女性の骨盤痛

執筆者:David H. Barad, MD, MS, Center for Human Reproduction
レビュー/改訂 2022年 2月
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骨盤痛は下腹部の不快感で,一般的な愁訴である。骨盤痛は腟痛および外陰痛または会陰部痛(外性器および会陰部皮膚近傍に生じる)とは区別して考える。骨盤腔には腸管,膀胱,下部尿管も含まれ,筋肉,結合組織,および骨に囲まれている。骨盤痛はこれらの構造のいずれにも起因しうる。

骨盤痛は急性の場合と慢性の場合がある;3~6カ月間持続する疼痛は慢性とみなされる。

骨盤痛の病因

骨盤痛は,女性生殖器(子宮頸部,子宮体部,卵巣,卵管)または腹部の他の構造(腸管,尿路,骨盤底)に起因することがある。

婦人科疾患

婦人科疾患の中には(骨盤痛の原因としての婦人科疾患の表を参照),周期的な骨盤痛(すなわち,月経周期の同じ時期に繰り返し生じる痛み)を起こすものがある。それ以外の場合,痛みは月経に関連しない。また,痛みの発症(突然または徐々に)および痛みの種類(例,鋭い,痙攣性)が原因の同定に役立つことがある。

全体として,骨盤痛を引き起こす最も頻度の高い婦人科的要因は以下の通りである:

子宮筋腫は通常は痛みを引き起こさないが,周囲の構造に圧力をかけたり,月経困難症の一因となったり,変性したりする場合には痛みが生じる可能性がある。

表&コラム
表&コラム

非婦人科疾患

骨盤痛を引き起こす可能性がある非婦人科疾患は,骨盤内のいずれの器官系にも発生しうる:

骨盤痛の評価

急性骨盤痛の原因には緊急治療を要するもの(例,異所性妊娠付属器の捻転)があるため,評価は迅速に行う必要がある。

全ての妊娠可能年齢の患者において,月経歴または性交歴にかかわらず,妊娠を除外すべきである。

病歴

現病歴には痛みの発症,期間,部位,重症度,および性質を含めるべきである。疼痛と月経周期との関係に注意する。関連症状として重要なものには,性器出血または帯下,性交痛,発熱,および血行動態不安定による症状(例,めまい,ふらつき,失神)がある。

システムレビュー(review of systems)には,以下を含めるべきである:

  • 無月経,つわり,または乳房の腫脹もしくは圧痛:妊娠

  • 発熱,悪寒,または帯下:感染症

  • 腹痛,便通の変化,または下血:消化管疾患

  • 頻尿,尿意切迫,排尿困難,または血尿:泌尿器疾患

既往歴の聴取では,産科および婦人科歴(経妊回数,経産回数,月経歴,性交歴,性感染症,不妊,異所性妊娠,骨盤内炎症性疾患の既往)ならびに尿路結石,憩室炎,および他の消化管もしくは泌尿生殖器疾患または癌の既往に注意すべきである。腹部および骨盤内手術の既往歴に注意すべきである。

身体診察

身体診察は発熱または血行動態不安定の徴候(例,低血圧,速い脈拍)を見つけるためバイタルサインの評価から始め,腹部の診察および内診に焦点を置く。

腹部を触診して,圧痛,腫瘤および腹膜刺激徴候がないか確認する。直腸診を行い,圧痛,腫瘤および便潜血を調べる。痛みの部位および関連所見が原因への手がかりとなる可能性がある(骨盤痛の診断へのいくつかの手がかりの表を参照)。

内診には外性器の視診,腟鏡診,および双合診を含める。子宮頸部を視診して,分泌物または病変がないか確認する。双合診では頸部移動痛,付属器腫瘤または圧痛,および子宮の増大または圧痛を評価する。異所性妊娠が疑われる場合,圧迫により破裂が起こる可能性があるため,付属器腫瘤を圧迫してはならない。

警戒すべき事項(Red Flag)

以下の所見には特に注意が必要である:

