ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管

執筆者:Bradley Chappell, DO. MHA, Harbor-UCLA Medical Center
レビュー/改訂 2023年 2月
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気管内チューブは柔軟なチューブで,近位端には酸素源を取り付けるための標準的なフランジがついており,遠位端は斜角になっており,空気で膨らむカフがついている。気管内チューブは,直達喉頭鏡または様々な種類のビデオ喉頭鏡のいずれかを用いて観察しながら,口から気管内に挿入する(経口気管挿管)。頻度は低いが,気管内チューブが鼻から挿入されることもある(経鼻気管挿管)。

気管挿管に加えて,気道確保および人工呼吸の器具気道確保および管理頭部後屈あご先挙上法および下顎挙上法,ならびにバッグバルブマスク換気も参照のこと。)

気管内チューブの挿入は,無呼吸または重度の換気不全がある患者の大半にとって最善の気道管理の方法である。

経口気管挿管は長い間,直達喉頭鏡を用いて行われていた。しかしながら,直達喉頭鏡よりも声門をよく視認できるビデオ喉頭鏡の使用が気管挿管の有用な方法の1つとなっている。ビデオ喉頭鏡は,ブレードの先端にある小さなカメラからスクリーンに画像が送信される形になっており,スクリーンは喉頭鏡のハンドル部に組み込まれている場合と,喉頭鏡本体とは別になっている場合がある。

ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管の適応

経口気管挿管は,ビデオ喉頭鏡を用いるかどうかにかかわらず,以下の患者で適応となる:

  • 酸素化および換気の維持に換気補助を必要とする低酸素症または低換気

  • 無呼吸,または呼吸停止の切迫(最初の緊急治療)

  • 待機的麻酔(選択された症例)

  • 長期間の機械的人工換気の必要がある

  • バッグバルブマスク換気が困難もしくは不可能な状況(例,重度の顔面変形,濃いひげ,またはフェイスマスクの密着を妨げるその他の因子がある患者),または軟部組織による上気道閉塞がある状況

  • 誤嚥を予防する必要がある(例,意識障害または昏睡状態の患者),または気道吸引を繰り返す必要がある

可能であればビデオ補助下で行うべきであり,解剖学的因子のために直達喉頭鏡での観察が困難な場合や,損傷のために適頭頸部の適切な姿勢がとれない場合に特に有用である。

ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管の禁忌

絶対的禁忌

  • 患者の換気を補助することに対する医学的な禁忌はない;ただし,法的な禁忌(蘇生処置拒否指示または特定の事前指示書)が効力をもっている場合がある。

  • チューブの挿入を妨げる開口制限(この場合,経鼻気管挿管または外科的気道確保が適応となる)

  • 通過不可能な上気道閉塞(この場合,外科的気道確保が適応となる)

相対的禁忌

  • 意識がある,または咽頭反射がある(患者は意識がないか,気管内チューブ挿入前に挿管を補助する薬剤を少なくとも一つ投与されている必要がある)

経口気管挿管の禁忌がなければ,ビデオ補助の利用に対する追加の禁忌はない。

ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管の合併症

合併症としては以下のものがある:

  • チューブ挿入時の歯または中咽頭軟部組織の外傷

  • チューブ挿入中の嘔吐および誤嚥

  • 不適切なチューブ留置(例,食道挿管)

  • 挿管試行中の低酸素症

ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管で使用する器具

  • 手袋,マスク,ガウン,および眼の保護具(すなわち,普遍的予防策[ユニバーサルプリコーション])

  • カフを膨らませるためのシリンジ

  • 無菌の水溶性潤滑剤または麻酔ゼリー

  • 患者に適したサイズの気管内チューブ,および挿入を補助する硬性スタイレット

  • ビデオ喉頭鏡

  • 吸引装置,Yankauer吸引カテーテル,およびマギール鉗子(必要に応じて咽頭から異物を除去するため)

  • バッグバルブ

  • 酸素供給源(100%酸素,15L/分)

  • パルスオキシメーターおよび適切なセンサー

  • カプノメーター(呼気終末二酸化炭素モニター)

  • 挿管を補助する薬剤(一般的には導入薬および筋弛緩薬により迅速導入気管挿管が可能になる)

