早発思春期

執筆者:Andrew Calabria, MD, The Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2022年 8月
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早発思春期は,平均的な年齢より前に性的成熟が始まることである。診断は母集団標準との比較,左手および左手関節のX線による骨成熟の評価および骨成長の加速性のチェック,ゴナドトロピンおよび副腎ステロイドの血清中濃度測定により行われる。治療は原因に応じて異なる。

女児において,思春期の最初の節目となる出来事は典型的には乳房の発育であり(thelarche),そのすぐ後に陰毛(pubarche)および腋毛が現れ,その後最初の月経(初経)を迎えるが,初経は典型的には乳房発育開始から2~3年後に起こる。

思春期―女性の性徴がみられる時期

バーは正常範囲を示す。

男児において,思春期の最初の節目となる出来事は典型的には精巣の成長であり,続いて陰茎の成長および陰毛と腋毛がみられる。

思春期―男性の性徴がみられる時期

バーは正常範囲を示す。体質の変化量の平均値は得られていない。

男女ともに,陰毛および腋毛の出現はアドレナーキ(adrenarche)と呼ばれる。アドレナーキは,小児の約10%でゴナダーキ(性腺機能発現)より前に起こる(アドレナーキの早期発現)。ゴナダーキとアドレナーキは重複した徴候を示すことがあるものの,別々に制御されている。

早発思春期の従来的な定義は,女児では8歳以前,男児では9歳以前に性的成熟が始まることとされてきた。しかしながら,現在の定義は,母集団における思春期の開始(すなわち,思春期の節目となる出来事の起こる時期)に関する信頼できる基準に依存する;米国では特に女児で開始時期が早まっているため,こうした従来の標準の再評価が行われている。乳房発育開始年齢は,以前より若くなりつつある。この傾向は肥満の増加を反映している;BMI高値(85パーセンタイル以上)と早発乳房には関連がみられる。

白人女児のほぼ8~10%,黒人女児の最大20~30%,ヒスパニック系女児の最大20%が,8歳の時点で思春期に達する。思春期年齢の正常下限は,白人女児で7歳,黒人女児で6歳である。乳房発育開始の平均年齢は白人女児で約9.5~10歳,黒人女児で8.5~9歳である(8~13歳までの幅がある)。陰毛が生える平均年齢は,黒人女児で9.5歳,白人女児で10.5歳である。しかし,初経年齢はそれほど劇的には低下しておらず,過去30年で平均3カ月しか低下していない(平均年齢は黒人女児で11.5歳,白人女児で12.5歳)。これらの知見は,小児が他を除いては健康であり成人身長まで完全に達すると予想される場合,早発思春期の原因となる疾患を評価するガイドラインをより寛大に解釈しうることを示唆している。

早発思春期の分類

早発思春期は2型に分類される:

  • ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)依存性(中枢性早発思春期)

  • GnRH非依存性(末梢性の性ホルモン作用)

全体としてGnRH依存性早発思春期の方がよくみられ,女児において5~10倍頻度が高い。GnRH依存性早発思春期では,視床下部-下垂体系が活性化され,その結果,性腺の増大と成熟,第二次性徴の発達,卵子形成または精子形成が起こる。

GnRH非依存性早発思春期ははるかに少ない。エストロゲンまたはアンドロゲンの循環血中濃度の上昇による第二次性徴が起こり,視床下部-下垂体系の活性化を伴わない。

早発思春期は,ゴナダーキが起こるかアドレナーキが起こるかによって分類されることもある。女児の場合,ゴナダーキとして乳房の発育,体形の変化,子宮の成長,そして最終的に初経がある。男児の場合,ゴナダーキとして精巣の増大;陰茎の成長;陰毛,顔毛,腋毛の最初の出現;成人の体臭;脂性の顔面皮膚またはざ瘡がある。女児と男児の両者でアドレナーキとして,体毛,体臭およびざ瘡の発現が挙げられる。

不完全または非持続性の思春期発達がよくみられ,早発乳房単独またはアドレナーキの早期発現単独が最も多い。早発乳房の女児は典型的には生後2年の間に乳房発育を示すが,思春期ホルモンレベル,初経,X線上の骨年齢の進行,アンドロゲン作用,および成長加速は伴わない。アドレナーキの早期発現単独も同様に思春期発達の進行と関連はない。

アドレナーキの早期発現がみられる小児では,直線的成長の加速を伴わずに緩徐に進行する副腎アンドロゲン産生の徴候(例,陰毛,ざ瘡,体臭)を示すことがある。アドレナーキの早期発現は,青年期でのその後の多嚢胞性卵巣症候群の発現と関連している可能性がある。

早発思春期の病因

GnRH依存性早発思春期

罹患した女児の大部分において,特異的原因は同定できない。中枢神経系疾患の特異的症状と徴候がない場合,頭蓋内異常の可能性は思春期発来年齢の低さ(女児では4歳未満)および性別(男児でより多い)に依存する。

