眼科患者の評価

執筆者:Leila M. Khazaeni, MD, Loma Linda University School of Medicine
レビュー/改訂 2022年 4月
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眼は,標準的な検眼鏡を含む基本的な機器を用いて診察することができるが,精密な診察では特別な機器および眼科医による評価が必要となる。

病歴

病歴には,現在の症状の部位,発症の速さ,および持続時間に加え,以前の眼症状の既往;疼痛,眼脂,または充血の有無および性状;ならびに視力の変化を含める。視力障害と眼痛以外に懸念すべき症状としては,光視症,おびただしい飛蚊症(ともに網膜剥離の症状である可能性がある),複視,周辺視野欠損などがある。

身体診察

視力検査

眼科的評価の最初の手順は視力の記録である。患者の多くは,最大限の努力を払わない。患者に十分な時間を与え,わかりやすく説明すれば,より正確な結果を得やすくなる。視力は患者が眼鏡をかけた場合と外した場合の両方で測定する。患者が眼鏡を持参していない場合は,ピンホールを使用する。市販のピンホールが手に入らなければ,厚紙に18G針で穴をあけ,それぞれの穴の直径をわずかに変えることで,ベッドサイドでピンホールを作製することができる。視力を最も大きく矯正する穴を患者に選択させる。視力がピンホールにより矯正されれば,屈折異常である。ピンホールは屈折異常を迅速かつ効果的に診断できる方法であり,屈折異常は霧視の最も頻度の高い原因である。しかしながら,ピンホールで得られる矯正力は最大でも通常は20/30程度しかなく,20/20には届かない。

各眼の視力検査では,測定していない方の眼を固形物で遮蔽する(患者の指は測定中に開いてしまうことがあるので用いない)。患者に6m(20フィート)離れた場所から視力表を見させる。この検査が行えない場合は,眼から36cm(14インチ)離して置いた視力表を使用することで,視力を測定することができる。スネレン視標により正常および異常視力を定量化する。スネレン視標の20/40(6/12または0.5)は,正常な視力の人が40フィート(12m)の距離で読むことができる最小の文字を,その患者は20フィート(6m)まで近づかなければ読むことができないという意味である。文字がぼやけると患者が感じた場合または推定しなければならなかった場合でも,患者が文字の半分を読めた場合の最小の列を視力として記録する。患者が6m(20フィート)離れた位置からスネレン視標の最上段が読めない場合,3m(10フィート)の位置から視力を測定する。視力表に最大限近づいても何も読めない場合,検者は指で異なる数を示し,患者が正確に指を数えられるか確認する。患者が指の数を数えられなければ,検者は患者が手の動きを認識できるかどうか検査する。患者が手の動きを認識できなければ,光を眼にかざし,患者が光を認識できるかどうか確かめる。

近見視力は,標準的な近見視力表または新聞を36cm(14インチ)の距離で読めるかどうかを患者に尋ねることにより検査する;矯正レンズ(近用眼鏡)を必要とする40歳以上の患者は近見視力検査時に近用眼鏡を装用すべきである。

屈折異常は,検者が手持ち式検眼鏡を用いて網膜に焦点を合わせるのに必要なレンズを記録することによってもおおよそ推定できるが,この方法は検者が自分の矯正レンズを使用する必要があり,屈折の包括的評価の代替では決してない。より一般的には,屈折異常は標準的なフォロプターまたは自動レフラクトメータ(投影した光と患者の眼から反射した光との変化を測定する機器)を用いて測定する。これらの機器で乱視も測定する(屈折異常の概要を参照)。

眼瞼および結膜の診察

眼瞼縁および眼周囲の皮膚組織は焦点光の下で拡大して診察する(例,拡大鏡,細隙灯顕微鏡,または検眼鏡による)。涙嚢炎または涙小管炎が疑われる場合は,涙嚢を触診し,涙小管および涙点から内容物を押し出すことを試みる。眼瞼を翻転すれば,眼瞼結膜,眼球結膜および結膜円蓋の異物,炎症の徴候(例,濾胞の肥大,滲出,充血,浮腫),または他の異常について視診することができる。

