食道閉鎖

執筆者:Jaime Belkind-Gerson, MD, MSc, University of Colorado
レビュー/改訂 2023年 8月
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食道閉鎖は,食道の形成が不完全に終わったもので,しばしば気管食道瘻を合併する。この異常は通常,羊水過多に対する出生前超音波検査で疑われるか,新生児期の誤嚥性肺炎を理由に疑われる。診断は経鼻または経口胃管が胃まで挿入できない場合に下される。治療は外科的修復である。

消化器系の先天異常の概要も参照のこと。)

食道閉鎖は消化管閉鎖の中で最も頻度が高い。推定発生率は出生3500人当たり1例である。他の先天異常が最大50%の症例でみられる。特に2つの症候群で食道閉鎖の合併がみられる:

  • VACTERL連合(vertebral anomalies[脊椎形成異常],anal atresia[鎖肛],cardiac malformations[心形成異常],tracheoesophageal fistula[気管食道瘻],esophageal atresia[食道閉鎖],renal anomalies[腎形成異常],radial aplasia[橈骨無形成],limb anomalies[四肢形成異常])

  • CHARGE連合(coloboma[コロボーマ],heart defects[心形成異常],atresia of the choanae[後鼻孔閉鎖],retardation of mental and/or physical development[精神および/または発育遅滞],genital hypoplasia[性器低形成],ear abnormalities[耳形成異常])

食道閉鎖のある乳児の約19%がVACTERL連合の診断基準を満たす。

VACTERL(X線上での異常)
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このX線写真には,VACTERL(vertebral anomalies[脊椎形成異常],anal atresia[鎖肛],cardiac malformations[心形成異常],tracheoesophageal fistula[気管食道瘻],esophageal atresia[食道閉鎖],renal anomalies[腎形成異常],radial aplasia[橈骨無形成],limb anomalies[四肢形成異常])症候群の合併形成異常が認められる。脊椎の分節異常(白矢頭),閉鎖した上部食道でコイル状に反転した腸管チューブ(黒矢頭),気管食道瘻を合併した食道閉鎖と一致する腸管内ガス,および左上肢の変形を認める。
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食道閉鎖には主要な病型が5つある(食道閉鎖および気管食道瘻の病型と相対頻度の図を参照)。大半の病型では気管と食道の間に瘻孔もみられる。

大半の症例では新生児期に発症するが,H型の瘻孔では乳児期後期や小児期まで診断がつかないこともあり,成人期に発症したH型瘻孔の症例報告もある(1)。

特徴的な徴候は,唾液過多,哺乳を試みた後の咳嗽とチアノーゼ,および誤嚥性肺炎である。肛門側食道に気管食道瘻を伴う食道閉鎖では,腹部膨隆を来すが,これは患児が啼泣する際に,気道から入った空気が瘻孔を介して下部食道および胃内に流れ込むためである。

食道閉鎖および気管食道瘻の病型と相対頻度

相対頻度は様々な情報源のデータをまとめた結果に基づく。

総論の参考文献

  1. 1.Tiwari C, Nagdeve N, Saoji R, et al: Congenital H-type tracheo-oesophageal fistula: An institutional review of a 10-year period. J Mother Child 24(4):2-8, 2021.Published 2021 Jul 13.doi:10.34763/jmotherandchild.20202404.d-20-00004

食道閉鎖の診断

  • 出生前:超音波検査

  • 出生後:経鼻または経口胃管の留置およびX線撮影

ルーチンの出生前超音波検査で食道閉鎖が示唆されることがある。羊水過多がみられる場合もあるが,羊水過多は他の多くの疾患でも発生するため,本症に特異的な所見ではない。胎児の胃泡が欠如することがあるが,この所見を認めるのは全症例の半数未満に過ぎない。よりまれな所見として上部食道盲端の拡張があるが,これは典型的には,羊水過多があって胃泡がみられない胎児でのみ探索される。

