集中治療が必要な患者のモニタリングおよび検査

執筆者:Cherisse Berry, MD, New York University School of Medicine
レビュー/改訂 2022年 12月
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重症患者のモニタリングは,直接観察および身体診察に基づき,患者の病状に応じた頻度で断続的に行われる。同時に,その他,機器を用いた持続的モニタリングも行われ,操作に特別な訓練および経験を必要とする複雑な機器を用いる。そうした機器の大半は,生理学的パラメータの測定値が設定値を超えると警報を発する。どこの集中治療室(ICU)でも,アラームが鳴った際には,プロトコルに厳密に従って対処すべきである。

モニタリングの対象には通常,バイタルサイン(体温,血圧,脈拍数,および呼吸数)の測定,水分の総摂取量および総排泄量の定量などがあり,しばしば頭蓋内圧測定と経日的な体重測定も行う。血圧は自動血圧計により記録するか,あるいは動脈カテーテルを用いて継続的にモニタリングすることも可能である。パルスオキシメトリー用の経皮的センサーも同様に使用される。

血液検査

頻回の採血は静脈を損傷し,痛みを生じ,貧血を引き起こしうるが,問題の早期発見に役立てるため,通常ICU患者ではルーチンに毎日血液検査を行う。中心静脈カテーテルまたは動脈カテーテルを留置することで,末梢の穿刺を繰り返す必要がなくなり,血液の採取が簡便になるが,合併症のリスクを考慮しなければならない。一般に,血清電解質と血算をセットで毎日検査する必要がある。マグネシウム,リン酸,イオン化カルシウムの値も測定すべきである。 完全静脈栄養を受けている患者には,週1回の肝機能検査および血液凝固検査が必要である。必要に応じて他の検査(例,発熱時の血液培養,持続する失血の有無を把握するための継続的な血算)が行われる。

ポイントオブケア検査(POCT:中央検査部外での検査)では,ベッドサイドまたは各セクション(特にICU,救急診療部,手術室)において,高度に自動化された小型の機器を用いて特定の血液検査を行う。一般的に実施可能な検査には,血液生化学検査,血糖値,動脈血ガス,血算,心筋マーカー,凝固検査などがある。その多くは,2分未満で結果が分かり,必要とする血液は0.5mL未満である。

心電図モニタリング

重症患者の大半は,心臓の活動を3点誘導法によりモニタリングされている;通常,信号は患者が装着する小型無線送信機から集中監視室に送られる。自動システムにより,異常な心拍数および波形があれば警報が発生し,後から検討できるよう異常波形が記録される。

特殊な心電図モニターの中には,心筋虚血に関連する新しいパラメータを探知するものもあるが,臨床上の便益は不明である。これらのパラメータには,ST部分の連続モニタリングおよび心拍変動などがある。正常でみられる心拍間隔の変動が失われると,自律神経の活動低下,心筋虚血の可能性,および死亡リスクの増大が示唆される。

肺動脈カテーテル(PAC)モニタリング

肺動脈カテーテル(PAC,またはスワン-ガンツカテーテル)は,ICU患者で使用される頻度は低くなってきている。これは先端にバルーンが付いた血流指向性カテーテルであり,中心静脈を経由して右心を通過し,肺動脈に挿入される。このカテーテルには通常,圧のモニタリングまたは輸液の注入ができるポートがいくつか設けられている。PACの中には,中心(混合)静脈血酸素飽和度を測定するセンサーを備えているものもある。PACから得られるデータは,主に心拍出量および前負荷の判定に用いられる。前負荷は肺動脈楔入圧によって推定されることが最も多い。しかし,前負荷は右室拡張末期容積を用いた方がより正確に判定できることがあり,この右室拡張末期容積は,心拍数に応じて制御される高速応答サーミスタを使用して測定される。

PACは長年にわたって用いられているにもかかわらず,使用により罹病率および死亡率が低下するということは証明されていない。むしろ,PACの使用は死亡率の上昇と関連づけられている。この知見は,PAC使用の合併症と得られたデータの解釈の誤りによって説明される。しかしながら,他の客観的かつ臨床的なデータと組み合わせることにより,PACが特定の重症(critically ill)患者の管理に役立つと考える医師もいる。多くの生理学的パラメータの測定と同様に,単一の異常値よりも変化の方が概してより重要である。PACの適応となりうる状況を肺動脈カテーテルの適応となりうる状況の表に示す。

