急性尿細管壊死(ATN)

執筆者:Frank O'Brien, MD, Washington University in St. Louis
レビュー/改訂 2022年 3月
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急性尿細管壊死(ATN)は,急性尿細管細胞損傷および機能障害を特徴とする腎障害である。一般的な原因は,腎血流低下を引き起こす低血圧または敗血症と腎毒性薬剤である。病態は,腎不全が発生しない限り無症候性である。低血圧,重症敗血症,または薬物曝露後に高窒素血症が出現した場合に本疾患を疑い,臨床検査値と循環血液量の増量に対する反応によって腎前性の高窒素血症と鑑別する。治療は支持療法による。

尿細管間質性疾患の概要も参照のこと。)

急性尿細管壊死の病因

急性尿細管壊死の一般的な原因としては以下のものがある:

  • 腎臓の血流低下,最も頻度の高い原因は低血圧または敗血症(虚血性ATN,最もよくみられ,特に集中治療室の患者でよくみられる)

  • 腎毒性物質

  • 大手術(しばしば複数の因子に起因する)

ATNのその他の原因としては以下のものがある:

  • 体表面積の15%を超えるIII度熱傷

  • ヘム色素ミオグロビンおよびヘモグロビン(横紋筋融解症または重度の溶血のいずれかにより生じる)

  • 腫瘍崩壊症候群多発性骨髄腫などの疾患に起因する,その他の内因性毒性物質

  • 毒物(エチレングリコールなど)

  • ハーブ療法および民間療法(東南アジアでみられる魚の胆嚢の摂取など)

一般的な腎毒性物質としては以下のものがある:

  • アミノグリコシド系薬剤

  • アムホテリシンB

  • シスプラチンおよびその他の化学療法薬

  • 造影剤(特に容量100mL以上で静脈内投与されたイオン性高浸透圧剤―造影剤腎症を参照)

  • 非ステロイド系抗炎症薬(NSAID;特に腎血流量低下または腎毒性を有する他の薬剤の使用が同時にみられる場合)

  • コリスチンメタンスルホン酸(コリスチン)

  • カルシニューリン阻害薬(例,シクロスポリン,タクロリムス,全身性での使用)

  • バンコマイシン(特に用量が治療域を超える場合[1])

体液の大量喪失は虚血性ATNのリスクを増大させるが,そのリスクは特に敗血症性ショック,出血性ショック,または膵炎がみられる患者と大手術を受けた患者でより高く,重篤な併存症を呈する患者で最も高くなる。

大手術と進行した肝胆道疾患(2)は,アミノグリコシド系薬剤による毒性のリスクを高める。特定の薬剤の併用(例,アミノグリコシド系薬剤とアムホテリシンB)は特に腎毒性が強い可能性がある。NSAIDはATNなどのいくつかのタイプの内因性腎疾患を惹起する可能性がある。

毒性物質への曝露は,円柱や細胞残屑を伴う局所的で分節性の尿細管管腔閉塞または分節性尿細管壊死をもたらす。

急性尿細管壊死は以下がある患者で発生する可能性が高い:

病因論に関する参考文献

  1. 1.Stokes MB: Vancomycin in the kidney—A novel cast nephropathy.J Am Soc Nephrol 28(6):1669-1670, 2017.doi: 10.1681/ASN.2017010091

  2. 2.Aniort J, Poyet A, Kemeny J-L, et al: Bile cast nephropathy caused by obstructive cholestasis.Am J Kidney Dis 69(1):143-146, 2017.doi: 10.1053/j.ajkd.2016.08.023

急性尿細管壊死の症状と徴候

急性尿細管壊死は通常無症候性であるが,急性腎障害の症状や徴候を引き起こす場合があり,ATNが重度の場合は,典型的には最初に乏尿を呈する。しかしながら,ATNの重症度が低い場合は,尿量は減少しないことがある(例,アミノグリコシド誘発性ATNで典型的)。

