心停止

執筆者:Shira A. Schlesinger, MD, MPH, Harbor-UCLA Medical Center
レビュー/改訂 2023年 4月
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心停止は心臓の機械的活動の停止であり,その結果,循環が途絶する。心停止が起こると血液が重要な臓器に流れなくなり,臓器が酸素欠乏に陥り,未治療のまま放置すると死に至る。突然の心停止とは,発症期間の短い(しばしば前兆を伴わない)予期せぬ循環停止である。

米国では,病院外での突然の心停止が毎年400,000人以上(うち5000人が乳児および小児と推定される)に生じており,死亡率は90%を越える。

呼吸停止と心停止は異なるものであるが,無治療の場合,一方は必ず他方を引き起こす。(呼吸不全呼吸困難,および低酸素症も参照のこと。)

(院外および院内心停止については,American Heart Association[AHA]による心疾患および脳卒中統計2023年版も参照のこと。)

心停止の病因

成人における突然の心停止の主な原因は心疾患である(全ての種類の心停止のうち,15%以上が急性冠症候群に起因し,大多数が基礎疾患に心血管疾患が関連している)。かなりの割合の患者で,突然の心停止が心疾患の初発症状である。心停止のその他の原因としては,心疾患以外(特に肺塞栓症消化管出血,外傷)による循環性ショック,換気不全,代謝障害(薬物過量服用を含む)などがある。

乳児および小児では,心原性の心停止は成人よりまれである。乳児および小児における心停止の主な原因は呼吸不全であり,これは様々な呼吸器疾患(例,気道閉塞,溺水,感染症,乳児突然死症候群[SIDS]煙の吸入)によって起こりうる。しかしながら,小児および青年における突然の心停止(前触れのない予期せぬ循環停止)は,チャネル病または基礎にある心臓の構造的異常に起因する不整脈が原因であることが最も多い(1, 2, 3, 4)。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Atkins DL, Everson-Stewart S, Sears GK, et al; Resuscitation Outcomes Consortium Investigators: Epidemiology and outcomes from out-of-hospital cardiac arrest in children: the Resuscitation Outcomes Consortium Epistry-Cardiac Arrest.Circulation 119(11):1484–1491, 2009.doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.108.802678

  2. 2.Meert KL, Telford R, Holubkov R, et al; Therapeutic Hypothermia after Pediatric Cardiac Arrest (THAPCA) Trial Investigators: Pediatric out-of-hospital cardiac arrest characteristics and their association with survival and neurobehavioral outcome.Pediatr Crit Care Med 17(12):e543–e550, 2016.doi: 10.1097/PCC.0000000000000969

  3. 3.Scheller RL, Johnson L, Lorts A, Ryan TD: Sudden cardiac arrest in pediatrics.Pediatr Emerg Care 32(9):630–636, 2016.doi: 10.1097/PEC.0000000000000895

  4. 4.Tsao CW, Aday AW, Almarzooq ZI, et al: Heart Disease and Stroke Statistics-2023 Update: A Report From the American Heart Association [published correction appears in Circulation 147(8):e622, 2023]. Circulation 147(8):e93-e621, 2023.doi:10.1161/CIR.0000000000001123

心停止の病態生理

心停止は広範囲の虚血を引き起こし,その結果細胞レベルで起こった異常が臓器機能に有害な影響を及ぼし,蘇生後および灌流回復後も残存する。主な結果として,直接細胞損傷および浮腫形成がある。浮腫は,膨張する空間がほとんどない脳では特に有害であり,蘇生後にしばしば頭蓋内圧亢進およびそれに伴う脳灌流の低下を引き起こす。蘇生が成功した患者の多くに,意識レベルの変化(中等度の錯乱から昏睡まで),痙攣発作,または両方を症状とする,短期または長期の大脳機能障害が生じる。