角膜の診察

角膜の反射光(照明時の角膜からの光の反射)の不鮮明またはエッジのにじみは,角膜上皮剥離や角膜炎が生じているなど,角膜表面が正常ではないことまたは荒れていることを示唆している。フルオレセイン染色により上皮剥離および潰瘍が明らかになる。患者に疼痛がある場合または角膜もしくは結膜に触る必要がある場合(例,異物除去または眼圧測定)には,染色前に表面麻酔薬(例,0.5%プロパラカイン,0.5%テトラカイン)を1滴点眼することにより,診察が容易になることがある。滅菌し個別に包装されたフルオレセイン紙を滅菌生理食塩水または表面麻酔薬1滴で湿らせ,患者に上方を見るよう指示して,下眼瞼の内側に一瞬接触させる。色素が涙液層に広がるように,患者に数回まばたきさせ,コバルトブルーの照明光下で拡大して眼の診察を行う。角膜上皮または結膜上皮が欠損した部分(上皮剥離または潰瘍)は緑色の蛍光を発する。

瞳孔の診察

瞳孔の大きさおよび形に注意し,患者に遠くを見させている間に各眼の対光反射を片眼ずつ検査する。次に,ペンライトを用いた交互対光反射試験で直接および間接対光反射を比較する。この検査には3つの段階がある:

  1. 片眼の瞳孔をペンライトで1~3秒間照らし,最大限縮瞳させる。

  2. ペンライトをすばやく他眼に移し,1~3秒照らす。

  3. ライトを最初の眼に戻す。

正常であれば,瞳孔はそれ自身がライトで照らされたとき縮瞳する(直接反射)のと同様に,他眼が照らされたときにも縮瞳する(間接反射)。しかしながら,求心脚(視神経から視交叉を通る)の機能障害や広範な網膜疾患のために片眼での光の知覚が他眼より弱くなっている状態では,その患眼は間接反射が直接反射より強くなる。この場合,交互対光反射試験の第3段階で患眼にライトを戻すと,瞳孔が逆に散大する。この所見は相対的瞳孔求心路障害(RAPD,またはMarcus Gunn瞳孔)を示唆している。

外眼筋

検者は指やペンライトを動かしながら,または徹照法により光を入射しながら患者に8つの方向(上,右上,右,右下,下,左下,左,左上)を見るよう促して,脳神経麻痺,眼窩疾患,または運動を制限するその他の異常と一致する注視時の偏位,運動制限,非共同注視,またはこれらの組合せがないか観察する。

眼底検査

眼底検査(後眼部の検査)は,手持ち式の検眼鏡を使用するか,手持ち式のレンズを細隙灯顕微鏡と組み合わせることで直接行うことができる。倒像眼底検査は,額帯式検眼鏡と手に持った集光レンズを用いて行うことができる。手持ち式検眼鏡では,検者は検眼鏡の回転盤をゼロジオプトリーに合わせ,次に眼底に焦点が合うまでレンズの度を増加または減少させる。手持ち式検眼鏡では網膜の見える範囲が狭いが,倒像眼底検査では立体的な観察ができ,網膜剥離が最もよく起こる周辺部網膜の視認性がより良好である。

散瞳すれば眼底を観察できる範囲が広がる。前房が浅い場合は散瞳により急性閉塞隅角緑内障の発作を誘発する可能性があるので,散瞳前に前房深度を判定する。前房深度は細隙灯によりまたは正確性は劣るがペンライトの光を耳側輪部から虹彩面と平行に鼻に向けて当てることにより推定できる。中間の虹彩が陰になる場合,前房は浅いので散瞳を避けるべきである。散瞳に対する他の禁忌には,頭部外傷,眼球破裂の疑い,狭隅角,および閉塞隅角緑内障がある。