表&コラム

手技

肺動脈カテーテル(PAC)の挿入は,バルーン(カテーテル先端にある)を収縮させた状態で,特殊なカテーテルを介して鎖骨下静脈(通常は左)または内頸静脈(通常は右)から行うか,より頻度は下がるが大腿静脈から行うこともある。カテーテル先端が上大静脈に到達したら,バルーンを拡張させることでカテーテルは血流に乗って進む。カテーテル先端位置の同定は,通常は圧モニタリング(心内圧および大血管圧については心臓および大血管の正常圧の表を参照)によって行い,利用可能であればX線透視によって行う場合もある。カテーテルが右室へ入ったことは,収縮期血圧が約30mmHgまで突然上昇することでわかる;拡張期血圧は右房圧および大静脈圧から変化しないままである。カテーテルが肺動脈に入ると,収縮期血圧は上昇したままで,拡張期血圧は右室拡張末期圧または中心静脈圧(CVP)以上に上昇する;すなわち,脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧の差)が減少する。カテーテルがさらに進むとバルーンは末梢肺動脈に楔入する。肺動脈に留置されれば,バルーンを収縮させるべきである。胸部X線で留置位置が適切であることを確認する。

表&コラム
表&コラム

バルーンを収縮させた状態で,収縮期血圧(正常15~30mmHg)および拡張期血圧(正常5~13mmHg)が記録される。拡張期血圧は楔入圧とよく対応するが,原発性肺疾患(例,肺線維症肺高血圧症)により肺血管抵抗が上昇しているときには,拡張期血圧が楔入圧を超えることがある。

肺動脈楔入圧

バルーンを拡張した状態では,カテーテルの先端での圧力は肺静脈の静圧なback pressureを反映する。肺梗塞を予防するため,バルーンを30秒を超えて拡張したままにしてはならない。通常は肺動脈楔入圧は平均左房圧とほぼ同じであり,そして左房圧は左室拡張末期圧(LVEDP)とほぼ同じである。LVEDPは左室拡張末期容積(LVEDV)を反映する。LVEDVは前負荷に相当し,この前負荷が実際に標的となるパラメータである。特定の要因がからむ場合はPAOPはLVEDVを正確に反映しない。そのような要因としては,僧帽弁狭窄,僧帽弁逆流,PEEP(呼気終末陽圧)高値(> 10cmH2O),および左室コンプライアンスの変化(例,心筋梗塞,心嚢液貯留,または後負荷増大による)などがある。測定のテクニック上の問題は,バルーンの過剰拡張,不適切なカテーテル位置,肺静脈圧を超える肺胞圧,または重度の肺高血圧症(バルーンの楔入を困難にしうる)により生じる。

PAOPの上昇は左心不全の際に起こる。PAOPの低下は循環血液量または前負荷が減少した際に起こる。

混合静脈血の酸素化

混合静脈血は,上下大静脈から右心を通り抜け肺動脈に入った血液から成る。その血液をPACの遠位ポートから採取することもできるが,カテーテルには酸素飽和度を直接測定する光ファイバーセンサーを備えたものもある。

混合静脈血酸素飽和度(SmvO2)が低下する原因としては,貧血,肺疾患,一酸化炭素ヘモグロビンの増加,心拍出量の減少,組織代謝における酸素需要の増加などがある。動脈血酸素飽和度(SaO2):(SaO2 − SmvO2)の比によって,酸素の運搬が十分であるか判断する。理想の比率は4:1であるが,好気的代謝の需要量を維持できる許容可能な最小の比率は2:1である。

心拍出量(CO)

心拍出量は,冷水の間欠的なボーラス注入,または比較的新しいタイプのカテーテルでは連続的な熱希釈によって測定される(心拍出量および血流量の測定を参照)。患者の体格で補正するため,心拍出量を体表面積で除して心係数とする(心係数および関連測定項目の正常値の表を参照)。