アデノシン三リン酸(ATP)の産生が低下することで細胞膜が損傷し,カリウムの流出とナトリウムおよびカルシウムの流入が起こる。細胞内ナトリウムの過剰は,細胞浮腫の初期の原因の1つである。過剰なカルシウムはミトコンドリアを損傷し(ATP産生を抑制),一酸化窒素産生を促進し(有害なフリーラジカルの産生につながる),特定の状況においては,細胞にさらなる損傷を与えるプロテアーゼを活性化させる。

イオンの異常な流れはニューロンの脱分極を引き起こし,神経伝達物質を放出させ,その一部は有害な作用をもたらす(例,グルタミン酸は特定のカルシウムチャネルを活性化し,細胞内のカルシウム過剰を助長する)。

炎症メディエーター(例,インターロイキン1B,TNF-α[腫瘍壊死因子α])が合成される;その一部は,微小血管血栓症および血管損傷を引き起こし,さらなる浮腫をもたらす。一部のメディエーターはアポトーシスを惹起し,細胞死を加速させる。

心停止の症状と徴候

重症(critically ill)患者または終末期の患者では,心停止が起こる前に,速く浅い呼吸,動脈圧低下,および進行性の意識レベルの低下など臨床症状が悪化する時期がしばしば存在する。突然の心停止では前触れもなく虚脱が起こり,ときに短時間のミオクローヌスまたはそれ以外の痙攣様活動を伴う。

心停止の診断

  • 臨床的評価

  • 心電図モニタリングと12誘導心電図検査

  • ときに原因の検査(例,心エコー検査,胸部画像[X線,超音波検査],電解質検査)

心停止の診断は,臨床所見としての無呼吸,脈拍消失,意識消失を認めることによる。動脈圧は測定不能である。数分後には瞳孔は散大し,対光反射がなくなる。

心電図モニタリングを行うべきであり,心電図では心室細動(VF),心室頻拍(VT),または心静止がみられる。ときに,灌流リズム(perfusing rhythm)(例,極度の徐脈)がみられる;これは真の無脈性電気活動(かつては電気収縮解離と呼ばれていた)または脈拍が検出できない極度の低血圧を示す場合がある。

治療可能な潜在的原因がないか評価する;有用な記憶法は「HとT」である:

  • H:低酸素血症(hypoxemia),循環血液量減少(hypovolemia),アシドーシス(水素イオン,[hydrogen ion]),高カリウム血症または低カリウム血症(hyperkalemiaまたはhypokalemia),低体温(hypothermia)

  • T:薬物あるいは中毒(tablet or toxin ingestion),心タンポナーデ(cardiac tamponade),緊張性気胸(tension pneumothorax),血栓症(thrombosis[または心臓])

小児の心停止では,治療可能な別の原因として低血糖(hypoglycemia)がある。

残念ながら,心停止の原因は心肺蘇生(CPR)中には同定できないことが多い。診察,CPR中の胸部超音波検査,および胸腔穿刺による脱気後の自己心拍再開後に撮影した胸部X線により,気胸を検出することができ,この場合,心停止の原因として緊張性気胸が示唆される。

心臓超音波検査では,心収縮を検出でき,心タンポナーデ,極度の循環血液量減少(empty heart),肺塞栓を示唆する右室負荷,心筋梗塞を示唆する局所的な壁運動異常を認識できる。しかしながら,CPRの大幅な中断を要する場合には,経胸壁的に心臓超音波検査を行うべきではない。

ベッドサイドで行える迅速な血液検査では,カリウム濃度の異常を検出でき,心停止が高カリウム血症に続発する不整脈によって引き起こされた疑いを確認するのに役立つ。

家族や救急隊員から聴取した病歴から,薬物などの過量服用が示唆される場合がある。

心停止の治療

  • 質の高いCPR

  • 電気ショックの適応となるリズム(心室細動[VF]または心室頻拍[VT])に対する迅速な除細動

  • 電気ショック非適応のリズムにはアドレナリンの早期投与

  • 可能なら直接的な原因を治療する

  • 蘇生後管理

迅速な治療が不可欠である。

(American Heart Association[AHA]によるCPRおよび緊急心血管治療に関する2020年版ガイドラインならびにCOVID-19が確認されているまたはその疑いのある成人,小児,および新生児への一次/二次救命処置に関する2022年版AHA中間ガイダンス[医療従事者用]も参照のこと。)

