がんに対する放射線療法

執筆者:Robert Peter Gale, MD, PhD, DSC(hc), Imperial College London
レビュー/改訂 2022年 9月
プロフェッショナル版を見る
やさしくわかる病気事典

放射線は、コバルトなどの放射性物質や、粒子加速器(リニアック)などの特殊な装置から発生する強いエネルギーの一種です。

放射線は、急速に分裂している細胞やDNAの修復に困難がある細胞を優先的に破壊します。がん細胞は正常な細胞より頻繁に分裂し、多くの場合、放射線によって受けた損傷を修復することができません。そのため、がん細胞はほとんどの正常な細胞よりも放射線で破壊されやすい細胞です。ただし、放射線による破壊されやすさはがん細胞によって異なり、抵抗性が非常に強く放射線では効果的に治療できない細胞もあります。

がん治療の原則も参照のこと。)

放射線療法の種類

がん治療で使用される最も一般的な種類の放射線療法は次のものです。

  • 外照射療法

別の種類の放射線療法として次のものがあります。

  • 内照射療法

がん細胞を探しあててそれに結合するモノクローナル抗体と呼ばれるタンパク質に放射性物質を付加することもできます。抗体に付加した放射性物質ががん細胞に集まり、それを破壊します。

外照射療法

放射線療法では、ビーム状のガンマ線もしくはX線、アルファ粒子、または電子線を患者のがんに照射します。放射線手術は、高度に収束させた放射線のビームを用いる放射線療法の一種です。

外照射療法には以下のようないくつかの種類があります。

  • 3次元原体照射法(3D-CRT)

  • 強度変調放射線療法(IMRT)

  • 画像誘導放射線療法(IGRT)

  • トモセラピー

  • 定位放射線手術

  • 体幹部定位放射線治療

  • 陽子線治療

  • 電子線照射療法

いずれの種類の外照射療法でも、がんが存在する特定の領域や臓器だけに照射が行われます。正常組織への過剰な照射を避けるために複数方向から照射が行われ、周辺組織はできるだけ覆いをつけて保護されます。

3次元原体照射法では、腫瘍の輪郭の形に合わせられる正確な放射線のビームを照射することができます。

強度変調放射線療法では、多くの機器を利用して放射線ビームを成形し、放射線を照射します。多くの機器で放射線のビームを成形するため、腫瘍の特定の部位に照射する放射線の量をより正確に制御でき、付近の健康な組織をよりよく保護できます。

画像誘導放射線療法では、放射線治療中にCT検査やMRI検査などの画像検査を行います。そうした画像によって、治療中に腫瘍の大きさや位置の変化を検出できるため、治療中に患者の姿勢や放射線の線量を調節することができます。

トモセラピーは、画像誘導放射線療法とIMRTを組み合わせたものです。トモセラピーはCT装置と直線加速器を組み合わせた機械によって行います。この機械は患者の腫瘍の非常に詳細な画像を撮影できるため、非常に正確に的を絞って放射線ビームを照射することができます。

定位放射線手術は、非常に高い線量の放射線を非常に小さな腫瘍に照射するために用いられます。境界が非常に明瞭な小さな腫瘍にしか使用できないため、多くの場合は脳と脊髄の腫瘍に対して用いられます。定位放射線手術では、治療中に患者の姿勢を非常に正確に保つ必要があるため、特殊な頭のフレームなど、姿勢を保つ器具を使用します。

体幹部定位放射線治療では、3次元原体照射法と比べて、治療部位(照射野)が小さく、より高い線量の放射線を用います。脳と脊髄以外にある小さな腫瘍の治療に用いられます。

陽子線治療は、非常に限定的な範囲に的を絞って放射線を照射することができ、正常組織の損傷が大きな問題になる部位(眼、脳、前立腺、脊髄など)に生じた特定のがんを効果的に治療することができます。

