男性性腺機能低下症は,テストステロン,精子,またはその両方の産生の減少,またはまれにテストステロンに対する反応の低下であり,結果として思春期遅発,不妊,またはその両方が生じる。診断は,テストステロン,黄体形成ホルモン,卵胞刺激ホルモンの血清中濃度の測定およびヒト絨毛性ゴナドトロピンまたはゴナドトロピン放出ホルモンによる刺激試験により行われる。治療は原因に応じて異なる。
(成人における男性性腺機能低下症も参照のこと。)
小児における男性性腺機能低下症の分類
性腺機能低下症には3つの型がある:原発性,続発性,およびアンドロゲン作用の異常が原因で生じる型で,これは主にアンドロゲン受容体の活性異常による。
原発性性腺機能低下症
原発性(性腺刺激ホルモン過剰性)性腺機能低下症では,ライディッヒ細胞の損傷によるテストステロン産生の阻害,精細管の損傷,またはその両方が引き起こされ,その結果,精液過少症または無精子症,およびゴナドトロピンの上昇を来す。
最も一般的な原因は以下のものである:
その他の原因としては,性腺形成不全(まれ),停留精巣,両側性無精巣症,ライディッヒ細胞無形成,ヌーナン症候群,筋強直性ジストロフィーなどの性発達異常がある。
まれな原因として,流行性耳下腺炎による精巣炎,精巣捻転,アルキル化薬による化学療法,および外傷などがある。
クラインフェルター症候群は,47,XXYの核型に関連した精細管形成不全であり,過剰なX染色体が母方,または少数例では父方の減数分裂での不分離によって発生するものである。この症候群は通常,性的発達の不十分さ(典型的には,精巣が非常に小さく硬い)に気づく思春期,または後の不妊症の検査の際に同定される。女性化乳房は,多くの場合,ゴナドトロピンによるアロマターゼ活性の上昇とそれに続くテストステロンのエストラジオールへの変換に起因する。診断はゴナドトロピンの高値とテストステロンの低値または正常低値に基づく。
性決定および性腺発育のエラー(性腺形成不全[46,XXまたは46,XY]や精巣性および卵巣精巣性の性発達異常など)は,男性性腺機能低下症のまれな型を代表するものである。そのような異常によって男性表現型または男性化不全表現型,出生時の性別不明性器,ならびにある程度の精巣不全および精子形成不全が起こる。
停留精巣とは,一方または両方の精巣が下降していないことである。病因は通常不明である。片方のみの精巣の停留では精子数はやや少なくなるが,両方の停留では精子数はほぼ例外なく極めて少なくなる。
両側性無精巣症(精巣消失症候群)では,精巣はおそらく存在していたと思われるが,出生前あるいは出生時に吸収消失する。外性器およびウォルフ管構造物は正常であるが,ミュラー管構造物が欠失している。つまり,精巣分化が起き,テストステロンおよびミュラー管抑制因子が産生されたということは,精巣組織は在胎12週までは存在していたに違いないことを意味する。
ライディッヒ細胞無形成では,ライディッヒ細胞の先天性欠失により外性器の部分的な発育または性別不明の外性器の原因となる。ある程度のウォルフ管発達はあるが,外性器の正常な男性分化を誘発するに足るテストステロンの産生がない。セルトリ細胞によるミュラー管抑制ホルモンの正常な産生のために,ミュラー管構造物はみられない。ゴナドトロピンは高値で,テストステロンは低値である。
ヌーナン症候群は,散発性または常染色体顕性遺伝(優性遺伝)疾患として発生する。表現型異常には皮膚過弾性,眼間開離,眼瞼下垂,耳介低位,低身長,第四中手骨短縮,高口蓋,および主に右側性の心血管系異常(例,肺動脈弁狭窄,心房中隔欠損)などがある。精巣は小さいか停留していることが多い。テストステロンは低値で,ゴナドトロピンは高値である。
アンドロゲン合成の欠損は,アンドロゲンの合成を障害する酵素欠損により引き起こされ,これはコレステロールからジヒドロテストステロンにつながるいずれの経路でも起こる可能性がある。そのような先天性の障害は,先天性副腎過形成症で生じる可能性があり(例,StAR[steroidogenic acute regulatory] protein欠損,17α-水酸化酵素欠損症,3β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素欠損症),この場合同一の酵素欠損が副腎と精巣に起こり,その結果,様々な程度のアンドロゲン活性異常および性別不明の外性器が生じる。
続発性性腺機能低下症
