リーシュマニア症は、20種以上のリーシュマニア属(Leishmania)原虫によって引き起こされます。リーシュマニア症には、皮膚、鼻、口、のどの粘膜、または肝臓、脾臓、骨髄をはじめとする内臓に影響を及ぼすいくつかの病気が含まれます。
リーシュマニア属(Leishmania)原虫は感染したサシチョウバエが人間を刺すことで広がります。
症状は軽度かまったくない場合もあれば、皮膚にびらんができたり(皮膚リーシュマニア症)、鼻、口、のどに潰瘍ができて外観がひどく損なわれたり(粘膜リーシュマニア症)、発熱、体重減少、疲労、脾臓・肝臓の腫大がみられたり(内臓リーシュマニア症)する場合もあります。
この感染症の診断は、感染組織のサンプルの分析や血液検査によって下されます。
サシチョウバエに刺されないためには、防虫剤や蚊帳を使用し、衣類に殺虫剤をかける対策が有効です。
この感染症の治療に使用される薬は、リーシュマニア症の臨床病型、患者の免疫系の状態、感染症を引き起こしているリーシュマニア属(Leishmania)原虫の種類、どこで感染したかによって異なります。
(寄生虫感染症の概要も参照のこと。)
リーシュマニア症が発生する地域は世界中に点在します。
リーシュマニア症の感染経路
感染したサシチョウバエがイヌやげっ歯類などの動物や人間を刺すことで、リーシュマニア属(Leishmania)原虫の感染が広がります。まれに、輸血や感染者に使用された針の再使用によって感染する場合や、出産前または出産時に母体から胎児に感染する場合があります。さらに非常にまれなケースとして性的接触または検査中の針刺し事故で感染する場合もあります。
Image from the Centers for Disease Control and Prevention Image Library.
リーシュマニア症の臨床病型
リーシュマニア症は多様な病態を呈します。主要な病型が3つあります。それぞれ体の異なる部位で発生します。リーシュマニア症を引き起こす原虫は、サシチョウバエによる刺し傷を介して人の体内に入り、その後は皮膚にとどまることもあれば、鼻、口、のどの粘膜や、骨髄、肝臓、脾臓などの内臓に広がることもあります。
皮膚リーシュマニア症は皮膚を侵します。この病気は、南欧、アジア、アフリカ、メキシコ、中南米でみられます。パナマで訓練をしていた米軍や、イラクやアフガニスタンで任務を遂行していた米軍で流行したこともありました。ときおり、この感染症の発生地域を訪れる旅行者にもみられます。
粘膜リーシュマニア症は鼻や口の粘膜を侵し、潰瘍を形成し、組織を破壊します。この病気では、まず皮膚に潰瘍が発生します。この寄生虫はリンパ管や血管を通って皮膚から粘膜に至ります。粘膜リーシュマニア症の症状は、皮膚の潰瘍が存在する間にみられることもあれば、皮膚の潰瘍が治癒して数カ月から数年後に発生することもあります。
内臓リーシュマニア症(カラアザール)は内臓を侵し、特に骨髄、リンパ節、肝臓、脾臓に多くみられます。この病気はインド、アフリカ(特にスーダンとケニア)、中央アジア、地中海沿岸地方、中南米、まれに中国でみられます。寄生虫は皮膚からリンパ節、脾臓、肝臓、骨髄へ広がります。感染した人の全員で症状が現れるわけではありません。多くの地域では成人よりも小児の方が発症する可能性が高く、また、免疫機能が正常な人よりも免疫機能が低下している人(特にエイズ患者)の方が進行する可能性が高いです。
リーシュマニア症の症状
皮膚リーシュマニア症の初期症状は、多くの場合、サシチョウバエに刺された部位にできる隆起であり、周辺領域との境目ははっきりしています。それは通常、数週間から数カ月後に現れ、マクロファージと呼ばれる白血球の中に寄生虫が入っています。感染症が広がると、最初の隆起の近くにいくつか別の隆起が現れます。最初にできた隆起はゆっくりと大きくなり、しばしば潰瘍になって、そこから分泌物が出たり、かさぶたができたりすることがあります。その潰瘍は通常は痛みを伴わず、そこで二次性の細菌感染症(隣接部の皮膚の発赤、痛み、ときに発熱を特徴とします)が起きなければ、潰瘍以外の症状はみられません。潰瘍は数カ月程度で自然に治癒しますが、1年以上残ることもあります。そして、熱傷(やけど)の跡のような傷が永続的に残ります。まれに、全身の皮膚に潰瘍ができることもあります。その場合は、HIV感染症や免疫機能低下のその他の原因について評価を行います。
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粘膜リーシュマニア症では、まず皮膚の潰瘍が発生しますが、これは自然に治ります。皮膚の潰瘍が存在している間、または皮膚の潰瘍が治癒して数カ月から数年後に、鼻、口、のどの粘膜に潰瘍や組織の崩壊が生じることがあります。最初の徴候は、鼻づまりや鼻からの分泌物、鼻血などです。やがて、患者の容姿がひどく損なわれることがあります。
