睡眠の概要

執筆者:Richard J. Schwab, MD, University of Pennsylvania, Division of Sleep Medicine
レビュー/改訂 2022年 5月
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睡眠は生存と健康に欠かせませんが、睡眠がなぜ必要で、正確にはどのような効果があるのか、まだ完全には解明されていません。睡眠による効果の1つは、日中の作業効率を回復させることです。

必要な睡眠時間は人によって大きく異なりますが、通常は1日6~10時間です。ほとんどの人は夜に眠ります。しかし、勤務形態に合わせるため昼間に睡眠をとらなければならない人も多く、そのような状況が睡眠障害の原因になることもあります。

知っていますか?

  • 睡眠が必要である正確な理由は分かっていません。

どれだけ長く寝るか、そして目覚めた後にどれだけ休息できたと感じられるかは、以下のような要因に影響されます。

  • 興奮や精神的ストレスの程度

  • 年齢

  • 食事

  • 薬剤の使用

例えば、使用すると眠気を催す薬剤もあれば、逆に眠りにくくなる薬剤もあります。カフェイン、強いスパイス、グルタミン酸ナトリウムなど、食品成分や添加物が睡眠を妨げることもあります。高齢者は就寝時刻も起床時刻も早く、睡眠習慣の乱れに弱いという傾向があります。

いびきは、本人の睡眠だけでなくベッドパートナーの睡眠をも妨げることがあります。

睡眠サイクル

睡眠は常に同じというわけではありません。睡眠には、大きく分けて次の2種類があります。

  • 急速眼球運動(レム)睡眠

  • 非急速眼球運動(ノンレム)睡眠(さらに3段階に分けられます)

正常であれば、ノンレム睡眠の3つの段階(ステージN1~N3)の後に短時間のレム睡眠が続くというサイクルが90~120分毎に(一晩に数回)繰り返されます。夜中に短時間だけ目覚める(ステージW)こともありますが、一般的に本人はそれに気づきません。

  • ノンレム睡眠:成人では睡眠時間全体の約75~80%をノンレム睡眠が占めています。睡眠は、ステージ1(最も眠りが浅く、簡単に目覚める段階)から、ステージ3(最も眠りが深く、起こそうとしてもなかなか目覚めない段階)へと進んでいきます。ステージ3では、血圧が最も低くなり、心拍と呼吸も最も遅くなります。ステージ3は、質のよい睡眠です。

  • レム睡眠:脳の電気的活動が非常に活発になり、覚醒時といくぶん似た様相を呈します。眼球が素早く動きますが、特定の筋肉は麻痺して随意運動ができなくなります。ただし、一部の筋肉が不随意にピクピクと動くこともあります。呼吸は速く深くなります。

鮮明な夢を見るのは、ほとんどがこのレム睡眠の最中です。寝言、夜驚症(やきょうしょう)、睡眠時遊行症の大半は、ノンレム睡眠のステージ3で起こります。

睡眠サイクルの段階

正常な睡眠では、明確に区分できる各段階(ノンレム睡眠[N]の3段階とレム[REM]睡眠の1段階)からなる睡眠サイクルが、90~120分毎に繰り返されます。

ステージ1(N1)の浅い眠りは比較的短時間で終わります。最も長く続くのは次のステージ2(N2)です。ステージ3(N3)は、深い睡眠であり、ほとんどが夜の前半に起こります。夜が更けるにつれ、レム睡眠の時間が長くなります。夜間にはごく短時間の覚醒(ステージW)が何度かありますが、通常、そのほとんどは本人が気づかないうちに生じています。

睡眠障害

米国ではほぼ2人に1人が睡眠障害を報告しています。(小児の睡眠障害も参照のこと。)

睡眠障害には、寝つけない、途中で目が覚めやすい、睡眠中に起き上がり奇妙な行動をする(睡眠時遊行症など)などが含まれます。睡眠を妨げる要因は、不規則な就寝時間、寝る前の活動、ストレス、食事、病気、薬剤など、数多くあります。

睡眠障害で最もよくみられる症状は以下のものです。

不眠症は病気であることもあれば、別の病気の症状であることもあります。日中の過度の眠気は病気ではなく、様々な睡眠関連の障害の症状の1つです。

不眠症の人は、寝つきが悪く、途中ですぐに目が覚めてしまい、朝目覚めたときにすっきりした感じがありません。朝早く目覚めてしまうこともあります。睡眠不足になると、日中に眠気、疲れ、いらだちを感じます。

日中に過度の眠気を感じる人は、通常なら起きている時間帯に眠りに落ちてしまうことが多くなります。睡眠障害の中には、眠気に逆らえず、日中に眠り込んでしまう病気もあります。

睡眠中に四肢(腕と脚のこと)の不随意運動やその他の異常な行動(悪夢、夜驚症、睡眠時遊行症など)がみられる睡眠障害もあります。睡眠中の異常な運動や行動は、睡眠時随伴症と呼ばれます。