続発性性腺機能低下症の原因としては,汎下垂体機能低下症,視床下部または下垂体の腫瘍,ゴナドトロピン単独欠損症,カルマン症候群,ローレンス-ムーン症候群,黄体形成ホルモン単独欠損症,プラダー-ウィリー症候群,中枢神経系の機能的および後天性障害(例,外傷,感染,ランゲルハンス細胞組織球症などの浸潤性疾患)などがある。続発性性腺機能低下症の原因は,続発性性腺機能低下症の機能型である体質性の思春期遅発と鑑別されなければならない。いくつかの急性障害および慢性全身性疾患(例,慢性腎機能不全,神経性やせ症)が,低ゴナドトロピン性性腺機能低下症につながることがあるが,これは基礎疾患からの回復後に消失する。性腺機能低下症は,小児がんで頭蓋脊髄照射の治療を受けた長期生存者においても増えつつある。
汎下垂体機能低下症は,先天的または解剖学的に発生することがあり(例,中隔視神経形成異常症やダンディー-ウォーカー形成異常),視床下部ホルモンや下垂体ホルモンの欠乏をもたらす。下垂体機能低下症の後天的な原因としては,腫瘍,悪性腫瘍またはそれらの治療,血管疾患,浸潤性疾患(例,サルコイドーシス,ランゲルハンス細胞組織球症),感染症(例,脳炎,髄膜炎),または外傷などがある。小児期における下垂体機能低下症は成長遅滞,甲状腺機能低下症,尿崩症,副腎機能低下症,および思春期が想定される時期における性的発達の欠如をもたらすことがある。ホルモン欠乏は,下垂体前葉,下垂体後葉のいずれかから生じるものであれ,多様で複合的である。
カルマン症候群は先天性の性腺機能低下症の約60%の原因である。この疾患は嗅葉の無形成または発育不全による嗅覚脱失と視床下部ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)の欠乏による性腺機能低下症を特徴とする。胎児のGnRH神経分泌ニューロンが嗅板から視床下部へ移動しない場合に発生する。遺伝子異常が判明しており,遺伝形式は典型的にはX連鎖性であるが,常染色体顕性(優性)または常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)の場合もある。その他の臨床像として小陰茎症,停留精巣,正中線欠損,および片側性腎臓無形成がある。臨床像は不均一であり,嗅覚が正常な患者もいる。
黄体形成ホルモン(LH)単独欠損症(妊性宦官症候群[fertile eunuch syndrome])は,男児におけるLH分泌のモノトロピックな欠失に起因する性腺機能低下症のまれな原因である;卵胞刺激ホルモン(FSH)の値は正常である。思春期で精巣の発育は正常であるが,これは精巣の大部分が精細管より成り,これがFSHに反応するからである。精細管の成長が進行すれば精子形成が行われる。しかしLHを欠くためにライディッヒ細胞萎縮とテストステロン欠乏が起こる。したがって,患者は正常な第二次性徴を示さず成長が続き,骨端線が閉鎖しないためにeunuchoid体型(指極が身長より5cm以上長い;恥骨から床までの長さが頭頂から恥骨までの長さより5cm以上長い)となる。
プラダー-ウィリー症候群は,胎児活動の減少,筋緊張低下,幼児期の発育不良とその後の肥満,知的障害,および低ゴナドトロピン性性腺機能低下症を特徴とする。この症候群は,父方第15染色体長腕近位部上の単独または複数の遺伝子の欠損もしくは破壊,または母方第15染色体の片親性ダイソミーによりもたらされる。乳児期の筋緊張低下と栄養障害による発育不良は,通常生後6~12カ月以降に消失する。生後12~18カ月以降は,制御不能の過食が過剰な体重増加および心理的問題を引き起こし,多血性肥満が最も顕著な特徴となる。急激な体重増加は成人期へと継続する;身長は低いままでこれはおそらく成長ホルモン欠損が原因である。特徴には,情緒不安定,粗大運動技能の低下,顔面部異常(例,狭い両側頭間,アーモンド形の目,薄い上唇と下がった口角),骨格異常(例,脊柱側弯症,脊柱後弯症,骨減少症)などがある。手足は小さい。その他の特徴として,停留精巣および発育不全の陰茎と陰嚢がある。