心肺蘇生(CPR)は,心停止に対する系統立てられた一連の対応であり,胸骨圧迫(「強く速く圧迫」)を直ちに開始して途切れなく行うことと,VFまたはVT(成人により多い)を起こした患者に対する早期の除細動が,自己心拍再開(ROSC)達成の成功を握る鍵となる。AHAの2020年版ガイドラインでは,電気ショック非適応のリズムの患者にはアドレナリンの初回投与を迅速に行うことが推奨されている。

小児では心停止の原因として窒息が最も多く,典型的な最初のリズムは徐脈性不整脈であり,次いで心静止になる。しかしながら,小児の約15~20%(特に,心停止に呼吸器症状が先行していないとき)はVTやVFを呈するため,やはり迅速な除細動を必要とする。12歳以上の小児では,最初に記録されるリズムとしてVFの発生率が増加する。

質の高い中断のない胸骨圧迫,除細動,およびアドレナリンの初期投与を直ちに開始した後は,心停止の原因を迅速に治療しなければならない。治療可能な病態が存在しない場合,治療はリズムによって決定される。難治性心室細動または無脈性心室頻拍の患者に対しては,除細動を2分毎に行い,アドレナリンを3~5分毎に投与する;アミオダロンまたはリドカインを投与してもよい。ショック非適応のリズムでは,アドレナリンの早期投与が神経学的後遺症のない生存期間の延長と関連することが認められている(1, 2)。体液量の状態を最適化するために,必要に応じて輸液(例,失血に対して生理食塩水1L,全血,またはこれらの組合せ)を行うべきである。輸液に対する反応が不十分な場合,1種類または複数種類の昇圧薬(例,ノルアドレナリン,アドレナリン,ドパミン,バソプレシン)を投与してもよい。しかしながら,心停止中の昇圧薬投与が自己心拍再開率または神経学的後遺症を伴わない生存率を改善するという確実なエビデンスはない。

脈拍が回復してからの蘇生後管理では,原因の特定と治療,安定化と再心停止の予防,および神経学的転帰の最適化に焦点を置く。原因の治療に加えて,ST上昇(STEMI)のある患者への蘇生後管理では,酸素化および換気を最適化する対策や迅速な冠動脈造影などを行うことがある。2020年版AHAガイドラインでは,STEMIのない患者に対しても時間を置いて冠動脈造影を考慮すべきであると示唆されている。現在の推奨では,管理目標体温は正常体温である37.5℃未満に設定されているが,2020年版AHAガイドラインではより低い体温設定が推奨されている。低体温療法(32~34℃)による目標体温の管理が心停止後蘇生した一部の患者に有益かどうかを判定するための研究が進行中である(3)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Okubo M, Komukai S, Callaway CW, Izawa J: Association of Timing of Epinephrine Administration With Outcomes in Adults With Out-of-Hospital Cardiac Arrest. JAMA Netw Open 2021;4(8):e2120176.Published 2021 Aug 2.doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.20176

  2. 2.Perkins GD, Ji C, Deakin CD, et al: A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest. N Engl J Med 379(8):711-721, 2018.doi:10.1056/NEJMoa1806842

  3. 3.Wyckoff MH, Greif R, Morley PT, et al: 2022 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations: Summary From the Basic Life Support; Advanced Life Support; Pediatric Life Support; Neonatal Life Support; Education, Implementation, and Teams; and First Aid Task Forces. Circulation 2022;146(25):e483–e557, 2022.doi:10.1161/CIR.0000000000001095