  • 換気用フェイスマスク,経口/経鼻エアウェイ(いずれも患者に適したサイズのもの)

  • 経鼻胃管

  • 喉頭鏡で不成功に終わった場合,声門上エアウェイを挿入するための器具,または輪状甲状靱帯切開を施行

ビデオ喉頭鏡が使用できない場合は,曲型または直型ブレードの標準的な直達喉頭鏡を使用する。

ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管に関するその他の留意事項

  • 気管挿管の1回の試行は30秒以内で行うのが最善であり,試行前には前酸素化を行っておく。

  • 酸素飽和度が90%未満に低下した場合一時的な換気が必要になることがある(バッグバルブマスク換気を参照)。

ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管における重要な解剖

  • 外耳道が胸骨切痕と同一平面上にあるようにすることで,気道の軸が一直線になり,気道が最も観察しやすくなるはずである。

  • 耳の位置を胸骨切痕と同一平面上にするのに必要な頭部挙上の程度は様々である(例,小児では後頭部が比較的大きいため挙上せず,肥満患者では大きく挙上する)。

ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管での体位

  • 気管内チューブを挿入するには,スニッフィングポジションが最適な体位であるが,頸部をこの位置にできない場合も,喉頭鏡のカメラで十分に観察できることが多い。

スニッフィングポジションは頸椎損傷がない場合にのみ選択する:

  • ストレッチャーの上で患者を仰臥位にする。

  • タオルなどを折りたたんで頭,頸部,および肩の下に置き,頭が挙上するように頸部を屈曲させ,外耳道の位置を胸骨切痕と同一平面上にする。続いて頭部を傾けて顔面が水平線と平行になるようにする(この平面は前述の平面より上である)。肥満患者では肩および頸部を十分に挙上するために,多数の折りたたんだタオルや市販の傾斜装置が必要になる場合がある(気道開通のための頭頸部の姿勢の図を参照)。

気道開通のための頭頸部の姿勢

A:ストレッチャーに頭部がべったりと接している;気道は圧迫されている。B:顔面が天井と平行になり,耳と胸骨切痕が同一平面上に並び,気道が開通するスニッフィングポジションをとらせる。Adapted from Levitan RM, Kinkle WC: The Airway Cam Pocket Guide to Intubation, ed.2.Wayne (PA), Airway Cam Technologies, 2007.

頸椎損傷の可能性がある場合:

  • 患者をストレッチャー上で仰臥位またはわずかに傾斜をつけた仰臥位にする。

  • 頸部の動きを防止するため正中固定(in-line stabilization)を維持し,下顎挙上法のみを用いるか,または頭部後屈を避けてあご先挙上のみで,上気道を用手的に開通させる。

ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管のステップ-バイ-ステップの手順

気管挿管を試みる前には,気道開通性の確保と換気および前酸素化のための操作が常に必要である。挿管を決定した場合,以下を行う:

  • 必要な器具(吸引装置などの補助的器具を含む)を準備する。喉頭鏡での観察がうまくいかない場合に代替の手技(例,ラリンジアルマスクバッグバルブマスク換気,または外科的気道確保[輪状甲状靱帯切開])を行えるように備えておく。

  • 患者に適切な体位をとらせる(気道開通のための頭頸部の姿勢の図と用手的手技を参照)。

  • 静脈路を確保する。

  • 100%酸素で換気および前酸素化を行う(自発呼吸がみられる場合は,非再呼吸式マスクによる酸素化で十分であるが,十分な自発換気がない場合は,補助的な鼻カニューレ[または可能であれば高流量鼻カニューレ]を用いたバッグバルブマスク換気を選択する)

  • ビデオ喉頭鏡の電源を入れ,ライトとカメラが作動することを確認する。

  • 適切なサイズの気管内チューブのカフを膨らませ,エアリークがないことを確認する。

  • 可能であれば,標準的な経口気管挿管の場合と同様に頭頸部をポジショニングする。

  • 迅速導入気管挿管を行う(すなわち,挿管を補助する薬剤を使用する)。気道の確保が困難と予想され,患者に正常な咽頭反射がある場合は,筋弛緩薬を投与する前に,ケタミンやエトミデート(etomidate)などの導入薬を用いてまず声帯を観察する。