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内臓リーシュマニア症は突然発生することもありますが、通常は、感染したサシチョウバエに刺されたあと数週間から数カ月かけて徐々に発生します。不規則な発作性の発熱が起こります。体重減少、下痢、全身の疲労感が生じることもあります。肝臓、脾臓、ときにリンパ節が腫れます。血球数が減少し、これによって貧血が起こり、他の感染症にかかりやすくなります。治療しなければ、内臓リーシュマニア症の患者は死に至るおそれがあります。
治療が効果を発揮し、感染はしているものの症状がない人は、免疫機能が低下しているのでなければ、後に症状が出る可能性は低いと考えられます(免疫機能の低下は、エイズを患っている人や、臓器移植後の拒絶反応を予防するために免疫機能を低下させる薬を使用している人などにみられます)。
内臓リーシュマニア症の治療後、他の症状が消失するにつれて、斑点またはしこり(結節)が皮膚に現れることがあります。このような異常な皮膚病変のある人をサシチョウバエが刺すと、サシチョウバエが感染し、感染を広げるようになります。斑点やしこりが現れるかどうか、それがいつまで続くかは、感染した場所によって異なります。
アフリカのスーダン(サハラ砂漠の南):斑点やしこりは一般に数カ月から1年残ります。
インドとその近隣諸国:斑点やしこりは数年間残ることがあります。
南欧、北アフリカ、中東、ラテンアメリカ:内臓リーシュマニア症の治療後、皮膚に斑点やしこりは現れません。
エイズ患者では、内臓リーシュマニア症は再発することが多く、皮膚リーシュマニア症では全身に潰瘍が生じることがあります。
リーシュマニア症の診断
リーシュマニアを検出する顕微鏡検査および培養検査、ならびに感染組織のサンプルでリーシュマニアの遺伝物質(DNA)を検出する検査
内臓リーシュマニア症の有無を調べる血液検査
医師は、皮膚の潰瘍があり、皮膚リーシュマニア症が疑われる人では感染組織からサンプルを採取し、内臓リーシュマニア症が疑われる人では血液、骨髄、肝臓、または脾臓のサンプルを採取してリーシュマニア症の診断を下します。顕微鏡検査、培養検査、その他の検査によってリーシュマニア属(Leishmania)原虫の遺伝物質(DNA)の有無を調べ、サンプルにリーシュマニア属(Leishmania)原虫が含まれているかどうかを判別します。
内臓リーシュマニア症の診断を下すには、リーシュマニア属(Leishmania)原虫に対する抗体を検出する血液検査が役立つことがあります。(抗体とは、寄生虫などによる攻撃から体を守るために免疫系が作り出すタンパク質です。)しかし、抗体検査の結果が陰性になることもあります(特にエイズ患者をはじめ免疫機能が低下している人)。抗体を調べる血液検査は、皮膚リーシュマニア症の診断を下す際には役立ちません。
リーシュマニア症の予防
リーシュマニア症の予防は第一に、サシチョウバエに刺されないようにすることです。
この感染症の流行地域に旅行する人や居住している人には、以下の予防法が役立ちます。
皮膚の露出部にジエチルトルアミド(DEET)の入った防虫剤を使用する
防虫ネットや蚊帳を使用し、衣類にペルメトリンなどの殺虫剤をかけて着用する
長袖のシャツ、長ズボン、靴下を着用する
サシチョウバエが最も活動的になる夕暮れから夜明けまでの野外活動を避ける
リーシュマニア症の治療
いくつかの要因に応じて、各種の薬
粘膜リーシュマニア症によって外観が損なわれている場合は、薬物療法成功後に再建手術
リーシュマニア症の治療の専門家に相談することが推奨されます。リーシュマニア症の治療に使用する薬を選択する際には、医師は以下の点を考慮します。
病型(皮膚型、粘膜方、内臓型のいずれか)
感染症を引き起こしているリーシュマニア属(Leishmania)原虫の種類
患者が感染した地域
そのリーシュマニア属原虫(Leishmania)の治療に対する感受性
患者の免疫系の状態
薬の投与経路と起こりうる副作用
リーシュマニア症の治療に使用される薬としては以下のものがあります。
リポソーム化アムホテリシンB(真菌感染症の治療にも使用されます)
ミルテホシン(miltefosine)
アムホテリシンBデオキシコール酸製剤(真菌感染症の治療にも使用されます)
スチボグルコン酸ナトリウム(sodium stibogluconate)とアンチモン酸メグルミン(meglumine antimonate)
フルコナゾールまたは関連薬剤(真菌感染症の治療に使用されるもの)
リポソーム化アムホテリシンBが最も効果が得られやすいと考えられていますが、この薬には副作用がいくつかあり、静脈内に直接投与しなければならず、さらに高価です。代わりにアムホテリシンBデオキシコール酸製剤も使用できますが、リポソーム化アムホテリシンBより重い副作用があります。