体質性の思春期遅発は,14歳になるまでに思春期発達がみられないことであり,男児により多くみられる。定義によると,体質性の思春期遅発の小児は18歳までに性成熟の徴候を示すが,思春期遅発および低身長により青年とその家族に不安が生じる可能性がある。多くの小児には親や同胞に性発達遅滞の家族歴がある。典型的には小児期,青年期,またはその両時期に低身長を示すのが通常であるが,最終的には正常範囲に達する。成長速度はほぼ正常で,成長パターンは成長曲線の低い方のパーセンタイル曲線に平行する。思春期の成長スパートは遅延し,思春期想定期に身長パーセンタイルが降下し始め,一部の小児では心理社会的問題の一因となる。骨年齢は遅延し,暦年齢よりも小児の身長年齢(小児の身長が50パーセンタイル値にある年齢)に最も一致する。診断は成長ホルモン欠乏症,甲状腺機能低下症,思春期を妨げる全身疾患(例,炎症性腸疾患,摂食症),および性腺機能低下症(原発性かまたはゴナドトロピン欠損に起因する)の除外による。
小児における男性性腺機能低下症の症状と徴候
臨床像は,テストステロンおよび精子産生の障害の有無,障害を受けた時期とその受け方によって異なる。(成人における臨床像については, see page 症状と徴候。)
第1トリメスター(在胎12週未満)にアンドロゲン欠乏またはアンドロゲン活性に異常がある場合,体内ウォルフ管と外性器の分化が不完全になる。臨床像には,性別不明の外性器から正常な外観の女性外性器までの幅がある。第2および第3トリメスターでのアンドロゲン欠乏は,小陰茎症および部分的または完全な停留精巣につながる。
小児期早期に起こるアンドロゲン欠乏はほとんど影響がないが,思春期想定期に発生すると,第二次性徴が妨げられる。そのような患者には,筋発達不良,高い声,陰茎および精巣の発育不全,小さな陰嚢,薄い陰毛および腋毛,ならびに体毛の欠如がみられる。女性化乳房がみられることもあり,骨端線閉鎖の遅れと長管骨の成長持続によってeunuchoid体型(指極が身長より5cm以上長く,恥骨から床面までの高さが頭頂から恥骨までの高さより5cm以上長い)を呈する可能性もある。
小児における男性性腺機能低下症の診断
テストステロン,LH,およびFSHの測定
核型分析(原発性性腺機能低下症の場合)
小児における男性性腺機能低下症の診断は,しばしば発達異常または思春期遅発をもとに疑われるが,テストステロン,LH,FSHの測定を含む検査による確定が必要である。テストステロンの値よりLHやFSH(特にFSH)の値の方が感度が高く,とりわけ原発性性腺機能低下症の検出感度においてこのことが強く言える。検査は午前中に行うべきであり,小児特有の検査が必要である(しばしば超高感度測定法または化学発光免疫測定法 [ICMA:immunochemiluminometric assay]と呼ばれる)。
LH値およびFSH値は性腺機能低下症が原発性か続発性かの決定に役立つ。
テストステロン値が正常低値であってもこれらが高値であれば原発性性腺機能低下症を示す。
これらが低値またはテストステロン値から予想される値より低値であれば続発性性腺機能低下症を示す。
低身長で思春期発達の遅れのある男児においては,テストステロン低値ならびにLHおよびFSHの低値は,体質的な遅れを示すことがある。体質的な遅れでは,これらのホルモンは一過性に減少するものの時間とともに正常化するのに対し,男性性腺機能低下症では,ゴナドトロピンやテストステロンが時間とともに正常化することはない。
テストステロンおよびLHの血清中濃度が正常で,血清FSH濃度が高値の場合,典型的には精子形成の障害が示されるが,テストステロン産生の障害は示唆されない。原発性性腺機能低下症では,核型を調べてクラインフェルター症候群ではないかを調べることが重要である。
性腺機能低下症を診断する上でのテストステロン,FSH,LHの値の解釈には,これらのホルモンの値がどのように変化するかについて理解している必要がある。思春期前では,血清テストステロン値は20ng/dL(0.7nmol/L)未満であるが,成人期では300~1200ng/dL(12~42nmol/L)を超える。血清テストステロン分泌は主に概日リズムによる。思春期の後半では値は日中後半より夜間の方が高い。朝の1回の採血で循環テストステロン値が正常であることを確定できる。98%のテストステロンは血清中のキャリアタンパク質(通常は性ホルモン結合グロブリン)と結合しており,これらのタンパク質の濃度の変化が総テストステロン値を変化させる。血清総テストステロン(タンパク質結合型および遊離型)の測定は通常,テストステロン分泌の最も正確な指標である。
