鼻血

(鼻出血)

執筆者:Marvin P. Fried, MD, Montefiore Medical Center, The University Hospital of Albert Einstein College of Medicine
レビュー/改訂 2021年 9月
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鼻血を起こしやすい人もいれば、めったに起こさない人もいます。血がポタポタとしたたる程度の場合もあれば、勢いよく流れ出る場合もあります。血を飲み込んでしまうと、血が胃を刺激するため、その血を吐いてしまうことがよくあります。飲み込まれた血が消化管を通過し黒いタール状の便として認められる場合があります。

鼻腔前部の出血

鼻出血は通常、鼻の前部で2つの鼻孔を隔てる軟骨の細い血管で起こります(鼻腔前部の出血)。この軟骨は鼻中隔といい、血管が多く分布しています。鼻腔前部の出血は一見驚きますが、多くは深刻なものではありません。

鼻腔後部の出血

鼻の奥の部分にある血管からの出血(鼻腔後部の出血)は、めったに起こりませんが、より危険で治療も困難です。鼻腔後部の出血では通常、鼻腔前部の出血よりも太い血管から出血します。そうした血管は鼻の奥にあるため、医師が治療しようとしてもなかなか届きません。鼻腔後部の出血は、動脈硬化(動脈の血流を減らしたり閉塞させたりする)のある人、出血性疾患の患者、血液凝固を妨げる薬を服用している人、または鼻や副鼻腔の手術を受けた人では起こりやすくなります。

鼻出血の原因

鼻出血は、鼻の粘膜が刺激された場合や、鼻の血管が破れた場合に起こります。鼻出血の原因は様々です。いずれにせよ、アスピリンや血液凝固を妨げる他の薬(抗凝固薬)を服用している人、凝固障害のある人、動脈硬化のある人は、鼻出血を発症する可能性が高まります。

一般的な原因

最も一般的な原因は以下のものです。

  • 外傷(鼻をかむ、ほじるなど)

  • 鼻の粘膜の乾燥(冬などに起こる)

あまり一般的でない原因

あまり一般的でない原因には、以下のものがあります。

高血圧はすでに始まった鼻出血の持続を促進することがありますが、実際の原因にはおそらくなりません。

鼻出血の評価

以下では、どのようなときに医師の診察を受ける必要があるかと、診察を受けた場合に何が行われるかについて説明しています。

警戒すべき徴候

鼻出血がみられる場合は、特定の症状や特徴に注意が必要です。具体的には以下のものがあります。

  • 過度の出血の徴候(筋力低下、失神、起立時のめまいなど)

  • 血液凝固を妨げる薬の使用

  • 出血性疾患の徴候、またはすでに判明している出血性疾患(血友病など)

  • 最近の数回の鼻出血、特に明らかな原因がないもの

血液凝固を妨げる薬として最も一般的なものには、アスピリン、クロピドグレル、ワルファリンのほか、リバーロキサバン、アピキサバンなどの新規経口抗凝固薬があります。

出血性疾患の徴候としては以下のものがあります。

  • 皮膚に小さな紫色の斑点が多数現れる(点状出血)

  • 大きな青あざが多数できる

  • 歯ぐきから出血しやすくなる

  • 血便またはタール状の便

  • 喀血(せきとともに血が出る)

  • 血尿

  • 歯みがきをしたとき、検査のために採血を受けたとき、軽微な切り傷を負ったときに、正常時より多くの出血が起きる

  • 女性では重度の月経

受診のタイミング

鼻をつまむことでも鼻出血を止められない場合は、すぐに病院に行くべきです。たとえ出血が止まっても、警戒すべき徴候がみられる人は、直ちに医療機関を受診する必要があります。警戒すべき徴候がなく、治療の有無にかかわらず鼻出血が止まり、他の点でも体調がよい場合は、主治医に電話で相談してください。その場合は受診は不要かもしれません。

医師が行うこと

医師はまず、症状と病歴について質問し、次に身体診察を行います。病歴聴取と身体診察で得られた情報から、多くの場合、鼻出血の原因と必要になる検査を推測することができます。

病歴聴取の際に、医師は以下のことについて質問します。

  • 明らかな誘因(くしゃみ、鼻をかんだりほじったりした、最近の上気道感染症など)

  • 過去に鼻出血があった時期と回数、どうやってそれが止まったか

  • 患者(または家族)に出血性疾患または血液凝固の障害を引き起こす他の病気があるかどうか

  • 血液凝固を妨げる薬を飲んでいるかどうか

凝固障害を引き起こす可能性のある病気には、重度の肝疾患(肝硬変や肝炎など)や特定のがんがあります。

身体診察ではまず、大量の失血の徴候(頻脈や低血圧など)や著しい高血圧がないか調べます。

次に医師は鼻を中心に出血部位を探します。また、患者の皮膚を調べ、点状出血、大きなあざ、口内や口の周囲、手足の指先における細い血管の拡張など、出血性疾患の徴候がないか確認します。