ミルテホシン(miltefosine)は、経口投与が可能という点で優れていますが、先天異常の原因になることがあるため、妊娠中の女性には投与できません。ミルテホシン(miltefosine)を服用している妊娠可能年齢の女性は、効果的な避妊対策を講じる必要があります。
スチボグルコン酸ナトリウム(sodium stibogluconate)とアンチモン酸メグルミン(meglumine antimonate)は、心臓やその他の臓器に悪影響を与える可能性があります。副作用の重症度は年齢とともに高まります。耐性が世界の多くの地域で報告されています。米国では、スチボグルコン酸ナトリウム(sodium stibogluconate)は米国疾病予防管理センターからのみ入手できます。
フルコナゾールおよび関連する抗真菌薬の内服は、皮膚リーシュマニア症の一部の症例で効果的となる場合があります。これらの薬は粘膜または内臓リーシュマニア症には使用されません。
皮膚リーシュマニア症
粘膜リーシュマニア症を引き起こさない種類のリーシュマニアによる、合併症のない小さな潰瘍に対しては、以下の治療選択肢があります。
潰瘍に対する凍結療法または温熱療法
潰瘍に対するパロモマイシン軟膏(抗アメーバ薬)の外用(米国では使用できません)
潰瘍に対するスチボグルコン酸ナトリウム(sodium stibogluconate)の注射(米国では使用できません)
抗リーシュマニア薬
凍結療法は強い痛みを伴う可能性があり、対象は小さな病変に限定されます。温熱療法は、特別な治療機器が必要なため、広く利用可能にはなっていません。パロモマイシン軟膏と潰瘍に注射するスチボグルコン酸ナトリウム(sodium stibogluconate)は米国では入手できません。潰瘍が自然に治癒し始めた場合には、その潰瘍を引き起こしたリーシュマニア属原虫が粘膜リーシュマニア症と関連するものはないことを条件として、医師は治療をせずに経過観察をすることがあります。治癒が続く場合は、治療の必要はありません。
以下の場合には、抗リーシュマニア薬による治療を行います。
大きな潰瘍があるか、潰瘍が複数あるか、潰瘍により外観が損なわれる可能性がある場合
外用療法が選択できないか不成功に終わった場合
リーシュマニア・ブラジリエンス(Leishmania braziliensis)または粘膜リーシュマニア症を引き起こすラテンアメリカの近縁種による潰瘍がある場合
免疫機能が低下している場合
抗リーシュマニア薬の中でも、リポソーム化アムホテリシンBとミルテホシン(miltefosine)は、皮膚リーシュマニア症に効果的となる可能性が最も高い薬です。
リーシュマニアによる皮膚潰瘍に細菌による二次感染が起きた場合には、皮膚・軟部組織感染症の治療に効果的な抗菌薬を使用します。
粘膜リーシュマニア症
選択すべき薬は以下のものです。
ミルテホシン(miltefosine)
リポソーム化アムホテリシンB
経口で投与するミルテホシン(miltefosine)と静脈から投与するリポソーム化アムホテリシンBのどちらかを使用します。耐性の報告がない地域の感染者には、スチボグルコン酸ナトリウム(sodium stibogluconate)またはアンチモン酸メグルミン(meglumine antimonate)が代替薬となります。
鼻や顔面の変形がある場合には、再建手術が必要になりますが、再発が起きたときに移植用の皮膚が不足するのを回避するため、再建手術は治療終了の12カ月後まで遅らせる必要があります。
内臓リーシュマニア症
選択すべき薬は以下のものです。
リポソーム化アムホテリシンB
代替薬としてミルテホシン(miltefosine)
内臓リーシュマニア症は生命を脅かす病気であり、リポソーム化アムホテリシンBが選択すべき薬剤です。ミルテホシン(miltefosine)は、これまでインドやその近隣諸国で内臓リーシュマニア症の治療に効果的でしたが、これらの地域でも耐性の初期徴候が報告されています。
内臓リーシュマニア症に対しては、かつてはアンチモンを含有するスチボグルコン酸ナトリウム(sodium stibogluconate)またはアンチモン酸メグルミン(meglumine antimoniate)が選択すべき薬とされていましたが、現在では、これらの薬に対する耐性がインドやその他の国で蔓延しているほか、副作用が懸念されます。これらの薬は、ラテンアメリカとアフリカの耐性が問題になっていない地域では、依然として代替薬となっています。
リーシュマニア症に対する治療とともに、必要に応じて、十分な栄養補給、輸血、併発した細菌感染症に対する抗菌薬投与などの対症療法が必要になる場合があります。
エイズ患者に対する治療
リーシュマニア症に関するさらなる情報
米国疾病予防管理センター:リーシュマニア症(Centers for Disease Control and Prevention: Leishmaniasis)