全体として,罹患男児では同定可能な基礎病変がある可能性が高い(最高60%まで)。そのような病変には頭蓋内腫瘍(特に視床下部または松果体領域)があり,過誤腫,神経膠腫,胚細胞腫,および腺腫などが挙げられる。神経線維腫症およびその他いくつかのまれな障害も早発思春期に関連付けられている。中枢性早発思春期は,医原性の原因(例,がんに対する手術,放射線照射,または化学療法)から生じることもある。GnRH依存性早発思春期の家族歴はもう1つの危険因子である。これまでにいくつかの遺伝子で変異が同定されているが,検査はまだ初期段階にある。

GnRH非依存性早発思春期

GnRH非依存性早発思春期の病因は優勢な性ホルモン作用(エストロゲンまたはアンドロゲン)により異なり,身体の変化は正常の思春期発達と著しく一致しないことが多い。エストロゲン作用は卵巣嚢胞によって起こることが最も多く,その他の原因としては顆粒膜-莢膜細胞腫瘍,マッキューン-オルブライト症候群(卵胞嚢胞,多骨性の線維性骨異形成,カフェオレ斑の3徴候)が挙げられる。副腎酵素欠損,具体的には先天性副腎過形成症がいずれの性の小児においてもアンドロゲン過剰の最も多い病型である。男児におけるGnRH非依存性早発思春期の他の原因として,家族性男性ゴナドトロピン非依存性早発思春期(黄体形成ホルモン[LH]受容体遺伝子の活性化変異),テストステロン産生精巣腫瘍,まれに特定の腫瘍によるβヒト絨毛性ゴナドトロピン(β-hCG)の異所性産生(精巣でのLH受容体の活性化に起因する),そしてときにマッキューン-オルブライト症候群が挙げられる。

早発思春期の症状と徴候

身体の変化は,発症年齢を除いて,各性別の正常な思春期に典型的にみられるものである。女児においては乳房の発育および陰毛,腋毛,またはその両方が現れる。女児では月経が始まることがある。男児では,顔ひげ,腋毛,陰毛が現れ,病因に応じて精巣の増大を伴うか伴わずに陰茎が成長する。男女とも体臭,ざ瘡,行動の変化が現れることがある。

思春期の成長スパートは男女両性でみられるが(女児では思春期初頭から半ば,男児では思春期半ばから後期),骨端線の早期閉鎖により成人期に低身長となる。早発思春期においては卵巣や精巣の増大が起こるが,アドレナーキの早期発現単独ではみられない。

早発思春期の診断

  • X線上の骨年齢

  • ホルモンの血清中濃度測定

  • ときに骨盤内超音波検査および脳MRI

早発思春期の診断は臨床的に行う。性ホルモン作用により加速した骨成熟をチェックするために,左手および左手関節のX線検査を行う。病歴および診察により異常が示唆されなければ,思春期の節目となる現象が母集団標準の1年以内に起こっている場合にはそれ以上の評価は必要ではない。アドレナーキの早期発現単独の女児と男児および早発乳房の女児も,X線で骨成熟が加速していないと確認されれば,それ以上の評価は必要ではない。

さらなる評価が必要な場合,発現している特徴に従って血液検査を選択すべきである。主にアンドロゲン作用がみられる患児では,最も有用な初回検査として,総テストステロン,デヒドロエピアンドロステロン硫酸,17-ヒドロキシプロゲステロン,および黄体形成ホルモン(LH)などがある;全て小児患者用にデザインされた高感度測定法を用いて,できれば朝に測定すべきである。朝のLH値の測定は,中枢性早発思春期の診断で最初に行うのに最適な生化学的検査であり,値が0.20mIU/L(0.2U/L)を超えると思春期とみなされる。エストロゲン作用のみを示す患児では,最も有用な検査として女児にはLHおよびエストラジオール,男児にはLH,β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン,およびエストラジオールの超高感度測定を行う。GnRH依存性早発思春期の小児を非進行性の病型と鑑別する上での,卵胞刺激ホルモン(FSH)値の有用性は限られている。

ステロイド値に上昇がみられる場合,骨盤および副腎の超音波検査が有用となることがあり,より年少の小児または中枢性早発思春期の男児では,頭蓋内の異常を除外するために脳MRIが施行されることがある。

思春期が臨床的に進行しているが,初回検査で結論が出ない場合,GnRH依存性早発思春期を確定するためにGnRH刺激試験を考慮する。以前は,GnRHアゴニストのゴナドレリンによる1時間の刺激試験が用いられたが,ゴナドレリンはもはや入手できないため,リュープロレリンなどのGnRH作動薬が用いられる。酢酸リュープロレリン10~20μg/kgを皮下投与し,LH,FSH,テストステロン(男児のみ)およびエストラジオール(女児のみ)を0,1,2時間の時点で測定する。リュープロレリン投与後24時間の時点で,試験の感度を向上させるためにエストラジオールまたはテストステロンを測定することもある。GnRH依存性早発思春期では,ゴナドトロピンの反応は思春期のものとなり,リュープロレリンを投与するとLH値が > 5.00mIU/L(> 5U/L)に上昇する。GnRH非依存性早発思春期では,リュープロレリンに対するゴナドトロピンの反応は前思春期のものである。

