網膜色素変性

網膜の杆体が侵されて夜間視力の障害が引き起こされ，症状が現れる年齢は様々で，ときに幼児期に発症する。夜間視力は最終的に失われる場合がある。周辺部の輪状暗点（視野検査で検出される）が徐々に広がり，進行例では中心視力も侵されることがある。黄斑が次第に侵されるに従って視力は低下し，法的盲に至ることがある。

中間周辺部網膜における骨小体状の色素沈着過剰が最も顕著な眼底検査所見である。その他の所見としては以下のものがある：

• 網膜細動脈の狭小化

• 嚢胞様黄斑浮腫

• 黄蝋色の外観を呈する乳頭

• 後嚢下白内障

• 硝子体内の細胞（あまり一般的ではない）

• 近視

• 眼底検査

• 網膜電図検査

網膜色素変性

画像

WESTERN OPHTHALMIC HOSPITAL/SCIENCE PHOTO LIBRARY

本疾患の診断は，夜間視力の低下または家族歴のある患者で疑う。診断は眼底検査により行うが，通常は網膜電図検査で補完する。網膜色素変性に類似しうる他の網膜症を除外すべきである：そのような網膜症として，梅毒，風疹，フェノチアジン系薬剤またはクロロキンの毒性，および眼以外のがんに伴う網膜症などがある。

遺伝形式を確定するために必要または望ましい場合は，家系員の診察および検査を行うべきである。遺伝性症候群がある患者は，児をもうける前に遺伝カウンセリングを希望する場合がある。

• レチノールパルミチン酸エステル

• ω-3脂肪酸

• ルテイン+ゼアキサンチン

• 嚢胞様黄斑浮腫に対する炭酸脱水酵素阻害薬

• 眼内へのコンピュータチップ埋込み

網膜色素変性による障害を回復させる方法はないが，一部の患者で，レチノールパルミチン酸エステル15,000IU/日の1日1回経口投与が疾患の進行遅延に有用な場合がある。レチノールパルミチン酸エステルを服用する患者では，定期的に肝機能検査を行うべきである。ω-3脂肪酸（例，ドコサヘキサエン酸）を含む栄養補助食品およびルテイン+ゼアキサンチンの経口製剤も，視力障害の進行速度を遅らせる可能性がある。

嚢胞様黄斑浮腫の患者では，炭酸脱水酵素阻害薬の経口投与（例，アセタゾラミド）または点眼（例，ドルゾラミド）により，わずかながら視力が回復する可能性がある。確定診断された両アレルRPE65変異に関連した網膜ジストロフィーの治療にvortigene neparvovec-rzylが現在使用可能である。これはアデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療で，この特異的変異を有し，網膜細胞の機能が残っている患者に対して，網膜下腔に外科的に注入することにより使用する(1)。このような患者では，この治療で歩行視力（ambulatory vision）を回復できる可能性がある。完全またはほぼ完全な視力障害に至った患者では，網膜上または網膜下にコンピュータチップを埋め込む治療により，視覚を一部回復させることができる。

• 網膜色素変性の初期症状には，夜間視力および周辺視力の障害などがある。

• 眼底検査で骨小体状の色素沈着過剰が認められることにより診断し，網膜電図検査により確定する。

• 視力障害の発生率を低下させるため，ビタミンA，ω-3脂肪酸，ルテインおよびゼアキサンチンのサプリメントを処方する。

• 嚢胞様黄斑浮腫の患者は炭酸脱水酵素阻害薬により治療する。

• Vortigene neparvovec-rzylによる遺伝子治療は，両アレルRPE65変異に関連した網膜ジストロフィーが確認された患者の歩行視力（ambulatory vision）を回復させる可能性がある。