鼓膜穿孔(こまくせんこう)は、鼓膜に穴があいた状態です。
鼓膜穿孔の原因は、中耳の感染症とけがです。
鼓膜に穴があくと耳に突然痛みが生じ、ときに耳からの出血、難聴、耳鳴りが起こることもあります。
医師はオトスコープを使って穿孔を観察することができます。
通常、鼓膜は自然に治りますが、ときには手術による修復が必要になることもあります。
原因
綿棒などの異物を耳の中に差しこんだり、低い位置の樹木の枝や投げられた鉛筆などが偶然耳の中に入ったりして鼓膜に穴があく(破裂する)ことがあります。鼓膜を貫通した異物は、鼓膜と内耳をつないでいる耳小骨の連結を脱臼させたり、耳小骨を折ってしまうことがあります。折れた耳小骨の破片や異物自体が、内耳に入り込んでしまうことがあります。中耳と鼻の奥をつないでいる耳管がふさがると、鼓膜の外側と内側の気圧が大きく異なるため、結果として鼓膜に穿孔が起こることがあります(圧外傷)。
また、次のどちらかによる鼓膜の外側の急な気圧の変化で鼓膜に穴があくこともあります。
気圧の上昇、例えば爆発、平手打ち、潜水などによるもの
気圧の低下、例えば飛行機に乗っている際や外耳道が強く吸引されたときなどに起こる
医師が外耳道を洗浄したり異物を取り除いたりするときに穿孔が生じることもあります。
重度の頭部外傷が穿孔の原因となることもあり、特に頭蓋底の耳の近くが骨折した場合にみられます。
けがと関連していない鼓膜穿孔の最も一般的な原因は、中耳の感染症(中耳炎)です。
CLINICA CLAROS/SCIENCE PHOTO LIBRARY
Image provided by Piet van Hasselt, MD.
鼓膜穿孔の症状
中耳の感染症(中耳炎)が穿孔を引き起こすほど重度の場合、通常は、感染した液体(膿)がたまるために非常に強い痛みがあります。しかし、鼓膜が穿孔すると膿が耳の外に排出されることがあり、圧力と痛みが緩和されます。
けがによって鼓膜に穴があくと突然激しい痛みが生じ、ときには続いて耳からの出血、難聴(伝音難聴または感音難聴)、耳鳴(じめい)が起こることもあります。伝音難聴は、内耳の感覚器に音が届くのが妨げられている場合(例えば、耳小骨の連結が外れていることによる)に起こります。感音難聴は、音は内耳に届いているものの、音を神経インパルスに変換できない(例えば、内耳の損傷によるもの)か神経インパルスが脳に伝達されない場合に起こります。耳小骨の連結が外れたり内耳が傷ついたりすると、より強い難聴が生じます。
内耳が傷つくと、回転性めまい(動いたり回転したりしているような感覚)も起こることがあります。24~48時間で耳から膿が出てくることがあり、これは水や異物が中耳に入ってしまった場合に特によくみられます。
鼓膜穿孔の診断
医師による評価
鼓膜穿孔は、オトスコープと呼ばれる特殊な器具(手持ち式のライト)を用いて医師が耳の中を観察して診断します。可能な場合は、正式な聴覚検査を治療の前後に行います。
難聴または回転性めまいが重症である場合、または鼓膜の穿孔が大きい場合は、できるだけ早く耳鼻咽喉科医(耳、鼻、のどの病気の専門医)による評価を受けます。
鼓膜穿孔の治療
必要な場合は抗菌薬
ときに手術
耳を乾燥した状態に保ちます。入浴したりシャワーを浴びたりする際には、耳に水が入るのを防ぐために、ワセリンを塗った綿球を耳に入れるように指導されます。水泳は控えるべきです。
通常、けがの原因が汚れた異物である場合や汚染物質が穿孔から中に入ったかもしれない場合を除き、鼓膜穿孔に対して特別な治療は必要ありません。そのような場合は、医師は抗菌薬の点耳薬を投与します。耳に感染が生じている場合にも、抗菌薬が用いられることがあります。
鼓膜は通常、それ以上の治療をしなくても自然に治癒します。2カ月経っても鼓膜が治癒しない場合は、鼓膜を修復する手術(鼓室形成術)が必要になることがあります。激しい損傷、特に、著しい難聴、激しい回転性めまい、またはその両方を伴う場合はさらに速やかな手術が必要になることがあります。穴がふさがらないと、中耳の感染が長引くことがあります(慢性化膿性中耳炎)。
鼓膜穿孔の後に伝音難聴が発生して長く続く場合は、耳小骨の連結が外れているか動かなくなっていることが示唆され、手術で修復することがあります。損傷の後に感音難聴や回転性めまいが数時間以上続く場合には、何かが内耳を傷つけたか、内耳に入り込んでいる可能性が疑われます。