女性の骨盤腔には女性の上部生殖器(子宮頸部,子宮体部,卵巣,卵管)が含まれる;付属器とは卵巣,卵管,および周囲の結合組織を指す。骨盤腔には腸管,膀胱,および下部尿管も含まれる。骨盤内腫瘤はこれらの構造のいずれにも起因しうる。
骨盤内腫瘤がルーチンの婦人科診察または画像検査で見つかることがある。骨盤内腫瘤は良性の場合も悪性の場合もある。
骨盤内腫瘤の病因
骨盤内腫瘤は,女性の上部生殖器(子宮頸部,子宮体部,卵管,卵巣)または他の骨盤内構造(腸管,膀胱,尿管)に起因する可能性がある。
女性生殖器腫瘤の種類は年齢層によって異なる傾向にある:
乳児では,子宮内で母体由来のホルモンが作用することにより,胎児期から生後数カ月までの間に卵胞嚢胞の発生が刺激されることがある。こうした作用の発現はまれである。
小児では,思春期前の腫瘤の形成はまれである。卵巣腫瘤は卵胞嚢胞である場合もあれば,まれに良性または悪性の腫瘍である場合もある。
妊娠可能年齢の女性では,対称性の子宮増大の最も一般的な原因は妊娠である。別の一般的な子宮腫瘤として子宮筋腫があり,これはときに子宮頸部や子宮結合組織に進展する。付属器腫瘤は月経周期に関連することが多く,卵胞嚢胞(正常に発育するが卵子を放出しない卵胞)や黄体嚢胞などがある。このような嚢胞は数カ月以内に自然に消退することが多い。付属器腫瘤は,異所性妊娠,卵巣がん,卵管癌,良性腫瘍(例,良性嚢胞性奇形腫),子宮内膜症,卵管留水腫,または卵管卵巣膿瘍が原因である場合もある。
閉経後女性では,新規また増大する骨盤内腫瘤は悪性である可能性が高い。多くの良性の卵巣腫瘤または子宮腫瘤(例,子宮内膜症性嚢胞[endometrioma],腺腫,筋腫)は卵巣ホルモン分泌に依存するため,閉経後には発生せず,増大もしない。乳癌,結腸癌,または胃癌の転移は,最初に付属器腫瘤として現れることがある。
骨盤内腫瘤の評価
病歴
一般的な病歴および完全な産科ならびに婦人科歴を得る。
症状または所見から骨盤内腫瘤の原因が示唆されることがある:
性器出血および骨盤痛があり妊娠検査陽性:異所性妊娠,他の産科合併症,またはまれに妊娠性絨毛性疾患
発熱および骨盤痛:卵管卵巣膿瘍
閉経後出血:子宮体がんの疑いが強まる
早発思春期,男性化,または異常子宮出血などのホルモン作用:卵巣の男性化腫瘍または女性化腫瘍
診察
全身状態の観察では,婦人科以外の疾患(例,消化管疾患,泌尿器疾患,内分泌疾患)の徴候および腹水がないかを調べるべきである。悪性腫瘍が疑われる場合は,鼠径部または鎖骨上リンパ節腫脹の評価が適応となる。
一通りの婦人科診察を行う。子宮腫瘤を付属器腫瘤と鑑別するのは困難なことがある。異所性妊娠が疑われる場合,破裂を防ぐために診察中の過剰な圧力は避ける。進行した子宮内膜症は,可動性のないダグラス窩腫瘤として顕在化する可能性がある。頸部移動痛は骨盤内感染症(および虫垂炎)で生じる。可動性のない腫瘤は,炎症性(例,子宮内膜症性嚢胞,卵管留水症,または卵管卵巣膿瘍による)の場合,または悪性の場合がある。卵管留水腫は通常波動性で,圧痛があり,可動性がなく,ときに両側性である。
妊娠初期または女児では,骨盤内臓器の腫瘤が腹部から触知できる場合があるが,これは,大きな腫瘤に対して骨盤内のスペースが小さすぎるためである。
検査
妊娠可能年齢の女性に骨盤内腫瘤があれば,月経歴または性交歴にかかわらず妊娠検査を行うべきである。妊娠検査の結果が陽性の場合,超音波検査やその他の画像検査は必ずしも必要ではない;画像検査は骨盤痛または性器出血がみられる場合には必要である。
疑われる腫瘤が診察中に検出されない場合,または原因を特定できない場合は,画像検査を行う。通常,まず骨盤内超音波検査を施行する。
妊娠可能年齢の女性における,単発性で嚢胞壁の薄い3~10cm大の嚢胞性付属器腫瘤(通常は卵胞嚢胞)は,3回の月経周期を超えて持続するものや中等度から重度の疼痛を伴うものでない限り,さらに検査を行う必要はない(1)。
International Ovarian Tumor Analysis(IOTA)グループは,手術が必要と考えられる卵巣腫瘍またはその他の付属器腫瘍を有する女性において術前にがんリスクを評価する手段として,Simple Rulesを開発した。分類は10項目の超音波所見の有無に基づき,他の分類スコアよりも感度および特異度が高い。2016年には,IOTAのSimple Rulesが更新され,モバイル端末で使用できるリスク計算ツール(SRrisk)が追加された(2)。
超音波検査で腫瘤の大きさ,位置,硬さが明確に捉えられなければ,別の画像検査でそれができる可能性がある。MRIは典型的には腫瘤のさらなる評価に用いられる;CTは疑われる転移の評価に有用である。
By permission of the publisher. From Hricak H, Coakley F, Bergman A.In Atlas of Cancer.Edited by M Markman, RR Barakat, and WJ Hoskins.Philadelphia, Current Medicine, 2002.
がんを示唆する画像上の特徴としては,充実性要素(特に血液供給がみられるもの),厚い隔壁,表面の突出物,腹水,さらなる腹腔内腫瘤などがある。生検を行うと悪性細胞を播種させる可能性があるため,付属器腫瘤が疑われる場合は,外科的検索により評価する。特定の腫瘍の診断に腫瘍マーカーが役立つことがある。子宮腫瘤が疑われる場合は,子宮内膜生検および/または外科的検索で評価することができる。
By permission of the publisher. From Hricak H, Coakley F, Bergman A.In Atlas of Cancer.Edited by M Markman, RR Barakat, and WJ Hoskins.Philadelphia, Current Medicine, 2002.
評価に関する参考文献
1.Andreotti RF, Timmerman D, Strachowski LM, et al: O-RADS US Risk Stratification and Management System: A consensus guideline from the ACR [American College of Radiology] Ovarian-Adnexal Reporting and Data System Committee. Radiology 294 (1):168–185, 2020.doi: 10.1148/radiol.2019191150 Epub 2019 Nov 5.
2.International Ovarian Tumor Analysis: IOTA Simple Rules and SRrisk calculator to diagnose ovarian cancer.Accessed 1/22/22.
要点
女性生殖器の腫瘤の種類は年齢層によって異なる傾向にある。
妊娠可能年齢の女性では,対称性の子宮増大の最も一般的な原因は妊娠であるが,それ以外で頻度の高い骨盤内腫瘤の原因は子宮筋腫と機能性卵巣嚢胞である。
閉経後女性では,腫瘤が悪性である可能性が高い。
妊娠可能年齢の女性では,妊娠検査を行う。
臨床的評価で結論が出ない場合は,画像検査を行う;通常はまず骨盤内超音波検査を施行する。