高血圧性網膜症は,高血圧に起因する網膜血管の損傷である。徴候は通常,疾患後期に出現する。眼底検査で細動脈の狭小化,網膜血管狭窄(arteriovenous nicking),血管壁の変化,火炎状出血,綿花様白斑,黄色の硬性白斑,および視神経乳頭浮腫を認める。治療では血圧のコントロールを目指し,視力障害が現れたときは,網膜を治療する。
高血圧性網膜症の病態生理
高血圧性網膜症の症状と徴候
症状は,疾患後期まで通常出現しないが,霧視または視野欠損などがある。
初期の段階では,眼底検査で細動脈の狭小化を認め,網膜細静脈に対する網膜細動脈の太さの比が低下している。
慢性のコントロール不良の高血圧は以下を引き起こす:
永久的な動脈の狭小化
動静脈交叉の異常(網膜血管狭窄)
中等度の血管壁の変化(銅線動脈)からさらに重度の血管壁過形成および肥厚化(銀線動脈)を伴う動脈硬化
ときに,完全な血管閉塞が起こる。網膜血管狭窄は,網膜静脈分枝閉塞症の発生に至る主要な素因である。
急性疾患が重度であれば,以下が生じることがある:
表層の火炎状出血
小さな白色の表層の網膜虚血の病巣(綿花様白斑)
黄色の硬性白斑
視神経乳頭浮腫
中等度の高血圧網膜症は,菲薄化した直線状の動脈,網膜内出血,および黄色の硬性白斑を特徴とする。
RALPH C.EAGLE, JR./SCIENCE PHOTO LIBRARY
この画像には,高血圧性の動脈硬化により生じた細動脈壁の肥厚および不透明化(銅線動脈)のために狭小化した網膜細動脈が写っている。
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悪性高血圧の最も重要な眼底所見は視神経乳頭腫脹であり,これは乳頭辺縁部が不明瞭になり,隆起している所見として捉えられる。上の画像では,網膜血管からの漏出による特徴的な黄斑部の星芒状病変もみられる。
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黄色の硬性白斑は,網膜血管からの漏出による網膜内の脂質沈着を示す。これらの白斑は,特に高血圧が重度のときは,黄斑部に星芒状に出現することがある。重度の高血圧では,視神経乳頭はうっ血し浮腫状になる(高血圧クリーゼを示す乳頭浮腫)。
高血圧網膜症の診断
診断は病歴聴取(高血圧の持続期間および重症度)および眼底検査による。
高血圧網膜症の治療
高血圧網膜症は主に高血圧をコントロールすることにより管理する。他の視力を脅かすような状態も積極的にコントロールすべきである。視力障害が生じた場合は,レーザーまたはコルチコステロイドもしくは血管内皮増殖因子阻害薬(例,ラニビズマブ,ペガプタニブ,ベバシズマブ)の硝子体内注射による網膜浮腫の治療が有用となる可能性がある。
要点
慢性高血圧は徐々に網膜を損傷するが,変化が進行するまで,ほとんどまたは全く症状を引き起こさない。
慢性の高血圧網膜症は,永久的な動脈狭小化,動静脈交叉の異常(網膜血管狭窄),中等度の血管壁の変化(銅線動脈)またはさらに重度の血管壁の過形成および肥厚化(銀線動脈)を伴う動脈硬化により認識される。
高血圧クリーゼでは,表層の火炎状出血を伴う網膜症,小さな白色の表層の網膜虚血の病巣(綿花様白斑),黄色の硬性白斑,および視神経乳頭浮腫を生じることがある。
診断は病歴聴取および眼底検査による。
主に血圧のコントロールにより治療を行い,網膜浮腫に対しては,ときにレーザーまたはコルチコステロイドもしくは血管内皮増殖因子阻害薬の硝子体内注射により治療する。