小児の成長ホルモン欠乏症

執筆者:Andrew Calabria, MD, The Children's Hospital of Philadelphia
レビュー/改訂 2022年 8月
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成長ホルモン欠乏症は,小児において最もよくみられる下垂体ホルモン欠損症であり,単独欠損の場合もあれば,他の下垂体ホルモンの欠損が合併することもある。成長ホルモン欠乏症は,一般に成長の異常な遅れおよび低身長をもたらす。診断では,下垂体ホルモン測定および下垂体の構造異常または脳腫瘍を検出するためのCTまたはMRIを行う。治療としては通常,特定のホルモンの補充と原因となる腫瘍があればその除去を行う。

汎下垂体機能低下症を伴う成長ホルモン欠乏症患者は,他の下垂体ホルモン(例,卵胞刺激ホルモン[FSH],黄体形成ホルモン[LH],副腎皮質刺激ホルモン[ACTH],甲状腺刺激ホルモン[TSH],抗利尿ホルモン[ADH])の欠乏が1つ以上みられる。下垂体機能低下症は,原発性(下垂体疾患)のこともあれば,下垂体前葉ホルモン(GH,FSH,LH,ACTH,TSH)の産生を制御する特定の視床下部放出ホルモンの分泌阻害に続発することもある。

成長ホルモン欠乏症の病因

成長ホルモン(GH)欠損症は単独の場合もあれば,汎下垂体機能低下症を合併することもある。いずれの場合も,成長ホルモン欠乏症は後天性または先天性(遺伝性の遺伝子異常に起因するものなど)である。まれに,GHが欠乏しているわけではなくGH受容体の異常(GH不応症)のことがある。

成長ホルモン単独欠損症は,小児の1/4000~1/10,000に発生すると推定される。通常は特発性であるが,患者の25%に同定可能な病因がある。先天的原因として,GH放出ホルモン受容体の異常,GH1遺伝子異常,および特定の中枢神経系形成異常などがある。後天的原因として,治療目的での中枢神経系への放射線照射(高線量照射によって汎下垂体機能低下症が起こりうる),髄膜炎組織球症,および脳損傷などがある。脊柱の放射線照射は,予防目的であれ治療目的であれ,椎骨の成長能をさらに障害し身長の伸びをさらに低下させる。

汎下垂体機能低下症には,下垂体細胞に影響を与える遺伝性または散発性の変異が関与する遺伝学的原因がみられる。そのような症例では,他の器官系,特に口蓋裂または中隔視神経形成異常症(透明中隔の欠如,視神経萎縮,および下垂体機能低下症を伴う)などの正中線欠損(midline defect)がみられることもある。汎下垂体機能低下症は,視床下部または下垂体を侵襲する多くの種類の病変により後天的に生じることがある(視床下部の病変は放出ホルモンの分泌を阻害する);例として,腫瘍(例,頭蓋咽頭腫が最も多い),感染症(例,結核トキソプラズマ症,髄膜炎),および浸潤性疾患などがある。骨または頭蓋の溶解性病変と尿崩症との組合せはランゲルハンス細胞組織球症を示唆する。

成長ホルモン欠乏症の症状と徴候

成長ホルモン欠乏症の臨床像は患者の年齢,基礎にある病因,および欠乏している特異的なホルモンによって異なる。

成長ホルモン欠乏症自体は通常,発育不全を示し,ときに歯の発育遅延を伴う。身長は3パーセンタイル未満で,年間成長速度は4歳までが6cm未満,4~8歳が5cm未満,思春期前が4cm未満である。下垂体機能低下症の小児では,小柄ながら上半身と下半身の正常な均整が保たれている。骨年齢判定により評価される骨格の成熟は暦年齢よりも2年以上遅れている。

基礎にある欠乏に応じて他の異常もみられ,また思春期発達が遅れるかまたはみられないことがある。体重の増加が成長と不釣り合いであり,そのため相対的肥満となる場合がある。下垂体または視床下部の先天異常を有する新生児は,低血糖(より年長の小児でも発生),高ビリルビン血症,正中線欠損(例,口蓋裂),または小陰茎,および他の内分泌腺機能不全の症状がみられる可能性がある。

成長ホルモン欠乏症の診断

  • 成長学的な評価(身長および体重データの成長曲線への記録)

