孤立感やコミュニケーションがうまくいかないもどかしさから、パートナーや家族、友人、医師に対して怒りや恨みといった感情を抱くこともあります。精神的ストレスから、疲労や不安、睡眠や摂食の障害、集中力の低下などが起こります。また、診断と治療に伴う経済的負担や時間的拘束が、夫婦間の不和の原因になることがあります。
こうした問題を軽減するには、医学的な問題がパートナーのどちらにあろうと、2人がともに治療のプロセスに関わり、またその情報(どのくらいの期間かを含めて)を得ることが大切です。治療の成功率がどの程度であるかを把握し、また治療は成功するとは限らず、永遠に続けることもできないことを理解しておくことは、カップルがストレスに対処する上で役立ちます。
以下に関する情報も有用です。
いつ治療をやめるべきか
いつセカンドオピニオンを求めるべきか
いつ養子縁組を検討すべきか
例えば、もし3年間妊娠を試み続けて妊娠しなければ、あるいは2年間不妊治療を受け続けて妊娠しなければ、妊娠の可能性は非常に低くなります。理想的には、治療を開始する前にこれらの情報を得ておくべきです。
様々な支援団体(米国ではRESOLVEやFamily Equalityなど)によるカウンセリングや心理的支援なども利用することができます。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
Family Equality:この団体はLGBTQ+(レズビアン、ゲイ、両性愛者、性転換症者やトランスジェンダー、クィアまたはクエスチョニング)の家庭に対する平等を促進することを目的とし、家庭を築くための情報を提供しています。ウェブサイトには、妊娠に関する情報(費用など)、養子縁組、子育て、およびLGBTQコミュニティに関連する法的問題に関する情報が掲載されています。
RESOLVE:全国不妊症協会(RESOLVE: The National Infertility Association):このウェブサイトでは、不妊症、考えられる治療法や解決策(養子縁組や代理母の利用など)、経済的な問題に関する一般的な情報のほか、支援団体へのリンク、ストレスを管理する方法、友人や家族へのアドバイスを提供しています。また、LGBTQ+の人々が子どもをもつことを支援するための情報も提供しています。