腹部大動脈瘤

執筆者:Mark A. Farber, MD, FACS, University of North Carolina;
Federico E. Parodi, MD, University of North Carolina School of Medicine
レビュー/改訂 2022年 6月
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やさしくわかる病気事典

腹部大動脈瘤とは、大動脈が腹部を通過する部分(腹部大動脈)の壁に膨らみ(拡張)が生じた状態のことです。

  • 腹部大動脈瘤は、典型的には徐々に大きくなっていき、ときに破裂することがあります。

  • 動脈瘤ができると、腹部に拍動が感じられることがあり、破裂した場合には体の深部の耐えがたい激痛や低血圧が起こり、死に至ります。

  • ほかの目的で行われた診察や画像検査で動脈瘤が見つかることがよくあります。

  • 血圧を下げる薬を使用するほか、大きな動脈瘤や拡大しつつある動脈瘤では、外科手術やステントを動脈瘤の中に挿入する処置によって大動脈を修復します。

大動脈瘤と大動脈解離の概要も参照のこと。)

大動脈は全身で最も太い動脈です。酸素を豊富に含む血液を心臓から受け取り、枝分かれする動脈を介して全身に血液を送り出しています。腹部大動脈とは、大動脈のうち腹腔を通過する部分のことです。

腹部大動脈瘤は、どの年代にもみられますが、50~80歳の男性に最も多く発生します。腹部大動脈瘤は家族内で遺伝する場合があり、高血圧の人、中でも喫煙者で特に多くみられます。最終的には腹部大動脈瘤の約20%が破裂します。

喫煙は腹部大動脈瘤の主要な危険因子の1つで、特に男性において重要です。

多くの場合、腹部大動脈瘤は動脈硬化の結果として動脈の壁が弱くなることにより引き起こされます。大動脈壁の感染症(これは心臓弁の感染症[心内膜炎]や全身の感染症[敗血症]に合併することがあります)や血管の炎症(血管炎)でも動脈壁が弱くなることがあります。

大動脈瘤が発生する場所

動脈瘤は大動脈のどの部分でも起こる可能性があります。ほとんどは腹部大動脈に生じます。残りは胸部大動脈に生じ、その中では上行大動脈に最も多く発生します。

腹部大動脈瘤の症状

腹部大動脈瘤がある人では、何の症状もみられない場合もよくありますが、腹部に拍動を自覚する場合もあります。動脈瘤は痛み(典型的には体の深部の突き刺すような痛み)を、主に背中に引き起こすこともあります。動脈瘤から血液が漏れ出している場合は、激しい痛みが続きます。

大動脈瘤が破裂すると、通常はまず下腹部と背部に耐えがたい激痛が起こるほか、動脈瘤がある部分に圧痛を感じます。破裂による内出血が重度の場合は、急速にショック状態に陥ることがあります。腹部大動脈瘤が破裂すると、死に至ることが多く、治療をしなければ確実に死亡します。

知っていますか?

  • 小さな動脈瘤はまれにしか破裂しません。

腹部大動脈瘤の診断

  • 腹部の超音波検査またはCT検査

痛みが重要な手がかりになりますが、痛みは多くの場合、動脈瘤が大きくなるか破裂する寸前まで起こりません。一方、症状が現れずに、通常の身体診察や別の理由で腹部の画像検査(X線検査、CT検査、超音波検査など)を行った際に動脈瘤が偶然発見される場合もよくあります。

触診では、腹部の中央に拍動するかたまりが感じられることがあります。そこに聴診器を当てると、血液が動脈瘤の中を勢いよく流れるときに生じるシューという雑音が聞こえる場合があります。ただし、肥満の人では大きな動脈瘤があっても発見できないことがあります。動脈瘤が急速に大きくなって破裂しそうになると、痛みが生じ、診察中に腹部を圧迫すると痛みを感じます(圧痛)。

ときには、腹部X線検査で壁の中にカルシウムが沈着した動脈瘤が見つかることもありますが、それ以外にこの検査で得られる情報はほとんどありません。動脈瘤の発見と大きさの測定には、他の診断検査の方が役立ちます。通常は、超音波検査で動脈瘤の大きさを知ることができます。動脈瘤が見つかった場合は、超音波検査を数カ月おきに行い、動脈瘤が大きくなっているかどうか、どのくらいのペースで大きくなっているかを判断します。