医学計算ツール(学習用)
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その他の変数は心拍出量から計算できる。そういった変数には,全身および肺の血管抵抗,ならびに右室の1回仕事量(RVSW)および左室の1回仕事量(LVSW)などがある。

表&コラム
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合併症

肺動脈カテーテル(PAC)は挿入が難しいことがある。不整脈(特に心室性不整脈)が最も頻度の高い合併症である。バルーンの過剰拡張またはバルーンを常時楔入させておくことによる肺梗塞,肺動脈穿孔,心穿孔,弁損傷,および心内膜炎なども起こりうる。まれに,(特に心不全,心筋症,または肺動脈圧上昇のある患者において)カテーテルが右室内で,もつれてしまうことがある。

肺動脈破裂が起こるのは,PAC挿入の0.1%未満である。この不運な合併症はしばしば致死的で,カテーテルを最初に楔入した直後,またはそれに続く楔入圧測定中に起こる。このため,多くの医師は,楔入圧よりも肺動脈拡張期圧をモニタリングすることを好む。

非侵襲的な心拍出量の評価

肺動脈カテーテル(PAC)の合併症を回避するには,ポイントオブケア超音波検査,食道ドプラモニタリング,胸郭インピーダンス法などの,他の心拍出量測定法を用いることができる。これらの検査法は有用となる可能性はあるが,いずれもまだPACと同等の信頼性はない。

ポイントオブケア超音波検査

ポイントオブケア超音波検査は,救命医療において機能的および解剖学的異常を迅速に診断する上で不可欠になっている。携帯型の超音波診断装置は持ち運びが容易で,時間の節約にもなり,患者を動かさずに利用できる。ポイントオブケア超音波検査から得られる情報の質は,より高額で多くの労働力を必要とする画像検査から得られる情報と同等またはそれ以上の場合もある。超音波検査を適宜使用することで,電離放射線への曝露を軽減できる。急性期ケアにおいて,ポイントオブケア超音波検査は腹部,胸部,および心臓の評価に特に有用である。深部静脈血栓症の診断に使用されることもある。

腹部超音波検査は,貯留液(血管外の体液)の同定のために用いることができ,一般に外傷の迅速簡易超音波検査(focused assessment with sonography for trauma:FAST;通常は外傷の評価中および蘇生中に行われる)の一環として行われる。血圧の低い外傷患者にみられる貯留液は血液である可能性が高く,外科的介入の適応となる。その他の腹部臓器も評価できる。

心臓超音波検査では,心腔のサイズ,壁運動,収縮性,駆出率を測定できるため,解剖および血行動態の評価に不可欠である。迅速簡易心エコー検査(focused rapid echocardiographic evaluation:FREE)は,体系的な超音波検査の一例である。FREEは以下の心エコー検査の4つの標準的なウインドウ(傍胸骨長軸,傍胸骨短軸,心尖部,および剣状突起下)を用いて行われる。FREEでは,左室駆出率(EF),一回拍出量(SV),心拍出量(CO),および心係数(CI)を評価し,これにより低血圧を認める患者の病態の評価を行うことが可能である(1)。低血圧を認める患者の評価においては,以下を確認する上で超音波検査は不可欠である:

  • 循環血液量減少:下大静脈が充満しているように見えても(換気を受けている循環血液量減少患者などでみられる),左室の運動が亢進していて,収縮期末にほとんど血液がなく,拡張期末に血液が少ない場合は循環血液量減少が示唆される。

  • 左室機能障害:左室機能障害は,壁運動異常および駆出率の測定値または推定値の低下(経験豊富な評価者が全体的なサイズや見かけ上の収縮力および左室壁の内向き運動や様々な部位の肥厚を評価することでわかる)から示唆される。

  • 右室不全:右室のサイズは左室のサイズの60%で,三角形で,内部の表面が粗いはずである。右室不全は肺塞栓症を示唆することがある。

  • 心嚢液および心タンポナーデ

胸部超音波検査は,胸水および気胸の同定に用いることができ,単純X線よりも感度および陰性適中率が高い。例えば,3つの肋間にまたがる領域でのlung slidingの消失およびA lineの変化(水平方向のアーチファクト)は,いずれも感度ほぼ100%であり,また両方の所見を合わせると非常に特異度が高いようである。胸水のエコー輝度および胸膜とそれに隣接する肺実質の変化も,胸水の病因の判定に有用である。(E-FASTによる診察を参照のこと。)