瞳孔を散大させるには,1%トロピカミド1滴,2.5%フェニレフリン1滴,または両方を用い(必要であれば5~10分毎に再点眼してもよい),長時間作用させる場合,瞳孔をより大きく散大させる場合,またはその両方を行うには,トロピカミドの代わりに1%シクロペントラートを用いることがある。

眼底検査により,水晶体または硝子体混濁の検出,陥凹乳頭比の評価,網膜および血管の変化の捕捉が可能となる。乳頭陥凹は中央のくぼみであり,視神経円板は視神経乳頭の領域全体である。正常眼での乳頭陥凹比は0~0.4である。この比が0.5以上のときは神経節細胞の減少を示していることがあり,緑内障の徴候である場合がある。

網膜の変化としては以下のものがある:

  • 小さな,または大きな血液斑として認められる出血

  • ドルーゼン(萎縮型加齢黄斑変性を意味することがある網膜下の小さい黄白色の斑)

血管の変化としては以下のものがある:

  • 網膜血管狭窄(arteriovenous nicking),これは慢性高血圧の徴候であり網膜血管が動脈と交差する箇所で圧迫される

  • 銅線動脈,これは動脈硬化の徴候であり肥厚した動脈壁によって動脈壁反射が亢進する

  • 銀線動脈,これは高血圧の徴候であり薄く線維化した動脈壁によって動脈壁反射が減少する

  • 静脈拍動の消失,これは拍動が認められていたことがわかっている患者における頭蓋内圧の亢進の徴候である

細隙灯顕微鏡検査

細隙灯顕微鏡は,光線の高さおよび幅を集束させて,眼瞼,結膜,角膜,前房,虹彩,水晶体,および前部硝子体を立体的に正確に観察する。手持ち式の集光レンズとともに用いれば,網膜および黄斑の詳細な検査も可能となる。この検査は以下の場合に特に有用である:

  • 角膜異物,上皮剥離,その他の角膜疾患を同定する

  • 前房深度を測定する

  • 前房内の細胞(赤血球または白血球)およびフレア(タンパク質の所見)を検出する

  • 水晶体混濁(白内障)の部位および程度を特定する

  • 黄斑変性糖尿病眼疾患網膜上膜,黄斑浮腫,網膜裂孔(集光レンズ使用時)などの疾患を同定する

眼圧検査および隅角鏡検査が施行されることもある。隅角鏡検査は前房隅角を定量化する検査で,特別なレンズの使用を必要とする。

視野検査

視野は,視神経から後頭葉までの視路内のどこに病変が生じても障害される(視野欠損の種類の表および上位視路の図を参照)。緑内障では周辺視野の視力障害が生じる。視野は対座検査でおおよそ評価するか,またはさらに正確で,より精密な検査で評価する。

対座検査では,患者は検者の目または鼻を固視し続ける。検者は,小さな視標(例,マッチまたは指)を患者の視野の4分円で周辺からそれぞれの中心に向かって動かし,視標が最初に見えたときを知らせるように患者に指示する。小さな指標をゆっくりと小刻みに動かすと,患者が指標に気づき,見つけやすくなる。視野の対座検査では,視野の4分円のそれぞれで何本かの指を立て,指の数を患者に尋ねる方法もある。いずれの方法でも各眼を別々に検査する。視標の感知に異常があれば,より正確な機器を用いて精密な検査を行うべきである。

より精密な方法には,平面視野計,ゴールドマン視野計,またはコンピュータ制御式自動視野計(標準化されたコンピュータプログラムの制御により様々な位置に現れる一連の点滅光に対する患者の反応に基づき,詳細な視野の分布図が作成される)を使用する方法などがある。Amslerグリッドを用いて中心視力を検査する。グリッドの歪み(変視症)または欠損領域の存在(中心暗点)は,加齢黄斑変性で生じるように,黄斑の疾患を示す場合がある(例,脈絡膜新生血管)。

