大脳半球は増大,縮小,非対称などの形態をとることがあり,脳回は欠損,増大,多小脳回などの場合がある。
肉眼的に確認できる形成異常だけでなく,外観は正常な脳でも顕微鏡切片を見ると,ニューロンの正常な層構造が崩壊している場合がある。正常では白質で占められている領域に,灰白質の限局性沈着がみられることがある(異所性灰白質)。
大脳半球の形成異常の原因には遺伝性のものと後天性のものがある。後天性の原因としては,感染症(例,サイトメガロウイルス)や,発達途中の脳への血液供給が途絶える血管イベントなどがある。
これらの異常には小頭症または大頭症,中等度から重度の知的障害,てんかんが合併することが多く,極めて多様な臨床像を伴う。
出生前診断は,出生前の超音波検査,MRI,またはその両方による。ただす,微妙な形成異常は出生前画像検査ではかなりの割合で見逃される可能性がある。出生後の診断は,前述の関連症状の存在に基づいて下される。
治療は支持療法であり,具体的には抗てんかん薬の投与,個別化した教育,必要に応じた各種療法などを行う。
全前脳胞症
全前脳胞症のスペクトラムは,胎生期に前脳の完全な分節化と分割が生じない場合に発生する。
全前脳胞症はいくつかの遺伝子の変異によって引き起こされ,そのうち14を超える遺伝子が判明しており,その中にはソニックヘッジホッグシグナル伝達経路の遺伝子とその修飾遺伝子がある(1)。13トリソミーおよび18トリソミー,ならびにその他の染色体欠失および重複に,全前脳胞症との関連が報告されている。
全前脳胞症の主要な3つの病型は,重症度の高い順に以下の通りである:
無分葉型
半分葉型
分葉型
無分葉型全前脳胞症は,最重症の病型であり,通常死に至る。完全な分割不全と,隔壁形成のない単一の脳室を特徴とする。
半分葉型全前脳胞症は,後方では半球の部分的な分割を特徴とするが,前方には交通して1つになった脳室がみられる。
分葉型全前脳胞症は,透明中隔(左右の側脳室前角を隔てる膜)の欠損,脳梁の無発生,側脳室前角の癒合のほか,ときに帯状回の癒合を特徴とする。
4つ目のまれな病型はmiddle interhemispheric variantと呼ばれ,前頭葉後部と頭頂葉の癒合のほか,ときに視床の癒合も特徴とするが,他の部位では正常に半球が分化する。
Rhombencephalosynapsis(RES)は,全前脳胞症に類似する形成異常であるが,後脳を好発部位とする(2)。Rhombencephalosynapsisでは,左右の小脳半球が融合し,虫部(小脳の正中部分)が部分的または完全に欠損する。この形成異常により,中脳水道狭窄症と水頭症を来すことがある。そのほかに合併する可能性のある異常としては,前脳全前脳胞症,嗅球の欠如,脳梁または透明中隔の形成異常,VACTERL(vertebral anomalies[脊椎形成異常],anal atresia[鎖肛],cardiac anomalies[心形成異常],tracheoesophageal fistula[気管食道瘻],renal anomalies[腎形成異常],limb anomalies[四肢形成異常])などがある。
全前脳胞症では頭蓋顔面異常がみられ,その重症度は通常,基礎にある脳の異常を反映している。そのスペクトラムには,無眼球症または単眼症,鼻孔または鼻腔の形成異常または欠損,眼間狭小,口唇裂および口蓋裂,中切歯などが含まれる。
重度の障害を受けた胎児は出生前に死亡する。出生後の臨床像としては,痙攣発作,知的障害,筋緊張低下,運動遅滞などがあり,あらゆる形式の機能に影響を及ぼす。
全前脳胞症の治療は支持療法による。
全前脳胞症に関する参考文献
1.Hong M, Srivastava K, Kim S, et al: BOC is a modifier gene in holoprosencephaly.Hum Mutat 38(11):1464–1470, 2017.doi: 10.1002/humu.23286
2.Ishak G, Dempsey J, Shaw D, et al: Rhombencephalosynapsis: A hindbrain malformation associated with incomplete separation of midbrain and forebrain, hydrocephalus and a broad spectrum of severity.Brain 135(5):1370–1386, 2012.doi: 10.1093/brain/aws065
滑脳症
滑脳症は,大脳皮質の異常な肥厚,脳表面の脳回パターンの減少または欠損,および大脳皮質の層構造の減少または異常のほか,しばしばびまん性のニューロンの異所形成より構成される。
この形成異常はニューロンの遊走における異常によって引き起こされるが,その機序は,未成熟のニューロンが放射状神経膠に付着して脳室付近の起点から大脳表面へと移動するというものである。この異常を引き起こす可能性がある単一遺伝子の異常がいくつか存在する(例,LIS1)。X連鎖遺伝子であるDCXは,男性では家族性X連鎖性滑脳症を引き起こし,女性では皮質下帯状異所性灰白質と呼ばれる一般に比較的軽度の遊走異常を引き起こす。皮質下帯状異所性灰白質では,皮質下白質の広い帯状の異所性灰白質がMRI上で「二重の皮質(double cortex)」のように見える。
患児には乳児期から,ほぼ常に重度の知的障害と痙攣発作(しばしば点頭てんかん)がみられる。
滑脳症の治療は支持療法による。
生存期間は痙攣発作の重症度と他の合併症(嚥下機能障害,無呼吸,口腔咽頭分泌物の除去困難など)の有無に依存する。
多小脳回症
多小脳回症とは,小さな脳回が過剰に形成された状態であり,ニューロンの遊走異常が関与する。その他の頻度の高い所見として,障害領域における大脳皮質層構造の単純化または欠如,異所性灰白質,脳梁および透明中隔の低形成または欠損,脳幹および/または小脳の形成異常などがある。
構造的異常はびまん性のこともあれば,限局性のこともある。限局性病変が最もよくみられる部位は傍シルビウス裂(両側または一側)である。小児にてんかんの特徴,顔面および口腔の筋力低下,著明な発語および言語発達遅滞,ならびに通常は両側性のシルビウス裂領域の多小脳回症がみられる場合には,シルビウス裂周囲症候群(perisylvian syndrome)という用語がときに用いられる。
多小脳回症は,大脳半球に異常な細隙ないし裂隙がみられる裂脳症を合併することが多い。
多小脳回症の原因は数多く同定されており,いくつかの単一遺伝子変異(例,SRPX2),母体のサイトメガロウイルス初感染(すなわち,母親に過去の免疫がない場合)などがある(先天性および周産期サイトメガロウイルス感染症を参照)。
最も頻度の高い臨床像は痙攣発作,知的障害,および痙性片麻痺または両麻痺である(裂脳症も参照)。
Image courtesy of Stephen J.Falchek, MD.
多小脳回症の治療は支持療法による。