がんには多くの種類があり、それぞれで原因や危険因子が異なります。約40%のがんが予防可能と推定されています。また個人間でも、個々の種類のがんの発生リスクの高さが異なります。したがって、すべてのがんやすべての人に対して効果的な予防策というものはありません。しかし、多くの人でがんやがんの合併症のリスクを低下させる一般的な戦略はいくつか存在します。このような一般的な戦略は、以下の3種類に分類されます。
一次予防:特定の種類のがんの発生リスクを低下させるためにとることのできる対策
二次予防:すでに何らかのがんにかかっているかもしれないが、症状が出ていない人に向けての対策
三次予防:がんによる影響を遅らせて合併症を予防するための対策
スクリーニング検査は特定のがんの二次予防の一部です。個人に関する情報、特にその人のがんの危険因子および身体診察の結果に基づいて、みつかっていないがんを検索するための検査を行います。悪性腫瘍や前がん性の腫瘍を早期に発見することで、命が救われます。そのため、推奨されるがんのスクリーニング検査を受けることが重要です。例えば、子宮頸がんのスクリーニングとしては、子宮頸部細胞診とヒトパピローマウイルス(HPV)検査の片方または両方を行うことで、子宮頸部の細胞から発生す前がん状態を検出します。大腸内視鏡検査は、大腸がんのスクリーニング検査の1つです。スクリーニング検査中に前がん性の結腸ポリープが見つかれば、それを取り除くことで大腸がんにかかる可能性を減らすことができます。
生活習慣の要因
減らすことのできる主な危険因子として、生活習慣の要因があります。主な要因としては、タバコへの曝露、飲酒、肥満、予防または回避可能な感染症(B型肝炎、C型肝炎、ヒトパピローマウイルス)などがあります。
食事などの生活習慣を変えることで、一部のがんのリスクを低下させることがあります。どの程度リスクを低下させることができるかは、がんの種類によって異なります。
食習慣を変えることで、リスクが低下するがんが数種類あります。
アルコール摂取量を減らすと、頭頸部、肝臓、食道のがんのリスクを低下させることができます。
脂肪の摂取量を減らすと、乳がんと結腸がんのリスクが低下するとみられています。
加工肉の摂取を制限し、全粒穀物や果物、野菜の摂取量を増やすと、一部のがんのリスクが低下する可能性があります。
肉の調理方法によっても、がんのリスクが増加する可能性があります。肉を直火で焼いたり、網焼きにしたり、炒めたりすると、結腸がんとの関連が報告されている特定の化学物質が発生します。ほかの調理方法にすることで、そのような化学物質の発生を減らし、結腸がんのリスクを減らせる可能性があります。
タバコの使用はすべてのがんの3分の1に直接関与します。喫煙せずタバコの煙を避けると、肺、腎臓、膀胱、頭頸部のがんやその他のいくつかの種類のがんのリスクを大きく低下させることができます。禁煙する人もがんのリスクを低下させることができ、リスクは時間が経つにつれて低下していきます。無煙タバコ(嗅ぎタバコや噛みタバコ)をやめると、口の中や舌にできるがんのリスクが低下します。喫煙習慣がある人と過去15年以内に喫煙していたことがある人は、肺がんスクリーニング検査の対象になります。
過体重と肥満はがん、特に乳がん、結腸がん、子宮内膜がん、食道がん、腎臓がん、膵臓がんの危険因子です。食事と運動の両方を通じて健康な体重を維持するよう努めるべきです。運動自体によって乳がん、子宮内膜がん、前立腺がんのリスクが低下する可能性があります。
環境的要因
発がん物質とは、がんのリスクを高める物質のことです。アスベスト、ベンゼン、ディーゼルエンジンの排ガスといった一部の発がん物質は職場に存在することがあり、すでに判明している発がん物質を使用する産業に従事する人は、曝露を避けたり最小限に抑えたりするための適切な予防策を講じるべきです。家の中や環境中に存在する発がん物質もあります。例えば、地中に天然に存在する放射性元素が崩壊して放射性のラドンガスになり、特定の地域に住む人々の家の中にたまることがあります。ラドンに曝露すると肺がんのリスクが増加します(特に喫煙者)。
日光への曝露を避ければ(特に昼間)、皮膚がんのリスクを低下させることができます。肌の露出を避け、紫外線A波とB波の両方に対して保護する紫外線防御指数(SPF)が30以上の日焼け止めを使うことも、皮膚がんのリスク低下に役立ちます。
がんに対するワクチン
ワクチンの接種(予防接種)により、ウイルスが原因で発生する特定のがんを予防できます。例えば、性行為を通じて感染する特定の型のヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸がん、肛門がん、一部の頭頸部がんを引き起こします。HPVの予防接種は、これらのがんの大部分を予防できます。
また別の例として、B型肝炎ウイルスに感染すると肝臓がんのリスクが高くなります。B型肝炎ウイルスに対するワクチン接種が肝臓がんの予防に役立ちます。
その他の要因
アスピリンの使用は、大腸がんのリスクを低下させたり、出血による早期診断につながったりする場合があります。
更年期症状がある女性では、ホルモン療法(例えば、エストロゲンおよびプロゲステロン)を受けることで乳がんのリスクが上昇することがあります。更年期症状がみられる女性は、ホルモン療法を受けることのリスクとメリットを慎重に検討し、医療専門職に相談するべきです(閉経に対するホルモン療法も参照)。
さらなる情報
以下の英語の資料が役に立つかもしれません。こちらの情報源の内容について、MSDマニュアルでは責任を負いませんのでご了承ください。
米国がん協会(American Cancer Society):がんのリスクを減らすのに役立つ情報