電子線照射療法は、皮膚がんなど体の表面近くにある腫瘍の治療に用いられます。

これらの手法の選択は、しばしば腫瘍の位置に左右されます。

外照射療法では、長期にわたり一定線量の放射線が何回かに等分されて照射されます。これにより放射線でがん細胞を破壊する効果が高まり、同時に正常な細胞への悪影響が弱まります。次回の照射までの間にがん細胞は修復できないのに対して、正常な細胞は自己修復できるため、悪影響を減らすことができます。一般的に、放射線照射は6~8週間にわたって毎日行われます。毎回同じ位置に放射線を照射するために、フォーム・キャストなどの固定具で患者は正確に固定されます。

内照射療法

もう1つの放射線療法として、放射性物質(甲状腺がんの治療に用いられる放射性ヨードなど)を静脈から注射し、がんに到達させる治療法があります。がん細胞に直接結合するように設計されたモノクローナル抗体(研究室で製造されている抗体)に、放射性物質を結合させることもあります。別の方法では、患者が放射性物質を飲む場合もあります。

密封小線源治療は、放射性物質の小さなカプセル(シード)をがんに直接挿入する方法(放射性パラジウムを用いた前立腺がんの治療など)です。埋め込まれたカプセルから強い放射線ががんに照射されますが、周辺組織に届く放射線はほとんどありません。カプセルには、一定期間の後に放射線を出さなくなる半減期の短い放射性物質が入っています。

放射線療法の使用法

放射線療法は多くのがんの治癒において重要な役割を果たします。このようながんには、ホジキンリンパ腫、早期の非ホジキンリンパ腫、頭頸部の扁平上皮がん、セミノーマ(精巣のがん)、前立腺がん、早期の乳がん、特定の非小細胞肺がん、髄芽腫(脳または脊髄のがん)などがあります。気管(喉頭)や前立腺の早期のがんでは、放射線療法により手術と同程度の治癒率が得られています。ときに、放射線療法が他の種類の治療と併用されることがあります。シスプラチンなど特定の化学療法薬は放射線療法の有効性を高め、そうした薬が放射線療法に伴って投与されることがあります。

治癒が望めない場合、例えば多発性骨髄腫での骨転移や、進行して痛みのある肺、食道、頭頸部、胃のがんなどで、放射線療法で症状を和らげることができます。放射線療法で腫瘍が一時的に小さくなることで、骨や脳に広がったがんによる症状が軽減されます。

放射線療法の副作用

放射線療法では、腫瘍付近の正常な組織も放射線によって傷ついてしまう可能性があります。副作用は、治療する照射範囲の広さや照射する線量、放射線の影響を受けやすい組織がどのくらい腫瘍の近くにあるかによって異なります。正常でも細胞分裂が速い組織、例えば皮膚、骨髄、毛包や、口、食道、腸の内側の粘膜などは放射線の影響を受けやすい組織です。また放射線は卵巣や精巣にも損傷を与えます。正常な細胞の損傷を防ぐために、医師は正確に的を絞った放射線療法を行うよう努めます。

副作用は放射線の照射を受ける部位によって異なり、具体的には以下のものがあります。

  • 疲労

  • 口内炎

  • 皮膚症状(発赤、かゆみ、皮膚の剥がれなど)

  • ものを飲み込むときの痛み

  • 肺の炎症(肺炎)

  • 肝臓の炎症(肝炎)

  • 胃腸障害(吐き気、食欲不振、嘔吐、下痢など)

  • 排尿障害(頻尿、排尿時の灼熱感など)

  • 血球数の減少(それによって貧血[疲労や筋力低下につながります]になったり、あざができやすくなったり、出血しやすくなったり、感染リスクが生じたりします)

頭頸部がんへの放射線照射では、腫瘍の上にある皮膚のほか、唾液腺や口とのどの粘膜に損傷を与えることがよくあります。医師はそうした症状をできるだけ早く発見して治療を施し、患者が苦痛を感じずに治療を続けられるように努力しています。例えば、腹部への放射線療法で生じる下痢が、様々な薬で緩和されることがあります。

放射線療法によって、最初のがんを治療した数年後に別のがんが発生するリスクが高まることがあります。このリスクは、治療時の患者の年齢、放射線を照射した部分により異なります。

quizzes_lightbulb_red
医学知識をチェックTake a Quiz!
ANDROID iOS
ANDROID iOS
ANDROID iOS