  • 失神または出血性ショック(例,頻脈,低血圧)

  • 腹膜刺激徴候(反跳痛,筋硬直,筋性防御)

  • 閉経後の性器出血

  • 発熱または悪寒

  • 悪心,嘔吐,または発汗を伴う突然の重度の痛み

所見の解釈

骨盤痛の急性度および重症度,ならびに月経周期との関係から,最も可能性の高い原因が示唆される可能性がある(骨盤痛の原因としての婦人科疾患の表を参照)。疼痛の性質と位置,および関連所見もまた手がかりとなる(骨盤痛の診断へのいくつかの手がかりの表を参照)。しかしながら,所見は非特異的である場合がある。例えば,子宮内膜症は様々な所見につながりうる。

表&コラム
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検査

骨盤痛のある患者には全例で以下を行うべきである:

  • 妊娠検査

  • 尿検査

患者が妊娠していて痛みまたは出血がある場合,超音波検査によって,または超音波検査では不明瞭なときは他の検査によって除外されるまでは,異所性妊娠を考える。疑われる妊娠が5週未満の可能性がある場合は,血清妊娠検査を行うべきである;尿妊娠検査は妊娠初期では妊娠を除外するのに感度が十分でないことがある。泌尿器症状がある場合,尿検査は骨盤痛の最も一般的な原因(例,膀胱炎,尿路結石)を除外するために行われる,迅速で単純な検査である。

ほかに実施する検査は,臨床的に疑われる疾患による。患者を十分に診察することができない場合(例,痛みのため),または腫瘤が疑われる場合には,骨盤内超音波検査を施行する。重度または持続性の疼痛の原因が同定されないままで,重篤な原因(例,異所性妊娠の破裂,腹膜炎)が疑われる場合,腹腔鏡検査または開腹手術を施行することがある。

経腟骨盤内超音波検査は内診の補助として有用な場合がある;腫瘤などをより正確に示すことができ,妊娠5週以降(すなわち,月経予定日から1週間後)の妊娠の診断に役立つ。例えば,妊娠検査が陽性であるが子宮内妊娠の所見がない場合,異所性妊娠の診断が裏付けられる。

骨盤痛の治療

妊娠中の疼痛に対する治療は,母体および胎児への配慮に基づく。

可能であれば,基礎疾患を治療する。

妊娠していない患者の骨盤痛はまず経口非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)で治療する。患者が特定のNSAIDに良好に反応しない場合でも,別のNSAIDには反応することがある。

月経周期に関連する痛み(例,月経困難症,子宮内膜症)はホルモン避妊薬で治療することがある。

筋骨格または筋筋膜の痛みには,安静,加温,理学療法,鎮痛薬または他の薬剤が必要である。

上記のいずれの方法にも反応しない難治性の疼痛がある患者には,最後の選択肢として子宮摘出術を提案してもよい。

老年医学的重要事項

高齢女性では骨盤痛の症状が曖昧なことがある。腸および膀胱機能に注意した慎重なシステムレビュー(review of systems)が必須である。

高齢女性では,骨盤痛を引き起こす一部の疾患が年齢とともにより多くみられるようになるため(特に閉経後),骨盤痛または不快感の一般的な原因は異なる可能性がある。そのような疾患としては以下のものがある:

一般的な病歴および産科ならびに婦人科歴を得るべきである。性交歴も聴取すべきである;医師はしばしば多くの女性が生涯を通じて性的に活動的であり続けることに気づかない。

急激な食欲低下,体重減少,ディスペプシア,腹部膨満,または排便習慣の突然の変化は卵巣がんまたは子宮体がんの徴候であることがあり,徹底した臨床的評価が必要である。

要点

  • 骨盤痛は一般的で,婦人科的または非婦人科的原因によることがある。

  • 妊娠可能年齢の全ての患者において妊娠を除外すべきである。

  • 疼痛の質,急性度,重症度,および部位,ならびに疼痛と月経周期の関係から,最も可能性の高い原因が示唆される可能性がある。

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