皮膚弛緩症は,たるんだひだとなって垂れ下がる弛緩した皮膚を特徴とする。診断は臨床的に行う。特異的な治療法はないが,ときに形成手術を行う。
皮膚弛緩症は遺伝性の場合もあれば後天性の場合もある。
4つの遺伝形式が存在する:
常染色体潜性(劣性)の遺伝形式がより多い傾向があり,そのうち1つの形式は,致死的となる可能性がある心血管系,呼吸器,および消化器の合併症を引き起こす。他の遺伝形式は比較的良性である場合がある。
まれに,乳児が発熱性疾患の後または特異的な薬物に曝露した後に(例,ペニシリンに対する過敏反応,胎児のペニシラミンへの曝露),後天性皮膚弛緩症に罹患することがある。
小児または青年では,皮膚弛緩症は通常,発熱,多発性漿膜炎,または多形紅斑を伴う重症疾患の後に発生する。
成人では潜行性に,または様々な疾患(特に形質細胞疾患)に関連して発生することがある。
後天性症例における基礎となる異常は不明である。
皮膚弛緩症の病態生理
皮膚弛緩症は,エラスチンが断片化する異常なエラスチン代謝によって起こり,そのため皮膚の弾力性が低下する。根底にある遺伝子異常(例,ELN,FBLN4,FBLN5,ATP6V0A2,またはATP7A遺伝子の異常)を同定できる先天性の症例を除いて,正確な原因は不明である。銅欠乏症,エラスチンの量および形態,ならびにエラスターゼおよびエラスターゼ阻害物質などのいくつかの因子が異常なエラスチン分解に関係する。
皮膚弛緩症の症状と徴候
遺伝性の病型では,皮膚の弛緩は出生時から存在することも出生後に発生することもある;皮膚が正常にたるみひだ状に垂れている部位ではどこでも生じ,顔面で最も顕著である。患児には悲しげな顔貌またはチャーチル風の顔貌(Churchillian facies)とかぎ鼻がみられる。良性の常染色体潜性(劣性)型は,さらに知的障害および関節弛緩を引き起こす。消化管のヘルニアおよび憩室がよくみられる。
重症例の場合,進行性の肺気腫が肺性心を引き起こすことがある。さらに,気管支拡張症,心不全,および大動脈瘤が起こることもある。
後天性の病型では,発症年齢によって臨床像が異なる。以下の2つの病型がある。1型は典型的には成人期に発症し,しばしば内臓も侵す。2型(postinflammatory elastolysisおよびpostinflammatory cutis laxa[Marshall症候群])は,小児期早期に発症し,内臓はまれにしか侵さない。しばしば炎症期が先行する。
皮膚弛緩症の診断
臨床的評価
ときに皮膚生検,合併症の検査
皮膚弛緩症の診断は臨床的に行う。特異的な臨床検査所見はないが,皮膚生検で弾性線維の異常が明らかにされることがある。
心肺症状のある患者で,合併症(例,気腫,心拡大,心不全)がないか確認するために特定の検査(例,心エコー検査,胸部X線)を行うことがある。
早期に発症した皮膚弛緩症患者または家族歴が示唆される患者には遺伝子検査が適応となるが,これは結果によっては子孫に遺伝するリスクおよび皮膚以外の臓器が侵されるリスクを予測しうるためである。
典型的な皮膚弛緩症は,皮膚の脆弱性および関節過可動性がないため,エーラス-ダンロス症候群と鑑別可能である。他の疾患によってときに局所的なたるんだ皮膚の部位が生じる。ターナー症候群では,罹患女児の頸部の基部にみられる弛緩した皮膚のひだが成長とともに張ってきて翼状になる。神経線維腫症では,ときに片側性の懸垂状で蔓状の神経腫が発生するが,その形状および質感により皮膚弛緩症と鑑別される。
皮膚弛緩症の治療
ときに形成手術
皮膚弛緩症の特異的な治療法はない。
ときに理学療法が皮膚の緊張を増すのに役立つ。
遺伝性皮膚弛緩症の患者では,形成手術により外観がかなり改善されるが,後天性の患者では改善の程度が比較的小さい。通常は合併症を伴わずに治癒するが,皮膚の弛緩が再発することがある。
皮膚以外の合併症を適切に治療する。