  • 必要であれば,中咽頭から分泌物,吐瀉物,または異物を取り除く。

  • 酸素化を継続する。自発呼吸がある患者には,挿管前に非再呼吸式マスクを装着して,吸入気酸素分画(FIO2)100%で3~5分間酸素を投与する。自発呼吸がない患者には,バッグバルブマスクを用いて最高酸素濃度で約8回のvital capacity breaths(深呼吸)を行う。

  • ビデオ喉頭鏡のブレードを舌の弯曲に沿って患者の口腔内に挿入する。ビデオ喉頭鏡のブレードの先端が患者の舌の後ろに隠れたら,ビデオ喉頭鏡のモニターを見てブレードを操作し,声門がビデオ画面の上半分の中央に来るようにする。

  • 両手による喉頭鏡操作で視野を最適化する。これは,左手でビデオ喉頭鏡を操作しながら,右手で喉頭を操作することで達成される。甲状軟骨に対して後方,上方,および右方向の圧力を加えることで,通常は最適な視野が得られる。気管内チューブを挿入する間は,介助者の手を借りて視野を維持することができる。

  • 画面から目を離し,再度患者に目を向け,口の右側から気管内チューブを挿入し,舌の後方に通すが,その際にバルーンが歯で損傷しないよう注意する。この時点でモニターに目を移し,声帯を通過するようにチューブの先端を誘導する。ビデオ喉頭鏡で使用されるスタイレットには硬いものもあるため,この手技では,チューブを愛護的に進める間に介助者にスタイレットを1~2cm引き出してもらわなければならない場合がある。続いてチューブをさらに3~4cm進める。

  • カフを膨らませ,スタイレットを完全に抜去する。

  • 換気する(8~10回/分,1回につき約6~8mL/kgまたは500mLを約1秒かけて送気する)。

  • 挿管できない場合は,ブジーなどの補助器具の使用が役立つことがある。補助器具を使用しても気道確保が成功しない場合は,速やかに別の気道確保を試みるが,暫定的な処置として,声門上エアウェイ(例,ラリンジアルマスク,ラリンジアルチューブ食道・気管用ダブルルーメンチューブ[Combitube])または輪状甲状靱帯切開のいずれかに接続してバッグバルブマスク換気を行う方法などがある。

ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管のアフターケア

  • 胸部X線を撮影し,気管内チューブが適切に留置されていることを確認する。

ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管の注意点とよくあるエラー

  • 特定のビデオ喉頭鏡のブレードのカーブに沿うよう,ブレードの曲率に合わせて設計された適切な硬性スタイレットを使用することが不可欠である。従来の可鍛性のあるスタイレットを使用すると,挿管が失敗する可能性があり,特に気道前部での失敗が多くなる。

  • スタイレットを抜去するには,気管内チューブをしっかりと把持している間に介助者がスタイレットを引き抜き,その際,スタイレットの持ち手部分をまっすぐ上に引くのではなく胸部に向けて尾側に回転させると抜去しやすく,気管内チューブの位置をずらしてしまうリスクを最小限に抑えることができる。

  • 成人用か小児用かを問わず,全てのカフは,動きを防ぐのに必要な程度にのみ膨らませるべきであり,過膨張は壊死につながる。

ビデオ喉頭鏡を用いた経口気管挿管のアドバイスとこつ

  • 気道確保が困難な場合は,従来の挿管手技(舌を左に寄せ,上外側に軽く挙上するなど)が,より良好な視野を得るのに役立つ可能性がある。

  • 介助者がいる場合は,介助者が指を口に挿入し,頬を左右に引っ張ることで視野がよくなり,挿管スペースが広くなる可能性がある。

  • 気管内チューブを口に挿入した後,ビデオ画面を見るときは,声帯に焦点を合わせる。チューブが声帯を通過する間,一瞬だけ声帯が見えなくなるはずである。

  • ビデオ喉頭鏡は,挿管後の経口胃管の留置を補助するために用いられることもあり,特に解剖学的に困難な患者で使用されることが多い。

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