LHおよびFSHの血清中濃度は律動的に変動するが,検査が役に立つ可能性がある。GnRH分泌が増加し血清LHがFSHに対して不均衡に上昇すると,思春期が始まる。思春期早期では,早朝の値が望ましい。血清LH値は思春期前で通常0.2mIU/mL(0.2U/L)未満であり,思春期後半から成人期にかけて2~12mIU/mL(2~12U/L)の範囲となる。血清FSH値は思春期前で通常3mIU/mL(3U/L)未満であり,思春期後半から成人期にかけて5~10mIU/mL(5~10U/L)の間で変動する。
インヒビンBおよび抗ミュラー管ホルモン値の測定は,性腺機能低下症が疑われる男児の性腺機能の評価に役立つ可能性がある。これらはいずれもセルトリ細胞の機能的マーカーであり,セルトリ細胞は精子形成において重要な役割を果たし,思春期前の精巣の成長の大部分を担っている。LHおよびFSHとは異なり,これらのマーカーは思春期前に容易に測定できる。思春期遅発があり続発性性腺機能低下症が疑われる比較的年長の男児において,インヒビンBの低値(正常では思春期に上昇する)は,体質性の遅れというよりも続発性性腺機能低下症を示唆する。
ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)刺激試験は,精巣組織の存在およびその分泌能力を評価するために行われる。複数のプロトコルがある。あるプロトコルでは,1回100単位/kgのhCGを筋肉内に投与する。hCGは構造的サブユニットを共有するLHと同様にライディッヒ細胞を刺激し,テストステロンの精巣産生を刺激する。テストステロン値は3~4日後に2倍に上昇すべきである。
小児における男性性腺機能低下症の治療
必要に応じて手術
ホルモン補充
成人期後期にがんが発現する心配を除去し,また精巣捻転を防ぐために,停留精巣は早期に治療する。
続発性性腺機能低下症の場合,下垂体または視床下部に基礎疾患があれば,それを治療する。全体としては,アンドロゲン補充の提供を目標とし,低用量から開始して18~24カ月の間に漸増させていく。治療は,正常な思春期発来に相当する年齢(多くは12歳頃)から開始する。
アンドロゲン欠乏の青年期男子には,長時間作用型のテストステロンエナント酸エステルまたはテストステロンシピオネート(testosterone cypionate)注射液50mgを,2~4週間毎に投与すべきである;投与量は18~24カ月の間に最高200mgまで増量する。年齢が上がれば,経皮パッチまたはゲルに替えてもよい。治療の選択は患者の希望に基づいて決定できるが,用量が増量されていくため注射が望ましい。
hCGによるカルマン症候群の治療は,停留精巣を下降させ妊孕性を確立できる。思春期は典型的には注射用テストステロンまたはテストステロンゲルを用いて誘発される。GnRH療法は,内因性性ホルモン分泌,男性化の進行,そして妊孕性にも有用であることが以前より示されている。
LH単独欠損症では,アロマターゼによるエストロゲンへの変換を通じて,テストステロンが正常な骨端閉鎖を誘発する。
プラダー‐ウィリー症候群の患者はヒト成長ホルモンで治療されることがある。いくつかの研究からこの治療が有益であることが示されている。
体質性の思春期遅発は,4~6カ月のテストステロンのコースにより治療しうる。このコース終了後,治療を中止しテストステロン値を数週~数カ月後に測定して一次的な欠損と永続的な欠損とを鑑別する。この治療終了後にテストステロン値が最初の値より高くないかつ/または思春期発達が進まない場合,低用量投与による2回目のコースを行うこともある。2つの治療コース後,内因性思春期が始まらない場合,永続的な欠損の可能性が高くなり,性腺機能低下症の他の原因について再評価する必要がある。
要点
男性の原発性性腺機能低下症では,先天性(またはまれに後天性)精巣疾患によってテストステロン産生が障害されるか,精細管が損傷される。
男性の続発性性腺機能低下症では,視床下部または下垂体の先天性または後天性疾患によって,ゴナドトロピンの欠乏が生じ,正常な精巣への刺激が起きなくなる;体質的な遅れとの鑑別が必要である。
テストステロン産生が障害された時期に応じて,臨床像および発症時期が大幅に異なる。
出生前のアンドロゲン欠乏により,部分的停留精巣,小陰茎症,および性別不明の外性器から正常な外見の女性外性器まで幅がある症状が生じる。
思春期想定期に発生するアンドロゲン欠乏によって,二次性徴が妨げられる。
診断は,テストステロン,黄体形成ホルモン,および卵胞刺激ホルモン値の測定による。
ホルモン補充および必要に応じて手術により治療する。