腹部CT検査では、特に造影剤を静脈内に注射した後に実施した場合、超音波検査よりも正確に腹部大動脈瘤の大きさと形状を確かめることができますが、放射線を浴びることになります。MRI検査も正確ですが、超音波検査やCT検査のようにはすぐに受けられない場合があります。

65歳以上の特定の人々(喫煙歴のある75歳以上の男性など)には、ときに超音波検査による腹部大動脈瘤のスクリーニングが推奨されることがあり、その場合は、たとえ症状がなくても対象になります。

腹部大動脈瘤の治療

  • 動脈瘤を人工の血管(グラフト)で置き換える手術

直径が約5センチメートル未満の腹部大動脈瘤が破裂することはめったにありません。このような動脈瘤の治療は、血圧を下げるための降圧薬、動脈硬化に関連するリスクを低下させるための高コレステロール治療薬とアスピリンの使用、そして禁煙だけで済む場合もあります。喫煙者では、禁煙が非常に重要です。

画像検査を行って、動脈瘤が大きくなる速さを測り、修復手術が必要かどうかを判定します。最初のうちは3~6カ月毎に検査を行いますが、その後は動脈瘤が大きくなる速さに応じて様々な間隔で行います。

直径が約5~5.5センチメートルを超える動脈瘤は、破裂する可能性があるため、リスクが高すぎて外科手術ができない場合を除き、通常は外科手術が推奨されます。マルファン症候群の人では、動脈瘤が小さい段階で破裂するリスクが高いため、動脈瘤の早期、すなわち大動脈基部(大動脈のうち心臓に最も近い部分)の内径が約4.5センチメートルの時点で修復手術を行うことがあります。

知っていますか?

  • 小さな腹部大動脈瘤は、残したままにしておくことも可能ですが、一定の大きさになったら、医師は治療を勧めます。

外科手術では、人工の血管(グラフト)を挿入して動脈瘤を修復します。2つの方法があります。

  • 従来法による手術

  • 血管内ステントグラフト内挿術による修復

従来法による手術では、全身麻酔を行ってから、胸骨の下からへその少し下のところまで切開します。続いて人工血管を大動脈の対象個所に縫い付け、動脈瘤の壁で人工血管を取り囲む形にした後、切開創を縫合します。この手術にかかる時間は3~6時間で、入院日数は通常5~8日です。人工血管を挿入する外科手術での死亡リスクはおよそ2~5%ですが、そのほかに重篤な合併症がある人では、より高くなる可能性があります。

血管内ステントグラフト内挿術による修復は、体への負担が少ない手法で、70%以上の症例で用いられています。腰から下のみの感覚が消失し、意識は維持される局所(硬膜外)麻酔が用いられます。特殊な穿刺針を通して、細長いガイドワイヤーを大腿動脈から大動脈の動脈瘤の内部まで進めます。ステントグラフト(折りたたむことのできるメッシュ状のチューブ)を装着したカテーテルを、このワイヤーに沿って動脈瘤の内部に挿入します。そこでステントグラフトを開くと、安定した血流の通り道が作られます。この手術にかかる時間は2~5時間で、入院日数は通常1~2日です。

動脈瘤修復手術での手技の選択は、患者の年齢や全般的な健康状態、動脈と動脈瘤の解剖学的構造など、多くの要因に左右されます。一般に、開腹手術は年齢が低く比較的健康な患者に用いられますが、これは10年以上生存する患者では手術の成果がより長期間にわたって持続するためです。血管内ステントグラフト内挿術は、より高齢の患者や、健康状態が不良で開腹手術には耐えられないと考えられる患者に用いられます。

腹部大動脈瘤の治療

破裂した腹部大動脈瘤や破裂寸前の腹部大動脈瘤には、開腹手術か血管内ステントグラフト内挿術を緊急に行う必要があります。動脈瘤破裂による緊急修復手術での死亡リスクは約50%です。血管内ステントグラフト内挿術の場合は、このリスクが低下します(20~30%)。動脈瘤が破裂すると、腎臓への血流が途絶えたり、血液が失われてショック状態に陥るため、腎臓に影響が及ぶ場合があります。動脈瘤破裂の修復手術の後に腎不全が発生すると、生存の可能性が非常に低くなります。

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