高カルシウム血症(血液中のカルシウム濃度が高いこと)

執筆者:James L. Lewis III, MD, Brookwood Baptist Health and Saint Vincent’s Ascension Health, Birmingham
レビュー/改訂 2021年 9月
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高カルシウム血症とは、血液中のカルシウム濃度が非常に高い状態をいいます。

  • カルシウム濃度の上昇は、副甲状腺の問題や、食事、がん、骨に影響を及ぼす病気が原因で発生します。

  • 最初に消化管の不調、のどの渇き、多尿がみられ、重症化すると錯乱、やがて昏睡に至ることがあります。発見と治療が遅れると、生命を脅かすことがあります。

  • 高カルシウム血症は通常、普通の血液検査で発見されます。

  • 水分をたくさん摂取するだけで治療としては十分なこともありますが、必要であればカルシウムの排泄を促す利尿薬や骨からのカルシウム放出を遅らせる薬が使用されます。

電解質の概要体内でのカルシウムの役割の概要も参照のこと。)

カルシウムは体内に存在する電解質の1つであり、血液などの液体に溶け込むと電荷を帯びるミネラルです(しかし体内のほとんどのカルシウムは電荷を帯びていません)。体内では、血液中のカルシウムの量が厳密に制御されています。

高カルシウム血症の原因

高カルシウム血症の原因には以下のものがあります。

  • 副甲状腺機能亢進症:4つの副甲状腺のうち、1つまたは複数の腺が大量に副甲状腺ホルモン(血液中のカルシウム量を制御するホルモン)を分泌する病態。

  • カルシウムの過剰摂取:消化性潰瘍の人が痛みを和らげるために、大量の牛乳を飲み、カルシウムを含む制酸薬を服用すると、高カルシウム血症になる場合があります。この病気は、ミルク・アルカリ症候群と呼ばれます。

  • ビタミンDの過剰摂取:数カ月にわたって毎日大量のビタミンDを摂取すると、消化管から吸収されるカルシウムの量が著しく増加します。

  • がん:腎臓や肺、卵巣のがん細胞が、副甲状腺ホルモンと同様にカルシウムの血中濃度を上げるタンパク質を大量に分泌することがあります。このような状態は、がんの体液性高カルシウム血症と呼ばれ、腫瘍随伴症候群の1つと考えられます。また、がんが骨へ転移して骨の細胞を破壊すると、カルシウムが血液中へ放出されます。こうした骨の破壊は、前立腺がん、乳がん、肺がんで多くみられます。多発性骨髄腫(骨髄のがん)も骨破壊を引き起こし、その結果、高カルシウム血症をもたらします。その他のがんも、血液中のカルシウム濃度を上昇させることがありますが、その仕組みは完全には解明されていません。

  • 骨の病気:骨が分解(再吸収)されたり破壊されたりしてカルシウムが血液中に放出されると、高カルシウム血症が生じることがあります。パジェット病でも骨が破壊されますが、たいていの場合、血液中のカルシウム濃度は正常です。ただし、パジェット病の人が脱水になった場合や、長時間座位または臥位で過ごし骨に荷重がかかっていない状況では、カルシウム濃度が非常に高くなることがあります。重度の甲状腺機能亢進症でも骨組織が再吸収されることによって高カルシウム血症が引き起こされます。

  • 運動不足:まれに、麻痺や寝たきりで動くことができない人が、高カルシウム血症になることがあります。これは、骨に荷重がかかっていない状態が長期間続くと、骨のカルシウムが血液中に放出されるためです。

肉芽腫性疾患、薬、内分泌疾患やその他の一部の疾患によっても高カルシウム血症が引き起こされることがあります。

知っていますか?

  • 体を動かさないと、骨が弱くなり血液中にカルシウムが放出されるため、血液中のカルシウム濃度が高くなります。

副甲状腺機能亢進症

副甲状腺機能亢進症も参照のこと。)

副甲状腺は、副甲状腺ホルモンを分泌し、これには以下の働きがあります。

  • 消化管からのカルシウムの吸収を増やす

  • 腎臓から排出されるカルシウムの量を減らす

  • 骨に蓄えられたカルシウムを放出させる

副甲状腺ホルモンは腎臓に働きかけリンを排出させますが、一方で骨にも働きかけて血液中にリンを放出させます。この2つの作用のバランスにより、リン濃度が正常に保たれたり低下したりします。

副甲状腺機能亢進症とは、副甲状腺ホルモンの分泌量が多すぎる状態をいいます。副甲状腺機能亢進症になると、血液中のカルシウム濃度が高くなり、リンの濃度は正常または低くなります。