心停止の予後

生存退院,特に神経学的後遺症のない生存は,単なる自己心拍再開よりも転帰として意味がある。

生存率には大きなばらつきがある;予後良好因子としては以下のものがある:

  • バイスタンダーによる早期かつ効果的なCPR

  • 目撃のある心停止

  • 病院内(特にモニタリングされているところ)

  • 最初のリズムが心室細動(VF)または心室頻拍(VT)

  • VFまたはVTへの早期の除細動

  • 循環補助および心臓カテーテル法を含む,蘇生後管理

  • 成人では,目標を定めた体温管理(体温を24時間以上にわたり32~36℃に維持する)および高体温の回避

American Heart Associationの2020年版ガイドラインでは,体温を32~36℃に下げることが推奨されているが,International Liaison Committee on Resuscitation Advanced Life Support(ALS)のより最近の推奨では,積極的な冷却ではなく,目標体温を37.5℃以下にして発熱を積極的に予防することが提案されている。特定の心停止患者集団において,正常体温を維持するよりも低体温療法による管理を行った方が,神経学的後遺症を伴わない生存率が改善するかどうかは依然として不明である(1, 2, 3, 4, 5)。

多くの予後因子が良好であれば(例,集中治療室または救急部門で目撃されたVF),院内心停止を来した成人の約50%が生存退院可能である。院内心停止を来した患者の生存退院率は全体で25~50%である。

良好な予後因子がなければ(例,病院外で目撃なしの心停止を起こし,心静止となった),生存の可能性は低い。病院外で心停止を起こした場合の生存率(報告されたもの)は全体で約12%である。

良好な神経機能(退院の時点で,脳障害の程度が最小限から中程度で,日常生活動作の大半を自立して行うことができると定義される)を有するのは,心停止から蘇生した患者全体の約10%に過ぎない。

予後に関する参考文献

  1. 1.Bernard SA, Gray TW, Buist MD, et al: Treatment of comatose survivors of out-of-hospital cardiac arrest with induced hypothermia.N Engl J Med 346:557–563, 2002.doi 10.1056/NEJMoa003289

  2. 2.Granfeldt A, Holmberg MJ, Nolan JP, Soar J, Andersen LW; International Liaison Committee on Resuscitation (ILCOR) Advanced Life Support Task Force: Targeted temperature management in adult cardiac arrest: Systematic review and meta-analysis. Resuscitation 167:160–172, 2021.doi:10.1016/j.resuscitation.2021.08.040

  3. 3.Merchant RM, Topjian AA, Panchal AR, et al: Part 1: Executive Summary: 2020 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care. Circulation.2020;142(16_suppl_2):S337-S357.doi:10.1161/CIR.0000000000000918

  4. 4.Nielsen N, Wetterslev J, Cronberg T, et al: Targeted temperature management at 33°C versus 36°C after cardiac arrest.N Engl J Med 369:2197–2206, 2013.doi: 10.1056/NEJMoa1310519

  5. 5.Wyckoff MH, Greif R, Morley PT, et al: 2022 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations: Summary From the Basic Life Support; Advanced Life Support; Pediatric Life Support; Neonatal Life Support; Education, Implementation, and Teams; and First Aid Task Forces. Circulation 146(25):e483–e557, 2022.doi:10.1161/CIR.0000000000001095

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Heart Association 2020 Guidelines: These guidelines for cardiopulmonary resuscitation (CPR) and emergency cardiovascular care (ECC) are based on the most recent review of resuscitation science, protocols, and education.

  2. Wyckoff MH, Greif R, Morley PT, et al: 2022 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations: Summary From the Basic Life Support; Advanced Life Support; Pediatric Life Support; Neonatal Life Support; Education, Implementation, and Teams; and First Aid Task Forces. Circulation 2022;146(25):e483–e557, 2022.doi:10.1161/CIR.0000000000001095

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