眼窩腫瘍は良性のこともあれば悪性のこともあり,眼窩内に原発することもあれば,眼瞼,副鼻腔,または頭蓋内の区画などの隣接する原発巣から続発することもある。眼窩腫瘍は遠隔部位からの転移である可能性もある。
一部の種類の眼窩腫瘍は,通常,腫瘍とは反対方向へ眼球突出および眼球偏位を引き起こす。痛み,複視,および視力障害を認めることもある。眼窩腫瘍の診断は病歴聴取,診察,および神経画像検査(CT,MRI,またはその両方)に基づいて疑うが,最終的な診断確定にはしばしば生検を要する。原因および治療は患者の年齢層によって変わる。
小児
小児の良性腫瘍で最も頻度が高いのは,類皮腫,ならびに乳児血管腫やリンパ管奇形などの血管病変である。類皮腫の治療は切除である。乳児血管腫は自然に退縮する傾向があるため,通常は治療の必要がない;しかしながら,特に上眼瞼に位置する場合は,視力に影響を及ぼすことがあるため,β遮断薬の全身投与による治療が必要となる。症状を引き起こさない小さいリンパ管奇形はフォローアップでよいこともある。より大きいリンパ管奇形や症状を引き起こすリンパ管奇形の場合は,手術による減量,病変内硬化療法,およびシロリムスなどが選択肢となる(1)。
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小児の悪性腫瘍で最も頻度が高いのは,横紋筋肉腫,および白血病または神経芽腫に関連する転移性病変である。横紋筋肉腫は,切除可能であれば手術を行い,その後化学療法および眼窩への放射線療法を行う。白血病は通常,眼窩への放射線療法,化学療法,またはその両方により管理する。
成人
成人の良性腫瘍で最も頻度が高いのは,髄膜腫,粘液嚢胞,および海綿状の静脈奇形(以前は海綿状血管腫として知られていた)である。涙腺の多形腺腫はより頻度が低い。症状があれば,蝶形骨翼髄膜腫は開頭による減量手術で治療し,ときに続けて1コースの放射線療法を行う。髄膜腫の細胞は頭蓋底の骨に浸潤するため,完全な切除は通常不可能である。粘液嚢胞は,篩骨洞または前頭洞から生じることが最も多いため,病変を鼻へドレナージすることにより治療する。海綿状の静脈奇形および涙腺多形腺腫(最もよくみられる良性の眼窩腫瘍)は切除する。
成人の悪性腫瘍で最も頻度が高いのは,リンパ腫,扁平上皮癌,および転移病変である。より頻度は低いが涙腺の腺様嚢胞癌があり,これは浸潤傾向が強く遠隔転移の頻度が比較的高い腫瘍である。
悪性の眼窩腫瘍として最も頻度が高いのは,眼窩を侵すリンパ腫であり,典型的にはB細胞リンパ腫で悪性度が低いのが特徴である(通常はMALTリンパ腫[粘膜関連リンパ組織]であり,これは節外性辺縁帯B細胞リンパ腫としても知られる)。リンパ腫は両眼性かつ同時性である可能性があり,全身性進行過程の一部であることもあれば,眼窩に孤発することもある。多くの眼窩リンパ腫は,目を見張るようなX線所見にもかかわらず,ほとんど症状を伴わない。放射線療法では,少ない有害作用で眼窩リンパ腫を効果的に治療できるが,リンパ球の表面受容体(例,CD20)に対するモノクローナル抗体(例,リツキシマブ)による治療もまた効果的であり,特にリンパ腫が全身性の場合は放射線療法への追加療法または代替療法として考慮すべきである。
大半の扁平上皮癌は隣接する副鼻腔から生じる。手術,放射線療法,またはその両方が治療の骨格を成す。
転移性悪性腫瘍は通常,放射線療法で治療する。眼窩を侵す転移性悪性腫瘍は通常,予後不良な徴候である;カルチノイド腫瘍は特筆すべき例外である。
涙腺の腺様嚢胞癌の治療は,手術に続いて通常放射線療法(ときに陽子線治療)を施行するか,放射線療法および手術を併用した動脈内化学療法を用いたプロトコルによる。
総論の参考文献
1.Shoji MK, Shishido S, Freitag SK: The use of sirolimus for treatment of orbital lymphatic malformations: A systematic review.Ophthalmic Plast Reconstr Surg 36:215-221, 2020.doi: 10.1097/IOP.0000000000001518