表&コラム
表&コラム

色覚検査

一般的に色覚検査には,カラーのドットの図の中に色付きの数字または記号が隠された12~24枚の石原式色覚検査表が使用される。先天性色覚異常患者または後天性色覚異常患者(例,視神経疾患)は,隠れた数字の一部または全てを見ることができない。先天性色覚異常の多くは赤緑であり,後天性色覚異常(例,緑内障または視神経疾患により引き起こされたもの)の多くは青黄である。

検査

眼圧検査

眼圧検査では,角膜を押すのに必要な圧力を計測することにより眼圧を測定する。スクリーニングには手持ち式ペン型眼圧計を使用する。この検査は表面麻酔薬(例,0.5%プロパラカイン)を必要とする。別の手持ち式の眼圧計であるアイケア眼圧計は,小さくて軽いプローブが元に戻る時間を測定するもので,表面麻酔なしで使用することができる。小児で有用であり,また救急診療部で眼科以外の医師に広く使用されている。空気噴射式の非接触眼圧計を用いた外来でのスクリーニングも行われることがあるが,直接角膜に接触しないのであまり訓練を必要としない。ゴールドマン圧平眼圧計による計測は最も正確な方法であるが,より訓練を必要とし,一般的には眼科医のみが使用する。眼圧測定のみでは緑内障のスクリーニングとしては十分ではなく,視神経も検査すべきである。

血管造影

フルオレセイン蛍光眼底造影は,糖尿病,加齢黄斑変性,網膜血管閉塞,眼炎症などの病態において灌流,血管漏出,および新生血管を調べる目的で用いられる。網膜レーザー処置の術前評価にも有用である。フルオレセイン注射液を静注後,網膜,脈絡膜,視神経乳頭,または虹彩の血管構造を高速連続撮影する。

インドシアニングリーン蛍光眼底造影は,網膜および脈絡膜の血管構造を描出する目的で用いられ,ときにフルオレセイン蛍光眼底造影より詳細な脈絡膜の血管構造を描出できることもある。滲出型加齢黄斑変性の画像診断に用いられる。

光干渉断層撮影

光干渉断層撮影(OCT)では,網膜(網膜色素上皮を含む),脈絡膜,後部硝子体,視神経などの後部眼構造の高分解能画像が得られる。網膜浮腫を発見することができる。OCTは超音波検査と同様の役割を果たす検査であるが,音ではなく光が用いられる;造影剤または電離放射線は用いられず,非侵襲的である。OCTは,加齢黄斑変性,糖尿病網膜症,黄斑円孔,網膜上膜などの黄斑浮腫や黄斑上または黄斑下の線維組織の増殖を引き起こす網膜疾患の描出に有用である。また,緑内障やその他の視神経異常の進行をモニタリングするのにも有用である。

網膜電図検査

電極を左右の角膜上および周囲の皮膚上に置き,網膜の電気的活動を記録する。この方法により網膜変性患者の網膜機能を評価する。視力を評価するものではない。

超音波検査

Bモード超音波検査では,直接的な検査(例,眼底検査)の妨げとなる混濁が角膜や水晶体にある場合でも,2次元構造の情報を得ることができる眼科での応用例としては,網膜腫瘍剥離,および硝子体出血の評価;異物の位置の特定;後部強膜炎に特徴的な後部強膜の浮腫の検出;ならびに脈絡膜黒色腫と転移性のがんおよび網膜下出血との鑑別などがある。

Aモード超音波検査は1次元の超音波検査であり,白内障手術で移植する眼内レンズの度数を計算するために必要な測定値である眼軸長を決定するために用いられる。

超音波角膜厚計測は,屈折矯正手術(例,レーザー角膜内切削形成術[LASIK])前および角膜ジストロフィー患者において,超音波検査を用いて角膜の厚さを測定する方法である。

CTおよびMRI

これらの画像診断法は,特に眼内異物が疑われる場合の眼外傷の評価,ならびに眼窩腫瘍,視神経炎,および視神経腫瘍の評価のために行われることが最も多い。金属の眼内異物が疑われる場合は,MRIを行うべきではない。

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