  • 画像検査

  • インスリン様成長因子1(IGF-1)値およびIGF結合タンパク質3(IGFBP-3)値

  • 通常,誘発試験により確定

  • 他の下垂体ホルモンの評価および発育不良の他の原因の評価

成長ホルモン欠乏症診断の現在のコンセンサスガイドラインでは,成長基準(成長曲線),病歴,臨床検査および画像検査結果から総合的に診断を行うことが求められている。

成長を評価する;全ての小児で身長および体重の発育データを成長曲線上に記入すべきである(成長学的評価)。(0~2歳児では世界保健機関[World Health Organization:WHO]のGrowth Chartを参照のこと;2歳以上の小児では米国疾病予防管理センター[Centers for Disease Control and Prevention:CDC]のGrowth Chartを参照のこと。)

IGF-1およびIGFBP-3値の測定によってGH/IGF-1軸の評価を始める。IGF-1はGHの活性を反映し,IGFBP-3はIGFペプチドの主な担体である。GH分泌は拍動性で,濃度が極めて変動しやすく解釈が困難であるため,IGF-1およびIGFBP-3の値を測定する。

IGF-1値は年齢によって異なるため,暦年齢ではなく骨年齢と比較して解釈すべきである。乳児期から小児期早期(5歳まで)にかけて,IGF-1値は最も低くなるため,この年齢群では正常範囲内と正常範囲未満が確実に識別されることはない。思春期にはIGF-1値が上昇するため,IGF-1濃度が正常範囲内であればGH欠損症の除外に役立つ。より年長の小児でIGF-1が低ければGH欠損症が示唆される;しかし,IGF-1値は,GH欠損症以外の病態(例,情緒的剥奪[emotional deprivation],低栄養セリアック病甲状腺機能低下症)でも低下するため,これらの病態を除外しなければならない。しかしIGFBP-3はIGF-1と違い,低栄養の影響をあまり受けず,若年の小児で正常範囲内と正常範囲未満とを識別することができる。

IGF-1濃度およびIGFBP-3濃度の低い小児では,GH濃度を測定することによって通常はGH欠損症が確定する。GHの基礎濃度は一般に低値または検出限界未満であるため(睡眠開始後を除く),GH濃度の随時測定は有用ではなく,GH濃度の評価には誘発試験が必要である。しかしながら,誘発試験は非生理的な負荷を与えるものであり,検査室ごとのばらつきに影響を受けやすく,再現性が乏しい。また正常反応の定義は年齢,性,試験施設,によって多様であり,限定的なエビデンスに基づいたものである。GH欠損症の治療は,誘発試験の結果のみに基づいて決定すべきではない。

発育が異常なときには画像検査を行うが,左手のX線像(慣習による)で骨年齢を判定すべきである。GH欠損症では,骨格の成熟が通常は身長と同じ程度に遅延している。GH欠損症の場合,石灰化,腫瘍,および構造的異常を除外するためにMRIによる下垂体および視床下部の評価が適応となる。

発育不良の他の可能性のある原因を検索するために,以下の項目についてスクリーニング臨床検査を行う:

  • 甲状腺機能低下症(例,甲状腺刺激ホルモン,サイロキシン)

  • 腎疾患(例,電解質,クレアチニン値)

  • 炎症性疾患および免疫疾患(例,抗組織トランスグルタミナーゼ抗体,赤沈,C反応性タンパク[CRP])

  • 血液疾患(例,白血球分画を含めた血算)

特定の症候群(例,ターナー症候群)に対する遺伝子検査は,身体所見によるかまたは成長パターンが家族と著しく異なる場合に適応となる。GH欠損症の疑いが強い場合,下垂体機能の他の検査を行う(例,ACTH, 午前8時の血清コルチゾール値,LH,FSH,およびプロラクチン濃度)。

パール&ピットフォール

  • 成長ホルモン濃度の随時測定は成長ホルモン欠乏症の診断においてほとんど役に立たない。

誘発試験

甲状腺または副腎の機能が低下した患者ではGHの反応が一般に異常であるため,これらの患者では十分なホルモン補充療法後にのみ試験を実施すべきである。

インスリン負荷試験は,GH放出を刺激する最良の誘発試験であるが,低血糖のリスクがあるためまれにしか行われない。他の誘発試験のリスクはやや低いが,信頼性も劣る。そのような試験には,アルギニン負荷試験(500mg/kg,30分かけて静注),クロニジン負荷試験(0.15mg/m2,経口投与[最高0.25mg]),レボドパ負荷試験(小児10mg/kg,経口投与;成人500mg,経口投与),およびグルカゴン負荷試験(0.03mg/kg,静注[最高1mg])がある。使用薬剤に応じて投与後様々な時点でGH濃度を測定する。