このほかの症状として、記憶、協調運動、感情に問題が生じる場合もあります。こうした症状があると、学校での成績や職場での業績が低下することがあります。また、自動車事故を起こすリスクや、心疾患にかかるリスクも高くなります。

通常、症状の詳細な説明(ときに睡眠日誌の情報も加わります)から睡眠障害と診断できますが、睡眠検査室での検査が必要になる場合もあります。睡眠検査室では、睡眠ポリグラフ検査などを行います。

高齢者での重要事項:睡眠

高齢者のうち、多くて約半数が、自分で寝たいと思っているほど寝られないと言います。加齢とともに、総睡眠時間および深い睡眠は減る傾向にあり、睡眠が中断されやすくなります。

よく眠れないことの原因は若い人と同じ場合もありますが、加齢に伴う変化が関与している場合もあります。

加齢に伴う変化

歳をとるとともに、参加する活動が少なくなり、身体的な活動量が減少すると、寝入りが悪くなったり、途中で目が覚めやすくなったりします。

親戚の家や介護施設に移った高齢者は、室温や周囲の雑音などを自分で調節できない場合があります。その結果生じる不快感により、睡眠がさらに難しくなる可能性があります。

外出が減って、屋外で過ごす時間が短くなると、日光にあたる時間が減少します。眼に十分な日光が入らないと、体内(生物)時計が地球の明暗サイクルからずれてしまうことがあります。すると、眠らなければならないとき(夜)に、なかなか眠れなくなります。

また高齢になると、体内で作られるメラトニンと、成長ホルモンの量が減少します。これらのホルモンには深い睡眠を促す働きがあるため、これらのホルモンが減ると睡眠が妨げられます。

高齢者は、若い人や小児と比べて、就寝時刻と起床時刻が早くなります。若い人と比べて、高齢者では深い眠り(日中の活動から体を回復させる効果があります)についている時間も短くなります。いったん眠りについても、簡単に目が覚めてしまいます。その結果、床についている時間が長くても、目覚めたときにあまりすっきり感じられないようになります。通常、高齢者にこのような変化がみられるだけでは、睡眠障害があるということにはなりませんが、このような変化のために日中の生活に支障をきたす場合は、睡眠障害があるかもしれません。

高齢者は、睡眠習慣の変化に弱い傾向があります。例えば、時差ぼけや交代勤務に伴う問題の影響を受けやすくなります。

高齢者の病気

高齢になると、睡眠の妨げとなる心身の病気も増える傾向があります。

病気は以下のように様々な形で睡眠を妨げます。

  • 痛みを発生させる(関節炎など)

  • 呼吸を困難にする(心臓や肺の病気など)

  • 排尿の回数が増えて、夜に頻繁に起きなければならなくなる(前立腺肥大症糖尿病心不全など)

高齢者に多くみられるうつ病も、睡眠を妨げます。

高齢者の薬

多くの高齢者は、睡眠に影響を及ぼす薬剤を服用しています。一部の薬剤(心不全に対する利尿薬など)は排尿を促し、その結果睡眠を中断させます。日中に眠気をもたらす薬剤や、刺激を与える薬剤もあり、そのいずれも夜間の睡眠を妨げる可能性があります。

睡眠を補助する薬(睡眠薬)は、医師の処方薬であれ市販薬(OTC)であれ、少量でも副作用があります。これらの副作用は高齢者でより発生しやすく、より多くの問題を引き起こします。副作用には日中の眠気、動きのぎこちなさ、神経過敏、興奮、排尿困難、錯乱などがあります。これらの薬剤は夜間の転倒のリスクも高めます。

高齢者と昼寝

高齢者は夜に十分眠れないために、日中に仮眠をとる(昼寝をする)傾向があります。日中に仮眠をとると、夜に眠れなかった分を取り戻せる場合もありますが、その結果、夜間に眠ることがさらに難しくなります。必要に応じて血圧を調節する体の能力が加齢とともに低下することも、仮眠が増える一因かもしれません。例えば、たくさん食べた後は血圧が低下するため、より多くの血液を頭に送る必要があります。この調節能力は加齢に伴って低下するため、高齢者は横になることが増え、ときにそのまま仮眠に入ることがあります(うたた寝)。

高齢者の睡眠を改善する方法

一般的に、高齢者であっても若いときと同じぐらい睡眠が必要であり、よく眠れないことを老化現象の一部として受け入れてしまうのはよくありません。睡眠を改善する方法としては、以下のように様々なものがあります。

  • 活動的であり続ける。

  • 外で過ごす時間を増やす。

  • 眠りを妨げる食べものや飲みもの(カフェインやアルコールを含むものなど)を避けるか、カフェイン入り飲料の摂取は午前中のみにする。

  • 眠りやすい寝室にする。

  • 決まった時刻に就寝し、(さらに重要なのは)決まった時刻に起床する。

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