鼻腔前部の出血部位は、通常は医師が手持ちのライトで照らして簡単に見ることができます。鼻腔後部の出血部位を見るには、内視鏡(観察用の柔軟な管状の機器)を使用する必要があります。しかし、鼻の奥の出血量が多すぎると、内視鏡を用いても何も見えません。

検査

通常の臨床検査は必要ありません。出血性疾患の症状または大量の失血がある場合や、激しい鼻出血または繰り返す鼻出血がある場合は、血液検査を受けるべきです。異物、腫瘍、または副鼻腔炎が疑われる場合には、CT検査が行われることがあります。

鼻出血の治療

医師はまず、すべての鼻出血を鼻腔前部の出血と同様に治療します。大量に出血した少数の患者には、静脈からの水分補給(輸液)やまれに輸血が行われます。すでに判明している出血性疾患をすべて治療します。

鼻腔前部の出血

通常、鼻の前の部分にある血管からの出血の処置は家庭で行うことができます。背筋を伸ばして座り、10分間両方の鼻孔をつまんで圧迫します。鼻の上部の骨の部分をつまんではいけません。鼻をしっかり圧迫し、10分間、一度も手を離さないことが重要です。氷のうで鼻を冷やす、ティッシュペーパーを丸めて鼻に詰める、頭を様々な位置に向けるといった、家庭で行われるその他の処置は効果的ではありません。

鼻をつまんでも出血が止まらない場合は、再度10分間、同じ処置を行うことができます。2回目の10分が経過しても出血が止まらない場合は、医師の診察を受ける必要があります。多くの場合、医師は出血のある鼻孔にいくつか綿を詰めます。この綿には、麻酔薬(リドカインなど)と鼻の血管を閉じさせる薬(フェニレフリンなど)を染み込ませてあります。それから鼻を10分ほどつまみ、綿を取り除きます。軽微な出血に対しては、多くの場合それ以上は何もしません。あるいは、ときに特別な発泡スポンジ(鼻腔タンポン)を出血のある側に詰めることがあります。このスポンジは膨らんで出血を止めます。スポンジは2~4日後に取り除きます。

出血量が多い場合や繰り返し出血する場合には、薬品(硝酸銀)による焼灼(しょうしゃく)または電流による電気焼灼を行って、出血部位を閉じることがあります。これらの方法が効果的でない場合は、市販の様々な鼻バルーンで出血部位を圧迫することがあります。まれに、片側の鼻腔全体に長いガーゼを詰める処置が必要になることがあります。このガーゼは通常3日後に取り除きます。

鼻腔後部の出血

鼻の奥の部分にある血管からの出血は止血が非常に難しく、生命を脅かすことがあります。この種の出血では、鼻をつまんでも出血が止まりません。血が鼻から出る代わりにのどを流れていくだけです。鼻腔後部の出血では、特殊な形のバルーン(小さな風船状の器具)を鼻に入れ、鼻腔内で膨らませて出血部位を圧迫することがあります。しかし、こうした鼻腔後部の詰めものは非常に不快で、呼吸もしづらくなります。通常はバルーンや詰めものを入れる前に、鎮静薬を静脈内投与します。また、こうした処置を受けている場合、入院して酸素の投与と副鼻腔や中耳の感染を予防するための抗菌薬投与を受けます。詰めものは4~5日間入れたままにします。この処置によって不快感が生じますが、これは治療により軽減できます。

バルーンで効果がない場合は、直接血管を閉じる必要があります。一般的には医師が手術を行い、その際には副鼻腔の壁を通して光ファイバーの内視鏡を配置します。医師は内視鏡を用いて、出血している血管に血液を送る太い動脈に到達し、血流を止めることができます(通常はクリップを用いる)。ときにはX線画像で確認しながら、血管内に細いカテーテルを通して出血部位に進め、出血している血管をふさぐ物質を注入することもあります(塞栓術)。

要点

  • 大半の鼻出血は鼻の前部から起こり、鼻をつまむことで簡単に止まります。

  • 鼻血が出た人は、出血を止めるために10分間鼻をつまむ方法を試してみるべきです。

  • 鼻をつまんでいても出血が止まらない場合は、医師の診察を受ける必要があります。

  • 病歴聴取と身体診察の際には、医師は出血性疾患や血液凝固に影響を及ぼす薬(ワルファリン、クロピドグレル、アスピリン、その他の非ステロイド系抗炎症薬[NSAID]など)の使用について質問します。

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