1回でGH放出を100%確実に誘発する試験はないため(1),2つの誘発試験を行う(典型的には同日)。GH濃度は一般に,インスリン投与またはアルギニン静注開始の30~90分後,レボドパ投与の30~120分後,クロニジン投与の60~90分後,グルカゴン投与の120~180分後に最大値に達する。

正常と判断されるGH反応はやや恣意的である。一般に,いずれかの刺激によるGH濃度が10ng/mL(10μg/L)を超えれば古典的なGH欠損症は除外できる。2つの薬剤刺激に対する反応が10ng/mL(10μg/L)未満(より低いカットオフ値を使用する施設もある;例,7ng/mL[7μg/L])であればGH欠損症と判定されるが,成長曲線と併せて結果を解釈しなければならない。GH誘発試験の結果が正常とされる閾値の任意性から,ほかに説明のつかない低身長の小児では,たとえGH誘発試験の結果が正常であっても,以下の基準の大半を満たす場合はGH欠損症とみなされることがある:

  • 身長が同年齢の平均から2.25標準偏差(SD)以上下回る,またはmidparental heightから2SD以上下回る

  • 骨年齢の成長速度が25パーセンタイル未満である

  • 骨年齢が同年齢の平均より2SD以上低い

  • 血清中インスリン様成長因子1(IGF-1)およびIGF結合タンパク質3(IGFBP-3)の低値

  • 成長ホルモン欠乏症を示唆する他の臨床的特徴

GH濃度は思春期に上昇するため,思春期前にGH刺激試験で陰性であった多くの小児は,思春期後または性腺ステロイドの前投与を受けた場合,結果が正常となりうる。体質的な思春期遅発患者における不必要な治療を避けるため,11歳以上の思春期前の男児および10歳以上の思春期前の女児では,成人身長予後が参照集団平均から-2標準偏差以内である場合,GH誘発試験前に性ステロイドの事前投与を検討してもよい。男児および女児に対する事前投与プロトコルとして,β-エストラジオール2mg(体重20kg未満には1mg)を検査前の2晩にわたり毎日経口投与するか,男児の場合,テストステロンデポ製剤50~100mgを検査の1週間前に筋注することが提案されている。

誘発試験はGH放出調節の軽微な欠陥を検出しない可能性がある。例えば,GH分泌機能不全に続発する低身長症の小児では,GH放出誘発試験結果は通常,正常である。しかし,12~24時間にわたって連続的にGH測定を行うと,12時間または24時間の総GH分泌量が異常に減少している。ただし,この検査は高価で不快感を伴うため,GH欠損症に対する第1選択の検査ではない。

GH放出の減少が確認された場合,他の下垂体ホルモン,および(異常があれば)標的である末梢内分泌腺からのホルモン分泌の検査と合わせて,下垂体画像検査も行う必要がある(未実施の場合)。

誘発試験に関する参考文献

  1. 1.Kamoun C, Hawkes CP, Grimberg A: Provocative growth hormone testing in children: How did we get here and where do we go now?J Pediatr Endocrinol Metab 34(6):679–696, 2021.doi: 10.1515/jpem-2021-0045

成長ホルモン欠乏症の治療

  • 遺伝子組換えGH補充

  • ときに他の下垂体ホルモン補充

明らかな成長ホルモン欠乏症を有する全ての低身長児で遺伝子組換えGHが適応となる。(Drug and Therapeutics, and Ethics Committees of the Pediatric Endocrine Societyによる2016年版小児および青年における成長ホルモンおよびインスリン様成長因子-Iによる治療ガイドラインも参照。)成長ホルモン欠乏症の確定診断は,成長学的所見,生化学的所見のほか,ときにX線所見に基づいて行われる。

組換えGHの用量は通常0.03~0.05mg/kg,1日1回皮下注射である。治療により身長成長速度はしばしば初年で10~12cm/年にまで上昇し,その後速度上昇は鈍化するが治療前の速度を上回ったまま維持される。満足できる身長に達するまで,または成長速度が2.5cm/年を下回るまで治療を継続する。1歳以上で体重11.5kg以上のGH欠損症患者には,GH製剤(ロナペグソマトロピン[lonapegsomatropin])が使用できる。一般的な開始用量は0.24mg/kg,皮下,週1回である。