ポイントオブケア超音波検査は,深部静脈血栓症の検索および腹腔内臓器の評価にも有用である。

食道ドプラモニター(EDM)

この機器は直径6mmの軟性カテーテルであり,上咽頭経由で食道に挿入され心臓の背後に置かれる。先端のドプラ血流プローブにより,心拍出量および一回拍出量を持続的にモニタリングできる。侵襲的なPACとは異なり,食道ドプラモニター(EDM)は気胸,不整脈,または感染を引き起こさない。心臓の弁膜病変,中隔欠損,不整脈,または肺高血圧症のある患者では,EDMはPACによる測定より正確なことが実際にある。しかしながら,EDMは少し姿勢を変えただけで波形が失われ,減衰した不正確な記録となる。

胸郭インピーダンス法

この検査法では,前胸部と頸部に貼り付けた外部電極を用いて,胸郭の電気インピーダンスを測定する。測定値は胸部の血液量の変化に伴って拍動毎に変動するため,この値から心拍出量を推定できる。この検査法は無害で,測定値がすぐ(2~5分以内)に得られる;しかしながら,患者と電極の接触状況に非常に影響を受けやすい。胸郭インピーダンス法は,心拍出量の絶対値を正確に測定することよりも,所定の患者における心拍出量の変化を認識するのに有用である。

非侵襲的な心拍出量の評価に関する参考文献

  1. 1.Murthi SB, Hess JR, Hess A, et al: Focused rapid echocardiographic evaluation versus vascular catheter-based assessment of cardiac output and function in critically ill trauma patients.J Trauma Acute Care Surg 72 (5):1158–1164, 2012.doi: 10.1097/TA.0b013e31824d1112

頭蓋内圧(ICP)モニタリング

頭蓋内圧モニタリングは非開放性重度頭部損傷の患者には標準的であり,ときに水頭症および特発性頭蓋内圧亢進症(偽性脳腫瘍[pseucotumor cerebri])の選択された症例,または動静脈奇形の術後もしくは塞栓術後の管理といった,一部の他の脳疾患にも使用される。これは,頭蓋内圧(正常では5~15mmHg)をモニタリングし,脳灌流圧(平均動脈圧から頭蓋内圧を減じたもの)を最適化する目的で用いられる。一般的に,脳灌流圧は60mmHgを上回るよう維持されるべきである。

いくつかの頭蓋内圧モニタリング法が利用可能である。脳室ドレナージ(EVD)は最も有用な方法であり,頭蓋骨を経由してカテーテルを脳室に位置させる(脳室ドレナージカテーテル)。カテーテルを用いて髄液をドレナージでき,それにより頭蓋内圧を下げることができることから,このデバイスは好まれる。しかしながら,EVDは最も侵襲的な方法でもあり,感染率は最も高く,挿入も最も難しい。ときに,重度の脳浮腫によりEVDのカテーテルが閉塞する。

他の頭蓋内デバイスには,脳実質内モニター,くも膜下ボルト,硬膜下ボルト,および硬膜外ボルト(epidural bolt;頭蓋骨と硬膜との間に挿入でき,圧センサーが中を通っている)などがある。このうち,脳実質内モニターはより広く使用されている。全ての頭蓋内圧の測定機器は,感染のリスクがあるため,通常5~7日後には交換または抜去すべきである。

近赤外線分光法(NIRS)

NIRSは,末端臓器の酸素化および灌流を非侵襲的かつ継続的にモニタリングする方法である。通常はNIRSセンサーを標的組織の上の皮膚につけて,組織灌流を反映するミトコンドリアチトクロムの酸化還元状態をモニタリングする。NIRSは急性コンパートメント症候群(例,外傷における)または遊離組織移植後の虚血の診断に役立ち,また,下肢血管バイパスグラフトの術後モニタリングに役立つこともある。蘇生が適切に行われたかを評価するため,NIRSによる小腸pHのモニタリングが用いられることがある。

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