外科的気道確保

執筆者:Vanessa Moll, MD, DESA, Emory University School of Medicine, Department of Anesthesiology, Division of Critical Care Medicine
レビュー/改訂 2023年 4月
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異物もしくは顔面の広範な外傷が原因で上気道が閉塞している場合,または換気が他の方法で得られない場合は,気管への外科的挿管が必要となる。従来は,外科的気道確保は挿管に失敗した際の処置でもあった。しかしながら,外科的気道確保では最初の切開から換気までに平均約100秒を要する。ラリンジアルマスク(LMA)およびその他の声門上エアウェイでは,より迅速に人工換気を行うことができる;これらの使用の禁忌は,まれであるが異物による閉塞と(LMAに関しては)顔面の広範な外傷のみであるため,緊急の外科的気道確保を必要とする患者は非常に少ない。

呼吸停止の概要気道確保および管理,および気管挿管も参照のこと。)

輪状甲状靱帯切開

メスによる輪状甲状靱帯切開/FONA(front of neck airway[前頸部アクセス])は,気管切開より速く簡単にできるため,緊急時の外科的気道確保の際に一般に用いられている(経皮的輪状甲状靱帯切開も参照)。

緊急輪状甲状靱帯切開

患者を仰臥位にして首を伸展させる。消毒処置の後,喉頭を片手で把持し,メスで皮膚,皮下組織,および輪状甲状靱帯を正確に正中線で切開し,気管に到達する。気道の開通性を維持するために中空のチューブを用いる。

気管支鏡による観察または換気の姿勢とは異なり,輪状甲状靱帯切開時の正しい姿勢は頸部を伸展し,肩を後ろにそらせるものである。消毒処置の後,喉頭を利き手ではない方の手でつかみ,利き手にメスを把持して,正確に正中で皮膚,皮下組織,輪状甲状靱帯を垂直に切開する。小さな気管内チューブ(内径[ID]6.0mm)もしくは小さな気管切開チューブ(カフ付きの4.0シャイリーが望ましい)を切開部から気管へ進める間,気管鉤を用いることで切開部を開いた状態に保持し,気管が閉じるのを阻止できる。

合併症としては,出血,皮下気腫,縦隔気腫気胸などがある。様々な市販の製品により,輪状甲状靱帯下へすばやく外科的に到達でき,また十分な酸素化および換気ができるチューブもある。大口径の静脈カテーテルを用いた輪状甲状靱帯穿刺では,50psiの駆動源(jet insufflatorまたはジェットベンチレーター)がすぐに使用できる状況でない限り,十分な換気を得ることができない。

気管切開

気管切開はより複雑な手技であり,気管軟骨輪は非常に近接しており,チューブの留置のために少なくとも1つの軟骨輪の一部を除去しなければならない。気管切開は外科医によって手術室で行われるのが望ましい。緊急時には,この手技は輪状甲状靱帯切開よりも合併症の発症率が高くなり,利点はない。しかし,長期間の換気を必要とする患者では好まれる手技である。

経皮的気管切開は,機械的換気を受けている重症(critically ill)患者には魅力的な選択肢である。この処置はベッドサイドで行い,皮膚を穿刺した後,ダイレーターを使用して気管カニューレを挿入する。気管膜性部(後部)および食道の穿刺を避けるため,通常はファイバーによる補助(気管内)が行われる。

気管切開によるチューブ挿管により,まれに,出血,甲状腺損傷,気胸,反回神経麻痺,主要血管の損傷,または挿入部の遅延性気管狭窄が生じる。

気管のびらんは,まれである。しかし,カフ圧が過剰に高いと起こりやすくなる。まれに,主要血管(例,腕頭動脈)からの出血,瘻(特に気管食道瘻),および気管狭窄が起こる。高容量,低圧カフ付きの適切なサイズのチューブを用い,カフ圧を頻繁(8時間毎)に計測して30cmH2O未満に維持することで,圧迫による虚血性壊死のリスクは低下する;ただし,ショック状態,心拍出量低下,あるいは敗血症の患者では,そのリスクが残る。

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