GnRH依存性早発思春期の家族性症例では遺伝子検査を検討する場合があるが,これについては依然として議論がある。

早発思春期の治療

  • GnRHアゴニスト療法(GnRH依存性早発思春期)

  • アンドロゲンまたはエストロゲン拮抗薬療法(GnRH依存性早発思春期)

  • まれに腫瘍切除

思春期の節目となる現象の起こる時期と母集団標準との差が1年以内ならば,安心を与え定期的検査を行うことで十分である。アドレナーキの早期発現と早発乳房に対して治療は必要ではないが,後に早発思春期の発現がないかどうかをチェックするために定期的な再検査が必要である。

GnRH依存性早発思春期では,GnRHアゴニストにより下垂体からのLHおよびFSH分泌を抑制できる。GnRHアゴニストによる治療をするかどうかの決定は,患者の年齢,思春期の進行速度,身長成長速度,およびX線による骨成熟速度に依存する。GnRHアゴニストは,成人身長を保つために使用されることもあり,低年齢(女児で7歳未満の,男児で9歳未満)で,思春期の変化が急速に進行している小児ほど得る便益が大きく,またこれにより心理社会的ストレスを緩和できる可能性もある(ただしこの介入の潜在的な影響を裏付けるデータはより限定的である)。治療を中止するかどうかの決定は,患者毎に個別に判断すべきであり,周りの同輩が思春期に向けて成長している頃に行うべきである。

治療レジメンには,酢酸リュープロレリン7.5~15mgの4週毎の筋注,11.25mgもしくは30mgの12週毎の筋注,または45mgの6カ月毎の皮下投与;トリプトレリン(triptorelin)22.5mgの6カ月毎の筋注;ヒストレリン(histrelin)埋込み(毎年交換)などがある。治療への反応を3~6カ月毎にモニタリングする必要があり,その結果に応じて通常は女児で11歳,男児で12歳になるまで薬剤の用量を調整する(1)。

マッキューン-オルブライト症候群の女児では,レトロゾールやアナストロゾールなどのアロマターゼ阻害薬が用いられ,程度は様々であるがエストラジオールの減少に成功している。

男児におけるGnRH非依存性早発思春期が,家族性男性ゴナドトロピン非依存性の性早熟またはマッキューン-オルブライト症候群による場合は,アンドロゲン拮抗薬(例,スピロノラクトン)により過剰なアンドロゲンの効果を改善できる。抗真菌薬であるケトコナゾールは,家族性男性ゴナドトロピン非依存性の性早熟の男児でテストステロンを減少させる。

GnRH非依存性早発思春期が,ホルモン産生腫瘍(例,女児における顆粒膜-莢膜細胞腫瘍,男児における精巣腫瘍)による場合,そのような腫瘍は切除すべきである。しかしながら,女児では対側の卵巣での再発をチェックするために長期にわたるフォローアップが必要である(2, 3)。

治療に関する参考文献

  1. 1.Krishna KB, Fuqua JS, Rogol AD, et al: Use of gonadotropin-releasing hormone analogs in children: Update by an international consortium.Horm Res Paediatr 91(6):357–372, 2019. doi: 10.1159/000501336

  2. 2.Aguirre RS, Eugster EA: Central precocious puberty: From genetics to treatment.Best Pract Res Clin Endocrinol Metab 32(4):343–354, 2018. doi: 10.1016/j.beem.2018.05.008

  3. 3.Latronico AC, Brito VN, Carel J-C: Causes, diagnosis, and treatment of central precocious puberty.Lancet Diabetes Endocrinol 4(3):265–274, 2016. doi: 10.1016/S2213-8587(15)00380-0

要点

  • 早発思春期は,母集団の標準に基づく平均よりも早い年齢で性的成熟が始まることである。

  • 最も一般的には,視床下部-下垂体系が活性化される(GnRH依存性早発思春期)ために第二次性徴が早期に発現し,しばしば原因は特発性であるが中枢神経系腫瘍がみられる患児もいる。

  • 頻度は下がるが,先天性副腎過形成症または様々な性腺腫瘍による循環エストロゲンまたはアンドロゲン高値(GnRH非依存性早発思春期)も原因である。

  • 診断はX線による骨年齢評価,ならびにLH,FSH,テストステロン(男児),およびエストラジオール(女児)の測定による。

  • GnRH依存性早発思春期は,GnRHアゴニストのリュープロレリンまたはヒストレリン(histrelin)により治療する。

  • GnRH非依存性早発思春期は,アンドロゲンまたはエストロゲン拮抗薬の投与や腫瘍除去など,原因に基づいて治療する。

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