GH療法の有害作用はほとんどないが,特発性頭蓋内圧亢進症(偽脳腫瘍),大腿骨頭すべり症,および一過性の軽度末梢浮腫が挙げられる。遺伝子組換えGHの出現までは,下垂体から抽出したGHが使用されていた。この製剤により,まれに治療の20~40年後にクロイツフェルト-ヤコブ病が発生する恐れがあった。下垂体から抽出したGHが最後に使用されたのは1980年代である。

低身長があるが,それを説明できる内分泌,代謝,またはその他の疾患の所見がない小児にGH治療を行うべきかについては議論がある。そのような小児は,特発性低身長(ISS)であると考えられる。ISSの定義は,身長が年齢別平均値を2標準偏差(SD)下回る,身長成長速度が正常(正常下限またはその付近),成長障害を示唆する生化学的所見がない,かつGH刺激試験の結果が正常で古典的GH欠損症が除外されるもの,とされている。遺伝子組換えGHは,身長が年齢別平均値より2.25SD以上低く,予測成人身長が正常範囲(すなわち,女性で150cm未満,男性で160cm未満)を下回るISSの小児の治療に使用できる。ガイドラインは,全てのISS児にGHをルーチンに使用しないよう推奨しており,治療の決定はケースバイケースで行うべきである。治療への反応は非常に多様である。5年間の治療で,成人身長が平均約5cm増加することもあれば,成人身長は増加しないこともある。ISS児では,治療開始1年目の身長の伸び,治療開始時の年齢(女児では9歳前,男児では10歳前に治療を開始すると反応が良好),およびIGF-1値のベースラインからの変化によっては,GH治療への大きな反応が期待できる。治療を受ける小児に対し,多くの専門家が,GH療法を6~12カ月間試行し,身長成長速度が治療前の2倍になるか治療前よりも3cm/年上昇した場合にのみGHを継続することを勧めている。他の専門家は,高価である,実験的である,有害作用をもたらす恐れがある,低身長以外は健康な小児に異常のレッテルを貼る,「背の低い人に対する差別」を助長する倫理的かつ心理社会的な懸念があるなどの理由から,このアプローチに反対している。

他の下垂体ホルモン欠損症が成長ホルモン欠乏症に合併する場合,追加のホルモン補充が必要である。コルチゾール( see page 治療)および甲状腺ホルモン( see page 治療)の血中濃度が低い場合には小児期,青年期,成人期を通じてコルチゾールおよび甲状腺ホルモンを補充すべきである。尿崩症では通常,錠剤または点鼻剤でのデスモプレシンによる治療が生涯必要である( see page 治療)。思春期が正常に発来しない場合,性腺ステロイド治療の適応となる( see page 思春期遅発)。

がん治療目的で行った下垂体の放射線照射に起因する低身長の小児におけるGH療法は,がんの再発を引き起こす理論的リスクを伴う。しかし研究では,予測を上回る新規のがん発生率も高い再発率も認められていない。GHの補充は,抗がん剤による治療が奏効し完了してから少なくとも1年が経過していればおそらく安全に開始できると考えられる。

要点

  • 成長ホルモン(GH)欠損症は単独で起こることもあれば汎下垂体機能低下症と合併することもある

  • 原因として,先天性疾患(遺伝性疾患を含む)と,視床下部および/または下垂体のいくつかの後天性疾患が挙げられる。

  • GH欠損症によって低身長が生じるが,原因によって他の症状も多数現れる。

  • 診断は,臨床所見,画像検査,および臨床検査の併用(通常はGH産生誘発試験を含む)に基づく。

  • 低身長でGH欠損症が確定した小児は,遺伝子組換えGHの投与を受けるべきである;下垂体機能低下症の他の症状も適宜治療する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. WHO: Growth charts for children 0 to 2 years

  2. CDC: Growth charts for children 2 years and older

  3. Drug and Therapeutics, and Ethics Committees of the Pediatric Endocrine Society: Guidelines for growth hormone and insulin-like growth factor-1 treatment in children and adolescents: Growth hormone deficiency, idiopathic short stature, and primary insulin-like growth factor-1 deficiency (2016)

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