出生前超音波検査または臨床所見から食道閉鎖が疑われる場合は,分娩後に経鼻または経口胃管の挿入を試み,胃まで挿入できなければ,食道閉鎖が示唆される。放射線不透過性のカテーテルを使用すれば,X線写真上で閉塞個所の特定が可能となる。非典型例では,少量の水溶性造影剤を用いてX線透視下で解剖学的形態を確定しておく必要がある。造影剤は肺に流入すると化学性肺炎を引き起こす恐れがあるため,検査後は速やかに吸引して回収する必要がある。この検査は常に,新生児手術を施行している施設において経験豊富な放射線科医が行うべきである。

食道閉鎖の治療

  • 外科的修復

術前管理は,手術に備えて患児の状態を最善に保つことと,外科的矯正の危険度を増大させる誤嚥性肺炎を予防することを目的とする。経口栄養は控える。経鼻胃管による上部食道盲端内の持続吸引により,飲み込んだ唾液の誤嚥を防止できる。頭部を30~40°挙上して右側を下に向けた腹臥位をとらせ,胃が空になりやすい状態にすることで,瘻孔を介した胃酸の誤嚥リスクを最小限に抑える。極端な未熟性,誤嚥性肺炎,または他の先天異常のために根治的修復を遅らせざるを得ない場合には,胃瘻チューブを留置して胃の減圧を図る。造設した胃瘻チューブから吸引を行うことにより,瘻孔を介した気管気管支への胃内容の逆流リスクを低下させることができる。

外科的修復

患児の状態が安定している場合は,胸膜外アプローチによる食道閉鎖の外科的修復と気管食道瘻の閉鎖が可能である(1)。瘻孔が認められた場合は,結紮する必要がある。約90%の症例では,食道の一次吻合が可能である。残りの症例では,食道盲端同士の距離が非常に長く,胃挙上食道再建術または結腸間置再建術が選択肢となる。

Foker法を行う小児外科医もいる。この術式では,上下食道盲端に牽引糸をかけ,経皮的に牽引糸を体外に引き出し,シラスティックボタンで固定する。1~2 mm/日を上限として糸を徐々に牽引し,食道の延長を促す。食道の盲端同士が接着するか近接したら,一次吻合を行う(2)。

最も頻度の高い急性合併症は,吻合部の漏出と狭窄形成である。外科的修復の成功後には,下部食道の運動性低下による哺乳困難がよくみられ,最大85%の症例で発生する。この運動性低下により胃食道逆流(最大50%の患児でみられる)と嚥下困難が生じやすくなる。食道閉鎖の新生児には,全例で胃酸分泌抑制療法による逆流の治療を行うことが推奨される(3)。逆流の内科的管理が失敗に終わった場合は,Nissen噴門形成術が必要になることがある。

治療に関する参考文献

  1. 1.Dingemann C, Eaton S, Aksnes G, et al: ERNICA Consensus Conference on the Management of Patients with Esophageal Atresia and Tracheoesophageal Fistula: Diagnostics, Preoperative, Operative, and Postoperative Management. Eur J Pediatr Surg 30(4):326-336, 2020.doi:10.1055/s-0039-1693116

  2. 2.Shieh HF, Jennings RW: Long-gap esophageal atresia.Semin Pediatr Surg 26(2):72–77, 2017.doi: 10.1053/j.sempedsurg.2017.02.009

  3. 3.Krishnan U, Mousa H, Dall’Oglio L, et al: ESPGHAN-NASPGHAN guidelines for the evaluation and treatment of gastrointestinal and nutritional complications in children with esophageal atresia-tracheoesophageal fistula.J Pediatr Gastroenterol Nutr 63(5):550–570, 2016. doi: 10.1097/MPG.0000000000001401

要点

  • 食道閉鎖には5つの病型があり,1つを除く全てで気管食道瘻を伴う。

  • ときに出生前超音波検査の所見から本症が疑われる。

  • 臨床像としては,唾液過多,哺乳を試みた後の咳嗽およびチアノーゼ,誤嚥性肺炎などがあるが,H型の瘻孔は通常,より高年齢で明らかになり,誤嚥性肺炎を契機に疑われる。

  • 経鼻または経口胃管の挿入とX線撮影により診断する。

  • 外科的修復および胃酸分泌抑制療法で治療する。

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