原発性副甲状腺機能亢進症

原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌される異常な状態です。原発性副甲状腺機能亢進症の患者の約90%は、副甲状腺の1つに発生した良性腫瘍(腺腫)が原因です。残りの10%では、副甲状腺が単に腫大することにより、ホルモンが過剰に生産されます。まれに、副甲状腺がんが副甲状腺機能亢進症の原因になる場合があります。

原発性副甲状腺機能亢進症は男性より女性に多くみられます。高齢者や、頸部に放射線療法を受けた人にも多く発生する傾向があります。ときに、まれな遺伝性疾患である多発性内分泌腫瘍症候群の一環としてこの病気が発生することがあります。

通常、原発性副甲状腺機能亢進症は、1つ以上の副甲状腺を外科的に切除することによって治療します。手術の目標は、ホルモンを過剰放出している副甲状腺組織をすべて取り除くことです。手術の成功率はほぼ90%です。

二次性副甲状腺機能亢進症

続発性副甲状腺機能亢進症は、慢性腎臓病ビタミンD欠乏症などで血液中のカルシウム濃度が大幅に低下し、それに対する反応として副甲状腺ホルモンが過剰放出される病態です。

治療法は原因によって異なります。

三次性副甲状腺機能亢進症

三次性副甲状腺機能亢進症では、血液中のカルシウムの量にかかわらず、副甲状腺ホルモンが過剰放出されます。三次性副甲状腺機能亢進症は通常、二次性副甲状腺機能亢進症に長く罹患している人に発生します。

治療法は原因によって異なります。

家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症

家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症症候群は、血液中のカルシウムの量が副甲状腺によって少なく認識され、それに対する反応として、多すぎる量の副甲状腺ホルモンが誤って分泌される遺伝性の病気です。副甲状腺の手術はこの病気では有用ではなく、他の治療も通常は必要とされません。

高カルシウム血症の症状

高カルシウム血症は、ほとんど症状がみられないこともよくあります。高カルシウム血症の初期症状としては、一般に便秘、吐き気、嘔吐、腹痛、食欲不振などがあります。尿の量が極端に多くなることもあり、脱水と激しいのどの渇きが生じます。

極めて重度の高カルシウム血症は、しばしば錯乱、情動障害、せん妄、幻覚、昏睡を伴う脳の機能障害を引き起こします。筋力が低下し、不整脈から死に至ることもあります。

長期間の、または重度の高カルシウム血症では、カルシウムを含む腎結石がよくみられます。あまり多くはないものの、腎不全が生じることもありますが、普通は治療すれば治ります。しかし、腎臓にカルシウムが多く蓄積している場合、すでに起きた損傷は回復しません。

高カルシウム血症の診断

  • 血液中のカルシウム濃度の測定

高カルシウム血症は通常、一般的な血液検査で見つかります。

いったん高カルシウム血症がみつかると、原因を確定するためにさらなる検査を行う必要があります。さらなる血液検査と尿検査が行われる可能性があります。高カルシウム血症の原因となりうるがんや肺疾患がないか調べるために、胸部X線検査が必要になることもあります。遺伝的原因を調べる際に、遺伝子検査が行われることがあります。

高カルシウム血症の治療

  • カルシウムの排泄量を増やすための輸液および薬の投与

高カルシウム血症が重度でなければ、原因を取り除くだけで十分です。軽度の高カルシウム血症の人や高カルシウム血症が起こりうる病態がある人は、腎機能が正常であれば、水分を十分とるよう指導されます。水分は腎臓を刺激しカルシウムを排出させるだけでなく、脱水の予防にも役立ちます。

医師は、リンを含むサプリメントの摂取を勧めることがありますが、これはサプリメントがカルシウムの吸収を阻害するためです。

カルシウムの値が非常に高い、または脳機能障害の症状や筋力低下がある場合には、腎機能が正常である場合に限り、水分と利尿薬を静脈内投与します。透析は非常に効果的で、安全かつ信頼できる治療ですが、他の方法では治療できない重度の高カルシウム血症の人のみに用いられます。

そのほかにビスホスホネート、カルシトニン、コルチコステロイド、まれにプリカマイシン(plicamycin)といった薬剤が高カルシウム血症の治療に使用されることがあります。こうした薬剤には、主に骨からのカルシウムの放出を遅くする作用があります。

がんが原因の高カルシウム血症は、特に治療が困難です。ときにデノスマブという薬が有用です。がんをコントロールできないと、最善の治療を行っても高カルシウム血症が再発します。

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