急性尿細管壊死の診断

  • 腎前性高窒素血症からの鑑別は,主に臨床検査所見に基づき,血液または体液喪失の場合は循環血液量の増量に対する反応に基づく

血清クレアチニン値がベースラインから0.3mg/dL/日(26.5μmol/L)以上上昇した場合と明らかな誘因(例,低血圧,腎毒性物質への曝露)に続いて1.5~2.0倍上昇した場合には,急性尿細管壊死を疑うが,クレアチニン値の上昇は特定の物質(例,静注造影剤)への曝露でもその1~2日後に生じることがあり,その他の腎毒性物質(例,アミノグリコシド系薬剤)への曝露では,発症がさらに遅くなる可能性がある。

ATNは,治療法が異なることから,腎前性高窒素血症と鑑別しなければならない。腎前性高窒素血症では,腎血流量の低下は,クレアチニン値と不釣り合いな血清BUN値の上昇をもたらすが,尿細管細胞に虚血性障害を惹起するほどではない。腎前性高窒素血症は,直接的な血管内液体の喪失(例,出血,消化管での喪失,尿中への喪失に起因),または総体液の喪失を伴わない有効循環体液容量の相対的低下(例,心不全,腹水を伴う門脈圧亢進症)により惹起される可能性がある。体液喪失が原因の場合,生理食塩水の静注による循環血液量の増量により尿量が増加し,血清クレアチニン値が正常化する。ATNが原因の場合,生理食塩水の静脈内投与は典型的には尿量の増加をもたらさず,血清クレアチニン値に急速な変化は認められない。未治療の腎前性高窒素血症は虚血性ATNに進行する可能性がある。

臨床検査所見も腎前性高窒素血症から急性尿細管壊死を鑑別する助けになる(腎前性高窒素血症から急性尿細管壊死を鑑別する臨床検査所見の表を参照)。

表&コラム
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医学計算ツール(学習用)
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急性尿細管壊死の予後

他の点では健康な患者では,短期的予後は基礎的な障害が是正されれば良好であり,血清クレアチニンは典型的には1~3週間以内に正常またはほぼ正常に戻る。重症患者では,急性腎障害が軽症の場合にも合併症発生率および死亡率は上昇する。予後は集中治療室での治療を必要とする患者(死亡率72%)よりも必要としない患者(死亡率32%)で良好である。死亡の主な予測因子としては以下のものがある:

  • 尿量の低下(例,無尿,乏尿)

  • 基礎疾患の重症度

  • 併存疾患の重症度

急性尿細管壊死で生存した患者は,慢性腎臓病のリスクが高い。

死因は通常感染症または基礎疾患である。

急性尿細管壊死の治療

  • 支持療法

治療は支持療法であり,具体的には可能であれば必ず腎毒性物質の使用中止,正常血液量の維持,栄養サポート,感染症の治療(腎毒性のない薬剤による治療が望ましい)などを行う。乏尿性急性尿細管壊死では尿量を維持するため利尿薬を使用する場合があるが,有益性は確認されておらず,腎障害の経過にも変更をもたらさず,またマンニトールまたはドパミンの使用を裏付けるエビデンスもない。一般的な急性腎障害の管理については,本マニュアルの別の箇所で考察されている。

パール&ピットフォール

  • 利尿薬はATN患者の尿量維持を助ける可能性があるが,腎障害の経過には変更をもたらさない。

急性尿細管壊死の予防

予防法としては以下のものがある:

  • 重症(critically ill)患者では正常血液量および腎血流量の維持

  • 可能であれば腎毒性薬剤の使用を避ける

  • 腎毒性薬剤を使用せざるを得ない場合は,腎機能を綿密にモニタリングする

  • 造影剤腎症に対する予防措置を取る

  • 糖尿病患者では,血糖値のコントロール

確立した急性尿細管壊死への経過を予防または変更する上でループ利尿薬,マンニトール,ドパミンが有用であることを裏付けるエビデンスはない。

要点

  • 急性尿細管壊死(ATN)は,腎血流量の低下または毒性物質に対する腎臓の曝露をもたらす様々な疾患や誘発因子に続いて発生する可能性がある。

  • 重症例での乏尿を除き,症状は腎不全が発生しない限り出現しない。

  • 腎前性高窒素血症からATNの鑑別を,循環血液量の増量に対する反応,ならびに尿と血液の化学検査およびそれに基づく計算値によって行う。

  • ATNの原因を可能な限り早急に是正し,良好な短期予後を達成する。

  • 腎毒性物質の使用を中止し,正常血液量を維持し,感染症および低栄養の治療を行う。

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